2025/09/11 のログ
ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」に青霧在さんが現れました。
■青霧在 > 鮮やかな夕焼けを阻む暗い空模様。
今にも降りだしそうな雨雲すら幾分か鮮やかに思えるほど、この街の黒は濁っている。
抗争に敗れ姿を消したという闇銀行の廃ビルから街を見下ろせば、ぬかるみのような営みが嫌でも目に付く。
進むも戻るも足を取られてしまう、退廃的な雰囲気がこの街には満ちている。
「此方クライオ、ポイントガンマに到着」
そんな踏み入れるのを躊躇ってしまうような街を利用する存在は少なくない。
このぬかるみも、何者かにとって都合が良いから存在する。
そしてその何者を許さないのが風紀委員会や公安委員会だ。
周囲と比べ少し背の高い廃ビルの屋内へと、屋上から立ち入る。
崩れた壁から風が吹き込む高層階を、慎重に進む。
かつてはオフィスだったらしいが、内部は荒らし尽くされ、何も残っていない。
トラップが何れも痕跡ばかりであることからも、絞りつくされた後であると推測出来た。
「此方クライオ、ガンマ異常無し。観測を開始する」
目的の位置へ到達し、物陰に潜みながら外を眺める。
持ち込んだ小型の計測器を頭部右前の空間に固定して、ターゲットを待つ。
「……予報通りだな」
そうしてしばらく待っていると、雨が降り始める。
小雨はすぐに強まり、大雨へと変わった。
高温多湿の不快な空気が次第に冷え、多少過ごしやすい空気へと変わっていく。
屋外担当じゃなくてよかったなどと考えながら、観測を続けた。
■青霧在 > この任務は中々に厄介である。
というのも、不確定要素が大変多い。
大凡の日程まで絞れても、詳細な日時と場所が不確定。
それでも無視できないと判断され、それなりの戦力が動員された作戦となった。
完全な無駄足ではないだろうが、ここに張り込んだとして意味があるかはまだ分からない。
それでも気を抜く訳にはいかない。それだけターゲットは危険な存在であると聞かされた。
そうして気を張っていたからだろう。
雨が降り始めて10分ほど経過した頃、妙なものが目についた。
「あれは……?」
濃い霧の向こうの人影のような曖昧なもや。
初等教育課程の子供ほどのそれが、少し離れたビルの屋上に現れた。
計測器には反応がない。ターゲットではないが、ただ人には見えない。
怪異か、霊か。場合によっては排除も視野に入れなければならない。
息を潜めて監視すること数十秒。
徐々にもやがはれてその姿に露になる。
黄色いレインコートのようなものを纏い、半透明の閉じた傘を持っている。
顔にはモザイクがかかり、小気味よいステップを踏む小柄なそれ。
風紀委員会でもいくつか報告に上がっている怪異。
レインコートの怪異。無害と判断された故に謎の多い怪異である。
「実物は初めて見たな……」
撮影に成功した例がなく確実とは言えないが、報告にあるレインコートの怪異と特徴が一致する。
正体不明のそれをどうしようか。念のため報告だけでもしておこうか……。
考えた結果、動きがあれば報告することにした。
■青霧在 > 現れるかもわからないターゲットの観測を続ける。
その間、レインコートの怪異は踊っていた。
雨にはしゃぐ子供のように、その場で回り、出来立ての水たまりを踏み抜いたり、傘を開いてくるくると回す。
……ように、ではないのかもしれない。
雨の日ならではの遊びに興奮して周りが見えなくなっている子供そのものにしか見えない。
「どういった怪異なんだろうな……」
報告通り、有害な存在には見えない。
ただ雨の中で遊んでいる子供だと言われても信じてしまいそうな程、その怪異から悪意や害意が感じとれない。
強いて言えば傘を回すのは危ない、というぐらいか。
それも人気のない屋上でやっている以上、ケチでしかない。
「………」
観測をしなくてはいけない。
ターゲットがどういったものであるかは聞かされている。
それを放置して別のものを眺めるなど、あってはならない。
それでも―――
「…………楽しそうだな」
―――気付かぬうちに、レインコートの怪異ばかりを見ていた。
鮮やかな黄色のレインコート。
モザイクがかかっている筈の顔に笑顔を幻視した。
誰にも遮られることのない軽やかなステップ。
雨をこれほど楽しんだことが、俺にあるだろうか。
「っ」
そこまで考えてしまったところで、レインコートの怪異から目を逸らす。
任務中だというのに、何を考えているんだ。
一度身を隠し、深呼吸しよう。
物陰に全身を隠し、目を閉じた。
■青霧在 > 目を閉じて、息を吸って、吐いて。
吸って、吐いて、吸って、吐いて。
ゆっくりと目を開く。
大丈夫、今度は遊んでいるだけの怪異に気を取られることはない。
一度自分に言い聞かせ、確信を持った上で観測に戻る。
変わらず降り続ける雨、反応のない計測器、冷えた空気。
レインコートの怪異は今もビルの屋上で―――
「止まった……?」
―――レインコートの怪異は、踊るのをやめていた。
直立し、傘を閉じて持っている。
先程とは明らかに様子が違う。
とはいえ、何か行動を起こそうとしている様には見えない。
そう判断し、視線を逸らす。
■青霧在 > レインコートの怪異がこっちを向いた。
■青霧在 > 「……!」
明らかに此方を見ている。
モザイクに隠れた目が此方を見据えていると感覚で理解した。
悪意も害意も敵意も感じ取れないが、それでもその視線が体を貫く。
視界の端、此方を見つめる怪異。
目を合わせてはいけない。
悪霊や害意のある神仏への対策の一つを遵守するために、意図的に視線を逸らし続ける。
そんな行動をとりながら感じていたのは、怪異への恐怖や警戒ではない。
寒さだ。
悪寒でないことだけは分かる、形容しがたい寒さ。
突然雪でも降ってきたのかと誤解するような芯まで沁みてくる寒さだ。
レインコートの怪異の影響だろうか。
そうにしては、異常は何も起きていない。
きっとただ此方を見ているだけ。視線を逸らしきり、その動向は掴めないが、きっとまだ此方を見ているだけに違いない。
■青霧在 > 呼吸や心拍に乱れはない。
それでも、一度落ち着いた方がいい。
なんとなくそう感じて物陰に身を隠した。
■レインコートの怪異 > 「あそばないの?」
■青霧在 > 「ッッッ!?」
身を隠せば、レインコートの怪異が目の前に立っていた。
驚きのあまり後ずさる。身を隠していた残骸に後頭部や背中をぶつけてしまい、鈍い痛みを幾つも感じる。
そんなことより、目の前の怪異は何故ここにいる。
外に顔を出して怪異のいた屋上へと視線をやると、そこに怪異はいない。
再び振り向いて目の前に居るのは、レインコートの怪異その本人だということだ。
「…………!!!」
言葉が出ない。
不気味だ。
怪異は相変わらずこちらを見据えるだけ。そこに悪意は見られない。
意図が読めない。
遊んでいただけじゃないのか。顔が見えない、感情が読めない。
視線を合わせないようにするので精一杯だ。
怪異が視線を合わせに来てる訳でもないというのに。
■レインコートの怪異 > 「あそばないの?たのしいよ?」
■青霧在 > 怪異が同じ問いを口にする。
その声は中性的だが幼い。
初等教育低学年程度の背丈に反してもっと幼く感じられる。
不思議がってこそいるが、その声音は明るく楽し気だ。
雨の中に刺す一筋の明かりのような、そんな温かみすら感じさせた。
「……遊ばない。今遊ぶわけにはいかないんだ」
無意識のうちに答えていた。
悪霊に目を合わせてはいけないように、反応してはいけないとも聞く。
にもかかわらず、自制出来なかった。
怪異が首を傾げる。
こてん、と。
あざとい動きに見えるが、外見故か好意的に感じられる。
無垢で無邪気な、素直な感情が感じられる動き、そう思えた。
■レインコートの怪異 > 「あめふってるよ?」
■青霧在 > 「……仕事中、なんだ」
会話に応じて問題ないタイプだったようだ。
少し安心して、再び答える。
きっと、見たままの怪異なのだろう。
無邪気で幼い、子供のような怪異。
雨の中で遊びたいだけの怪異で、遊ばない俺に疑問を感じて近づいてきたのだろう。
「……雨が好きなのか……?」
何故そんなことを聞いたのか、自分でも分からない。
一歩前に出て、少し屈んで、問いかけている俺がいた。
■レインコートの怪異 > 「あめたのしいよ!」
「まわって、まわして、ぱしゃんってするのたのしい!」
■青霧在 > 「そうか」
不意に口角が上がる。
怪異の無邪気な様子が可愛らしく思えたのだ。
びしょぬれになるまで雨の中ではしゃいでいられる可愛げが素晴らしいものに思えて仕方がない。
気持ち前のめりになり、一度立ち上がり前に出て屈みなおす。
この無邪気な子を撫でたいような、そんな庇護欲のような…いや、もっと別の。
手をつなぎたいような、そんな気持ちが沸いてくる。
「この後も遊ぶのか?」
返して欲しい言葉は決まっている。
■レインコートの怪異 > 「うん!まだあそぶ!」
「いっしょにあそぼ!」
■青霧在 > 「ああ、遊ぼうか」
■青霧在 > レインコートの子供が小さな手を伸ばしてくれる。
明るい太陽のような笑顔が魅力的で、俺もそんな笑顔になりたいと思った。
いつの間にか寒さは消え去り、心の芯まで温かさに満ちている。
この子は、憂鬱なだけの雨の素敵さを俺に教えに来てくれたのだろう。
伸ばされた手に手を伸ばし返す。
俺の手の方が圧倒的に大きい筈なのに、不思議と同じぐらいのサイズに感じた。
きっと、この子の気持ちを理解出来たからなのだろう。
2人の手が握り合おうと触れ合おうとしている――――
■桐原 > 「青霧さああああああああん!!!!」
■青霧在 > ―――二人……否、一人と怪異の手が触れあおうという正にその時、乱入者が現れる。
赤服に灰色の外套、作戦に参加している別の風紀委員である。
その手にはオレンジ色のエネルギーを湛え、槍のような形に変えて放つ。
放たれたエネルギーの槍は高速で飛翔し、怪異の頭部を貫く。
「あ……」
レインコートの怪異は頭部が糸のように解ける、その形状を保っていない。
その様子に青霧の目が大きく見開かれる。
相当なショックを受けたのか、慌てて片手を怪異の背中に回そうとしたところに、再びエネルギ―の塊が複数飛翔する。
1つは小石程度の丸い塊。
怪異に触れようとする青霧の手に衝突し、弾ける。
弾けたエネルギーにより皮膚がはじけ、血が飛び散る。
1つは同じサイズのものが青霧の胴体へ。
外套と赤服に防がれダメージは無いが、衝撃で青霧が後方へ吹き飛ぶ。
最後に1つ、怪異へ向けて飛ぶ小さなエネルギー体。
一見小さなそれは明らかにエネルギー量が違う。濃くハジけるそれが怪異の胴体へと吸い込まれ、爆散する。
爆竹が爆ぜたような爆音とともに怪異の全身が糸のように解け、そのまま散っていく。
舞うように昇り、天井をすり抜けて消えていく。