2025/09/17 のログ
ご案内:「常世渋谷某所」にネームレスさんが現れました。
ご案内:「常世渋谷某所」に角鹿建悟さんが現れました。
ネームレス >  
残暑厳しい、眩しい正午。

常世渋谷とて全部が全部、日向(ひなた)ではない。
急激に発展進化し、本土の大都市になぞらえた俗称で呼ばわれるこの場所は、
だからこそデッドスペースだったり、日当たりのよろしくない建物が当然生まれる。

そんな場所だった。少し大きめの中層ビル。
その入口横に寄り掛かるのは、日陰にあっても輝くような存在感と、熱を帯びるような生命力。
被ったヘッドフォンで何を聴いているのか、目を瞑って耳を傾けていた――それは。

あなたが近づくと、まるで危機を察知した獣のように。
先んじてヘッドフォンを外し、振り向いた。
学生のひとりが、委員会づてに、仕事の依頼をしたのだ。名指しで。
訪れたあなたを見ると、それは薄っすらと不敵に微笑み
かすかな音量であるのに、あまりに明瞭に聴こえる声で、

はじめまして

と、言った。

「噂はよく聴こえてるよ、角鹿建悟くん……?
 なんでも、"直す"ことにおいては生活委員会でも白眉だそうだね」

ふつうに喋っているだけなのに、どこか芝居がかった所作も変わらない。
人懐こく微笑みながら、右手を差し伸べた。握手。
知り合いであるのに。

角鹿建悟 > 夏は過ぎて本来なら秋の始まり――と、言うにはまだまだ残暑は厳しく長引きそうな、そんなある日の正午過ぎ。

わざわざ名指しで指定されてここに足を運ぶ羽目になった。

「……。」

無言で指定されたその場所に赴く黒い作業着に安全靴の何時もの彼の姿。
やや大きめの中層クラスのビルディング…その入り口横。
そちらに向ける視線は彼の何時も通り、仏頂面に淡々とした銀の双眸。

「…何処かで見た事のある顔の気もするが。」

なんて、その小さいようでやけに明瞭に聞こえる声量とその主に対して一言返す。

「…どうせ大した噂でも無いだろう…それに、勝手に脚色されたり尾ひれが付いた話だ。」

そう口にしつつも、”直す”事に関してだけなら――あぁ、おそらく生活委員会、否――学生全体で見ても上澄みだろう。
それだけの仕事はきちんとこなしているし、誇張でも無く実力派”確か”だ。

握手を求められれば、こちらも緩慢な動作ながら抵抗も無く自然と右手を差し出す。

さて、人を呼び出しておきながら初対面の”ノリ”とはどういう事だろうか、これは。
呼び出された理由も勿論全く分からない…そこまで察しも良くない。

ネームレス >  
しっかりと握手する。互いに違う経緯で硬くなった掌を。
そしてそれがほどけば、長い指でピースをつくって、自分の細顎に沿わせる。

「生活委員のキミにも顔が知れてるなんて、嬉しいね。
 音楽とか芸能には通じてるほう?それとも、指名手配されてたときのハナシかな?」

傲岸不遜な物言いのあと、わざとらしく身体を傾けた。
作業着の肩越し、大きい通りに行き交う人々が、ちらちらと視線を向けてくる。
それを確認すると踵を返し、入口のほうに誘導した。

「事実は事実として受け止めるべきだよ。
 過剰な謙遜は嫌味だぜ。生活基盤(インフラ)整備なんて島民に直結してんだからな。
 ……で、ココはボクが買った物件なんだケドね」

垂直に伸びるビルの外壁を見上げる。
どこにでもありそうなオフィスビルだ。窓の張り紙の類も一切ない。
すっぽりと中身が抜け落ちた、抜け殻のような建物。無地。
 
「見えてるところだけじゃなく、見えないところも直して欲しい。
 築10年でも、人が入ってなかった期間がそこそこあるみたいなんだ。
 壁床天井、階段の具合。それでもって、電気水道ガスに、システムテスラ(インターネット)の整備。
 全体的な点検と、大規模な修繕工事の見積もりをお願いしたくってね……
 今日直せるところは直していってほしいケド」

――修繕の依頼。創造ではなく。

古めかしい自動ドアが左右に開く。
クーラーの冷たい風が吹き抜けて、じめつく暑さを吹き払っていくようだ。
雑居ビルのエントランスらしく、薄暗く殺風景な入り口だ。
停止したエレベーターと、上階と地下階へ向かう階段があるばかり。

角鹿建悟 > どんな経緯かは問題じゃない――握手をすれば”分かる”ものがある。
静かにそれを終えれば、彼女の言い回しに肩を竦めて。

「――俺がそういう方面に詳しいとでも?建築関係なら多少見聞はあるが。」

人は見掛けに寄らないものだが、この男は実際に音楽や芸能には同年代に比べて疎い側だ。
指名手配の事は勿論知っているが――今、目の前に居る事が答えだろう

こちらも、軽く顔を往来の方に向ける…が、直ぐに視線を貴女へと戻して。
既に踵を返して歩き出す彼女に続く形で歩き出し。

「――謙遜も何も、評価が上がろうと”やる事は変わらない”からな。」

嫌味も何も、こちらはただ自分の出来る仕事を愚直にやっているだけだ。
職人気質といえば実際そうで、正直他者の評価にあまり興味や関心が無い。

「……買った…ね。それで――」

言葉を止めてビルを見上げる。既にこの段階で”検分”が始まっている。

「……ここから『見える』範囲で、大まかに修繕が必要な個所は…大雑把に区分して86か所。内、優先的な修繕が必要なのは14か所だな。」

独り言のように呟けば、視線と顔を彼女へと戻す。
修繕――”創造”ではなく。だが、男が実績と経験を積んできたのはまさに”こちら”だ。
古めかしい自動ドアの向こう側――冷たい風が心地よいが、男は直ぐに周囲を見渡す。

「……追加で細かい所を入れて…132か所。優先は45か所って所か。」

まだ、エントランスを見ているだけだがどういう理屈か”全体”を検分しているようだ。


ネームレス >  
背後で閉まる自動ドア。硝子張りだから透けてはいるけれど、
まあ、それくらいなら誰に見せてもいい部分だろう。

「いざ数字に出されると、ちょっとつま先でつつくだけで崩れちゃいそうだな」

異能かなにかか――走査されては洗い出される現状に、
空中を軽く蹴っ飛ばしながら、なにがおかしいのかきゃらきゃらと笑った。

「いったいキミの眼にはどんな世界が視えているんだか……
 その様子だと、直すばっかりじゃなくて解体も得意そうだね。
 場所が場所なら建て替えも検討したんだケド、そこまで長居もしないしな……」

ぐ、と伸びをしてから。
その白い首から、小気味いい音を鳴らして。

「――――ふぅ」

白々しいお芝居はそこまで。

「博物館ぶりか?デミウルゴス」

こっちだ、と手招くように腕を振って、上階への階段を昇り始めた。

角鹿建悟 > 「…ガキの頃からだよ。集中したら物の脆い個所が分かる…異能じみてるけど、正確にはウチの家系に稀に出る遺伝形質の異常らしいが。」

よって、脆い個所を発見したら、そこから”逆算”して損耗度合いなどを大まかに測れる。
最も、”目”だけでは正確に全ての個所の洗い出しは不可能。
単純に、男の経験と場数と――勘によるところが大きい。

「……やろうと思えば出来るが、それは俺の目指す道じゃあないな。」

破壊や解体は簡単だが、直したり創るのは難しい――身に染みているし、ずっとそう思ってる。

「――そうなるな、そっちは相変わらずそうで何より、ネームレス。」

肩を竦めつつ。相変わらず仏頂面は変化しないが、先の時よりは”砕けている”。
彼女の言葉と身振り手振りに頷いて、後に続くとしよう。

ネームレス >  
相変わらず?」

長い髪を揺らして、ぐるん、と振り返った。

「心外だな~~、一年だぜ一年。ボクが変わっていないと見えるなんて。
 日毎、ずいぶん成長したつもりだケド……(ヒト)にはその眼、通じないとかか……?」

あるいは自分がそこまでだったか?
そして嘆かわしげに肩を竦め、更にはがくんと落とした。
ノーフェイスからネームレスへ。それ以上の変化が――あった、筈だと。
そんなことをぶつくさ言いながら、たどり着いた階層は元はオフィスだった広い空間だ。

もともと、所狭しと並んでいたチェアやデスクは、
オフィスワークを行う別の場所に払い下げられている。
そんな広い空間の中心に、ソファと、古めかしいギター。それに、冷蔵庫とテレビ。
ぽつんと置かれているだけだった。ほとんどのスペースを持て余している。

「楽にしててくれ――飲み物のご希望は?
 可能な限り、近いものをセレクトさせてもらおう」

冷蔵庫を開けて、中身を吟味しつつ。

「キミはどーなんだ? まだ落第街で?」

あれから一切連絡を取っていなかった。
次に行くといって、色々渡して――あるいは押し付けていたのだ。

角鹿建悟 > 「…そうか、気を害したなら悪かった。そもそも変化には疎いものでな。」

自分にしろ他人にしろ。この男が鋭いのは仕事に関わる分野くらいで、それ以外は…まぁ何ともだ。
生きる事そのものが不器用で下手な人種は一定数存在するが、男もそんな一人。
ただ、役に立つ技能と異能を持っているから表面上は誤魔化せているに過ぎない。

「――あと、俺の目は物体限定だ。生物の脆い個所なんて見たくもない。」

なんて、補足はしておきつつ。彼女がぶつくさ何か言っているが、男は首を傾げるだけだ。
彼女に比べれば、男には大して変化は無いのだから――本来の”願い”を取り戻したくらいで。

「――お構いなく。そもそも水か茶かコーヒーくらいしか飲まないしな…。」

酒は飲める年齢でもないし、炭酸は飲めるがいまいち口に合わない。
ソファーに腰を下ろしつつ、周囲を見渡すが――落ち着かないのではなく。

「……あっちと…あそこと…いや、直すならこっちを――」

と、また検分を始めている。仕事中毒は相変わらずなのだ。

「……俺か?そうだな。劇的な変化はない…いや、その前に人に面倒を押し付けるな、とは言いたいが。」

他に適任居なかったのか…と、溜息。引き受けはしたがいきなりすぎた。

ネームレス >  
「まァ、そこの価値観とか興味の矛先をコッチに動かせないってのは……
 ボクがまだまだだ、ってコトで甘んじて受け止めておくよ」

お茶。――指が追ったが、一言でteaと評しても色々ある。
シュガーレスかシュガーインか。緑茶かもしれない。
横にはブラックコーヒーがあった。そっちを飲みたかったので、シュガーインの紅茶のボトルを投げた。

「"面倒"?」

ボトルのブラックは飲みやすくすっきりだ。
だから、メーカーで淹れたのより味気ないが、暑いときはこれくらいのほうがいい。
冷蔵庫に腰掛けながら、首を傾いだ。

直すのがか?
 ……もっと面倒なコトで言えば、ボクとの関わりで風紀(けーさつ)に突き上げられなかった?
 とも思うんだケド、そーゆーのはなかったらしいね」

角鹿建悟 > 「……???」

首を傾げつつ、視線は時々周囲に向いて”検分”は続けている。
投げられた紅茶のボトルはノールックでキャッチしつつ。

「どうも……いや、いきなり幾らかの財産とか人材の連絡先を渡されても俺に活用とか出来る訳が無いだろ…。」

財産とやらは手付かずだし、人材も面通しの挨拶はしたがそれっきり。
基本、単独で黙々とするタイプなのもあるし人に頼るのは”下手”だ。これは自覚はある。

紅茶を飲み始めれば、特に表情は変えないまま…少なくとも文句は特に無いようだ。

「…風紀の備品とかも直してるからな。そういう意味では偶に活用はする。」

物体ならほぼ何でも直せる異能だ…そういう意味では男を知る者からは重宝される。
異能を用いない修繕の方も優れているが、良くも悪くもそちらはあまり見向き去れない。

ネームレス >  
「あぁ、アレか。
 そーだろ。コネはともかく、カネは大荷物だからな。
 定期的に使っとかないと、動かすのも手間だからね……」

天井を見る。この物件も、印税収入で購入したものだ。
ミニマリズムでもないが使うべきときに使うことは渋らない。

落第街(あっち)でやりたいことが出来たときに使えよ。
 そのために渡したものだ。それは、出かけて探さなければ見つからないモノでもある。
 ボクはキミが、なぜ直すのかも、なぜ創るのかも知らないケド……」

後者は自分が焚き付けてみたことでもあるが。
脚をぷらぷらと揺らしながら、ボトルキャップを締めて傍らに置く。

「バレてないか、危険性なしと判断されてるか、お目溢ししてもらってるのか。
 まァ、ボクはもう落第街に行くつもりはないから……そっちでなんか不都合があったら言ってくれ。
 ボクなりに便宜は図ろう。なんだかんだ、もう納税してる一島民だし」

さて、とばかりに長い脚を組めば。

「デミウルゴスはともかく。
 角鹿建悟は、直し屋さん。
 だから、ボクからはもう、直すことしか頼めない……だろ?たとえば――」

身体を傾ける。
しなやかなバランス感覚が、のけぞりの姿勢でも問題なく安定する。
ヤジロベエようにふらふらと動きながら、天井を仰ぐ姿勢で。

「この無味乾燥な、カラッポのビルの内装(デザイン)だとか……
 より良く建て替えたりするのも、キミには頼めないんだよな。
 ここは落第街じゃなくて、表舞台だしぃ――」

残念だなぁ、なんて白々しく言うのだ。
ノーフェイスとデミウルゴス、ではなく。境界線を超えれば、ネームレスと角鹿建悟。
夜に吼えるものは、もう部活としては存在していなくて。

角鹿建悟 > 「生活費と修繕に使う工具、後は…あまり無いな。」

趣味らしい趣味がそもそも無い。創作に使う費用は掛かるといえば掛かるが、ジャンクから”作り直す”事も出来る。
そういう意味では、金は必要ではあるがそんなには要らない。

「……まぁ、いざという時の為に使うという感じで貯蓄に回してはいるが。」

少なくとも、今すぐに大金が必要な事も無ければ人材を駆使する事も無く。
『管理』はすれど『活用』はせず、というのが現状である。

「――便宜も何も、表舞台で暮らすんだったら変な足枷になっても悪いだろう。」

生真面目。紅茶をちびちびと飲みながら一息。
危険性があるかどうかは兎も角、”見逃されている”部分は少なからずあろう。
所詮はただの生活委員の一人。大それた事は出来まいと”舐められてる”可能性もあるが。

「…何が言いたいか見えてこないが、表であろうと裏であろうとそこはさして問題じゃないな。」

直すなら直す、創るなら創る。”注文”があるなら内容次第ではあるが受け持つ。
境界線は確かに存在する――だが、そもそも…。

「どちらの”俺”だろうと、仕事を頼まれたら引き受ける。それだけだ。」

内装のセンスとかは流石にあまり無いから、そこは”案”を貰わなければいけないが。

ネームレス >  
「とりあえず、インフラの修繕が最優先で。
 地下にスタジオを作りたいのがそのつぎ。とりあえず即席でもいいから防音工事してほし~。
 歌うにもデカい音出すにも、自室(ウチ)じゃ無理だし、いちいち借りるのもね~」
 
跳ね上がるように、身体を起こす。

「なーんか」

じぃ、と黄金の瞳を細める。

「ピンと来ねーな。 いや、キミに頼む腹も、もちろんあったケド」

安く済ませたい、なんて考える側ではない。

「なんか大人しくなったな、建悟。
 あれから、刺激のない日々を送っていらっしゃいます?」

首を傾いだ。珍しく怪訝な表情。
それでは頼む、と仕事を渡す感じでは、ないようだった。

角鹿建悟 > 「…刺激か…もう収束したのかは分からないが、転移荒野の一角が一時隔離された時は死ぬほど駆り出されていたが。」

逆に言うとそれを除けば、ハードワークだとか派手な事件に巻き込まれてもいないし、何時もと違う現場という事も無く。
そういう意味なら刺激に乏しいと言うならその通り。腕前が落ちているという訳ではないが。

「…別に自分では腑抜けたつもりも無いが、そっちからそう見えると言う事はそうなのかもしれないな。」

そこは素直に認める。刺激が足りない生活…という事は、無味乾燥であり変わり映えしない日々でもあろう。

自分から刺激を呼び込むなんて、そんな大胆で積極的なバカを出来る男でもない。

ネームレス >  
「………………」

暫くその受け答えを見つめていたが。
やがて冷蔵庫の上であぐらを組むと、今度は左右に揺れ始めた。

「うー……ん……そっか……。
 誰しも自然にできるもんだと思ってたケド、そうでもないのか……。
 アイツもそうだし……ああ、ココの部長のコトね。
 いちおう部活所有の部室ってコトになってるんだ」

ちょいちょい、と指先で天井を指差す。

(こっち)で頼むってコトは、もー子供の遊び(ヤンチャ)じゃないから。
 大人の悪ふざけをするにあたって、いまのキミからは無味乾燥なものが出てきちゃいそー」

頬杖をついて、胡乱げに眺めた。

「角鹿建悟の、表での、はじめての創るお仕事……。
 それを任すなら、まず角鹿建悟(キミ)を、ハッキリさせる必要があるかな」

角鹿建悟 > 「…よく分からんが、その誰しも自然に出来る事というのが出来ない人間も居る、という事だろう。」

まぁ、その出来ない人間の一人が自分なのだろうが。そこはまぁ分かる。
部室にしては豪勢…いや、昨今はそうでもないのか?
そっち方面も疎いのかピンと来ないが、まぁそれはともかくとして。

「…前に一回こっぴどく精神的に”圧し折られた”経験があるから…。
何処か及び腰になっているのはあるかもしれない。」

今はあの時に比べたらマシだが、根本的な所は変われてはいないのだろう。
トラウマ、というより…元々抱えてる精神的な在り方の問題に近い。
とはいえ、自分をハッキリさせる必要がある、と言われても首を傾げるしかないが。