2025/08/04 のログ
ご案内:「裏常世渋谷 ????」にネームレスさんが現れました。
ご案内:「裏常世渋谷 ????」にシャンティさんが現れました。
■そう、本には記述されている。 >
霧だ。
すべてを閉ざす濃霧ばかりがある。
光もなく音もなく風すらない。
靴で踏みしめる硬質な床だけが確かだ。
記すべきことは何もない。
此処は何処でもないのだから。
背にした夏の太陽と喧騒の、その全てが蜃気楼のように消え去っている。
お前はひとりだ。
■シャンティ >
グラン・ギニョール
猟奇・残酷劇を詰め込んだ芝居
そこにはまともではない者達が跋扈し、狂気に満ちた世界が広がる
その命題は、如何に恐怖を与えるか
如何に狂気を演出するか
そういったものであった
「……」
かつてそれに魅入られた女は、一人歩く
此処は、常世渋谷
この場所もまた、怪異や怪奇が潜む街
彼女と相性がいいとも言える
「……あ、ら……?」
色素の薄い唇から、吐息のような気だるい声が漏れる
彼女の"目"から事象が掻き消える
なにも――ない
「……あ、は」
笑い声が、溢れる
今までに経験がない事象に
これまでに感じたことのない脅威に
女は 笑う
「あぁ……なにも、わからない……なん、て……ふふ。
いつ以来、かしら……ね。」
くすくす くすくす
女の忍び笑いが、なにもない世界に溶けていく
「いい、わ……怪奇、現象……よ、ね。
あぁ……どう、なって、しまう……の、かし……らぁ?」
女は先も見えぬ、道であるかすらもわからぬ、その先に
迷いなく 歩みを進めた
■物語はリアルタイムで記述され―― >
一歩先すら視えぬなら、それは真冬の倫敦よりも視界が悪い。
奇異なる事の枚挙に暇はないものの、部屋を満たした灰色は、何かを湿らせることはない。
実体をもたない霧はしかし、ただそこに在るだけだ。
呼吸のたびに肺腑を灼くこともない。故に、お前を煩わせるものではない。
臆せず踏み出された愉楽の歩が伝えるは、靴音が跳ね返る事実。
頭に肩に背に、それはそう高くない天井、そう遠くない壁の存在をお前に伝えた。
空気の震えが光と音よりも確かに語りかけ、しかし此処が何処であるかを悟るには至らなかった。
弧を描く廊下――と思しき細い路――の道すがらにも、
お前を探す視線や、餓えた獣の息遣い、欺かんとする悪意の片鱗すらないままだ。
どうなってしまうのか?
そう呟いたお前に、言葉を返すことはなくとも――
靴音が跳ね返るが如くに、自らにそれを向けることは出来るだろう。
お前はどうなりたいのだ。
■シャンティ >
「見え、ない……感じ、ない……ぁぁ……
この、懐かし、い……感触……」
一時、己を絶望に堕とした闇
見えない、知れない
その懐かしい恐怖
それを迷わず踏み越えていく先には
壁が 天井が備わっている
「……部、屋……?」
ほんの少しだけ、首を傾げる
歩いてきた道は、コンクリートの足場というよりは廊下めいていて
今感じる、敷居のようなそれは部屋を想起させる
街の中だったというのに
「……ん……」
どうなりたいか
人形から人じみてきた今も、女にはわからない
「自分、の……行く、末……に、興味……は、ない……わ、ねぇ」
今突然、此処で死んだとしても
おそらくは、いいのだろう
だが
「……面白、い……世界、の……一員、くらい、には……なり、たい……の、かしら……ね、え?」
未だ、中心になることには懐疑的ではある
ただ、空気のようにあるのではなく……関わりをもってもいいか、とは思う
■語り手は誰ぞ >
無味乾燥の一色の世界には何もない。
光と音に頼れたとて、そこに何かを見つけることが出来たかどうか。
絶望はそれらを喪ったことか。それとも何も知れなくなったことか。
そこに在るものに触れられぬ悲哀は、なにも無ければ生じすらしない。
どうなりたいのか。どこへ行きたいのか。
お前の言葉を継ぐのなら、世界を構築するために必要なのは、
一員になるための総体、関わるという行為をするための窓口、
それをそこで、自然に踏み出したつま先が何かを強かに蹴った。
硬くも柔らかい感触。数十キログラムの重量は、蹴って転がすことはできない。
あなたはそうして、どうなるだろう。
立って退くか、それとも躓き転ぶのか、いずれにせよ、あなたが蹴ったそれは、
■ネームレス >
「痛てっ」
――と、言った。
心地よく眠るように目を閉じていたのに、脇腹を蹴られたんだもの。
そんな声も出る。
■シャンティ >
「……ん」
女には痛覚はない
ではあるが、触覚はある
おそらく、本来であれば痛痒を覚えるであろう衝撃を足に感じる
……どの程度の衝撃かは、わからない
「……あ、ら」
その拍子に、世界が広がる
眼の前……というよりは、足元になにかが、ある
いや、正確には知った存在が
「……昼寝、かし……ら?」
足先でつんつん、とつついてみる
■ネームレス >
「いきなりそりゃないだろ……わざとー?」
視えてる。
視えていない筈がなかった。だがそれは、まるでそこに降って湧いたように、いたのだ。
その意識があれば、踏み出すつま先に幾らかの加減はあったかもしれずとも。
なかったからこそそれなりに突き刺さったらしい。
霧のなかにあって鮮やかな血の色の髪。
両手を使わず上体を起こして、その場にあぐらをかいて、放っていたキャップを被り直している。
「なにやってんだよ、裏常世渋谷で
てゆーか、キミ本物?」
その証左がないのは何れもである。
問いかける声は訝るのではなく、なんとも愉快そうに、炎の色の眼を輝かせ、傍らの女性を見上げている。
「本物しか知らなさそうなコト、言ってみてよ」
■シャンティ >
「わざ、と……だった、ら……足、は……つかわ、ない……わ、ねぇ」
女は非力である
特段鍛えているわけではない
嫌がらせをするのであれば、おそらくはもっと陰湿に
もっと痛みを与えるような何かを使う……かもしれない
「私、は……趣味、ね……
あなた、こそ……なんで、こんな、ところ……に?」
なんでこんなところに、はお互い様である
それと同時に、当然のようにいるだろう、というのもお互い様である
「……へ、ぇ?」
本物しか知らなさそうなコト
そんなものの判定は、結局のところ本人にしかわからない
しかし、あえてそんなことを問いかけてくる
だから 女は笑う
「そう、ねぇ……たと、えば……
あなたが、女の、子……と……」
いきなりプライベートを割ろうとした
■ネームレス >
「膝から落っこちてこなかっただけ幸運だったかな」
勢いよく転ばれでもしたら追撃が入っていたことだろう。
急所に全体重をかけられたら、いくら彼女の軽さとて相当なダメージになる。
「美しいモンでも探してた?それは結構。
無事に目的達成だ、おめでとう!――ボクは野暮用。
探し物をね。数日かかったケド」
ほら、と親指で傍らを示した。
そこにはギターをおさめるハードケースがあった。
「……………」
眼を瞬かせて、彼女の言葉の続きを促した。
促して――
「んははははは、なんで知ってんだよ」
それはもう、紡がれた情報に声をあげて笑うしかない。
あるいは誤魔化すようにぴょんと立ち上がると、ハードケースを背負った。
「てコトは本物だな。どーやって入ってきたんだ?」
■シャンティ >
「あぁ……それ、なら……効果、的……ね、ぇ……
そこ……動か、ないで……もら、える?」
膝から落ちる、という話を聞いて、なるほど、とでも言うように口にする
やる気満々にも聞こえる
「ふふ……美し、い……そう、ねぇ……そう、とも……いえる、かし、ら……ね?
どち、らか……といえ、ば……怪奇……なの、だ、けれ、どぉ……
それ、も……目的、達成……ね?」
見えない目を何処かに向けて、口にする
彼女は何を見ているのか
「……ふふ」
くすくすくす、と笑う
時として、誰かの生活すら覗き見をする
そんな悪事も女には日常である
といっても、誰も彼も、というわけではない
面白い。その一点だけが必要である
「……ん。気付い、たら……か、しら……ね。
変、な……気配、を……探って、る……うち、に」
■ネームレス >
「フリじゃないんですケド!いつから漫才師に転身したんだ。
空きっ腹に膝落とし叩き込まれたら流石に堪えるって……てゆーかなにか持ってな……いか」
腹をさすりながら、問いかけを途中で止める。
食に興味のない相手だ。おやつがひょいと出てくる可能性は打ち切った。
創造物を食べたらどうなるかわかったものではないし。興味もあるけれど。
「hmm……」
斯くして美しき怪奇はと言えば、細顎に手をあてて思案顔。
「迷い込んだか、ボクが手引きになったか……
ある程度の能動性はあっても、侵入そのものは偶発的な現象なワケだな。
……常世島に来る前に、裏世界に迷い込んだご経験とかは?」
ちら、と視線だけを向けて問いながらに。
「ボクはなんでか入ろうとしても入れなくってね。
ちょっと特殊な方法を試してうまくいったんだケド……
なんか、巷で知られてる方法で入れないばかりか、出られなくってね。
ちょっと困ってた。あとついでに、そこそこ参ってる」
裏常世渋谷には、現世から遠く瘴気も漂っているため、一部を除く常人は消耗が激しい。
シャンティのような例外もいる。此方は強靭な個体ではあるが、例内である。
「出力は……出せて普段の一割くらい」
たおやかな人差し指を立てて、第一関節をくいくいと器用に動かした。
■シャンティ >
「あら……残、念……」
いつもの気だるい調子
その分、本気か冗談か定かではない言葉であった
「そう、ねぇ……」
手に持っている本以外に、なにか持っているのだろうか
このような怪異の場にあっても、そのような気軽な装いであった
それが返って異様さとして浮き立つのであるが
「貰い、もの……とか、なら……もしく、は……出す?」
軽く懐を探りつつ問いかける
出そうと思えば、満漢全席でもだせなくはない
……この場にふさわしいかと言われれば少々疑問であるが
「ん……ここ、に……来る、前……は……ない、わ……ねぇ」
常世に来て、様々なことに触れ合うことで女は道を外れた
否。女に言わせれば、正しく歩めるようになった、ということである。
それゆえ、怪異的な体験は此処に来てから、である
「体質……か、しら……
異界……怪奇……そういう、もの……から、避け、られる……タイプ、とか。
そも、そも……あなた、自身、に……親和性、が……ない、のか、も?」
少し、真面目に考える
こういう考察は嫌いではない
あり得る可能性として、他には……
「信心……とか、も……あり、うる……かも、しれない、わ、ね。
本質、的に……信じ、て……いない、と……か」
そう、呟いてから
「あ、ら……つま、り……役、立たず……?」
出力が落ちている、という話を聞いて少し考えてから
素でいった
■ネームレス >
「キミがだしたものって、消化されてボクの一部になったあとに消したらどーなるんだ……?
…………糖分が欲しい。惚気話とか以外で摂れるヤツな。
角砂糖とか飴玉でもイイから、もらいもののほうくれる?
お礼に無事に出られたら……またカレーでも奢ろうか」
彼女自身の消耗を鑑みてのことではあったが、それ以上の不安要素がある。
不意にパズルを欠いた絵画のような身体になったら笑えない。愉快な経験でもあるかもしれないけども。
「だれが、なんのために」
歩こうぜ、と促して、歩をゆっくりと進め始める。
長い廊下を、道を知っているかのようにたどり始めた。
「侵入のためのアプローチに、ボクはそれを考えた。
裏常世渋谷の成立……こういう場所、世界を見渡して常世島だけの特産だと思うか?
ボクは、必然的に生じた現象だ――と、仮定した」
彼女の言葉に、確かに、と頷いた。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花、なんて言葉が日本にはあるらしいな。
……信心……神様はもういらない、といつか誓ったものだけど……」
それでも、キリスト教圏に生まれ、信心深く生きた幼少期に刻まれた価値観は幹に刻まれている。
認識において自分がここと親和性が薄いとなると――
「――じゃあ、キミはどうして此処に入れたんだと思う?
その仮説に則るなら、キミはボクよりも裏常世渋谷の住人の適性があるワケだ」
思索の傍ら、自分探しのお手伝いでもフってみた。
「何をおっしゃる。人間らしく年中発情期ですよボクは。
大魔術を練るのに時間がかかるし、この閉所だと下級魔術でも制御にしくじるとちょっとヤバいかな」
下級魔術――混合火薬の合成ですら人間を数十人まとめて吹っ飛ばせる出力が出る。
が、それはあくまで精緻な制御によって範囲と威力、指向性を限定しているからだ。
うっかりすると四方八方に撒き散らした結果、超速の爆風によって自分がひき肉になってしまう。
つまり、戦力としては役立たずだ。
■シャンティ >
「さ、ぁ……多分、平気……だ、とは……思う、けれ、どぉ……?
この、際……ため、して……も……あら、残、念……」
割と本気で人体実験を目論んでいたようであった
しばし、服を探ったところで飴の包みを取り出す
「惚気……は……いら、ない……わね?」
そっと手の上におく
見れば、市販のごく普通の飴の包みであった
「……それ、は……」
だれが、なんのために
考えたことはあった。しかし、結論に至るには証拠も実証も乏しい
「世界、が……変わって、から……なら、他、にも……ありそう、な……話、では……ある、けれ、どぉ……」
ただ
この島は成立からしても意図的である
ならば、あらゆる現象が"作為的"である可能性は否定できない
そこかしこで起きる小さな事件すらも
「仕組、まれ……て、いる……可能、性……は、高い、けれ、どぉ……そこ、から……なに、を……導い、た……の、かし、らぁ?」
小さく首を傾げる。説は色々考えられる。
ならば、眼の前の相手は何を考えたのか
「私? 私、は……本質、的に……怪奇、を……異界、を……狂気、を……求め、ている……の、だし。
そう……ね。外つ、者……と、会った……こと、も……ある、わ……ね」
鰯の頭も信心、という言葉も、確かに日本にあるのだったか。
なんであろうと、"それが真実存在しうる"という信念は何よりも強い
シャンティは、そういうものの存在に憧れ、求め、信じる
ある意味で、夢見る乙女、といえるのかもしれない
「やぁ、ねぇ……節操、なし……だわ、ね。
暴発、しない、で……ほしい、わ、ね」
くすくす、と女は笑う
まあ、仮に暴発されようと防御結界くらいは張れるだろう
……一緒に肉片になるのも一興であろうか、とほんのり考える
「……心中、は……微妙、ね」
そう思った。
死ぬならどちらかだけにしておきたい
「……ま、あ……役、立たず、の……出番、が……ある、か……は。
この先、次第……よ、ね。可能性……ある、と……思う?」
今のところ、そういう気配は感じられない
しかし、ありえないわけでもない。さて、賽はどちらに振られるのか
■ネームレス >
受け取った飴を、口のなかでころころと転がしながら。
霧などないかのように、廊下を、階段を歩いている。
彼女に合わせた歩幅ではあるものの、場所を知っている歩き方だ。
「複数犯」
仮説、仮定。
「常世渋谷の、常世島の人間の大多数が生み出した現象。
普遍的無意識の具現化、無自覚に行使された儀式魔術。
であれば、個人がはたらきかけることができても、制御まではできないことに納得がいく。
ま、実際どうなのかってのは関係がないんだ。
幽霊の正体見たり――ニコニコ笑ってりゃ寄ってはこないみたいだ」
そして、真実を追求することに意味はなかった。
認識することで、現実を導く意志の光。認識は道だった。
「その、普遍的無意識のなかの、何を攫ったのかはわからない。
キミのように非日常や刺激を求めてのことなのかもしれなければ……
失われたものにであうとか、もうひとりの自分があらわれるとか。
財宝が眠っているとか、新しい異能が目覚めるとか?
そういった願望、欲望の受け皿――……としての役割が此処にはあるのかな?」
トントン、とつま先で地面を叩いて。
「ボクはぜんぶ、現実にそれを見ているから……本質的に求めてないのかも。
非日常は舞台の上に。財宝はいま、隣にいる。異能は……べつにいらないかな。
もうひとりの自分とは、常に向き合い続けている。
世界のすべてを掴めるなら、あえて世界の裏に望みの所在を定義する必要がない?」
最後のほうは放言になるが、要するに、
非日常、狂気、ありえざるものがあっていい……あってくれ、という。
「ボクが求めたのは実存だ……裏常世渋谷がキミにばかりラブコールを送るのは自明だな。
ふわふわした、曖昧なもの、あるいは形のない欲望を形にするため……
曰く、その欲望を形にしたものを売ってる店がある、なんて噂もいつか聞いたな」
ずしり、と重み――中身のありそうなハードケースを背負い直した。
「暴力でどうにかなる相手なんざ、ボクらの脅威にはならないだろう。
殴り合いの喧嘩を、好むわけでも嫌うわけでもないなら、出てこない。
出くわすとしたらもっと性質の悪いもの……」
そして、本質的に望んでいるものとは何か。
「――ていうかさ」
そこで不意に、くるりと顔を向けた。
■シャンティ >
「ああ……」
想像、空想、願望
そういった数多のものを飲み込んで、形と成す
いわば――妄想具現化
考えられる一つの可能性であり
荒唐無稽でもある
ただ
この島なら
多種多様な"異様"を飲み込むこの"異界"ならば
そういうこともありえよう
「そう、ねぇ……役割……と、いえば……そう、なの……だろう、けれ、どぉ……
どちら、かと……いえ、ばぁ……撒き餌……かも、しれ、ない……わ、ね?」
願望の受け皿にすれば、それを求める者が集まる。
集まれば集まるほどに、空間の強度は上がる
そうした、循環によって成り立ち、成長する――
仮に説が正しいとすれば、そんなところだろうか
「そう、で、しょう……ね? 現実、を……追う、者、に……非現実、は……ふり、むか、ない……自明、ね。」
己の存在を必要としないものに関わる理由はない
異界だってえり好みをする権利はある
そういうことだろう
しかし
「……なら……あなた、は……なぜ?」
そこまで致命的に相性が合わない……というより、求めるところがないはずなのに
なぜ、此処まで至ったのか
指し示した物品を探す、にしても……なぜ、此処に"それ"があったのか
「そう、ねぇ……私、そういう、の……苦手、だし……?」
暴力、喧嘩
他者がするのを見る分には問題ない。しかし、己に降りかかるのであれば、相手はえり好みしたい。この女は実に我儘である
「性質の、悪い……ねぇ……あなた、以上に……」
そこまでいいかけて、振り向いた相手の動きに言葉を止める
「……なぁに?
此処、が……怖く、なった……?」
■ネームレス >
「蜘蛛や蟻地獄のように?」
撒き餌、と言われるとまず思いつくのがそれ。
怪異によって住みやすい、人の、ある種では後ろ向きな感情で生まれた環境……
そこを巣として手薬煉を引くというのは効率的な狩りではある。
中にいるものに喚ばれるというのは、自分たちが例示している。
「――――いや、確かに深くするために?
裏常世渋谷も実験場の一貫、って捉えられるワケか」
この裏世界を、そうして育ててどうするか――ではない。
どうなるか、を見るために、あえて発生したこの場所を放置していたり。
あるいは発生自体、見越されたもの――
普遍的無意識による異界発生の仕組みがある程度解明されていたのかも。
「陰謀論みたいだ」
そう笑った。
みたいだ、と言ったのは、そうであってもおかしくないから。
誰かを犯人に仕立て上げることは簡単で、それゆえに意味がなかった。
大事なのは――そこで、誰が、何を成し遂げるかだ。
「八年前に常世島で失踪した天才ギタリスト。
遺失した名器。
死者と出会う場所……ボクがやったのは実存と実利を求めた墓荒らしだよ。
ウチのプロデューサーから仕入れたネタでね。無事に戻れたら修理に出すつもり」
つくづく、向いてない……そう笑った。
どうにか遺留品の回収は成功したようだ。
「――――なんかフツーに喋れてるケド。
もしかしなくったって、めっちゃくちゃ久しぶりじゃないか?」
今更過ぎることを言う。
ざっと一年ぶり、くらい。
一年――この存在にとっては、あまりに長く感じる時間。
「生きてたんだ。てっきり燃え尽きちゃったと思ってた。
あれから舞台には立ってないのか、不死鳥?」
栄光の道を歩むものは、なんの悪気も後ろめたさもなく、まっすぐ問うた。
■シャンティ >
「そう、ね……ふふ。
此処、は……この島、は……実験場……で、しょう?」
明らかに放置されている、様々な事象
どう見ても危険なそれですら、なにかの手を下そうともしない
下せないとしても、禁域にすればいいだけの話であるのにもかかわらず、だ
陰謀論の一つも打たれておかしくはない
無論――
戯言にすぎず、論じたところで意味のないことではあるが
「ふ、ぅん……?」
ぱらり、と記憶のページをめくる
確かに、八年ほど前にそんなギタリストがいたようである
その遺品……なるほど、その世界においては貴重なものなのだろう
「誰か、に……任せ……る、わけ……ない、わ、よねぇ」
向いてない、という相手に言いかけるが……
まあ、そこが理由でこんな所まで来たのだろう、と思う
「あぁ――そう、ねぇ……」
確かに、あれからそれなりの時が過ぎた
眼の前の相手と話すのも久しぶりだった、はずである
しかし、女にとって時とは大した障害にならない
半分は、植物のように生きているのだから
「燃え、つき……た、という……の、は……間違、い……では、ない……か、も……しれ、ない……わ、ねぇ……」
高揚感と忌避感
それが全てであった
それらが終わってしまえば……そう"終焉"なのだが
あれにまつわることで、何某かのことも起きるはおきた
まだ、世界を"読む"ことからは離れられない
「あなた、こそ……生き、てた、の……と、いい、たい……ところ、だけ、どぉ……」
自分と違ってそう簡単に死ぬタイプではない、が
しかし、ふと消えない記憶から思い出される
「あぁ……殺さ、れる……こと、は……あり、える……わ、ね……やっぱ、り……よく、いき、て……た、わ……ね?」
真顔でいった
「……舞台……ね」
そういう話は実際にある。しかし、どうにも気が乗らない
何が、と言われると……まだ、自分でもわかっていない
「……まだ、遠い……わ、ね」