2024/06/10 のログ
ご案内:「落第街大通り」に桜 緋彩さんが現れました。
■桜 緋彩 >
落第街の大通りを同僚の風紀委員と歩く。
治安の悪い地域だが、一応ここも区分上は歓楽街。
警邏をしないと言う訳にはいかない。
「相変わらず敵意が強いところですね……」
とは言え「表」と比べればはるかに荒事の多い地域だ。
ここの警邏を任せられるのは、自分のような荒事に慣れた者たち。
自分とバディを組む同僚も、当然歴戦の風紀委員だ。
道行く人々から向けられる、隠そうともしない敵意を受け流し、怪しいものや人が無いか目を光らせながら歩く。
ご案内:「落第街大通り」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス > 活気はある場所だ。
ざわざわ、がやがやとした雑然とした空気は、表舞台にはそうそうない。
あえて言うなら異邦人街に近い。どちらも、自分たちと違う者たちに対する一定の線がある。
表から流入した「客」ではなく、ここに土着の者たちもまたそうだ。
「どうしてだと思う?」
その、雑踏に響く。
しずかな、中性的な声。
ひとききで性別の判じ難く、柔らかく、軽薄な声は、一瞬だけ、その周囲に静寂をもたらす。
水のひとしずくを落としたようなその空白ののち、すぐにもまた、日々に立ち戻る。
「やほ、風紀委員ちゃんたち。見ないおカオだね」
声の主は、ひらひらと。
大通りに面した、テラス席――と呼べなくもない、店舗の軒先にテーブルを置いただけのスペースにいて、手を振っていた。
相手に既視感を抱かせる、この場に似つかわしくない艶美を伴った、奇怪な存在が、頬杖ついて。
■桜 緋彩 >
どこかで見た事があるような気がする。
最初に抱いた印象はそうだった。
実際どこにでも居そうな印象だ。
多種多様な外見と印象を持つものが多いこの島では特に。
「――そう言うそちらは、どこかで見たような顔ですね」
だからこそ警戒を強めた。
個性的な無個性者の多いこの島では、「どこにでも居そう」など特徴にはなりえない。
だと言うのに、どこかで見たことがあると言う認識を抱いた――抱かされた。
警戒してしかるべき異変である。
同僚もそういう判断に至ったのか、警戒レベルを引き上げた気配がした。
こちらも刀の鍔に親指を掛ける。
■ノーフェイス >
ぴりついた空気に気づくものたちもいた。
気づかずに過ごしているものたちもいる。
「そんなこと言われると、ボクが不実なヤツみたいだな。
キミみたいなかわいい娘、忘れるハズがないんだけど――おっと」
こっちは、気付いたほうだ。
ホールドアップ。白い掌がぐーぱーと開閉される。敵意がないことを示しながら。
どのみち不審人物なのは間違いがなかった。手下の様子はない。単独である。
周囲からは、風紀委員ふたりとは、また違った意味で異物として扱われているような、奇怪な距離感。
そうしている間に、店舗の主人がガラスのポットを、その存在の目の前においた。
水が貼られていて、未生の花が沈められている。
「暑いなかお疲れだろ?日陰で話さないか。
いますぐここでケチャップぶち撒けるよりは、建設的な話ができると思うケドな」
そしてこの存在は、一切に臆した様子を見せていない。
「いまのキミたちから見た落第街が知りたい」
■桜 緋彩 >
同僚からは逡巡している気配がありありと感じられる。
落第街と言う場所、どこかで見たことがあると言う不自然、明らかな不審人物。
この状況を構成する要素のどれを取っても、その誘いに乗ると言う選択肢を取る理由がない。
「――あなたは周囲の警戒を」
だからこそ、同僚にそう伝え、彼に近付いて行った。
腰の刀から左手を外し、椅子を引き、座る。
誘いに乗る理由はないが、敢えて乗る。
別に「落第街で暮らすものにも人権はある」とか「彼らも同じ人だ」とか、そう言った聖人君子のような考えがあってのことではない。
「先ほど言った通りですよ。
相変わらず敵意を隠すことをしないところだなと。
それ以上も以下もありません」
ただ単に、何か起きれば対処すればよいと考えているだけだ。
そして何が起きても対処出来ると言う自信の表れでもある。
■ノーフェイス >
近づけばなおのこと、この場に似つかわしくない身綺麗さだ。
上流のそれ。みずからを磨き込む余裕がある。
もっと奥へ行けば、人間が転がっているのも珍しくないこの場所で。
精巧な――精巧すぎるがゆえ却って違和を抱かせるような顔を向け、芸術を審美するように。
顔立ちから、その首筋、そして。
「フフフ」
その胸元に視線が降りる。嬉しそう。
あっちのコも……なんて、視線をちらりと向けながら。
有り様に、敵意も害意もなかった。
「場慣れしてるね。やっぱりキミのほうが中核か。
敵意――さっき訊いたな。どうしてだと思う?って」
硝子ポットを軽く揺らすと、花が開いていて、ゆっくり染み出した色が混ざる。
それを湯呑み椀へと注ぎ入れ、上品に軽く啜った。湯気が立つ。茶か何かのようだ。
「ふぅ。 敵意の理由。キミはどう考えてる?」
責めたり、詰問したり。なんて様子ではなく。
本当に話の種、くらいの気軽さだ。
■桜 緋彩 >
その視線に少し目を細める。
外見こそこの場に似付かわしくないが、下世話な視線を隠そうともしないその態度は、やはりここのそれだ。
「それはどうも。
――ふむ、どうして、と来ましたか」
足を組んで背もたれに身体を預ける。
優雅にお茶を飲んでいる彼――中性的すぎて彼か彼女かわからないが――をただ見る。
警戒はするが、過剰に大きくは見ない。
必要な量の警戒だけを向ける
「単純に考えれば、邪魔なのでしょう。
生活の邪魔、仕事の邪魔――悪事の邪魔」
ここには二級学生と呼ばれる者たちがいる。
学生、と言う名は付いているものの、その実態は生徒登録をせず規則の外で暮らす者――早い話が不法滞在者だ。
生徒登録をしていても、規則を守らない犯罪者だっている。
だからこそ自分たち風紀委員は彼らの捕縛に追われているのだ。
「ただ仕事をしているだけですので、こちらからすればただの逆恨みではありますが」
■ノーフェイス > 体つきは――女性的ではある。そんなものがあてになる場所ではないだろう。
空気や、視線には、そういう女性のそれと違った艶、下心は確かに覗いている。
「んー」
湯呑みをもちあげて、もうひとくち。
ひとつうなずいた。
すこしだけ、困ったように眉根を寄せて、大通りに横目を向けた。
「実に率直で明快な理解なんだけど、ちょっとウヨキョクセツもあってさ」
続いて目の前に運ばれたのは、何やら香辛料の山が乗せられた料理だ。
湯気と香ばしい匂い。焼いた肉が隠れているらしかった。食事中。
「ボクがここに来たころ、いろんなとこでドカドカ砲弾うちこんでた風紀委員がいてね。
ああ――たぶん主な標的はもちろん、違反生ではあると思うんだけど。
そのときはなんか、どっかの……なんだっけな……なんだかとかいう違反部活とやりあってたらしくて。
相応にいろんなとこで火の手があがった、らしいんだよね」
鉄火だかいう風紀委員と、何かが争っていた、らしい。
別に自分が直接の損害を被ったわけではないので、他人事。
目の前の相手を責めるつもりもない。実際、非などひとつもないのだし。
「"風紀委員は、落第街の敵"――だ、という認識の刷り込みが、
それなりに時間をかけて行われてた、……っぽい。
……しょうじき、過剰だとは思わないか。肌を撫でられたように、総毛立たせてキミを見る敵意は。
まるで怯えた小動物だよ。あっても隠せばいいのにな。あるいは適度に絞るか――いまのキミのように」
フォークとナイフを手に取る。
「食べても?おなかすいちゃった」
■桜 緋彩 >
「あぁ、確か――鉄火の支配者、でしたっけ」
そんな名前で呼ばれている同僚がいた気がする。
彼がここでドンパチやって暴れていたことも、報告書か事件ファイルか何かで読んだ記憶がある。
「しかし、彼が今も風紀委員を続けていると言うことは、風紀はそれを非とは判断しなかった。
そう言うことでしょう」
個人的には色々思うところはある。
しかし、風紀委員が彼を除名しなかったところ見ると、恐らくは彼の暴走等ではなかったのだろう。
風紀全体の意向かどうかはともかく、少なくともそれを命じた者がいる、と踏んでいる。
「そもそも。
法に縛られることを嫌って、自らここに住みついているのです。
であれば、法が牙を向いてくることも理解するべきだ」
風紀委員と言うものは、ただ彼らを弾圧しているわけではない。
法の下に、不法を働くものを捕縛し、可能な限り法の庇護下で生活出来るよう、各人が努力奮闘している――少なくとも自分はそう信じている――のだ。
表の世界になじめない者がいることは理解しているが、そであるならばせめて覚悟を持って法に背くべきだろう。
「確かに彼は過激な手段で出さなくてもいい被害を出したのかもしれません。
風紀が是としたとしても、それを非とするものもいるのでしょう。
しかし、彼がそうせずとも、他の誰かが似た様な事をしたかもしれない。
それは風紀かもしれないし、それ以外の生徒かもしれないし、そのどちらでもないどこかの誰かかもしれない」
食うか食われるか、落第街はそう言う場所のはずだ。
法に縛られないアウトローな場所と言うことは、何時どこでどんな事件に巻き込まれるかもしれない場所だったはずだ。
「そんな場所で生きると決めたのならば、たまたま風紀委員の活動に巻き込まれた程度で敵意をこちらに向けるなど幼稚な真似は出来ないはずだと私は思いますが。
――お好きにどうぞ?」
肩をすくめ、左手で料理を示す。
いちいち許可を取る必要はない、と。
■ノーフェイス >
「そうそれ。ああ――あれが出した被害については、しょうじきどうでもいい。
ボクにとっても邪魔なことではあったケド、すぐ鎮火したし。
……とつぜん饒舌になったな。やっぱりアレ、けっこう特殊なケースか」
すこし意外そうに目をまるくしたあと、おかしそうに笑った。
言葉を尽くさねばならないほどの、非常。ではある。
「風紀があれを非としなかった……組織としてあれが容認されてるってコト?」
すこし興味を惹かれた。
個人――ではなく、組織。上層、あるいは集団の意向であるかのような物言いに、そうなのか、と問いかける。
そこには純然な興味があったようだ。風紀委員会とは――?そんなふうに。
すくなくとも、いち委員の口からそんなことばが出てくるとは思わなかった――
委員会の、意向――放言にも程がある気がするが、それが事実だとするならば。
「そのちゃちな腕章巻くだけで、けっこうな特権が得られるんだな……?
巻き添えでも殺人の容認なんて、ずいぶんじゃないか……?」
すこし眉をひそめて、うなる。
不思議なものである――同じ島民の間でさえ、大きい格差を生むような。
しかし、なればこそ風紀委員に志願する者も、多いということなのか。
そののち、律儀にありがとう、と一言断って、ナイフとフォークで香辛料を横に除ける。
スペアリブだ。豚肉であるらしい。切り分けてみる。
「それなんだよな」
彼女の言葉を、否定はしない。突然滑らかになって面食らってはいるけれども、概ねただしいことは言っている。
「たしかに、自己責任。じぶんで決めたなら、それをまっとうする必要はある。
――責任、せきにんか……さっきまでの話題を考えるとむずがゆい話になるケドな。
風紀委員会の責任問題についてキチンとデキてるかどうかは、キミたちの今後にしっかり期待させてもらうとして。
問題はさ」
切り分けた肉を口に運ぶ。そのため、咀嚼にゆっくりと時間をかけた。
「選んでない奴と、正常な知識や認識を持ってない奴が問題になるだろ」
■桜 緋彩 >
「風紀の一部分を切り取った上での意見としては、非とする部分もあるでしょう。
逆もまた然り、是と判断したものたちもいるでしょう。
ただ風紀全体としての総意と言うことであれば――彼がまだ風紀を続けていられると言うのが、そう言うことではないですか?」
実際上でどういう議論があったのかは知らない。
彼を除名すべきだと言う意見もあったのかもしれない。
落第街の被害など気にしてどうすると言う意見もあったのかもしれない。
その他様々な意見が出たのかもしれない。
ただ事実として彼はまだ風紀委員に所属している。
結果としてはそれが全てだ。
「そうですよ。
この薄っぺらい腕章一つで様々な権利が得られる。
だからこそ、その権利を振りかざすことの意味について常日頃から考えなければいけないと、個人的には思いますが」
つまらなさそうに腕を組む。
他人の権利を奪う権利と言うものは、考え無しに振るって良いものではない、と。
目の前の彼女が語った事件について、個人的には納得していない、と言外に滲ませて。
「知らない、と言うのならば知ればいい。
ここにも一応風紀の詰め所はあります。
正常な判断をするための正しい知識を得られる手段は設けているつもりです。
選べない者たちに対しても、選択肢を選ぶ機会を与える努力はしているつもりです」
知識の無さは言い訳にはならない。
そう言う人のために支援の手段があるのだし、その知識を得るための活動は出来る限りやっている、はずだ。
選べないものに対しても、出来るだけ拾い上げる努力も怠っていない――はずだ。
「――それも、こうもあからさまに敵意を向けられていてはどうにもなりませんがね」
横目でこちらを見ているものへ視線をやる。
路地裏から覗いていた「如何にも」な小さな子供はその視線にびくりと怯み、一度こちらを睨みつけて路地裏に消えて行ってしまった。
■ノーフェイス > 「…………ううん、どうかな。
そとから見てる限りじゃあ、委員会の意向なんてそこには介在してないと思うケド。
なんかこう――なんだろ。"お上の意向だーッ!"てタイプ。あんまり見ないし。
単純に風紀委員が容認してるだけに見える。
それぞれの正義だなんて警察組織にはあってはならない。でも、それが在るということは――」
基本的に、生徒の自主性に任せる――それが公然の実験場としての役割である。
容認しているのは委員会ではなく、周囲だ。
都合のいいように、見えもせぬ天上を解釈するのは、思考停止に思う。
「――どこまでいっても推測になるな。この話はもうよそう。
そーだね。ほかの誰より模範的で、ただしくあるべきだ――でも、まあ、人間だしな……」
彼女がそれをできている側の人間なのかも、いまは判じかねるところ。
それでも、彼女の語る自戒に、ひとつ頷いた。
「…………まっすぐな言葉。
じゃあ、信じさせてみて。風紀委員さん。いまのキミの言葉」
まっすぐに告げた。なにひとつ、みずからの存在を恥じることのない瞳が。
「……………」
そうして、彼女が告げた言葉に、目が細められた。
「努力、か」
苦手な食べ物を飲み込むような、嚥下のあとに。
「あらかじめ言っておくと、ボクはそういう連中のことは……ええと、そうだな。
浮動してる層、プールされてる労働力……のことは、どちらかといえばここには不要だと思ってて。
これはそういう弱者の立場から言うものではない――ってことは念頭においといて」
視線を路地裏にすべらせた。
「知る、という選択肢をそもそも知らない者もいる。
知らない、につけこんで、誤った認識を刷り込まれたものもいる。
風紀につかまったらヒドいことされるぞ!なんて、思い込んでるヤツも多いんじゃないか。
キミがおもうほど、人間――あるいは異世界人のデフォルトにプリセットされてる性能は高くない。
……いや、……大人になっても、そういうのがなかったり。なくなったりしてしまうひともいて。
十年もたてば、そんな場所で生まれる子供もいる――――キミは何歳のときから、自分で選べる人間だった?
うんと小さいころから、決断力のある、つよいこどもだった?」
シンプルな事実の補足だった。
決断してここにいるものだけではない。
――でも、それは事実の補足でしかないから、どうでもよかったらしい。途中で飽きて、少女に話を振った。
「だから、まぁ。 なんだろう――キミたちの敵は、落第街じゃなくて。
もっとなんか、小さい単位なんじゃないかな、とは思うんだケドな……」
どことどこが敵同士、って話に、どうしてもなってしまう気がして。
なんだかすこし、さみしい気もしたのだけど。
「いまの子は、……知り合い?」
と、すこしだけ、なにかがずれたようなことを問うた。逃げ去っていく小さい背中を、負いもしない。
■桜 緋彩 >
「それこそ買いかぶりですよ。
風紀委員会にも上層部はありますし、そもそもその上に生徒会がありますので」
自主性に任せる、とは言え上下が無ければ組織として成り立たない。
そしてある程度現場の裁量は与えられているものの、結局最終的なかじ取りをするのは上なのだから。
「存じていますよ――いえ、ここは存じているつもり、と言った方が良いでしょうか」
知っている。
何も知らない者がいることを、知ることが出来ない者がいることを、だから薄暗いところで生きていかねばならない者がいることを。
少なくとも、そう言う者がいると言うことは知っているつもりだ。
「だから我々も努力せねばならないと思っています。
最初から出来た事など何もないし、最初から知っていた事など何もありません。
だから努力をするのです。
知らない者に知る機会を与え、間違った認識を正し、選べない者に救いの手を差し伸べる。
そのための努力を怠っているつもりはありませんよ」
他人に努力を願うなら自分も努力をする。
自分に出来るのはただそれだけの話だ、と。
「私が風紀を目指した時から私の敵は変わりません。
法を犯し、生徒の安寧を脅かし、自分のために他人を喰らう犯罪者です」
落第街だからとか生徒だからとか関係なく。
ただ法の執行者であると告げる。
「いえ、知らない子ですね。
名前も顔も知りませんよ」
ああいう子がここには沢山いるのだろうな、と、少しだけ眉を顰める。