2025/08/05 のログ
ネームレス >  
「いま作ってる作品(うた)には、こいつの()が欲しい。
 ……まァ、弾き手が違えば同じ音なんて出るワケがないんだケド」

回収することまでが依頼であり、回収されたものは自由に使っていいという契約。
要するに――まぁ、行方不明者の安否確認が、依頼の本旨であり、これは報酬なのだ。
そして楽器だけが回収されたというのは、そういう顛末(コト)
死者と言葉を交わすことは、生きるを奉ずる者たちには叶わなかった。
裏常世渋谷という非日常であっても、失敗したブラックコーヒーのような現実は横たわっていた。

「よく刺してはいるケド、さいきんはギリギリ刺されずには済んでるな。
 そうそう、さいきんと言やぁ、監視と制限つきだけど米国(ステイツ)にも帰っ……」

そういえば、あの劇場のベッドで、女に刺されたことがある。
知られていてもおかしくはない。どころか、神社では違う相手に脇腹を刺されたし。
今生きているのはたまたまかもしれない。人生はそういうものだとも思う。
そんなことを考えていたからか、うっかり滑った口を、

「……行ってきた。TとEの戦争が築いた新時代の米国は凄かったよ。
 ニュース見ろよー。ボクの勇姿はどれだけ見ても見足りないだろ?」

不格好に取り繕いながら。

「驚いた」

本心から。

「もういい、って言うと思ってた」

見誤っていたのもある。

負けっぱなしでもいい、ってね。
 まさか、舞台を選ぶほどにお大尽してるとは思わなかったケド……」

遠い。その言葉の意図を問うようにして……
視線を、しかし、彷徨わせた。周囲――霧に包まれた世界を見渡し、何かを確認している。

シャンティ >  
「……あなた、らしい……わ、ね?」

目的のための手段
結果を求めるための旅路
ある意味の究極の我儘

……少し、思うところはある

「なぁ、に……弾き、手が……ほしい、の……?
 呼び、だし――でも……す、る?」

死した者との対話
この世から去ったものを引き出す非道理
そういったものを仄めかす

当然の禁忌、当然の害悪
倫理を踏み越えて、女は薄笑う


「ほぉ、ら……やっぱ、り……」

くすくす、と笑う
この存在の、そういう話は……嫌でも、"目に付く"
そして、十分にエンターティメントだ。ついでに死んだりしないか、とたまに思うこともある

「それに……して、もぉ……慌て、すぎ……ね。
 ま、ぁ……あなた、が……どこ、産……だ、ろう……と、いま、は……いい、わ」

知ろうと思えば、掘れる話ではある
それが自分の力、なのだから。しかし、そこに興味はない

「さ、あ……どう、か……しら……?
 もう、いい……と、思って……いて……それ、を……先、伸ばし……る、だけ……か、も?」

小さく首を傾げて、薄笑う

「勝ち、負け……なん、て……思い、も……ない、し……
 ふふ。そも……それ、で……いう、なら……私、は……最初、から……負け、て……いる、の……だ、し?」

勝ち負けなど論じる気はない。そこに拘泥する気もない
自分が敗北者であるという事実は変わらず……一生刻まれるものであるのだから

あえて言うのであれば……
そこに、なにがあるか……次第、で

「……なに、か……みつ、かった……?」

辺りを確認する相手に問う

ネームレス >  
「冒涜的ですこと。
 本物です、なんて売ったら景品表示法違反だぜ?」

数年前、あのハロウィンの夜。
本物の百鬼夜行を率いた女がいた――という話を、思い出した。
果たして、万物を創造せしめる異能によった死者の似姿は、真なのか、贋なのか。

「"もっと弾いていたかった"――と嘆く死者(ヤツら)の前で、
 思いっきりかき鳴らして、生を謳歌してやるさ」

公演に際する時はバンドメンバーを募ってはいるけれど、収録(ダビング)では自分でギターを弾いている。 

「……渇いた、どこかさみしい、枯れた音。
 いまのボクや、ボクがつくる楽器からは出せないものだしな」

自分以外のすべては、自分が美しく咲くための養分でしかない。
冗談抜きで、そう考えている人間だった――隣にいる友人すらも。
そして、そこに一方的でない関係が生まれることも、望んでいる。

「"最初から"じゃないだろ……?とぼけるにしたって無理がある。
 とはいえ、観客気分じゃないのは僥倖(シュプリーム)なコトだ。キミが終わってなくて良かった」

ほら、と何かを指さした。
そこには、霧しかない。
霧深い場所で、何かが見えている/何かが見えていない。
互いに違う裏常世渋谷(もの)が視えていることに、未だネームレスは気づいていない

「ほら」

肩を寄せ、取り出した学生手帳を起動してなにかをみせる。
当たり前に通信途絶中(オフライン)だが、スタンドアロンでも使える機能は問題ない。
立体投射装置で浮かび上がるのは、電子書類だ。
最上部には"部活動申請書"――と、ある。この島においては、開業届に近い。
殆どが空欄ではあるが、活動内容には芸能・興行のプロデュースとアクターとしての出演、
要するに芸能事務所のような業態で、資本金はネームレスによる自費。
そして創始者――部長の署名は、空欄だった。

世は舞台 >
――ただいまより休憩時間と致します。お席を離れる際には、大切なものをお忘れにならないように。後半の部の開始まで、暫くお待ちくださいませ。

ご案内:「裏常世渋谷 ????」からネームレスさんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷 ????」からシャンティさんが去りました。