2025/08/26 のログ
ご案内:「常世渋谷某所」にネームレスさんが現れました。
ご案内:「常世渋谷某所」に鶴博 波都さんが現れました。
■ネームレス >
「必要だから」
彼女の言葉を、その声が甘やかになぞった。
背を曲げて彼女の肩口に顔を埋めるように、耳元に声を吹き込む。
冷たいようで熱い。自我や我執の権化のように、能動と意志が形を成した振動。
「いまはそれでいいケド。
どんな詭弁を弄したところで、それはキミ自身の意志であり判断で決断だ。
鉄道委員会でも警備隊でもなく、個人的な事情になるコトは留意しておいてね。
だれに言われたではなく――キミ個人の決定と扱われる、というコトだ」
ぽん、ぽん、と二度肩を叩いてから。
彼女の膝の上に手を這わせ――
「ボクを突き動かしているのは、根源的な衝動。
理性と道徳の裏側に潜む、その人間の根幹ともいえる餓え。
心に抱いて生まれた、どこかを指している魂の羅針……」
傍目は滑らかな手指、その指先の腹はひどく硬い。
何がしかの酷使にひたすらに磨き込まれ、硬化した皮膚だった。
それが、ずしり、と重くなり、波都の膝に沈む。
スカート越しの太腿と、ネームレスの手の間に、服以外の何者もなかったはずが。
ハードカバーの書物が、手品のように生まれていた。重厚ながら無地の装丁という、奇書だ。
「キミは、じぶんのなかの餓え――……欲望を自覚したとき、
それが満たされる快楽を識ったときに、変わらずにいられるかな。
その仮面を砕くほどの、
百年に一度の恋のような、鮮烈な出逢いだったとしても……」
それほど、自分との遭遇と対話は激しいものだと。
この存在は、自分が辿ってきた道を一例として考え、伝えている。
鶴博波都がどうなるかは誰にもわからない。餓えがあるのかどうかも、まだ。
「――さて」
言うだけいって、ぼすん、とソファに戻る。
■鶴博 波都 >
息を吹き込めばさすがにと嫌がり、跳ねるように半身を翻して距離を取った。
二度肩を叩こうとすれば、もう一方を翻して丁度一歩分の距離が空く。
「……そう言うこ、とにしておきます。」
──つまるところ、膝の上に手を這わせる事は叶わない。
嫌な部分を刺激され、警戒を要する問答となれば安易に身体を許せない。
ハードカバーの書物は、空ぶった手と手から受け取ることとなった。
書物が無ければ、それこそ個人の判断で蹴り返していた事だろう。
もしもの話であり、理性でとどめて蹴り上げることはなかった。
「くどい男は、あんまり好きじゃないです。それに、痴漢も。」
男性と認識した者からの不快感。
はっきりと自分のそれを伝え、立ったまま会話を続ける。
「──はい。」
閑話休題。
本題に入ると察すれば、気を取り直した。
■ネームレス >
「安心して?キミの貞操には、いまのところ興味ないから」
痴漢は事実だけど、と笑ってから。
……表情を険しくて首を傾げる。
「……なんか負け惜しみみたいになっちゃったな、ホントだよ?」
へらへらと自嘲気味に笑って、肩を竦めた。
彼女の意思表示には、なにか嬉しそうにもする。
てっきり――そう、もう少し受動的な態度を取るものだと。
「なにかあった?」
とはいえ、その反応に何かしらの変遷を感じたのも事実。
さして重要ではなく、返答を期していない問いかけのあと、
「それには、この事件における――
ボクの主観から認識した真実が、綴られている。
事実とは、齟齬があるケド、参考程度にはなるだろう。
当然、頭に叩き込んだら、適当に燃やして処分しておいて。
ここにいる間でね。しばらくいていいし、出来ないなら降りてもらう」
事件に関わるための、副読本のようなもの。
なにかあっても責任は取らない、と伝えたうえで。
「……元"方舟"の職員で、指名手配中のテロリスト。
事件の首謀者、クライン――……現在も常世島に潜伏中、と思われる。
表立った容疑としてはふたりの教員への、それぞれ殺人未遂と、
……略取。後者は現在進行系」
焔城という教員が、拉致されたという事件に関与している疑い。
「あの、星骸……未開拓区域に流出した汚染物質の製造と輸送の関係者でもある。
というのは、ニュースでもやってるコトだ。
報道されていないものとしては、第二方舟ってトコで表沙汰にされていない星骸事件が起こってて。
その事件と、キミたちが封鎖してくれた汚染区域の調査に、ボクも関わってるってコト」
ざっくりとしたあらましを説明する。
■鶴博 波都 >
「分かってます。
……興味がないからこそ嫌なんです。」
頬を膨らませて、含んだ息を吐き出す。深呼吸。
興味もないのに消費されることが、不純な様に思えて嫌だった。
「分かりました。5分だけ時間をください。」
頁を捲り、中身を読み進める。
捲るごとに嫌気がさすが、勢いで読み進めた。
普段の調子だったら文字と認識することを拒むような事実。
嫌悪のような内心での感情の高ぶりは、彼に毒されたような感覚。
あくまで個人の感覚である、おそらく。
苛立ちながらも読み進めてしまえば、しまわずに適当な台の上に置く。
燃やす手段は持っていないので、持ち帰らない意思表示だけ示す。
「人為的なもの、と。
───転移荒野なら何が起こってもおかしくないから、疑問には思っていませんでしたけれど……。」
■ネームレス >
「んははは。自我薄ニンゲンが一丁前言うじゃんか」
自己を持ちたがらないくせ、そこに特別な感情の不在を厭う様に、
奇妙な冗談を聞いたように軽く笑った。目は笑っていなかった。
興味や感情があればいい、というわけでもないだろうが。
それこそ、自我や欲望といったものの極致が、前提として置かれていることが、可笑しかった。
とはいえ、集中が始まればそれを妨げることもない。
時折音は挟む、弦の単音を爪弾きながら、張力を調整するつまみを回して調律したり。
ギターそのものを水平にして、底面から頂点へ向かっての角度を確認したりする。
それは耳目に入らぬ、背景で行われていることだ。
「おそらくはな。
事故を起こして何がしかの撹乱を目論んだんだろう。
実際、それでいくらかクラインへの捜査は遅れたはずだ――
決定的な、とまではいかなくとも。
第二方舟で起こった集団液状化は、別人が起こした事故ではあるケド。
そういうことがまた起きかねない物質が取り扱われている……
……ちなみにボクは、汚染物質の核をダウジングしただけ。
トリュフを探査するイヌみたいにな。
荒事はほとんど雇った護衛にやってもらった……問題なく済んだのは、
初動を支えたキミたちに、救助や探査に携わったヒトたちのおかげ」
立ち上がり、置かれた本をつまみ上げる。
中央にすべての家具が集合している広いフロアの、空いている場所に向かって。
本はひとりでに燃えた。黄金の炎に包まれ、瞬く間に火の粉となって燃え落ちる。
跡形もなく。
「強大な力を持った個体を、黒杭と喚ばれる兵器で強制的に液状化した物質。
……星骸。それによる、人類の再定義、強制的な進化。
世界単位の余計なお世話の成れの果てであるのが、
クラインが目論んでいるとされる、唯一絶対の一個体を造り上げて、
人類全体を管理して、大きな脅威に対抗できるようにしましょうって計画……」
世界単位の、霊的事件。
背後に潜んでいるのはそれ。
■鶴博 波都 >
「……自我を律するもののことを、超自我と言うそうです。」
聞きかじった知識をぶつけてから、
自分でもここまで喰って掛かる理由があんまり分からない。
あまり詳しくはないけれど、たぶんこの応答は超自我的ではない。
「私利私欲のために、とても、とても……自分勝手な。」
侮蔑。
保身や私利私欲のために起こされた事実に対して、強く抱いた感情。
「ありがとうございます。
そう聞くと、間違っていなかったと安心できます。」
気を緩ませて、ほんのり笑う。
奇書が燃やされたからか自分の行いが肯定されたからか。
おそらく、両方だと考えた。
「そうですね。とても、とても……穢らわしい。
出来るだなんて、絶対の偶像を降ろせると思ってしまうなんて。」
人類の再定義、強制的な進化。
絶対の個体を造り上げることによる管理。
「……そう思ってしまうのは傲慢でしょうか。」
それが出来ると思うだけの理由があるのだろう。
幼稚だ拙劣だと具体的に断じて罵ることは避けて、抽象的な表現で濁した。
■ネームレス >
「傲慢でありたくないのか?」
ひどくつまらなさそうに、横目でその問いかけを一蹴した。
「そんなことないよ~、とかいう言葉を期待する相手じゃないことはわかってんだろ。
自己の規範も望むところも曖昧な癖して何を他人のやり口にケチつけてんだ、とは思うケド。
ただしいことばに、価値はない。それを言うだけならボクにだってできる。
だれにだってできるコトだ。正しさの奴隷に、ボクは価値を見出さない」
冷蔵庫に足を向けて述べる肩越しからは、刃のような言葉が舞った。
「感じたことを疑うな。穢らわしい。それはどうして?
疑うべきは、明らかにすべきは、自分自身がなぜそう感じたか。言ってみなよ。
自分の価値観において、傲慢なコトを思ったのはどうして?
ボクはキミに刺激を与えることを目的として巻き込んだんだぜ。そう言ったろ……?」
考えろ、見つめろ。自己との対話はすでに始まっている。
アイスキャンディ。こんどはアップルの金色。
「なに味を食べる?自分で選んで。
……まァ実際のトコ、クラインの動機はまだ、判然とはしていない。
恩師の研究が失敗して存在ごと否定されまくって、その報仇のために。
理論の実証と達成そのものが目的だ、とボクは踏んでるケド……
それだって、関係者の証言や物証、感じたコトからの推測に過ぎない。
本人に実際会ってみないコトにはな」
絶対者の降臨は、手段でしかない。
そういう事件かもしれない、と考えている。
「ボクが事件に関与する動機は……いくつかあるケド。
まずもって大きなものは、
世界でひとり、特別に輝く存在がいるとすれば。
クラインが造り出すものよりも、相応しいと感じる存在がいるから」
■鶴博 波都 >
「……それは、鶴博波都を肯定することばです。」
だから、普段から黙っていた。
それこそがただしさであるのだから、
偏った考えなんて抑圧すべきだと。
──ただしさの奴隷に価値はあると、思っている事を除き。
わかりきった問答を、殺陣の様に舞踏み合う。
「なにもいらないです。
穢らわしい。そう表現するのが一番適切だと思ったから。」
見せそうで見せない本心。
喉の渇きに嘘をつき、淡々と答えてかわす。
「それはないと思ったから。
わたしが言うことも道理でないと思ったから。
───わたしの身の上は簡単には話しません。刺激との取引、ですよね?」
仄暗い輝き。
普段の鶴波博都なら決して見せない、勿体ぶった声色と唇。
「ああ、それは同意です。……まだ私の方が上手く出来る。
決して私ではないし、失敗を見ているので私はしませんけれど。」
私の方が潔癖だ。純粋だ。
そう思っていなければ穢らわしいなどは出ない。
「前に、技術と学習の話で少し盛り上がりましたよね。
あれには少し補足があって、それが正しくて純粋だから好きなんです。
ただしく学習して、ただしく動く。そこに偏りはない。
すごくいい子で……気楽です。」
■ネームレス >
「キミの身の上は、ボクにとってはどうでもいいコトだ。
どういうふうに生きてきたかじゃなくて、どう生きているか。
それに、それを訊くならボクも差し出さなきゃいけない……そうだろ?」
肩を竦めた。悪平等、といつかこの少女に言われた。
逆に言えば彼女に差し出されたものは返さなければならない、ということでもある。
たとえそれが押し付けられたもの、選ばされる選択肢であっても。
「キミにとっては、ボクが何者かってのはどうでもよくないコトなのか?
ボクというパーソナリティに、あんまり興味ないんじゃないかと思ってるんだケド」
首を傾いだ。彼女は自分にほとんど問わない。
「……でも、もったいぶられると少し気になる。
手札のままにしといたら無関心だったが、伏せ札はめくりたくなっちゃうな。
交渉のカードに値すると思考したモノ、キミのパーソナリティ、そうたとえば、」
だから、一緒に踊りましょうと。話は続く。
内心の開示を求めていない。刺激――振動を与えること。
常々、一方的に種を植え付けるだけ。
音楽家、芸術家であるがゆえに、だった。
「鶴博波都って本名じゃないよな、とか?」
だから、返答を期待しない問いかけが続く。
アップルのキャンディにかじりついて、テーブルにもたれかかる。
「一国の独裁政治すら短期的にしか効力を発揮してないのが現実だからね。
そーゆー意味でも、新たな世界の実現との世迷言は強硬するしかない。
まずうまくいかないケド……問題は。
クライン、風紀委員会、そして関わってる他のヒトと、ボクで。
それぞれ勝利条件が違うコトなんだよね……」
計画の阻止は前提として、それができればいいって話じゃない、と。
それこそ事件の解決だけを望むなら風紀委員会に任せておけばいいのだ。
「与えられた役割。
推薦された部署。
おすすめされた、肩のラインがセクシーなワンピース。
それらを忠実に実行するための機能として、かな?」
首を傾いで、その言葉の真意を抉ろうとしてみる。
「……己に試練を与え、それを超克する。
学習、思考、研鑽、習得――成長。
他を自分のための養分として定義し、吸収し、理想へと近づくためのプロセス。
万物は等しく無価値、ゆえに自分で価値を定める。
それが、ボクがボク自身に課した規範であり世界観――超自我とでも?」
■鶴博 波都 >
「誰が何者か。それそのものはとても重要な事だと思っています。
個々人の個性や産まれは尊重するものと言うのは、いまのこの島の学則からしても大切なものです。」
「そして……どのような生育や教育を受けて、どのような思想を持っているか。
それから目を背けることは、単なる愚鈍だと思います。人を知らずに教育や配置を施すことは出来ません。
人間が完璧なら、どのみち知らなくて良いと思いますけれど。」
真剣な声色で力説する。
ほんの少し、拘りがあるような振る舞い。
「あー……いえ、それは単純に本名です。」
調子が外れ、話の腰が折れる。
緊張感のない声で補足を入れた。
「確かに、取って付けたような名前ですけれど……。
いや、親が思い込んだ信念で名付けた可能性までは否定しないですが……。
平和のためにと思っていることが強硬的であったりするのは、今まさに直面していますし。」
溜息。
一番近そうな心当たりがあるとすればそこだろうと。
「クラインが不俱戴天であることは、ひとつの体裁として変わらないように思いますけれど。
それと、共感者も……その辺りの込み入った話は、少し難しそうですね。」
それ位は分かるものの、だからこその難しさを抱いて眉を下げた。
さて、服装への見立てを受ければ──
「湖に宙を描くような発想ですけれど……
……そういう考えも出来ますね。自分の無意識までは分からなくて。」
小首を傾げる。
図星と言うには実感がないが、そう言う見方も出来たと納得を見せる。
「ええと、身の上でしたね。
まあ……実は私、ちょっと口には出せなくて、すごく良い所のお嬢様だった、んです。
その国はもう有りませんけれど……ちょっと調子の乗った技術者が独裁者を気取って、そっこー堕ちました。」
かいつまんで話せばそれだけのこと。
けれど、口に出すには憚れる大きな欠点。
「そういう教育を受けていたんです。……腑に落ちました?」
■ネームレス >
「え。ハト……」
首を傾ぐ。
なにせ、ノーフェイスだのネームレスだの、あえてふざけた名前を名乗ってるんだから。
本名を教えたくない、の裏返しではあったのだが――
とってつけたような名前、といわれると、"そうなの"?と首を傾いで。
「……ああ。ハト……Dove。そっち側、ってコトか。
いい名前なんじゃない?ボクは――……」
彼女の言葉に、少し、理解が遅れた。そういう意味か。
それで、少しだけ。
ほんの少しだけ、視線をそらして、何かを考え込む。
だから、続けざまに語られる言葉を、
ただ滔々と受け容れる――羽目になった。
「そうなんだ」
生返事。哀れみも、同情もなかった。ただ。
生い立ちに興味がない、というのはそうらしかった。
「……話せとは言ってないんだケドなぁ」
しかし先手を打たれると、唇を尖らせた。
「ン――……それ、キミが、キミを掴むためのヒントにはなりそう?
"ただしさ"の規範や、人々のあり方が、
故国と常世島では違ってる……から……?」
正しさの奴隷。それが彼女を肯定する言葉であるなら……。
「ところ変われば、正しさも変わるだろう。
別の国に行けば、キミはまたそこの正しさを纏うのか?
それとも――……どうする……?」
かり、と裸になった棒をくわえて、
「不倶戴天の敵と。穢らわしいと思った心に、従ってみる?」
首を傾いでみた。
クラインが気に入らない理由は、なんとなくは見えた。
そして――彼女には。否、あの事件に関わり、巻き込まれた者たちは。
全員が、クラインに物申す資格があるのだから。