概要(クリックで展開/格納)
歓楽「街」・落第「街」・異邦人「街」か交わり合う境界線上に「発生」した「境界の街」。
通称、「常世渋谷」。
歓楽街より治安の悪い部分があり、かつ落第街ほどには闇・血に染まってはいない。
異邦人街の要素も多く含まれた「街」。
三つの街の融合体であるともいえる。
地球と異世界の文化がひっくり返した玩具箱の玩具のように無秩序に積み重なっている。
あらゆる都市文化が混淆し、あるいは独自に主張しあう混沌街。現代のバビロン。
常に変化を繰り返す生ける「街」。
歓楽街の誕生と広がりとともに「発生」した街である。
「日本国」のかつての「渋谷」に似ていると言われており、いつしか学園草創期の日本人学生から「常世渋谷」と呼ばれるようになり、それが今では通称となっている。
巨大な街頭スクリーンとスクランブル交差点、巨大なファッションビルが有名で、この景観が「渋谷」に酷似しているとされる。
「新宿」や「原宿」の要素もあるという。学生街のような綺麗に整理された街であるわけではなく、「闇」の部分も持っている。
常世島の都市行政区画では「歓楽街」の一部である。
「街」が一つの生き物であるかのように常に変化しており、ブームの流行り廃りも激しい。
「地球」と異世界の文化が混じり合い、独特のファッションが流行している。
常世島の最新モードを知りたければこの街に来るべきである。
一部の怪しげな店舗で販売されている異世界由来の服飾品(アクセサリー)などを身につける者たちも珍しくないが、そのために何かしらの問題に巻き込まれる場合も少なくない。
「夜の街」としての性格も強く、ホストクラブやキャバクラといった水商売系の部活・業種も多い。眠らない街としての側面も存在する。
これらの業種は必ずしも学園側から禁止されているわけではないものの、違法な行為を行った場合などは手入れが入ることもある。
悪質な店舗も一部存在し、その被害に遇う者もいる。
治安は上述したとおり必ずしもいいとは言えない。
しかし、日中であったり、人気の多い路地などであれば概ね安心して歩くことができるだろう。
もし危険や厄介事に遭遇したくなければ、入り組んだ街の奥や路地裏などには入らない方が懸命である。
常世渋谷には不良・違反学生グループ・ギャング等が存在しており、喧嘩などが起こることも珍しくない。
歓楽街・落第街・異邦人街という三つの街の境界に位置しており、微妙な問題も少なからず抱えていることから、風紀委員会や公安委員会も直接手を出すことがなかなか出来ない場所である。
この「街」は欲望の解放のためのある種の「必要悪」であるなど揶揄されることもある。
都市伝説の類が多く、特定の時間(黄昏時や朝焼け時の「境界的」な時間)に交差点などの「境界」の場所に赴くと、位相の異なる「裏常世渋谷」(「裏渋」などと略される)ともいえる空間に行くことができる、迷い込んでしまうとの噂がある。
あくまで都市伝説の類であり、現象の実態が全て解明されたわけではないが、少なからず行方不明者も出ている。
条件さえ知ることができればある程度自由な出入りが可能とも、一度迷い込めば出ることは難しいとも、様々な噂が流れている。
何かしらの道具(携帯端末であったり「本」であったりアクセサリーであったり)を用いることで「裏常世渋谷」に行くことも可能だとも言われている。
風紀委員会・公安委員会・生活委員会・祭祀局などはこの現象を把握してはいるものの、常世渋谷という「街」への人の流入を止めることはできていない。
この現象は不確かな点が多いため、この現象についての根本的な解決策は現在のところ存在しない。
元より、そういった現象が少なからず存在するのが常世島である。
「裏常世渋谷」への迷い込みは「街に呑まれる」などと表現されることが多い。
混乱や秩序壊乱を避けるため、「街に呑まれる」現象については一般に公開されてはいないが、一部の学生やSNS上では都市伝説としてこの情報が広まっている。
「街」という名の「怪異」とも表現される。
林立する建物群をジャングルの木々に例え、歓楽街の森などと呼ばれることもある。
「街に呑まれ」れば戻ることができないという警句は、「裏常世渋谷」にもそういった深い森のような側面があることを示しているという。
または「混沌」が極端に戯画された街とも呼ばれる。
上述した都市伝説を含め、「都市型」の亡霊・幽霊・怪異などの噂が多く、現実にそういった存在と出会ってしまう例も報告されている。
霊的な存在が原因での霊障事件も珍しくない。
そういった存在や事件が多く語られるのはこの街が「境界」上に存在しているからだとまことしやかに語る者もいる。
概要(クリックで展開/格納)
歓楽「街」・落第「街」・異邦人「街」か交わり合う境界線上に「発生」した「境界の街」。
通称、「常世渋谷」。
歓楽街より治安の悪い部分があり、かつ落第街ほどには闇・血に染まってはいない。
異邦人街の要素も多く含まれた「街」。
三つの街の融合体であるともいえる。
地球と異世界の文化がひっくり返した玩具箱の玩具のように無秩序に積み重なっている。
あらゆる都市文化が混淆し、あるいは独自に主張しあう混沌街。現代のバビロン。
常に変化を繰り返す生ける「街」。
歓楽街の誕生と広がりとともに「発生」した街である。
「日本国」のかつての「渋谷」に似ていると言われており、いつしか学園草創期の日本人学生から「常世渋谷」と呼ばれるようになり、それが今では通称となっている。
巨大な街頭スクリーンとスクランブル交差点、巨大なファッションビルが有名で、この景観が「渋谷」に酷似しているとされる。
「新宿」や「原宿」の要素もあるという。学生街のような綺麗に整理された街であるわけではなく、「闇」の部分も持っている。
常世島の都市行政区画では「歓楽街」の一部である。
「街」が一つの生き物であるかのように常に変化しており、ブームの流行り廃りも激しい。
「地球」と異世界の文化が混じり合い、独特のファッションが流行している。
常世島の最新モードを知りたければこの街に来るべきである。
一部の怪しげな店舗で販売されている異世界由来の服飾品(アクセサリー)などを身につける者たちも珍しくないが、そのために何かしらの問題に巻き込まれる場合も少なくない。
「夜の街」としての性格も強く、ホストクラブやキャバクラといった水商売系の部活・業種も多い。眠らない街としての側面も存在する。
これらの業種は必ずしも学園側から禁止されているわけではないものの、違法な行為を行った場合などは手入れが入ることもある。
悪質な店舗も一部存在し、その被害に遇う者もいる。
治安は上述したとおり必ずしもいいとは言えない。
しかし、日中であったり、人気の多い路地などであれば概ね安心して歩くことができるだろう。
もし危険や厄介事に遭遇したくなければ、入り組んだ街の奥や路地裏などには入らない方が懸命である。
常世渋谷には不良・違反学生グループ・ギャング等が存在しており、喧嘩などが起こることも珍しくない。
歓楽街・落第街・異邦人街という三つの街の境界に位置しており、微妙な問題も少なからず抱えていることから、風紀委員会や公安委員会も直接手を出すことがなかなか出来ない場所である。
この「街」は欲望の解放のためのある種の「必要悪」であるなど揶揄されることもある。
都市伝説の類が多く、特定の時間(黄昏時や朝焼け時の「境界的」な時間)に交差点などの「境界」の場所に赴くと、位相の異なる「裏常世渋谷」(「裏渋」などと略される)ともいえる空間に行くことができる、迷い込んでしまうとの噂がある。
あくまで都市伝説の類であり、現象の実態が全て解明されたわけではないが、少なからず行方不明者も出ている。
条件さえ知ることができればある程度自由な出入りが可能とも、一度迷い込めば出ることは難しいとも、様々な噂が流れている。
何かしらの道具(携帯端末であったり「本」であったりアクセサリーであったり)を用いることで「裏常世渋谷」に行くことも可能だとも言われている。
風紀委員会・公安委員会・生活委員会・祭祀局などはこの現象を把握してはいるものの、常世渋谷という「街」への人の流入を止めることはできていない。
この現象は不確かな点が多いため、この現象についての根本的な解決策は現在のところ存在しない。
元より、そういった現象が少なからず存在するのが常世島である。
「裏常世渋谷」への迷い込みは「街に呑まれる」などと表現されることが多い。
混乱や秩序壊乱を避けるため、「街に呑まれる」現象については一般に公開されてはいないが、一部の学生やSNS上では都市伝説としてこの情報が広まっている。
「街」という名の「怪異」とも表現される。
林立する建物群をジャングルの木々に例え、歓楽街の森などと呼ばれることもある。
「街に呑まれ」れば戻ることができないという警句は、「裏常世渋谷」にもそういった深い森のような側面があることを示しているという。
または「混沌」が極端に戯画された街とも呼ばれる。
上述した都市伝説を含め、「都市型」の亡霊・幽霊・怪異などの噂が多く、現実にそういった存在と出会ってしまう例も報告されている。
霊的な存在が原因での霊障事件も珍しくない。
そういった存在や事件が多く語られるのはこの街が「境界」上に存在しているからだとまことしやかに語る者もいる。
参加者(0):ROM(2)
Time:02:38:24 更新
ご案内:「常世渋谷 祭りのあと」からリリィさんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 祭りのあと」から汐路ケイトさんが去りました。
■リリィ >
目が合ったらほのわらう。当たり前みたいに、ニコ、って。
そのくせ放す気のない手は、少女の身体から力が抜けるのを覚って柔らかくなる。
それでも未だ離れはしないのだけど。
「うん。」
短い二音が促す。
貞淑の衣に身を包む少女の懺悔を、酷く穏やかな表情で悪魔は受け止めるのだ。
それ以外に口は挟まずに、少女の紡ぐ声を聞き続けて、
「言ったでしょう?
ケイトちゃんがわたしを許してくれるように、わたしがケイトちゃんを許してさしあげますって。
嫌ったりなんてしません。ケイトちゃんがいい子でも、わるい子でも、構わないんです。
仲良くなりたいって言ってくれたの、嬉しかったです。わたしにとって大事なのは、それだけだから。」
うっとりと、甘く蕩けた声で歌うように囁く。
そこで漸く手が離れ――代わりに真っ赤に染まった頬を撫でた。
「今後、どういった道を選ぶことになるにしろ、判断材料は必要でしょう?
他の誰かに出来ないなら、わたしに言えばいいんです。わたしにすればいいんです。だから安心して、わたしと友達でいてくださいね――。」
悪魔の甘言が、夜の常世渋谷に溶けてゆく。
祭りのあと、緩やかに日常を取り戻していく人々の中、ひとりの少女が踏み出した一歩が何処へ向かうのか。
――それはまだ、だれもしらない。
■汐路ケイト >
力強く振り払ったわけではないから。
ぐっ、とその場に留め置かれるその力に、ぎょっと彼女の顔をみつめる。
「うぁ」
続いた言葉に、なにかを差し挟もうとしても。
……できるはずもなかった。僅かな逡巡のあと、力が抜けた。
「…………あ、」
すくなくともみずからの行動を否定する――という選択肢は、取れなかった。
「……まえはね、逃げちゃったんです。
そのときも、ほんとに、無意識で……はじめてできたおともだちで……」
三年前、はじめてしたとき。そのときがそうだった。
……後ろ向きであり続けたのは、そのせいだったのかも。
「うとまれて……嫌われちゃうかなって……だから……」
ぎし。
あらためて、体重を預ける。観念した。
「ともだちを。否定なんてしないよ。あたし、いけない子だから。
…………お、美味しかった、です。とっても……」
あったかさと、痛いくらいのぬくもりに包まれて。
冷静になれば……真っ赤になって、顔を伏せた。
吸血。本能が囁く素晴らしさ。それは、単なる食事で留まらぬこと。
そういう部分で、こちらはまったく年齢相応の子供であったり。
■リリィ >
正気に戻って狼狽え、離れてゆかんとするのは予期していた。
微細な違いはあるだろうけれど、喩え様のない充足感も。醒めた後の罪悪感も。
(わたしはその気持ちをよく知っているもの。)
誓いの手を離すことはなく、どころか、引き留めるよう力強く握り締めた。
無論人外由来の怪力があるから加減はしたけど、それでも軋むような痛みを微かに覚えるかもしれない。
「大丈夫ですよ、ケイトちゃん。こわがらないで。大丈夫です、お互い様なんですから。
それでも後悔して否定するなら――この手を振り払って、わたしごとしてください。」
優しく諭すような声で、卑怯なことを言う。自覚はある。
振り払えと言いながら、此方から手を緩める気はなかった。未だに力強く繋がっている。
■汐路ケイト >
夢のなかにあるようだった。
真紅の美酒に酩酊して、浮遊感と恍惚感にうちのめされる。
片鱗を自覚していたばかりの渇きがひといきに癒える充足は、こちらにもまた毒だった。
「あぁ……っ」
……こんなものを、ずっと我慢していたなんて。
あげたこともないような女の声がためいきにかさなり、
余韻というには強烈な痺れから降りてこられぬなか、身体に圧力を感じた。
しなだれかかっていた拠り所。がくんと首が危うい傾ぎ方をする。
寝起きのような倦怠のなかで、視線だけがさきに彼女のほうに動いた。
「……ん…………」
されるがままだ。伸びっぱなしの牙のあいだには、まだ血の味が残っている。
しらない感触がふれてくると、自分のなかの尖った部分がゆっくりと丸みを帯びるようだ。
ぎし、と更に体重がかかり、そして……
「………………」
呆けていた。
離れていく顔、そもそも間近にあった顔、まんまるいおつきさま。
捧げたまま薄く開いた唇が、一度とじて、そしてまたひらくと。
「―――あ、……えっ」
喰われたことで、ようやく正気が戻ってきた。
「あっ、あっ……えっ、あ、あたし、いまっ、リリィちゃ、あのっ!」
赤面、そして半泣き。離れればわかる、首筋に残ったふたつの孔。
自分がなにをしてしまったのか、そしてされたのか。
いたずらっ子に対して、こちらは大混乱だ。
身体がとてつもなく熱をもっていた。
「ご、ごめん、なさ――っ……」
離れようと、してしまう。
■リリィ >
驚愕が治まらない内に混乱がやってきて――ああ、こんな気持ちなんだ、という、理解に至る。
内側へと食い込む牙へ覚えたのは、痛みよりも、異物感。
獣じみた吐息と、血を啜る音が聞こえて、そこで漸く実感が追いついた。
互いの谷間に友情の誓いは潰れて隠れてしまったけれど、身体の奥から奪われてゆく感覚の所為か、その温もりがより鮮明に際立つようだ。
実際はほんの僅かだったろうが、細く引き伸ばされた時間の中で、
甘い痺れに苛まれながらも、唯々にその身を捧げることを自分の意思で選択したのは、その温もりの為に違いない。
傷跡に触れる熱の籠った吐息にぶるりと震えながらも、そっと少女の身体を押し遣って、今度は此方が味見をする番。
触れて、舌先が柔らかく唇を割ったら、此方もひとくちぶんだけ頂いた。極少量。力が抜けるような感覚が一瞬あるかないかといったところ。
そうしてそれは直ぐに離れて、
「……お返し、です。」
悪戯っぽく舌を覗かせてみせたけど、気恥ずかしさに歪んでいたので恰好はつかない。
■汐路ケイト >
白い三日月がふたつ、ふかく肌に食い込む。
逃がしはしない逃がしてなるものか。
生まれた孔からあふれたるものを、まずはそのまま感じる。
決して軽くない二人分の体重に、パイプ椅子がぎしりと悲鳴をあげた。
その腿の上に跨がり、握り込まれた手を、互いの間にぎゅむと挟んだ。
熱も甘さも――――
「ふぅー……っ」
喰らいついた獣の鼻息があふれた。
ぢゅ……
ずる……
啜り上げる。獲物を逃がさないための甘い痺れと引き換えに。
あのときは夢中で忘我していたが。
ああ、こんなにも。
……ねえリリィちゃん。
そしてひとくちぶん……
まさに聖杯の如き命の水を、勿体ぶるように口腔のなかで転がし、
きしみがはっきりとわかる密室のなかで、
これは、やっぱりすばらしいことだよ。
……ごくり、と。
音を立てて、白い喉を嚥下した。
牙がわずかに濡れた音を立てて抜ける。孔はあれど、出血は滲む程度だ。
恍惚の溜め息が傷跡に被さった。
■リリィ >
ふ、と、笑う。照れが垣間見える、はにかむような呑気な笑顔だ。
「ちょっとキザすぎましたか?」
白く、細い指が絡む。
それだけでわかる程に滑らかな肌。
――三年。屋上でも聞いたキーワード。
だからそう、純粋に嬉しかった。新しい友人が出来たことも、その友人の何かしらのキッカケになれたことが。
薄い壁が喧噪とを隔てている。
気が付けばすっかり日が落ちて、差し込む光は人工的なものに塗り替わっていたが、陽の光と違って遍くには及ばない。
こうして身を寄せ合っていても、その笑顔は薄暗く沈む。
だから、だろうか。
或いは、そうでなくとも。
「? ケイトちゃ――」
自然と柔らかな体を受け止めていた。
少女を呼ぶ声に重なるのは、白い首筋に牙が食い込む音なき音。
「っ、ぁ、」
ひくりと攣る喉からせり上がるのは、甘く上擦る微かな吐息。
混乱よりも、戸惑いよりも、真っ先に飛び出たそれに目を見開く。
■汐路ケイト >
無意識に、その首筋に牙を突き立てていた。
言葉より先に奔った。あなたが食べたくてしょうがなかった。
■汐路ケイト >
ケイトには、リリィに言っていないことがある。
「……あ」
言うタイミングを逸していただけで、隠すつもりはなかった。
包みこまれるような柔らかさ、暖かさ。
それに、肩の力が抜けるような心地で。おもわず、眼を閉じてしまいたくなるような。
「ともだちになる、って。こういう儀式みたいなの、要るんですかね……」
照れくさそうに、視線をあちらこちら彷徨わせてしまうのだけれど。
彼女に委ねている手を、振り払うようなことはしない。
すこしだけ喉がかわいた。
「じぶんから、おともだちつくろうと思ったの、三年ぶり……かな。
いろいろ打ち明けられるひとって、いなかったから……」
ちょっとだけ、荷物を下ろせた気がする。
ここが常世学園で、こういう時代で、助かった。
百年も前に出会えっていたら、彼我の間の塀は、きっとうず高かったはずだ。
「……うん、よろしく、リリィちゃん!
えへ。しんどいことあったら、いっぱい頼ってくださいね。
あたし、リリィちゃんのこと、いっぱい許しちゃうから……」
本人がどう思おうと、やさしいおともだち。
そのまんまるい月に惹かれて、
だから、そっと自分の手を重ねるかのように自然な動作で、その身を傾け、
■リリィ >
記憶に関しては、告げるきっかけが今までなかっただけだ。
ひみつを分けてくれた少女へのささやかなお返しというのも烏滸がましい程に、語る口調は平常通り。
本能に関して悩んでいる時とは打って変わって、気にした様子は窺えない。
薄く透けた瞳は少女の言葉を待っていた。
だから、与えられるそれに、唯々嬉しげに顔を綻ばせるのである。
「うれしいです。わたしもケイトちゃんとお友だちになりたい。」
肩を掴む手をそっと外して互いの間へ。
両手で包むように握るから、握手、というにはちょっとおかしなかたちだけど。
「お友達になりましょう。それで、いっしょに悩みましょう?
励まし合いながら、納得できる答えを探しましょう。
ケイトちゃんがわたしを許してくれるように、わたしがケイトちゃんを許してさしあげます。
そうやって少しでも力になれたらいいなって思うんです。……どうですか?」
自分も大概不器用な自覚はあるが、こんな時にキリとしてしまう少女には少し笑ってしまった。
だから最後はいつもみたいに窺うんではなくて、極々普通に首を傾げて、少しおねだりするみたいになったかも。
■汐路ケイト >
「ぇぁ……」
さらり、と告げられた気がして、思わずへんな声が出た。
記憶障害。眼の前の少女――にみえる存在の人生に付随する、おおきすぎる事柄。
それがつらいのか、つらくないのかもわからずに、もご、と思わず口ごもってしまう。
相通じているのは他者に糧を求め、そして、それに思い悩んでいるということ。
それと……
「ほかのひと、とか。
……"ここにくるまえにいたリリィちゃん"がなんていうのかは、わからないけど……」
問われた言葉には、考える……ことは、ほとんどなかった。
禁欲を。清廉を。聖職者の姿でありながら、他者に説ける人間ではない。
いくつも皮をかぶって、自分がなんだかわからなくなりつつあるから。
「あたしが嫌うのは……いけないっておもうのは……
ただ、ただ、弱いものに暴力をふるうだけで、愛せないひと。
ほんとは、もっと、いろいろあるのかもしれない、けど……」
わずかに、きゅう、と指に力が籠もる。
服に皺をつくってしまうかもしれないのだけれども。
「あたしが知ってるのは、いまのリリィちゃん、で。
まだ、おたがい、知らないことばっかりですけど……でも、仲良くなれそう……
……ううん、仲良くなりたいんです、おともだちに」
顔を見合わせて、ちょっと真面目な顔。
こういうときには、むしろ愛想笑いをすればいいのにと思えども。
「だから、思わないですよ。
あたしだって、世間一般からしたらですよ。
"だめだよ我慢しなよ"って言えない、いけない子ですよ。
むしろ……やっぱり、我慢しなくていいのにって思っちゃう。
そんないけない子同士が、つるんじゃ……だめ、ですかね?」
ふにゃ、と笑った。ちょっと困ったような顔になっちゃって、うまくいかない。
でも、眼の前の少女がただつよくてただしいひとだったら、きっと。
同じやさしい言葉でも、受け取れなかったかもしれない、と思うのだ。
■リリィ >
「わ!」
はたはたと瞬きを繰り返して間近に迫る少女を見つめる。
その慌て振りに少しだけおどろいたけれども、滲み出るような悔恨をその顔に見た気がして、そっと肩に添う少女の手へ自身のそれを重ねた。
「傷ついたりしませんよ、大丈夫です。」
びっくりするだろうし、悩みはするかもしれないけど、傷つきはしない。
それはしどろもどろになりはしたものの、先程告げた言葉が根底にあるからだ。
“本能を否定すること”自体を否定する気はない。
じぃっと少女を見つめたままにその言葉をきいている。
誘惑に負けてはならないという、悪魔に抗う人の教え。
何故“してはいけない”とおもっているのか。
「――わたし、実をいうと、ここ数ヶ月以外の記憶がなくて。
えと、“知識”はあるんですけど、それだけなんです。
淫魔という存在として定義づけられたということ、吸精の仕方とか、そういう必要な知識はあるんだけど、自分が今までどう生きてきたのか――そもそも生きていたのか。
……いえ、時々ぼんやりと靄がかかったような、淫魔じゃないわたしの記憶が呼び起こされることがあるので、多分生きてはいたんでしょうが。」
ひみつと言う訳ではない。ただ、誰にも語っていないだけの事柄。
「きっとその、淫魔ではないわたしの記憶が“それはいけないことだ”と言っているんだとおもいます。
でも、淫魔は食べたい。おなかがすくから。ダメなことだと思いながらも、ひとの厚意に甘えて精気を分けていただいてます。
……ケイトちゃんは、こんなわたしをいけないやつだとおもいますか?」
■汐路ケイト >
「ああ……」
好奇心。その言葉に、視線が落ちる。自分の内面へ。
「やっぱり、味がちがうんだ」
個体差が、ある。
それを、どこか噛みしめるように独り言ちた。
「――ひ、ひどいことなんて、そんな!
リリィちゃんだって、いっぱいがまんしてるんでしょう……!
あたしは……むしろ、あたしが傷つけちゃいそうになったから……」
慌ててテーブルから降りて、彼女に取り縋る。
その肩に両手を添えて、首を横に振った。
誘惑に負け、唆そうとする有り様。まさに悪魔のようにして。
「……なんでかな、っておもっては、いるの。
なんで、リリィちゃんは、"してはいけない"っておもってるんだろうって。
あたしは――その、ここにくるまえ。すこしお世話になってた修道院で。
誘惑に負けてはならない、って、おしえてもらったから……というのもあって……」
聖書には、こうある。
相手をみて、そうした不純を抱いてしまった時点で姦淫はなされている、などとも。
ピュアな淫魔のまえなので、わざわざ聖句を読み上げることはしないのだけれども。
「でも、ここで……。
人外のあたし自身も、あたしなんだって思っていいって、お医者さんもいってくれて。
だから……わからなくなってる、んだとおもう……から……」
絶対的な正も否もないならば……。胸の内から響いてくる声が、真理なのでは……?
奇しくも、そう。眼の前の少女が、「自分のなかからきこえる声」を告げたことで、
このケイトは、自分の本性――いってほしい言葉、それを自覚してしまったのかもしれない。
どうしても、気の利いた言葉は、でてこないけれど。
きゅ、と肩を掴む手に、僅かに力がこもって、うつむいた。