2025/02/03 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」にネームレスさんが現れました。
■ネームレス >
夕刻の常世渋谷はひときわ賑わしい。
最新モードや一歩先のアヴァンギャルドを着こなす生徒や教師にあふれていて、談笑しながら練り歩いている。
近代的な高層建築があちらこちらに望めるが、どこか雑多な空気だ。
構内へと人を吸い込んでは吐き出す駅前広場、『ロク』近くのベンチには、
そうして華美なる装いながら、周囲に呑まれぬ輝きを示す者がひとり。
目深に被ったロゴキャップにラウンドサングラス。
更には開いた文庫本で顔を隠したその人物に、足を止めて目を向ける者は多くとも。
「悪いね、人を待ってるから」
いくらかの談笑ののち、誘いはそうして断った。
また今度ね、と軽薄に口約束をしながら。
さて――待ち人はいつ来るだろう。
放課ののち、お流れになってしまった外食の約束をしている。
鼻歌混じりに楽しそうなのはいつも通りだが、そのいつもより華やいでいるのか、いないのか――
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に緋月さんが現れました。
■緋月 >
こつ、とブーツの音を鳴らして待ち合わせの場に現れたのは、ライトグレーの髪に血の色の瞳の少女。
普段であれば書生服に外套姿であったが――
(着ていないのがバレたら後で怖いですからね…。)
――と、消極的気味な理由で、普段とは違う装い。
牡丹柄の和服に、赤い色の袴風のスカート。その上から防寒の為、鳥と花の柄で飾られた
羽織風の形状の上着を着ているのであった。
さりげなく、いつものポニーテールを結んでいるのはリボンである。
この有様でも中身の入った刀袋を手放さないのは、最早それがある事が当たり前である為か。
「――っと。」
待ち人の姿を見かければ、軽く手を振って挨拶。
■ネームレス >
そもそも――数日音沙汰がなくなり、不意に「ごはんいこう」という旨の連絡を入れた。
互いに学業やそれぞれに打ち込むべきこともあるから、筆まめというわけではないが、唐突だった。
「ん」
犬は飼い主の帰参を地面の振動で察知するという。
この存在はといえば、その足音にふと顔を上げて、揺れるライトグレーに目を細めながらも。
それは黒いレンズの向こうだ。
「ああ」
手をあげて微笑もうとして、表情を覗ける唇はどこかきょとんとした。
遅れて――微笑む。嬉しそうに。文庫本を閉じると手品のように消えた。
「お疲れ~。まだ寒いね。」
立ち上がって、迎えるようにこちらも近づいた。
手袋に包まれた手で、もふりと冷やしまんじゅうのほっぺを包み…
身体ごと斜めに傾けて、その装いを見るのだ。
「……スゴく可愛いじゃん。
牡丹まで従えるなんて……キミのコーデ?」
まさか書生服で――というのも覚悟していたので、嬉しい誤算だ。
レンズの奥の瞳もずいぶんとご機嫌に笑っている、が――
その瞬間、道行く周囲の視線が、足を止めぬまでもわっと緋月に集まる。
若者の街特有のファッションチェックの視線――
■緋月 >
「突然だったので、ちょっとびっくりしました。」
もふ、と冷やしまんじゅう状態で顔を持ち上げられながら、そんなお返事。
それでもあまり寒くないのか、今日はマフラーは御留守番らしい。
流石にいつまでもまんじゅう扱いはアレなので、適度に時間が経ったら
手にした刀袋で持ち上げてる腕を軽くつつく。
「……そう言えればよかったんですけどね…。
服装にうるさい「先輩」の見立てから、私が選んだものです。
ちょっと無理を言って、これは通して貰いました。」
ふ、と遠い目と、何かを悟ったような、あるいは諦めたような、そんな表情。
以前、散々着せ替え人形にされた過去を思い出してしまったのだった。
詳しい話はしていない…というかできない…が、兎に角疲労のすごいひと時だった。主に精神面が。
「……もしも何かの拍子で着てないのがバレたら、お説教が来ますから…。」
相変わらず遠い目。
本人的には普段の服装以外の服に慣れるのと…単純にお説教回避という思いがあるらしい。
あの小さな先輩である、お説教モードに入ったら、それはそれは精神的に抉られる事だろう。
ファッションチェックの視線については、まるで動じてはいない。
これ位、少女にとっては戦いの時の殺気籠る視線のやり取りに比べれば大したものでもないのだ。
そう言う意味では、ライトグレーの髪の少女はかなり図太い方だと言えるだろう。
胆力と併せ、ファッションに難癖つけられる事など意にも解さぬ雰囲気が、余計に服に対する自信にも見える…。
■ネームレス >
天下の往来ということもある。突かれたら、頬をもちっと持ち上げてから手を離してやる。
もうじき春も来る。冷やしまんじゅうの触りおさめも近いのだ。
「しいちゃんか。だいぶオモチャにされてたみたいだね」
以前の添付動画の流れを思い出す。
着飾ることに消極的な彼女に、おせっかいをしたくなったのだろう。
しかし、着てきた理由が説教回避とわかると、少し不思議そうに首を傾いで。
「楽しくなかった? 服を選ぶの」
洒落込むことそのものはいざ知らず、
ドレッサーに並ぶなかからの選択は、彼女自身の感性によるものだろう。
……これ以外がよほど過激な服だった、とかならともかく。
周囲を、するりと撫でるように見渡して。
「けっこー自信あるように見えるケドな。
キミ姿勢イイし、なに着せても似合いそうだケド……
……ま!ボクはうれしいから、まちがいなく着てきた甲斐はあるぜ?
なんたってボクの笑顔が褒章だからな」
にっこにこ。
無意味に褒めることはしないタイプだ。
着こなしも、着てきてくれたことも、ずいぶん嬉しいらしい。
■緋月 >
「楽しくない…訳じゃない…ですけど……。」
もごもご、と口ごもるように少しの間言葉にするのを躊躇い、
「………慣れないんですよ、着るの。
普段の服があれば、それで用事はほぼ足りてましたし。
後は、その……はずかしい…ので………。」
楽しくない訳では決してなかったが、まだ他の服を着るのには違和感が強い模様。
今の服は、普段の書生服に比べて乖離が少ない…あって精々、馬乗り袴が
袴風のスカートになっている位でまだ違和感が少ないのがあるのだろう。
――後者については、何も言うまい。
あんな動画を送りつけられたのである。着るのに勇気のいる服も相当選ばされたのだろう。
主にひらひらふわふわしてたり、あるいは裾が短かったりしたり。
「いくらか見られたりしましたけど、ただ見られる位なら大した事ないです。
剣気や殺気が籠ってる訳でもないですし。」
少し気を抜くとこれである。ひどい戦闘者っぷりだ。
ともあれ、そんなお洒落に頓着しない戦闘者も、紆余曲折あって何とか御洒落への
挑戦というやつに臨み始めているのであった。
「それで、何処にご飯を食べにいきます?
――例の件のお話を抜きにするなら、まあ何処でも大丈夫だろうと思いますけど。」
先日、出掛けたある場所でのやり取り。
下手に話す事が出来ないので、それであれば場所を選ぶ事にはなるだろうが、
そうでないならば特に食事の場所や種類を選ぶ事はないだろう、と。
■ネームレス >
「…………」
花言葉は『恥じらい』だっけ――なんて考えながらも、言葉に耳をかたむけている。
なんとも柔らかい空気だ。茶化すところは一切ない。
「動機が、あのコに言われたから……にせよ。
ボクにとっては、これをキミが選んだ、というのが……大切だ。
服装ってそういうのだと思うんだ。いまはあえて言うなら、でも。
これを着たい、って気持ちがすこしでもあったなら」
そ、と手を、髪に触れぬように。
揺れるリボンに、指先をそっと触れた。
「ゆっくり慣れていってほしいな。いくらでも手伝うから。
……ま、キミは。なににおいてもさいしょはガチガチだし。
すぐ慣れるだろ、すぐ。んははは」
そう、くるりと踵を返した。果たして語るは何のことやら。
「街を望むリストランテでフルコースを……なんてキミのガラじゃないしな。
お肉食べよお肉。燒くのでもいいし、あのお出汁にくぐらせるヤツでも。
――あ、そうだ。それ。頼んでたものは、無事に届けてくれた?」
機密は機密のまま。
どっか適当に探せばいい、くらいのノリ。育ち盛りの肉食獣だもの。
そうして歩き慣れているほうが先導しながら、そっと手を差し伸べる。
ちょっと人が……多い。はぐれると大変だ。
■緋月 >
「………………ありがとう、ございます。」
励ましとお褒めの言葉に、少し小さな声でそうお返事。
ちょっと顔が赤くなったが、その内にすぐ元の顔色に。
勇気を出せる若さとはよいものである。
「焼肉ですか、いいですね。お出汁にくぐらせる…のはしゃぶしゃぶですか。
うん、私はどちらでもいけます。ちょうどお腹も空きましたし。」
食事となればいつもの調子に。以前の騒動で負った体の負担は、ほぼ解消されている。
その為か、食が普段より強くなっている。健全な身体を作るには食事が欠かせないのだ。
「――はい。必要になったら、また引き取りに行く事に決まりました。
それまでは、届け先に預かって貰う事に。」
下手な事は口にせぬよう。
これだけで、十分に伝わる筈。
■ネームレス >
「フフフ」
ちょっとからかうか悩んだけど、歩きながらだと騒ぎになっちゃう。
もう少し、服装へと踏み込んだ興味をもって欲しい――それは、
結局、服を選び、着飾る楽しみを知っていかねばならないコト。
そのなかで自主性を持ったなら、ゆっくり経過を観察しよう。水やりは欠かさずに。
「お互いのウチだとあんまりケムリが出るやつ食べられないもんね。
仕事後に食べたすき焼き……だっけ、はたくさん食べられたケド。
いろいろ頼めるヤツがいいなー、せっかくの打ち上げだしね」
ちょっとおうちだと、品数は事前に買い込まなければいけなくなる。
後始末の利便も含め、今回はお店の部員に頼るとしよう。
「おっ……よーくできました。いいこいいこは、必要?」
手をひらひら振って見せて、いたずらっぽく笑う。
撫でられると抵抗しない印象を持っているようだ。そこに喜びがあるのかどうか。
「それなりに大きい荷物だからな、あれ。
……言伝までいっしょに運んでたら、とんだ重労働になったろうさ」
ぽつり、と言い添えたのは。
明確に拒絶の意を唱えた、あの一幕――そこで、ぐるん、と顔を向けて。
「そぉだ。こっちの手続きは済んだぜ。
楽しいお食事の前に、なまぐさーいお金の話は済ませとこ。
番号教えてよ。報酬支払うからー」
ひらひら、と生徒手帳を振ってみせた。
いちおう正式な依頼の元、護衛をしてもらっているという関係。
■緋月 >
「いろいろ頼める、ですか…。その辺は私も詳しくないですからね。
旅をしてた頃は牛丼がご馳走でした。」
あまりに貧しい贅沢である。
そういう意味では此処での生活が安定するまでは、大体が贅沢の繰り返しだった事だろう。
焼肉やらすき焼きなんて冗談ではないお話。ステーキなぞ天上である。
「もう…犬や子供じゃないんですし、お使い位しっかり出来ますよ。」
ちょっぴりだけむすー。でも撫でられるのは嫌いではないのであった。わんこ系。
「それこそ、必要だと思ったならご本人が後からでも何でも伝えれば済む事です。
私の頼まれ事は飽くまで御届け物ですから。」
涼しい顔してそんなお返事。
「嘘も方便」という言葉を、ようやっと飲み込めるようになった少女である。
いちいち見えてる危険な場所を踏みに行くほど酔狂ではない。
と、続く言葉で脚がぴたりと止まる。
心なしか、微妙に引き攣った表情。
「………番号って、なんでしたっけ?
えっと…手帳の番号、とは、違うんですよね?」
――そう。この少女。
銀行口座というものを、持っていないのである。
■ネームレス >
「しっかりできたら褒めたげるー。なに、不満?」
にひ、といつものように笑った。
そこに疑う色などあるはずもない。そこには信頼があるだけだ。
「税理の手続きとかいろいろやったケド、さすがに手渡しってわけにもな。
それこそ牛丼が山程食べられるくらいの――……、」
そこで、足を止めた。呆然とした眼が、サングラスのレンズ越しにも。うかがえようか。
異国の言葉でも――実際異国人ではあるけれど――聞いたかのように、
しばし固まって、緋月の顔を眺めていた。文化人だ。
「……キミ、普段は万妖邸で部活してんだろ?
給料は……まさか物々交換で済ませてるとかじゃないよな?」
貨幣経済自体はちゃんと理解している筈であるが――
その眼は異世界人を見る目であったかもしれない。正しく。
■緋月 >
「……えっと、その、」
文化人に質問されて、表情が引き攣っている少女。
完全に予想外の一撃を喰らって混乱している雰囲気である。
「アパートでのアルバイトは…手渡しで貰っていて…。
常世島に来る前の日雇いの仕事も、お給金は手渡しでしたから…。
そういうものなんだな~って、おもって、ました……。」
その言葉を最後に、完全に表情と動きが固まってしまう。
全く知らない世界を見る人間の雰囲気である。
何たることか。外界との隔絶と、文化的生活に縁遠かった旅暮らしの日々が、此処に来て致命的問題に。
今のご時世、給料が口座振り込みである事が当然であるという事を、この少女、全くご存じない。
それどころか、銀行が何なのかも下手したら分かってない所があるかも知れない。
この分では、お給金は箪笥かどっかにバレないようにしまっておいてもおかしくないだろう。
嗚呼、時代錯誤。
「……えっと、何か、問題とか、ありますか…?」
■ネームレス >
必要ない――といえばそうなのだろう、いまは。
売店と同様に、手渡しで困るのか?といえば――
自分が分厚い報酬を彼女に渡している姿を幻視して、
それを丁重に受け取る彼女の姿までセットで浮かぶと、
(なんかすっごくヤだ)
つまり説明して、こちらの流儀に則ってもらう必要がある。
「えっと……とりあえず、こっち!こっち来て!」
握ったままの手を、ぐい、と引いて。
旧開発ゆえか、あるいはあえてか、うまれている路地の隙間に滑り込む。
ざわつく表通りと隔絶された薄闇のなかで、壁に背を預けてふう、と一息。
「……ボクとかしいちゃんがさ、
手帳でお会計済ませてるの、みたコトあるだろ?」
さて、隣にか向かいにか――
彼女に向かって示すは、文明の利器、最新鋭の学生手帳だ。
自分とて機能のすべてを使いこなせているわけではない、が。
■緋月 >
「え、あっ、ちょっと…!?」
流石に突然引っ張られたので少しびっくり。
でもまあ、恐らくはあまり他人の眼や耳がある場所でするのは適さない話なのだろうと
読み取れるだけの余裕は幸いにも残っていた。
素直に路地の隙間に引っ張り込まれると、ちょこんと大人しい様子。
「あ、はい。何をやってるのかな~、と気にはなりましたけど、
現金があれば特に困る事でもないですから…。」
つまり気になってはいたが、今の儘で間に合うから充分、というお話だった。
そもそも、この少女が基本的な機能――身分証明やら通話やらなどだけでも
覚えるのに時間が掛かったとはいえ使えているのが、既にすごい事なのかも知れない。
「生活委員会でも、困ってないなら大丈夫だとは言われました、けど……。
…あ、そう言えばまとまった現金を得るアテが出来たら読むようにと言われた冊子があったような。」
つまりその冊子の存在をすっかり忘れていたという事である。
変な所でポンコツぶりを発揮している。
■ネームレス >
「わかりやすく言うと、おサイフがこのなかに……あー……」
むしろ却って混乱させる説明な気がしてきた。
人目から離れたのでサングラスを取った。
その奥の黄金を覗かせれば、とても険しい顔をしていることがわかるだろう。
「……銀行、っていう。
ボクたちのお金を預かってくれる機関があるんだよ。
その銀行の支店だったり、提携してる他の銀行から、預けたお金を引き出せるんだ」
為替や融資の話までする必要はあるまい。
とりあえず現状、彼女にとって大事なことだけを切り取って話す。
いろいろ教えたことはあるが、さすがに他人に銀行のシステムについて教授したことはないため、
探り探りの物言いになった。教えとけよ先輩。いや、彼女でさえ気付けなかったのか。
「ボクんちに、金庫とかなかったろ?
資産は――まあ銀行にだけじゃないケド――預けてあるの。
ンで、その銀行で、誰がどんだけ預けてるか……ってのを管理するのが、銀行口座っていって。
個人のために用意された金庫みたいなものだね……それに番号が割り振られてんだ。
口座は、手続きして紐づけすれば学生手帳でも管理できるようになってて。
手帳をかざすと直接引き落とされたり、キミの口座に報酬を払い込めるってコト……なんだケド……」
わかる?と顔を寄せて聞いてみる。
金銭は手元でやりくりするもの――その認識を果たして揺らがせられるのか否か。
彼女が子犬……というよりは、ずいぶん小さいコに見えてくる。
ともすれば、かつての自分の像――のときより、更に幼く。
「画面開きな。教えてあげるから」
■緋月 >
「銀行。」
金色の目が随分と険しい。
それだけで、どうも自分が此処で暮らしていくにあたって「致命的な物事」を知らないのだ、と理解は及ぶ。
恐らくこれは「知っていないといけない」レベルの事なのだろう、と少女にも見当はついた。
「あ、はい。随分稼いでいるみたいですし、お金とか何処にしまってるのかな~って、
気にはなってました……。
つまり、その銀行?にお金を預けて…其処から預けた分、これを使って買い物とかができる、と。
…それで、たぶん…働いた分のお給金は、そちらに入れるようにするのが、今では普通だ、と…。」
何とか理解の追い付く説明。
お陰様で、今の世の中、給料が現金直接払いというのは一般的ではないのだとも理解が及んできた。
(……文明の進歩って凄いです。郷を出てから、いっつも思ってしまう事ですけど。)
ともあれ、言われた通りにオモイカネ8を取り出して開く。
「ええと…此処から、どうするんですか?」
■ネームレス >
「国のおカネなんかも、銀行が管理してる場合がほとんどなんだぜ。
おっきいトコはそれだけの信用で成り立ってる機関ってコト」
単一行だったり、連邦制だったりするけれど。
ともかくちゃんとしたところだから預けても大丈夫、と前置きをしておく。
たまにやらかして傾く銀行もあるケド――というのは、ノイズだろう。
「もとは、貴金属と貨幣の両替とかが起源だっていうな。
ともかく、いまはこうやって、おカネを銀行に管理してもらうんだ。
……まァ手帳なくしたり悪用されたりすると大変だから、
箪笥に預金しとくのも、一周回って安全かもだケドな」
サイバー犯罪も、銀行強盗も、窃盗も。
大変容という事件を経ても、相変わらずなくなりはしていないのだ。
「必要なトコは、学生証に登録してある情報が勝手に入れてくれるから。
……自分だけにわかる合言葉だけいれて、あとはここに人差し指でさわって。
覗き込みながら、ちょっと念法術練ってみな……次からはこれで開けるから」
肩寄せ合って、いっこいっこ教えながら口座開設の手続き。
残高は0からだ。これが番号、と教えておいて。
「………で、」
そこまでやって、自分の手帳をあらためて操作する。
「こっちでこぉして、こぉすると……だ。
キミがこのまえ、あの汚染区域でがんばったぶんと。
作戦の前準備で拘束したりあれこれ……の報酬が、そっちいったから。
そこの……くるってした印を指でちょんってしてみて」
更新すれば、0だった残高が給与を反映するはずである。
■緋月 >
「は~…すごいんですね、銀行…。」
全く以て物知らず。そんな感想が口から転び出る。
ともあれ銀行というものの存在と、そこがどれだけ重要な役割をしているのかは理解が出来た模様。
「ええと…ここに、合言葉…それじゃ、これ、これ…これ、と。
それと、ここを――――」
特に方向性を持たさずに念を練るのは念法術の初歩の初歩。
難なく言われた事をこなしながら、ちょいちょいと操作を進めて行く。
ちなみに合言葉は秘密だ。
「――これで、いいんですね。これが、番号と…。
…た、大変だった…!」
使ってない機能を使う時はいつも緊張が先に来て、終わればどっと精神的に疲れが出る。
情けないが、こればかりはどうしようもない気がする少女だった。
そうして、雇用主が自身の手帳をすらすらと滑らかに操作するのを見ていれば、
ぴろん、と更新を求める電子音が自身の手帳から。
「あ、ここをこう…ですね。」
言われた通りにちょいと指で触れば、軽い電子音が響くと同時に0だった数字が変化。
その数――――
「…………えっ、えっ?」
いち、じゅう、ひゃく――――頭の数字の後ろに、0が5つほど連続して並んでいる。
手元にないので実感が湧かないが――割と、これ、大金なのでは?
ちょっとだけ困惑した顔で、ばっちりファッションを決めてるひとの顔を眺める。
ちょっと、今は言葉が出ない。
■ネームレス >
「……落第街にいたトキは、けっこう手渡しもあったケド……」
うーん、と難しげに、異文化に感嘆するような有り様の護衛を横目で見遣る。
そもそも生まれは自認する限り普通の家なので、最低限の常識は教育されている。
それだけ、隔絶された郷の、更に地下という環境では"識る"こともままならなかったのか。
「その調子だとパスポートのことも知らない?
そろそろ作ってもらわないと、護衛に連れてけないんだケド……」
まあ、それはおいおいでいいだろう。
とりあえず想像以上に、"一般常識"の抜けが激しそうだ。
放っておいては……いけない。
「どんなに困ってそうなヒトにも、合言葉とか教えちゃダメだぜ。
悪用するヤツがごまんといるんだ。手形がデジタルになるとな……ン?」
そこで、ふと。
自分を見ている顔に気づいて、少し遅れて。
なにを言わんとしているのかを理解した。
眼を伏せて、ポケットに手帳をしまい込むと。
「あの件においてのキミの仕事に対する、正当な報酬だ。
言っとくケド、信用以外の色はつけてないからな。
汚染物質まみれの危険地帯への帯同に、高等級の幻想種との交戦。
事前に交わした契約書の通り、死も想定してあるコトだ、それに――」
ふたたび黄金の瞳を覗かせると。
……その手は、頬にふれる――違う。色を明るく変じた、髪の房に。
みつめる。葡萄酒のようだったその瞳は、林檎のような艶を湛えている。
「実際、キミはボクを庇ったんだから。
不可逆の変容を負ってまで……ね」
……抱えているものはある。
それも含めて、鎮痛な面持ちで――変貌した姿を、みつめている。
■緋月 >
「名前だけは……聞いた事あります。
何に使うのかは…すみません。」
パスポートも詳しく知らない有様。
無理もなし、歩いて行ける範囲で充分だったのである。
ひとつの国の中を身一つで旅していた弊害が、此処でもでてしまった。
恐らくは外国に行くためにそういったものが必要だという事も分かっていないだろう。
そうして、振り込まれた額に対する説明については、口を挟まず無言で耳を傾ける。
話しが終われば、少し言葉を選びながら。
「信用などなどについては…はい、素直に受け取っておきます。
この髪や目については、そんなに重石に思わないで下さい。
それこそ、契約にあった通り、命の危険もある筈の仕事だった。
幸い、命は拾いましたが…消えない傷跡が身体に残る大怪我を追う可能性だってあったんです。
髪や目の色が変わってしまった位で済まされて、寧ろ軽い位ですよ。
悪目立ちはするでしょうが…いざとなったら染めて誤魔化せばいいですし。」
髪や瞳については、其処まで深く拘ってはいない様子。
むしろ、その位で済んだ事に助かったという意識がある。
「…まあ、でも、不覚は不覚ですから。
鍛錬が足りなかった戒め…位には思って置く事にします。」
■ネームレス > 【中断致します。続きは次回の講釈で】
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」からネームレスさんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から緋月さんが去りました。