2024/10/11 のログ
ご案内:「常世渋谷 喫茶「ブルー・ブラッド」」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
『――ええ。こちらのほうはつつがなく。
 強いて言えば、上手く王子様と接触できるかどうかが懸念事項ですか』

早朝。威勢の良い東海岸のイントネーションが、オモイカネ8のマイク機構に吸い込まれる。
他に客がいない時間だ。隅のボックス席、窓のない地下喫茶にそれはいた。
落第街を賑わせていたお騒がせの犯罪者は、いまは日向に生まれる影に潜む。

『正直、そわそわしてますよ。なにせ、はじめてのことですから。
 いまでも夢なんじゃないかとたまに不安に――ええ、大丈夫。
 試練は超克してみせますよ。……なにせ、わたしですので』

静かな甘い声は、歌のように紡がれて。
むこうにいる何者かと、こそこそと何かのやり取りを。
片足を抱くようなお行儀の悪い座り方も――まあ、この時間と馴染みの店なら許される。

ご案内:「常世渋谷 喫茶「ブルー・ブラッド」」にエイリーさんが現れました。
ご案内:「常世渋谷 喫茶「ブルー・ブラッド」」からエイリーさんが去りました。
ノーフェイス >  
『それでは、先方によろしく――また三日後に』

そうして短い会議を終えると、視線認証システムで画面が反応。
デジタルのニュースペーパーへ切り替わった。並ぶ時事はまず島内から。

「――――ん」

そこで、手帳の向こう側にそっと供されたモーニング。
頼んでおいたブレンドとホットサンドだ。
今日はこの後、少し異邦人街のほうで用事があるので、軽めにしておく。

「悪いね。もう大丈夫だから」

静かに頭を下げた、愛想のない――腕は確か――店主(部長)を見送って。
厚意で切られていた店内のオーディオが、静かに鳴動しはじめた。

ノーフェイス >  
常世渋谷にある工房で注文品を受け取って、面倒を避けて地下に潜伏。
学生街の自宅にはいつも潤沢に食材が備蓄してあるわけではないので、
朝食はここで済ませることにした。このあたりに来るのは、ちょっと久々だ。

「――お?」

とある新聞同好会が発行している記事が目に留まった。
元から読んではいたけども、とある縁から記者に着目するようになったのだ。
主戦場は風紀委員絡みのルポルタージュ。えらく行動力のある特派員のもの。

「――――」

やさしい読者ではないので、整の補正をかけることはないけども。
いいな、と思った時は、感想などを投書したりもしている。
フォームから一方的に送るものであり、返答はできないし、させない形態。

「ふふん」

じっくり時間をかけて読んで、吟味して。そして、唇がほころんだ。
今回の記事(やつ)もなかなか良かった。
がんばりだけを評価しないので、投書があるのは琴線に引っかかった証拠。
意味ありげな署名代わりのメッセージを沿えて、送信。

「――ところで」

ノーフェイス >  
不意に声をかけられた店主がこちらを向いた。
客は自分ひとりだけ。店員も然り。一対一だ。

「この曲は?」

問うてから、ざく、とトーストにかじりついた。
蕩けたチーズとハムの味を含みながら、興味深げな視線が薄闇のなかに輝いていた。
それがラジオ番組からではなく、店内の媒体再生機器から流れていることを目敏く見咎めていた。
意外そうな表情をされる。おくれてかえってきた応いら()えに、こくん、と白い喉を嚥下してから。

「…………へ?」

間の抜けた声がかえった。
――あなたの差し金ではないんですか。
そう訊かれたのだ。まあ、メディア絡みでは本当にこの数年、来島以来色々やってはきたけども。
こんな落ち着いた風情の郷愁を駆り立てる器楽曲(インスト)が、自分と結びつくことなんて――

「――――、」


ノーフェイス >  
「なるほど、なるほど……」

くつくつと煮立つような笑いが、肩を震わせた。
なんともブレンドの苦みが美味しく感じる朝だこと。

「……意識して聴いてみると、確かにって感じ。
 初期(ファースト)のころの雰囲気がある。そうか、そっちに行ったんだ」

なにやらひとりで納得している様子も、いつものことだ。
食器やグラスの世話に戻った店主をよそに、機嫌をボールのように弾ませる。

「呼び声……」

いつかだれかが、表裏の境界を滲ませた時のような――

「キミに、絶望に溺れて死ぬような――そんな可愛げなんて、ないハズだもんね」

灼いてみれば、火もつくものだ。
たのしみがひとつ増えるととともに、潰れたはずの脅威が背にじわりと迫ってくるのを感じる。

「ボクものんびりしてられないなー」

もふ、と朝食を詰めて、少しぬるまったブレンドで流し込む。
いてもたってもいられない。こういう感覚をくれる奴がいないと、楽しくないから。

ご案内:「常世渋谷 喫茶「ブルー・ブラッド」」からノーフェイスさんが去りました。