2025/08/12 のログ
ネームレス >  
「偶然は存在する。たとえ必然の連鎖だとしても。
 奇跡は起きてしまう。望むと望むまいにもかかわらず、起こせてしまう。
 ボクにも、キミにもな――それは呪いだ。糧に出来ないかぎり」

己の成長に繋がらない奇跡に、価値はない。
そう断じながらに、進む。目指すは劇場だ。

壁一面の窓ガラスの向こうは曇天、白黒の常世渋谷が骸のように佇んでいる。
瀟洒なホワイエには客どころかカウンターに侍る部員もいない。
なぜか――まだ開園していないか、あるいは、上演中だから。

「そうだ。終演に立ち会わなければ、ボクは此処を出ることはできない。
 日常と非日常は、シームレスであってはならない。狂気の境界線は引かれていなければ。
 ボクの公演は、作業(ルーティン)のように行われるものではないから」

舞台が終わらなければ、出ることはできない。
非日常に飛び込む儀式によって、境界を超えたのだ。
縛られている。一蓮托生といえばそうだ。そうだが、

「今更だろ」

肩を竦めた。
ホワイエでくつろぐという風情でもないので、それは表側に取っておこう。

「キミの物語の続きが観たい。
 また試練を超えるなら、ふたたび炎のように輝くなら、
 それはボクをより成長させる養分となるだろう

友人だとは思っている。
だがそれは、すべてを許し合うような関係ではない。
最初は、利用するつもりで近づいた。その奥にある炎に惹かれた。
また観たい、魅せられたいと思う――より激しく熱く眩しいかたちで。
自分の心を豊かにするために。

「理想の実現と、自己の証明。
 いつかキミに語ったように、それがボクのすべてだ。
 そのためなら、ボクは血肉を薪とくべることは厭わない」

とどのつまりは。
そこまで言って、自嘲気味に口端を釣り上げた。

悪ふざけさ」

誰よりも本気に。

「……それに」

シャンティ >  
「私、に……とって、は……あなた、の……方が、呪い、みたいな……もの、だ、けれ、どぉ」

成長を求めるバケモノ
端から見ている分には面白いものだが、巻き込まれる側にとってはそうでもない
もはや、呪いに近い心持ちにもなろう

「ま、あ……いい、わ……」

小さな吐息を吐く

「まった、く……商業、主義……の、塊、ねぇ……」

異様と瀟洒を誇る劇場を確認し、感想を漏らす
これが理想像なのだろう。これが望む形なのだろう。
まったく、輝かしいことである、と女は思う

旧態を求めた、かつてのあの劇場とは大違いだった

「本当、に……あなた、は……ろく、でなし……ねぇ?」

よく知っていた
この相手は、友人といいながらもそんな相手すらも糧にすることを厭わない
そうして、手を出した先に刺されることすらある
見ている分には、実に楽しい読み物だ

なるほど、利用しているのはお互い様なわけだ

「ろく、でなし……同士、の……化かし、あい……に、利用、しあい……ね。
 それ、で……部活……なん、て……また……おかし、な……」

言いかけた言葉を切る

「……それに?」

ネームレス >  
「その呪い、解いてもよかったハズだろ?」

自分で終わらせることだって出来たはず。
あの閉館の夜、"これっきりだ"と言えば――それで終わった関係だ。
過去としてアルバム(記録)に綴じられる、ネームレスの糧となる筋書きも有り得た。

「夏の夜の狂騒に浮かされた自分を責めてくれ」

肩を竦めてみせた。それは、自分のせいではない、と。

「それに」

息を吸って、
吐いて。
改めて、振り向いて、正対する。

人生(いのち)を懸けて戦うなら、死ぬことができるかもしれないぜ」

自分はそうしている。なんの臆面もなく、力強い眼光を宿したまま、瞬きなく微笑んだ。
一過性のことでなく、その生涯を費やすなら。
そのさきに、真なる死が、確かな幕引きがあるかもしれない。
より劇的な、あるいは陳腐な。確かめるには、いずれにせよ、戦うほかはない。

「どうする?」

改めて学生手帳を、悪魔の契約書を示した。
そのむこうで、紅い薔薇が笑う。

部長はできないしやりたくないのが本音だ。
その点こいつがやってくれたら面白そうだし。
そんな魂胆を隠そうともしない。

関係の有無は明るみに出る。一蓮托生は終わらない。
互いに脛に傷あり、尋常ではない。
問うように――あなたはまだ悪ふざけが出来る子ですか

シャンティ >  
「……」

呪いを解く。なんなら、この相手を消す、という手段でも達成できるだろう
しかし、それは女の主義に反する
それに……それを差し引いても、この相手は面白い
それを見ないでいられない

「それ、は……もう、期限、ぎれ……よ」

幕引きの時期は過ぎた。潮時は終わった。
死を、今更望んだところで遅きに失している

……それを拒否する理由も……ない、わけでもない、か
まだ、見ていないものがある

「けれ、ど……そう、ねぇ……」

小さく息をつく
本当に、面倒くさい相手だ。勘所もわかっている。
ろくでなし同士、どこか通じるところがあるのだろうか
本当に、腹立たしいことだ……と女は思う

「せめ、て……計画……くら、いは……聞か、せて……ほしい、わ、ね?」

人数もまだ足りていないのでしょう? 女は気だるく、面倒げに口にする

「ただ、の……無、軌道、な……若者……なん、て……こと、は……ない、の、でしょ、う?」

ネームレス >  
「死を感じなきゃ、生きられもしないだろー?
 ……というのもまだわかんないコトかな?」

やれやれ、しょうがないな。
明らかにそう言いたげに、首を横に振ってから肩を落とした。
どうにも面白い伝わり方をする相手だとはわかっているので、
大仰な仕草をするようには初対面の時から気をつけている。

「でも、たぶん。その変化は喜ばしいコトだね」

少しばかり、嬉しそうにする。
どうやら眼の前の相手、死んでいないだけでなく、生きているのかも。
自分より生きる姿を魅せてくれるかもしれない。
重圧のような期待。が、それは次の瞬間に失せた。

「けいかく……?」

言われると、眼を丸く――今度は鳩のように――して、首を傾げた。
無軌道な若者であった。

「当面、に勝つためにキミを磨く。外も中も。
 ボクも仕事が詰まってるくらいだから、マネージャーがやっぱ要るか……?
 あ、城は買ったよ。印税入ったから。地下室あるから音も出せるトコ。
 引き払われてそこそこ経ってるビルだから、内装から整えないと。
 大工にはアテがあるし……?――、いや」

物凄くフワフワしたことを言いながら、ふと思い立ったように、彼女の隣に、
部長の署名は空のまま、申請書の最上部へとスライドされる。

「最初のお仕事がありますよ、部長どの?」

我々には、名前が必要だった。
かつてはこちらに用意があった。しかしもう世界に躍り出ているから。

ご案内:「裏常世渋谷 ????」にネームレスさんが現れました。
シャンティ >  
「………」

死を感じたことは……ない、わけではない。
むしろ、かつては隣り合わせで生きてきたのだし。
それに人の死を無数に読んできた。そこで、死、そのものを感じることはできた。
……そこに、実感があったかどうか……は

「不感、症……なの、よ」

ぽつり、と口にして
相手の思惑までは見えないが、しかしどうせろくなことを考えていないことはわかる

「……本当、めんどう……」

つぶやきかけて

「……あぁ……やっぱ、り……?」

計画などない、とそのようなところか。
わかっていただろうに、と女は思い直す。
本当に、ろくでもない相手だ。

「ん……」

どこか夢想のような……否、実際に夢幻のようなことを口にした相手が
楽しげに端末を操作して見せる

「……私に、やれ、って……?
 アナーマカ……と、でも……つけ、たら……?」

そこまで投げてくるのか、と女は肩を竦める
あの名前は、もう二度と使うことはないだろう。
そして……女には、その名以外につけるべき名はなかった

「……あなた、的、には……アルナ……とか、なん、で、しょう……けれ、ど……ね」

なんにしても部活に付ける名前ではないわね、と女は心で苦笑する

ネームレス >  
本当(ホント)に?」

不感症。
その言葉には、なんとも気安く、視線すら向けずに問うた。
何事にも波立たぬなら、それこそ何も起こらない筈。
自分の勘所くらいわかっているくせに、とでも言いたげだ。

「これから考えてこうってコトさ。
 キミがギリギリまで渋るヤツなのは、よーく知っているから」

綿密なプランよりは、追い詰めたほうがパフォーマンスを発揮すると読んでいる。

「しっかり舗装された、安全な道じゃなきゃ歩けない?」

卑怯な問いかけばかりを繰り返しながら。

「イイんじゃなーい?しっかりキミの遺伝子が刻まれている。
 ボクならそれ(サンスクリット)は選ばないし……
 いまとなっちゃ、キミのほうが無名(ネームレス)、だケド」

なんとも有名になった無名であるがゆえに。
そう笑いながら、どうぞ、と手帳を差し出した。
部活の名前と、部長の署名。
その褐色の指で綴れば、ひとまずの道は定まる。

「あまりよろしくない意味もあるらしいしな?」

無い、のではなく、喚ぶに能わず――喚んではならぬ。
単なる名無しのそれだけでなし、そんな意味を含む言葉だ。
翻ってかつての名とも繋がる、なんともアレ(infamous)な連中、という。
夜に吠えてた連中だ。似合いの屋号とも思う。

「そしたら……」

肩越しに振り返った。音を閉じ込める扉は、あのバロック様式の封印とは似ても似つかぬ。
常世渋谷に造られる最新の劇場は、古色蒼然とは逆の方向を示していた。
だが、その奥には、

「敵の姿を見に行こうか」

――あの公演は、映像に残っていない。
そのため、本来なら観ることのなかった観客の視点。
なにかが終わった夜、一年のねむり、そして幕開け。

シャンティ >  
「……その、話……は……機会が、あれ、ば……ね」

発言に嘘はない
実際に、女には痛覚が存在せず……それゆえに、感じられるものが少ない。
感覚として……ということであればまた、別だが。
それも、この島に来てから会得したものだ

「……本当、ろく、でなし……」

意地の悪い言い方、意地の悪いやり方。
それもよく、こちらをわかっている。

「無名……で、いい……の、だけ、れど……ね」

そうも言っていられないのだろう、きっと
いっそ、スシーラの名前を引っ張り出すべきだろうか
……流石に、裏に広まった名前を出すのは差し支えがあるわね、と女は心でため息をつく

「そう、ね……名無し、なんて……ろく、でなし……だ、もの」

だからこそ、そういう名前がふさわしいのかもしれない
そんな想いがなかったとは言わない

「敵、ねぇ……」

気だるげに、女は呟く
それでも、歩む

「……モハ」

ぽつり、と口にして

ご案内:「裏常世渋谷 ????」からネームレスさんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷 ????」からシャンティさんが去りました。