2025/02/04 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」にネームレスさんが現れました。
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ネームレス >  
「そのままで」

いざとなったら染めればいい。
そう言う彼女に対して、静かに言葉を重ねた。
まあ、染髪とお洒落と言えば、そのまま通りそうな変化ではある。
髪色はともかく――眼の色なんかは理由もつくりやすそうだけれども。

「……似合ってないわけじゃないんだし」

ゆっくりと、首を横に振る。服を褒めたときとは、明らかに違う。
重石に思わなくていいと、少女はこの存在に対して言ったものの――
あの状況で起こったことは、少女が庇った――
庇わなければそのまま星骸に晒されていた、という事実に他ならない。

ひたり、少女の顔の横、ビルの壁面に手をついて――肘をついて。
閉じ込めるような間近から、顔を寄せた。
整いすぎているほどの貌はいつになく真剣だ。

「キミは合理的に判断し、護衛としての仕事を全うしただけだ。
 あの状況で切り得る、最善の手だった――そうだろ」

ないものねだりなどしていられる状態ではなかった。
すれ違ったのは、どちらが何をやるかの分担だ。
自分が潰れても、片割れならどうにかできると。
同じことを考えていたがゆえに、衝突(コリジョン)が起きたに過ぎない。
そして自分はそのとき、身動きが取れずにいた――緋月の動きまで読みきれなかった。
それだけのことだ。

「検査費も、入ってるからさ……」

それでも。
眼を閉じて、沈黙のなかで色々と――嚥下しようとするほどには、
あのとき自分もまた取った"不覚"は、胸のなかに蟠り続けている。

緋月 >  
「……正論は、流石にちょっと、アレです…堪えますね…。」

思わず所在なさげに視線を彷徨わせてしまった。
あの時取った手段に、間違いがあったとは思っていない。
だが、それでも心に引っ掛かる…と言うべきか、そういうものは、残ってしまう。

「他に、二人とも無事で済むやり方があったなら、良かったんですが。
…あの時間で判断して、立て直すのに一番負担が少ないのは、あれしか思い浮かびませんでした。」

最善の手ではあった、が、最高の手ではなかった。
それは、やはり両者の心に引っ掛かりは残すのだろう。
だが、どう頑張っても「最高の一手」が見つからない局面は…ままあるものだ。
後は――互いが、この件を何とかうまく飲み込めるような…時間か何かが、解決してくれるのを待つ位か。

「検査の方は、色が変わった以外は、特に異常はないそうです。
異能の方も、特に問題はないと。

……朔から聞きました。直ぐに引き上げて貰ったお陰だろう、と。」

と、今の所沈黙を守っている友からのお言葉。
恐らく、他にも何か言われはしたのだろう。精々「後でちゃんと礼を言って置け」位だろうか。

「世の中、上手く行かない事は多いものですね。
もどかしいものです……。」

ネームレス >  
異常がなし、と念を押されれば、少しだけ安堵したように。
眼に色覚異常のようなものが出たら、それこそ剣術に障ろう。
……強がっているのでは?なんて疑念があったことが、
僅かに緩んだ目元から伺えるかもしれない。

「……キミが、理想の幻影に打ち勝ってみせたような」

やがて、一度瞑目してから、僅かに思考し――
ふたたび視界に、鮮やかに色づいた髪と瞳をとらえると。

「わかりやすい変化は、なかったかもしれないケド」

たとえば異能が変化したり、新たな魔術が使えるようになったり。
そうした、わかりやすい結果が輝いたわけではない、が。

「…………もう、恐くないから」

まっすぐみつめて、そう伝えた。
――おそらく、多分、きっと。星骸への、安息の泥沼への、
ここにいたいという弱さへの――恐怖と苦手意識の残滓が、確かにあったのだ。
火薬庫のようだった己への怒りが、彼女の行動によって起爆して、
憤激の熱を肌に押し付けながら、みずからの可能性を狭める弱さを灼いた。
いつかの残影が纏った、星骸の鎧を引き裂く御業でもって、
挑戦のための花道を切り開いて証明した……成長

「ね?」

そこでようやく、微笑んだ。
あのときの正解が、悔いを残すものだったとして。

「……それに。
 キミがあんまりそこでくよくよしてると、さ。
 ボクを信じて託してくれたことまで否定されるみたいで、ちょっと悲しいかな。
 その判断は――――満点出してもイイ正解だろ?」

"次こそは"なんて、鉄火場を振り返れば悠長な物言いではあろう。
だとして今に繋がるならば、互いの成長でもって証を立てる機は来る――かもしれない
抱える悔いを、何に活かすか。

緋月 >  
「……そうですか。それなら、よかった。」

安心したように、深刻になり過ぎないよう、務めていつも通りの雰囲気で。
実際に触れてみて、あの黒い水の見せるものの恐ろしさは文字通り体で理解出来た。
苦痛や恐怖ではない、安らぎと安心が先に立つ幻影。だからこそ恐ろしい。
あの穏やかな幻影から逃れられたのは…先に、その「正体」を見ていた事が大きかっただろう、と思う。

「あはは…すみません。どうにも、後から考えると他にもやりようがあったのではと、つい。
悪い癖ですね。生きて帰れたせいで、「他のやり方」が後から見えて来てしまう。

――はい、あの時は、あれが正解だった。
次に同じような事が起こった時は、もう一歩位進んだ正解を出せるようにしておこう、位にしておきます。」

反省はしても、後に悔いを残さないように。
ましてや、そんなものを引き摺り続けると後々がよろしくない。
太刀筋に迷いが出て来てしまう。
ぱん、と軽く頬を叩いて、気を入れ直す。

「――あ、そういえば、病院で見せて貰いましたよ、あの設計のデータ。
いつの間に作ってたんですか、あんなの。
しっかり休んで、ご飯とか食べてますか?」

気を抜いたら、思い出した事がひとつ。
運びものの時に見せて貰ったデータのお話。
頑張るのは良いが、しっかり休む時に休んでいるか、心配になる少女だった。

ネームレス >  
「いいコトなんじゃないかな。後悔(それ)に溺れなければ。
 この……なんていうんだろう……底に足がついてない感覚。
 わかるかな……そんな不安がつきまとう感覚は、忘れちゃいけないんだと思う。
 そんな自分の現在地を、過剰な卑下も、行き過ぎた装飾もなく見つめられるなら、
 ……そのたびにボクは、自分の不出来さが許せなくなる」

肩を竦める。
その怒りもまた、理想を目指すための動力(モチベーション)でもある。
痛みや苦しみのない楽園に生きているつもりは、ない。

「むしろキミの悔いの主たるトコは、
 『浮生』を斬り損ねたことだったんじゃないかと思ってた……ン?」

腕を伸ばすと、僅かに距離が離れる。
依然として壁との間に閉じ込めたままだけど――そこで。
話を振られると、ああ、と思いついたように。

「あれは、第ニ方舟を調べてすぐくらいに思いついたんだ。
 走り書きみたいなモンだから、方舟(あっち)側の技師(テック)が形にしてくれた。
 ……魔術を、護符(アミュレット)とか、東洋だと御札(カード)に込めたりするだろ?
 それで、ボクの大魔術を……星核(あれ)を動力使えばほかのひとも使えるかなと思って……
 ……使いたいモノでもあった?リスクめっちゃデカい見込みだよ、あれ」

思いついてしまったらしい。
首を傾いでみる。実力を超えた奇跡に代償を強いる。
設計者の思想が滲んでいるようなキワモノ兵器だ。
そこまで語ると。

「……根詰めてんのは楽曲製作(うた)のほうかなー……
 ここ数日あんま食べてないし、しばらく寝てなかった。
 あ、でも昨日はちゃんと休んだよ。キミと会うから」

爆発する怒りが呼ぶ魂の叫びを、かたちに書き留めるために。
時間と食事を忘れてしまったのだ。お腹をさすりながら肩を落とす。 

緋月 >  
「ああ――」

確かに、あの時はあの星核を斬り損ねた事については悔いというか、心残りと言うか。
そういったものは感じていた。
だが、

「運びものの宛先の方に、あの星核の性質について教えて貰って、「思い違い」をしてたと分かったので。
実力が及ばなかったというよりは…「斬る為の方法」を選び間違えていた、というのが分かりましたから。
今はもう、そっちに悔いみたいなものはありません。

…代わりに、随分と大きな壁…というか、目標に、姿を変えてしまいましたが。
その分、辿り着いて超える甲斐のある目標だとは思います。」

そちらへの心残りは、「種明かし」によって綺麗になくなったらしい。
代わりに、新しい目標、というか課題へと姿を変えたので、またまたやる事が増えてしまったが。
それを苦と考えない辺り、本気で辿り着く心算なのだろう。

「成程…前から構想はあったんですか。
随分と短い間に基礎をこしらえたなと思って、徹夜とか無茶してないかと思ってたんですが。

うーん…もし不測の事態に巻き込まれて、何とかその場を切り抜けられる切り札…みたいなものなら
あってもいいかな、と思ったんですが。
しかし、やはり強い力には相応の反動なり危険なりがあるものですか…。」

ふーむ、と考え込む。
使える術が身体強化に寄っているので、其処だけではどうしようもない所をフォローできれば、と
考えてたらしいが、本気で使いたいとまでは今の所考えていないらしい。
そして、もう一つ根を詰めているものの現状を聞けば、ちょっとだけ眉が上がる。

「……十歩譲って休んだのはいいですけど、食べてないんじゃないですか。
いけませんよ、食べないと身体は割と直ぐ弱りますから。
これは、今日はしっかり食べないといけませんね。」

身体が資本の少女剣士。その維持にはとても敏感。
食を抜くなど以ての外である。他人とて例外ではない。

ネームレス >  
「また観念的な話になってきたな……?」

眉根をひそめて、どうにか理解しようとする。
そもそもどうやって、概念まで斬っているのか想像も至らない。

「一族の……いや、キミにしか視えてない、キミの法則なんだろう。
 いったいどんなふうに世界をとらえて、どう()っているのか……」

物理的切断であれば結界の刃や、汚染区域で使用したアルミナウィスカーファイバーで、
それこそ結果だけなら手繰り寄せはするが――あくまで至るは"切る"であって。
彼女の言う"斬る"とは、根本のとらえかたが違う気がしてくる。
これまた物質世界とは違う視え方をしているのだろう、とは思えども……。

「……それに。
 キミの試練は、あのデカい挑戦者(チャレンジャー)を打ち砕くことに推移してたんじゃないか?
 どっちか片方だけしか取れないとして、キミは無自覚にあっちを選んだって話かもな。
 ……のがした魚は、ちょっと大きかったかもだケド」

肩を竦める。そのためのお膳立てだったこともあり、パートナーとして少し残念なのも事実。
なによりも――同様の"対象"と出会う機が転がり込んでくるか否か、だ。
浮生と同様の性質の斬る"対象"が、再び現れる確率は――

「階位でいえば、汚染区域でやった無限光錬成(核融合)と同等の奥義だからね。
 もっと汎用性の高いものなら造れるかもだケド、それなら職人に融通してもらってもイイし。
 ……不測の事態ねえ。そもそもキミにそんなのあるのか?
 キミのあの異能だって、その気になりゃ素手で使えるんだろ」

自分のように、巻き添えと破壊を常に考慮しなければいけない身と違って。
剣を振るい、そこに神威の否定を乗せさえした彼女は、状況を選ばない使い手としか。

「水とかオレンジジュースとかは飲んだし……サプリも……
 いやさぁ、ごはんつくるコトに脳領域割くのが惜しいっていうか……
 ……あー……今日はたくさん食べるから許して?
 あと、いいニュースもいっこあるから」

ちょっと機嫌を損ねたので、ご機嫌取り。
愛想笑いはやましいことがある証拠だ。

緋月 >  
「うーん…そこを説明しろと言われると、どう説明すればいいのかが私にも…。
子供の頃から稽古を積んで、その間に「出来る」ようになっていたので。」

例えるなら、よちよち歩きしか出来なかった赤ん坊がいつの間にか「立って歩く」事が出来るような。
補助輪を付けた自転車でないと乗れなかった筈が、いつの間にかそんなものが無くても乗れるようになったような。

あるいは「血」、あるいは「才能」、もしくはその両方。
兎も角、生まれながらに持っていた「機能」を、稽古という形で開き、「使える」ようにする。
そんな捉え方も出来るのかもしれない。

「むう…そう言われると、言い返せない気もしますね…。

まあ、聞いた話だと『浮生』の特性は例え死んでも生まれ変わる…「甦生不滅」の力だとの事で。
単純に「不死」を斬っても甦ってしまうんだそうです。
完全に滅するには…それこそ、「輪廻」でも斬れる実力がないと。」

流転し、生まれ変わる、その理を断つ。
恐らくは郷の者でさえ、挑んだかどうかも分からぬ境地。
それはそれは、超えるのが難しく……同時に、超える甲斐のある目標だろう。

「まあ、確かに素手でも使えますけどね…それでも、刀みたいなものを持ってた方が
扱い易いですし、制御の効き方も違いますし。
それに、私の使える術は身体強化系に偏ってしまっていますし。
今まではそれでも充分かと思ってはいましたけど…あんな派手な花火を見せられると…。」

簡単な話、あの汚染区画で見せられた最後の一撃を見て、同格の技を使う相手に敵うかどうか。
そこの所に、少し考える所がある、と言う所らしい。
身体強化だけで充分でしょ、と言われたら返す言葉もないのだが。

「…しっかりしたご飯とまでは言いませんから、せめておにぎりとかパンくらいでも食べて下さい。
コンビニで売ってるのでいいですから。」

とりあえずの妥協点。あまり深くお叱りするつもりはない模様。

「――それで、良いニュースというのは?
また新しい曲が出来てきたんですか?」

ネームレス >  
「キミもたいがい浮気性だからなぁ」

からかい混じりに話しつつも――、……。
彼女の天才性と、その一族の特異性。"宿命"が導いた理想形の具現。
話を聞けば聞くほどに、"できてしまうのだろう"という感覚が湧く。

「それは、」

だが。
輪廻を斬ると言われたときに、ふと――脳裏になにかが過ぎった。
決して良くない予感だろうことは表情が語ったが、しかし、

「………いや。とにかく、そんな生まれ変わる生き物が出てこないコトには、だね」

言語化できるほど確かなものではなく、曖昧に濁してはしまったが。

「アレはボクの手札のなかでもとっておきの部類だからなァ。
 撃てる状況が整った時点で諦めてもらうしかない」

肩を竦める。市街地であんなもんぶっ放したら大変なことになるのだ。
荒野かつ防護結界が敷いてあるからこそ、常世島でも撃てたのだ、が。
そうしれっと語ってから、悪戯っ子の笑みで首を傾ぐ。

「――で、納得できたら世話ないよな。
 期待してるよ。どんな風に、あの最終定理をキミが覆してくれるのか」

でないと、また斬らせてあげられないから。
だからこそ、彼女の目標のひとつ、明け明けと照らす紅の星でありたい。
そこでようやく、ビルの隙間から再び戻ろうとしながら。

「曲は――まだほんとに試作段階(デモテープ)だけど、いちおう!
 それもそうなんだ!聴いて欲しいよ!でも、それじゃなくって……」

できたけど!とぐっと拳を見せた。骨組みはできてきたと。
そう熱弁をふるいながらも、前をみながら。

「―――先生を……ああ、ポーラ先生のコトね。
 また、歩けるようにしてあげられるかもしれない」

緋月 >  
「――――?」

何か、あまりよろしくないような表情。
そこに軽く首を傾げるが、直後の話に流されてしまう。

「…まあ、そう言われるとその通りなんですが。
あの星核みたいな無茶な生き物が、そうそう出て来るとは思えませんし…。」

目標は見えたが、其処に届くまで、そして「実証」自体がまだまだ暗中模索の真っただ中である。

「諦めろと言われたら、悪足掻きしたくなるのが性分なもので。
――あの御業をも斬れるに足る一太刀、今は無理でも必ずや。」

と、挑戦的な表情。
こと、何かを斬ろうとするとすぐ熱が入る。方向性を間違えば辻斬りまっしぐらで危なっかしい。

そうして、まず一つ目のお話を聞けば、

「デモ…というと、大まかな形にはなってきた、って奴ですか。
そこからまた、細やかに形とかを整えて、そして完成、でしたっけ。
整える前の形も是非聴いてみたいものです。」

作曲、というものがどのようなものかは、大まかだが分かって来た少女。
最も、一番近い理解の解釈が「彫刻」である辺り、やはり和の人間である。

そうしてもうひとつのお話を聞けば、

「――先生が、歩けるように。」

呆けたような口調で、そう口に出して、

「…えっと、それは…新しい身体のアテが出来たって事、ですか…!?」

歓喜と驚きの混じった声が出て来る。

ネームレス >  
「ン。調子(チョーシ)戻ってきたんじゃない?
 やっぱそーゆー、ギラっとしてるトコがスキだな」

にひ、とこちらもいつものように笑った。
危険人物ではある、間違いなく。惹かれるのは、そんな相手にばかりだ。

「キミ、絵心はありそうだけど立体造形もいけるのか……?
 気になるケド……うん、だいたいそんなカンジ。話がはやくて助かるね。
 こっから(ことば)を乗せて、調整して……
 演奏者を募って、編曲(アレンジ)仮作成(プリプロ)に……
 やるコトたくさんだケド、苦しい時期は過ぎた、かな……たぶん」

彫刻や画工の没入と違うのは、仕上げにおいて多くの人間が関わるということ。
それはそれでまた別の苦労がありそうな話をしつつも、楽しげに。

「そのためにもパスポート!島から出るのに必要な証明書だよ。
 島外に足運ぶのに、護衛なしで行ってもイイならいいケド……
 ハリウッド女優とでもお近づきになるからさ」

しれっと言いつつ、足取りは軽やかに。

「――うん。 たぶんイケるとは思うから安心して――
 ……あ、そうだ。ソレじゃん!」

ぐるん、と振り向いて、声をあげた。
既に表通りに出てるので、なんだなんだと視線が集まる。

緋月 >  
「うーん…そんなに私、危ない感じに見えますか?」

そしてそんな自身の危険性を、完全に認識し切っていない残念少女。
他者を理解しようとして斬ってしまう所はよくないと思うので、なるべく抑えるようにしてはいるが、
こういう「斬るのが困難」な存在に対する挑戦心は、無意識に滲み出てしまうのが分かっていない。

「大道芸の域ですけど、刀を使って木から何かを彫り出すというのはやった事がありますから。
本当に大雑把なので、細かい所は小回りの利く刃物を使ってやりたいんですけどね…。

しかし、今の世の歌というのは作るのが大変なのですね…。」

器用である。去年の夏、大会で氷を削って中に入った果物をゲットしたりもしていた。
そうして、現在の世で「歌を作る」事が彫刻などよりある意味大変な仕事なのだな、と改めて認識。

「成程、誰かさんが変な遊びを覚えてしまわないよう、見張っているのに必要な書類という訳ですね!」

ちくりと一言。書類、と言う程に大がかりなものでも…ないのだろうが。

「そう、ですか…それは――よかったです……

って、いきなり何ですかびっくりした!」

色々と大変な事になってしまった先生が、歩けるようになる可能性が現実的になってきた。
そこに感慨を感じた所に突然の声である。そりゃ驚くのも無理はない。

ネームレス >  
「ひとりでやるのはちょっと骨が折れそうだから、
 いいカンジのパートナーを探してはいたんだケド」

技師の真似事をやろうとしているらしい。
人工骨格や臓器、筋肉や皮膚に至るまで。
医療技術は進歩してはいるものの、未だに肉体の欠損は重篤かつ深刻な負傷だ。
そんななかで見つけたアテは、やはり尋常な方法ではないのだが。

「ぜひ!
 キミの造形センスの冴えをみせてほしいトコだね。
 いろいろ前準備はいるから、すぐじゃないケド、一緒にやろうぜ。
 そうでなくったって、あの先生のコトなら、キミは立ち会うべきだろうし」

自分はもう、入学への書類処理などの義理は、第ニ方舟の調査で返したと思っているが。
少女からすれば、ずいぶんな恩人であるらしいので――
そんなふうに声を弾ませながら、またなにかの片棒を担がせようとしている。

「そうすれば、キミの胸のつかえもいっこ取れるだろ。
 すぐに全部元通りとはいかないから、しばらく先生の面倒はみなきゃだろうケドな。
 ……そのときに、あの事件のこれからを、また相談しようぜ」

おそらく、火急の報告がない、ということは。
少なくとも事件に対応するにあたって必要な情報ではないのだろう。
星核の運搬を任せ、その先でなにを話したか――きっと、プライバシーに近いと見ている。
エデンが緋月をいかに信じて、なにを委ねたのかは。
しかし、緋月の動機のひとつが大きく進展するのは、確かだろう――うまくいけば。

緋月 >  
「……えーと、」

かけられた言葉の意味をしっかり噛み砕いて、頭に馴染ませる。
この言葉はつまり――

「――わ、私が、その…「ソレ」を作る手伝いをしろ、と!?」

中々に突然の提案だった。思わず声が裏返りかける。
とはいえ――それは不安があるとか、そういったネガティブなものではなくて。

「……私の技で、力になるのであれば……やります! やってみせます!」

そう、突然の提案で、ちょっとばかり驚いただけ。
先生が元通りに動けるようになるための手伝いが出来るのならば――其処に否があろうものか。
ぐ、と腕に軽く力を込める。

「ですね……「大元」は解決したでしょうけど、細かい「後始末」はまだまだ残っている事でしょうし。
そちらの方が解決するまでに…頑張る事にします。」

「先輩」に相談した事で、幸いにも心の荒れは既に解消されていた。
それでも…心にまだ引っ掛かったものが残っている感は否めない。
それを取り除く機会を――当然、造形の腕を見込んでの事であろうが、
作ってくれたというのは、正直に言って有難いものだった。

「そうと決まれば…力を入れる為にも、沢山食べないといけませんね!
あなたも碌に食べてないなら、消化に良い所から慣らしていかないと、お腹がびっくりしますよ。」

一番いいのはお粥…と、それはあまりに病人扱い過ぎる。
兎も角、消化の良さげなものがメニューにありそうなお店が一番だろうか。

ネームレス >  
「じゃ、一緒にやろうぜ。
 キミと肩並べたのはなかなか刺激的な経験でもあった。
 なんか面白いコト、起こせそうな気もするし」

勢い勇む彼女に、上機嫌にこちらは笑った。
首だけにされた女性の身体を創るのに面白さを持ち込もうとするが、
こういう存在なので諦めてもらうしかない。

「挽回の機会だ。逃す手はないぜ。
 時が来たらまた伝える――材木と彫刻刀、用意しようか?練習にさ」

小さい刃物があれば、と言っていたし。
やらせたら案外すごいのかも、なんて期待もあったりする。

「それじゃあ、しゃぶしゃぶ……がいい。しゃぶしゃぶ。
 なんかちょっと卑猥な響きなのがそれはそれでソソるし」

油滴る焼肉もいいものだが、なんかヘルシーな印象もある。
肉を食べたいという気持ちは揺るがないようだった。
そんなこんなで、暮れなずむ街。まだ夕日が照り、闇に呑まれきらない道を征く、
――なかで、

「……ねえ」

並んで歩くなか、不意に。
顔を見ないまま、出し抜けに声をかけた。

緋月 >  
「はい、一緒に。
それじゃ、その間までは時間を見て練習に励む事にします。
折角のお給金ですし、道具位は自分で揃えますよ。」

こういう時に使ってこその報酬だろう。
早速、何処へ買いに行くべきかを考え始める少女であった。
これからは、新たに彫刻の練習が日課にも加わるのだろう。

「しゃぶしゃぶですか…確かに、脂が落ちる分、お腹には優しいのかも。お寿司とかも頼めるみたいですし。
って、卑猥って何ですか卑猥って。」

と、突っ込みながら同じく道行く夕日の街中。
そこへ、唐突に声。

「……何ですか?」

返す言葉は、シンプルに、穏やかに。

ネームレス >  
「キミは」

歩を進める。

「天才だよ」

不意な――ともすれば、脈絡もなさそうな話。

「そして、価値ある人間だ。
 すくなくとも、ボクはそう思ってる」

はっきりと、なめらかに。
ストールの奥から、白い吐息がふわりと零れながら。
決して負のニュアンスを含むわけでもないが、
強く賞賛したり、褒めたり……という色合いでもない声だった。

報酬額(ねだん)の話じゃなくてな」

緋月 >  
「………天才というのは、」

同じように、歩を進める。

「主観的なもの、ですよね。
その人その人で、そう感じる相手が異なる、のかも。」

同じく、脈絡のなさそうな話。

「私にとっては、あなたこそ天才ですよ。
――言葉に出来ないような、形容してしまったら陳腐になりそうな、得難いひとだと、思ってます。」

そんな言葉を、穏やかに返す。
ポニーテールと、それを結ぶリボンが軽く揺れた。

「……随分、突然に振ってきますよね。」

そんな事を、おまけにつけて。