2024/06/11 のログ
ご案内:「歓楽街」に五百森 伽怜さんが現れました。
五百森 伽怜 >  
 
常世渋谷で新聞記事を配っていた五百森は、
逃げる人々の合間を縫うように逆走し、
身を隠すように歓楽街のビルの角に陣取っていた。

シャッターを切る。画に映るのは、新人の風紀委員。

――葉薊 証。

風紀を追っかけている五百森だ。名前と顔くらいは覚えている。
しかしその戦い方や異能等については、何の情報もなく。

「――大丈夫ッスよね、きっと」

五百森の、風紀への信頼は厚い。
学園の皆を守る為に、戦ってくれるヒーロー。
そんな彼らだからこそ、ここまで追ってきたし、これからも追っていきたい。


その筈、だった。

五百森 伽怜 >  
怪人と風紀の熾烈な交差は、ほんの一瞬にして。

刹那、五百森はカメラから目を離していた。

彼女の目に映っていたのは、宙吊りの葉薊。
触腕に成すすべもなく、まるで玩具の様に。

――流石に、これはまずいッス!

普段であれば、踏み出せた。

憧れの風紀委員。
弱い自分なんかが働ける場所ではないけれど、

それでも。

そんな彼らの活躍を追いかけてやって来た五百森は、
誰かのピンチに立ち上がれる人間であろうとしていた。いつだって。

『おい、聞いたぜ? お前さ……』

あの日、風紀の人達に助けられたから。

『サキュバスなんだろ……?』

沢山の、呪いの声に抗って。

今も、此処に立っていられるから。

だから、今回だって。

あの人達の背中に少しでも近づけるように。


一歩を踏み出――

五百森 伽怜 >  
――刹那、耳をつんざく騒音に、五百森は思わず息を呑んだ。

足は、いとも容易く歩を止めた。

『――いたいいたいいたいいたいいたい!!!!』

心臓がきゅ、と縮んだ。
いや、そんな表現は生ぬるい。
心臓が握り、潰された。

足は、とっくの昔に竦んで、震えていた。

四肢はまるで、自分の身体の一部ではないようで。

カメラを持つ手に、力が入らない。

「うっ……」

拳を握りしめる。

――動け、動け、動け……!

そうして、思い切り叩く。

――助けなきゃいけないのに。

膝小僧を。何度も。

――何度叩いても、足に力が入らない。

太腿を。力を入れて真っ白になった拳で。

――あんな痛々しい絶叫、生まれて初めて聞いた。

ここで逃げ出すようなことはできない。
もちろん、シャッターを切る気なんてとっくの昔に失せていた。

だが、助けに入ることも、助けを呼ぶことさえも、五百森にはできなかった。

自分のようなちっぽけな存在が介入していい聖域(テリトリー)では、ないと。

五百森 伽怜 >  
 
いや、そんなの言い訳だ。


分かってる。


どうしようもなく、身体が震えているんだ。 
 
 

五百森 伽怜 >  
破壊の連鎖。
具現化する災害。
轟音と共に、周囲のビルが崩れ行く中。
彼女の頭上にあるビルが音を立てて崩れた。

空を、見上げた。

全てが、全てがスローモーションになっていた。

彼女に降り掛かった影は、少女を黒に塗り潰して。

五百森 伽怜 >  
 
 
「――あっ」 
 
 

ご案内:「歓楽街」から五百森 伽怜さんが去りました。