2025/02/05 のログ
■ネームレス >
「…………」
唇は柔らかく、微笑んでいるようだったが。
天才――そう、掛け値なしの評価を受けても、増長することはなかった。
ただ、そのことばを、感情を、しっかり受け止めたのは、確かで。
――天才とは、
「……成し遂げて、自己を証明した者」
と、口にした。
圧倒的な能力、類まれなる才能、余人に持ち得ぬ世界。
過ぎたる異能、望まざる性質は呪いになるだろう。変容後の時代では、特に多い。
だからこそ――謎多き紅の星は、天才は認識されてはじめて天才になると定義する。
それは、あるだけの力では――ない。
「どうにも、ボクを美化して視るヒトが一定数いる。
まあ、これだけ魅力的だと狂っちゃってもおかしかないケド。
……だから、キミもまた、ボクがキミにとって価値ある存在だと思ってくれているなら」
能力に、容貌に、人柄に――心を砕いているのなら。
「キミが命を賭して……身を挺して護った。
それだけの価値がある者でいようと思う。
……もっともっと磨きをかけて、ツヤ出してかなきゃなって思っただけ」
ごまかすように小さく笑った。
夕焼けがたとえ、闇に呑まれても。
みずからが星となって輝くのだと決めている。
成し遂げるための道は、理想の自己を実現する道は未だ――半ばだから。
「キミのコト、視てるよ。
ぜんぶはまるで見通せてはいないケド……ね」
牢のなかでは鬼であったのだとしても。
そうして恐れられた才と心は、みずからにとって価値あるものだと。
貨幣ほど確かでない、主観からのことばは――
少女にとっては、信用に足るものだろうか。
■緋月 >
「「理想」で在り続けるというのも、大変ですね。
期待に応えられる存在であるよう、己を高め続けないといけない。
――他人事でないのが、より大変な所です。」
最後の言葉だけは、我が身を振り返るような調子で。
「義務感、なんてものじゃないですが。
それだけ、見て貰っている身の上としては、下手が出来ませんね。
あなたが、私を「視ている」だけの価値がある相手だと思ってくれるなら、
その期待を裏切らないよう、無窮に向かって走り続けなくては。」
例え、極みという果てが見えなくても、走った道程は、決して無駄にはならないと。
そう信じ続けて、走らなくては。
「……方向音痴だけには、気を付けないといけませんけどね。」
小さく冗談めかした雰囲気と、己を戒める雰囲気。
まるで別方向に向く、ふたつが入り混じった言葉。
「視られて恥ずかしくない、情けない事にならないよう。
お互い、これからも気が抜けませんね。」
暗に、「こちらも視ている」という事を匂わせる言葉。
視られているのならば、その期待を裏切らないように、己を高め続けようと。
そんな会話を交わしつつ、夕暮れの街を行くふたりの影。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」からネームレスさんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から緋月さんが去りました。