2025/09/12 のログ
レインコートの怪異 > 「つぎはあそぼうね」
青霧在 > 少し寂しそうな言葉を残して、怪異は姿を消した。
その言葉を聞いた途端、青霧が勢いよく立ち上がる。
その目は到底―――

「桐原ァァァァ!」

―――正気ではなかった。
血走った眼で激情に身を任せ、桐原と呼ばれた委員に向けて叫ぶ。
異能を発動し、桐原の外套を思い切り引き寄せる

「なにをしてるんだ!!!あんな子供に!!!」

引き寄せた桐原の胸ぐらを直接掴み、思い切り怒鳴る。
今にも殴りかかりそうな勢いで拳を強く握った。

桐原 > 「それはこっちのセリフですよ!!!!!」
桐原 > 此方も言われっぱなしではない。
胸ぐらをつかまれた状態から逆に青霧の胸ぐらを掴み返し、そのままぶん投げる。
武道のような受け身前提の投げではない。本気で、地面に叩き付ける投げ方。
まともな抵抗を見せない青霧を地面に叩き付け、続ける。

「正気に戻ってくださいッ!あれは怪異ですよ?!子供ではありません!!」
「怪異なんですよ!!!怪異ッ!分かりますか?!青霧さんは今怪異に騙されていたんですッ!!」

叩きつけた青霧を思い切り引き寄せ、至近距離で大声を出し続ける。
形勢逆転の構図、本気の視線で訴えかけ続ける。

青霧在 > 「カッ……ハッ……!」

あまりの激情にまともな思考が出来ていないのだろう。
まともな状態なら、突然投げられたとしても叩きつけられる以前にその状況を脱せる。
それが出来ない時点で、正気ではないことが明らかだった。

硬い地面に叩きつけられたことで肺の空気が抜ける。
反射的に息を吸おうとし、思考も同時に空になった。
そこに注ぎ込まれる桐原の言葉。
あれは怪異、騙されていた、子供ではない。
そんな言葉を連続して叩きつけられる。

「ゲホッ…………すまない……」

痛みと桐原の訴え、そしてその現実味のある眼に、正気を取り戻す。
いつも通り……否、バツの悪そうな目で控えめに謝罪を述べた。

桐原 > 「あれは怪異で、青霧さんは騙されていた」
「分かっていますね?」

まだ胸ぐらを掴んだまま、青霧に問いかける。
完全に正気に戻すにはまだ時間がかかるだろうが、一時的な対処の成否を確認する必要がある。
青霧がゆっくりと頷いて視線を返すと、その様子に確信を持ったのだろう。
青霧の胸ぐらからそっと手を放した。

「はぁ……良かったです。間に合って」
「怪異が青霧さんの方見た途端に消えて、応答もないから急いできたんですよ」

手を放せばそのままその辺の残骸に凭れ掛かり、大きく息を吐く。
余程急いできたのだろう。大声を出した影響もあるだろうが、呼吸が少し乱れている。
その表情には安堵が浮かぶ。そして一通り吐き出しきれば、通信端末で状況報告を始めた。

青霧在 > 「……助かった、ありがとう」

桐原がその手を放し、そのままゆっくりと床に倒れる。
湿った床がひんやりと冷たい。先ほどまでの温かさは消え去り、少し寂し―――

「……レインコートの怪異は無害……なんじゃなかったのか」

―――危険な思想を追い払う為に話題を振る。
まだ完全に正気に戻っていないことは自覚していた。
ああいう怪異の影響から脱するには、相応に時間と治療が必要だ。

それにしても、妙な感覚だ。
悪意のある怪異の影響を受けた回数は一度や二度ではないが、あの怪異からは最後まで悪意を感じなかった。
恐ろしい話だ。悪意が無い無害とされていた怪異に騙され……恐らく、連れ去られそうになった。
思わず、唾を飲み込んだ。

桐原 > 「報告では、です。それに、攻撃性が無いって意味の無害であって、本気で無害な訳ないじゃないですか」
「怪異なんて全部有害なやつらだと思ってください」
「……いや、青霧さんが分かってない筈がないので、影響されたと考えるべきですね」

桐原は青霧をよく知り、信頼している。
だから、青霧にその手の耐性があまりないことも把握している。
脆弱という程ではないが、一部の精神操作に影響されやすいことを把握している。

「迎えを呼んだので、青霧さんは治療を受けて来てください」
「作戦の方は任せてください。青霧さんが抜けたぐらいで失敗したりはしませんから」

自信に満ちた表情で胸を叩く。
不安にさせずに送り出した方が良いと思っての気遣いだ。

青霧在 > 「それも、そうだな……」

影響された……怪異に付け入られた。
どのタイミングだろうか。分からない。
治療を受けながら確認すればいい。
……気をつけないとな。

「本当にすまない、後は任せた」

この作戦は参加人数もそれなりに多い。
特攻課も桐原以外に何人も参加している。
問題なく作成を遂行してくれるだろう。

医療班はすぐに駆け付けてくれた。
それを見届けて桐原は持ち場へと戻っていった。
俺もすぐにその場を脱した。通信でレインコートの怪異の存在が共有されているのを聞きながら、最寄りの分署へと向かった。

………

治療には、それなりに日時がかかった。
やはりあの怪異に悪意は無かったらしい。
おかげで治療は大変だったようで、当分は任務に出ることが出来ない状態となった。

ご案内:「常世渋谷 黒街(ブラック・ストリート)」から青霧在さんが去りました。