2024/06/11 のログ
ノーフェイス >  
「キミの言葉に、嘘偽りはないんだろうとは思ってる」

ぎ、と椅子に背を預けて、少女が去っていった場所を見た。
もう、追いかけられるまい。地理を知る、ここに住まうもの。

「そうなんだ」

まあそうだろうな、という感慨で、彼女の言葉にうなずいた。
ともだち、という風情ではなかったから。

「じゃあ、まだ知れた(・・・)んじゃないか」

ぼんやりと、そこを見つめながら。ただ、なんとなく、ふと浮かんだ疑問を口にしたように。

「それとも……あれは、生意気にも人間に牙を剥く野良犬でしなかった?
 努力は、いいの? 風紀委員さん」

あれは――知ってのうえで、そうしているものかもしれなければ、選べないものだったかもしれない。
なんなのか、わからない。少なくとも、そう話を振ったものとしても。
あの少女がなんだったのか、理解はできていないから――だって、知らないのだ。
差し伸べた救いの手を噛まれるリスクがあって、保護してどれほどのリターンがあろう。
そうかんがえたうえで、なぜ、と問うた。
その彼女の言葉が、事実であれば。なぜ、あの小さな少女は、いま選ばれなかった(・・・・・・・)のかと。

ひどくやわらかく、そんな世間話のような調子で。
ただ、ぬめった風が吹く路地裏を、ぼんやりと眺めていた。

桜 緋彩 >  
「野犬を捕まえて躾けるようなやり方で上手くいくならば、そうしてもいいのですが」

あの子は明らかにこちらに敵意を向けていた。
それを追いかけて無理矢理捕まえて表の世界に引きずり出して、それで幸せハッピーエンド、と言うわけではない。
少なくとも今よりマシにはなるだろうが、それだけだ。

「それこそむこうで暮らしている生徒を無理矢理こちらに連れて来て、こちらのルールに従わせるのと変わりませんよ。
 彼らには選んでもらわなければならない。
 彼らに選ばれる努力とは、そう言うことではないでしょう」

あの子は選んでここにいるのだ。
拙い知識で、偏った思想で、正常とは言い難い認識で、それでも選んでここにいる。
その上で彼らに選んでもらうには、

「まずは信用していただかなければならない。
 ――信用していただかないと、いけないのですがね」

目を向けなくてもわかる、周囲から突き刺さる敵意や悪意。
この様子では、しばらくは無理だろう。

ノーフェイス > わからない(・・・・・)

断じる。

「ボクは、あのコがなんでここにいるかもしらないから。
 なまえも、こえも……なんでココにいるかだってそもそも知らない。
 風紀委員の腕章、キミ個人への、なんらかの恨みがあるのかも――
 ボクは彼ら(・・)の話なんてしてない。ボクはあのコ(・・・)の話をしてる。まちがうなよ」

肩を竦めた。

「たすけてくれという言葉すら知らないひとだっているから」

これは、あのコがそうだというわけではなくて。

「彼女がどうだったかなんて、わからない(・・・・・)けど」

どうして、そういう想定がなされぬのだ、という話だった。

「ただ、それなら。あのコがなんなのか、ってことは、いますぐ(・・・・)にだって知れたはずだ。
 一回でうまくやらなくったって、いいだろう。努力とは、そういうものじゃないか……?
 目的に対する、試行錯誤のはずだ。それそのものに意味がないはずだ。
 成されたかどうかでしか、物事は計れないじゃないか。
 たったひとり。あんなちいさないのちさえ、みずから知ろうとしないままで。
 彼ら、というおおきな単位に、なにかをはたらきかけることが、できるのかな……」

それは、単に。実現性(・・・)の話。
もし、少女の語る努力の先を、いかに実現するかと考えたら。
それが成されるとは、いまの状況では、おもいつかなかったのだった。
この存在は、まじめに考えていた。

「もっと、ちいさい話だろう。 キミという風紀委員と、あのコの。ふたりのにんげんの話だ」

成されたのは、そんなものでしかないと思う。
あの少女が、何だったのか――わからない。わからないのだ。だって、知り合いですらないのだから。

「――まあ、ボクには。野良犬に見えたけれどね。噛みつく勇気くらいは、見せて欲しかったもんだ」

そして、どこに価値を見るかは、人それぞれ。
助ける義務(・・)を負わぬものは、ただみずからの意志で取捨選択をする。

「これはすこし興味本位になるんだが、きいてもイイ?
 ボクがキミにたずねっぱなしだから、キミからのこともなんでも応えるけど」 

桜 緋彩 >  
「なるほど、一理ありますね」

確かに、可能性の話をするならば、そう言う可能性は十分にありうる。
あの敵意に込められていたのは「何故助けてくれないのか」と言う理不尽さを嘆いたものだったかもしれない。
そうじゃないかもしれないし、また別の理由かもしれない。

「であれば、あなたがそうすればよろしいのでは?」

だとしても、それを風紀委員だけに押し付ける理由にはならないはずだ。
助けてくれと言えないのであればそれを教えればいい。
助けを求める先がわからないのなら、風紀に頼れと教えればいい。
それは風紀にだけ認められた権利ではないのだから。

風紀委員(我々)を糾弾するために他者を利用するのはやめた方がよいかと思いますが?」

今この時、助けられるかもしれない一人を助けられるのならば助けたいとは思う。
だがその時間を、これから先助けられるかもしれない十人に使えるのならば、自分は同じ時間をそちらに使う。
一人を取るか十人を取るか、それだけの話。

「どうぞ、私に答えられる範囲であれば答えましょう。
 こちらからは、そうですね――一応、お名前をお伺いしておきましょうか」

ノーフェイス >  
「……なんで?」

ふしぎそうに、そちらに顔をむけた。

「ボクは、あのコがどうなろうがどうでもいい(・・・・・・)んだ。
 彼ら(・・)とやらに努力をしている、というキミが。いまあのコがどうなのかと知ろうとしなかった。
 いつ、誰がここに爆撃をるかわからない――いつか(・・・)も、()も、ないかもしれないのに。
 さっきの話を、忘れたわけじゃないだろ。それに対してボクは、なぜ――と問うていただけだよ。
 キミを知る(・・)ために」

はじめから、興味など、目の前の少女にしかなかった。
先んじて言っていた。選んだものたちは問題でなく、選ばなかったものは不要物でしかないと。
あの子供は、いち個人であり、人生のある命ではあっても、他人だ――なにひとつ義務も私的な感情も負わぬ相手。
この存在は風紀委員ではないがゆえに。

「だいじなのは、なぜ……その判断を選択して下したのかということ。
 それに対してキミのいう、努力――彼らへ求めることに対して、思ったことを訊いていた。
 そうしたほうがより実現性があるんじゃないか、って話だ。
 ひとつひとつゴミ拾ってちゃ、きりがない(・・・・・)――それは確かにそうだけど、それを、軽視していいものかって。
 ボクは考えた。だから訊いたんだ。どーなんだ?ってさ」

くっくっ、と肩を震わせた。やさしい人間だと、思われていたらしい。
少女が助かろうが、死のうが。どうでもいい――多くの者にとっては、そういうスタンスだ。
どうでもよくないのは、彼女の身内と――救う義務があるものたちだけではないのか。
この存在はずっと、桜緋彩としか話していなかった。
悪意も、害意もなかった。あったのは、思考、疑問、興味。

「選択して、決めて。筋道が通ってりゃ、ボクからなんもいうことはないさ。
 ただ、そうなんだ――と納得するには大事なピースが足りてなかった。そういうハナシ。
 理想とすべき目標に対して、実現と証明をどのように実行するかだろう。
 概ね――そうだね、"非効率ゆえ、収支に見合わず"、かな……? ……ボクから見た限りでは。
 それに、さっきもキミが言ったな。行為のベクトルとしては逆になるが。
 あの鉄火の支配者がやらずとも、他の誰かが。あれは、そのとおりだと思う。
 ……まあ、それでイイな。あのいのちに、価値を見出すものがいるかでしかない」

ひとり。
去ったひとりの命の、その選択の理由。どうにかしたい、があっても――そうするのは。
もしかしたら、追いかけた先で刺されるかもしれない。もっと非道いことがなされるかもしれない。
やむを得ずが起こる可能性のほうが、高いだろう。
それでもいま、目の前にいた少女は、そこで息をして、鼓動を打っていた。
自分とおなじ@推定21g(グラム)の質量が宿った存在を、認識していただけだ。
無感動に。命など、そこらへんにもいくらでもいるのだ。自分と目の前の少女を含め、同質にて、同価でなく。

「ん」

なまえ。問われると、すこしかんがえてから。

「――風紀委員会、っていうか委員会っていうシステムがインターンシップみたいなもんだって聞いてるケド。
 まあ要するに、業務(しごと)なんだよな。
 キミがいまやってることが、人生において、どれくらい――何番目くらいにたいせつなコトかな、ってのが疑問。
 これは、だからどう、ってわけじゃない。何番目なのか――そして、一番じゃないなら一番も、知れるなら?」

それ以上の、大切なことの有無。そして、息を吸って。

「ノーフェイス」

お騒がせ(・・・・)の。未知数の。不明点ばかりの。

桜 緋彩 >  
「あぁ、なるほど、そういう」

最初から自分一人しか見ていなかったらしい。
風紀も落第街もどうでもよくて、自分と言う個人一人を知りたかっただけと言う。

「まぁ、そうですね。
 人の命を収支と言ってしまうのは些か乱暴かとは思いますが、結局意味するところは同じでしょう。
 「他の誰か」に期待するのは、まぁ風紀委員(正義の味方)としては褒められた態度ではないでしょう。
 しかし同時に風紀委員(組織の人間)としては、それが限界とも思います」

自分が動かなければ解決しないことはあるだろう。
けれどそこで自分が動けば新たな問題が出てくることもまたあるだろう。
それを天秤にかけて、より多くの人を救う選択肢を――言ってしまえば効率的な選択肢を取るしかない。
皮肉ですね、と肩をすくめて。

「ふむ。
 私にとってこの仕事が大切と言うことはあまりないですね。
 やりがいがあるとは思っていますが。
 どちらかと言えばやれるからやっている、に近いでしょうか。
 一番大事なことは、剣でしょうか」

なにかやりたいことがからやっているわけではない。
自分の剣の腕を一番活かせ、同時に修行にもなると思っているから選んだだけだ。
人の助けになりたいと言う気持ちがないでもないが、「一番」にあるのは常に剣の事。

「――あぁ、あなたがノーフェイスどのですか」

思わぬ名前が出てきた。
傍らの同僚が思わず戦闘態勢に入るが、それを止める。
報告書通りなら、ここでやり合ってもろくなことにはならない。

ノーフェイス >  
「………………」

すこしだけ目を丸くして、両手の指と指をそれぞれくっつけた。

「もしかして、キゲン悪くさせてた?」

首を傾いだ。

「責めるつもりや、糾弾のつもりはなかった。そうとられたなら、もし痛むものもあったなら、ごめん。
 あらかじめボクのスタンスを明確にしてたつもりだったが、足らなかったと思う。
 他人へのスタンス――ボクがね、重視してるのは、それ(・・)なの。実現し、証明するコト。
 キミがもし、やろう(・・・)……ってんなら、じゃあどうやって、って感じで」

茶椀を啜り、喉を潤す。

「にんげんひとりにできることなんて、ほとんどない。
 ぜんぶうまくできる人間も……いない。
 限界、限界か――――そうだな……、それを……」

すこし、考えながら。彼女の言葉をきいて。ふうん、とまずは。
彼女が正直に語ってくれたことにたいして、興味深そうにうなる。
視線は、さきほどかけられた鍔元に視線が動いた。
すぐにっ、と吹き出してしまう。

「フフフっ……ボクには、腕章(それ)も学生証もないよ。
 ノーフェイス、でいい。これでキミは、ボクにひとつくわしくなってくれたな……」

どの――なんか、日本語を学ぶうえで思ったが、古風な、他人への敬称だ。
彼女が語った"敵"の像に、いくらか重なるものでもあるのに。

おりこう(・・・・)

隙だらけ。ゆるりと、同僚のほうにも目をむけた。
殺意も、敵意も、なにもない。

「それに、生活の邪魔――は、心象も悪い(・・・・・)
 ことと次第によっては、べつに手首を差し出してもよかったケドな。
 ボクも、隣人ではいたいんだ。悪いケド、ここではおさえて……」

顔は立てたいんだけどな、と。
彼女のためを思わばこそ、自分も応じることはなかった。
ここには店舗なり、生活があり、ことを荒立てれば妨げとなる――公務でも。

「剣、か。ありがと。
 ……ていうか、話してくれてよかったの?
 ……ボクは、武……ってのははぜんぜんわかんないんだケド」

しかし、近接戦闘者複数と対しても――傷は負わずに。

「……いちばんつよくなりたい(・・・・・・・・・・・)?」

自分なりに考えて、どういうことか、問うてみる。
最近とある少年が目指していた理想(・・)――まずは、そこからのアプローチ。

桜 緋彩 >  
「いえ、少々発言の意図を読み取りにくかったもので
 お気になさらず、私の態度も似た様なものでしょうから」

そう言えば最初からそう言っていたことを思いだした。
彼が落第街の住人だと言うことで、あまり信用をしていなかった、と言うのもある。
言っていることの意味がいまいちよくわからないが、まぁこんなところだ。
あまり深く考えることもない。

「ここでノーフェイスどの相手に剣を抜いても碌なことにはならなさそうなので。
 まぁ負けるつもりはありませんが――ここの住人の信用は得られないでしょう」

口調や態度こそ変えないが、内心冷や汗をかいている。
落第街に置いて最警戒すべき対象として、嫌と言うほど教わっている。
口では負けるつもりはないとは言ったが、正直それも怪しい。

「――少し、違いますね。
 勿論強くなれるに越したことはないですが、それよりも」

刀の柄頭に左手を置く。
少し弱気になってしまった心を落ち着けるためと、

「私は私がどこまで強くなれるか。
 桜華刻閃流(我が流派)がどこまで剣を高められるかを、確かめたい」

かつてこの刀に誓った初心を忘れぬために。

ノーフェイス > 「ボクは女の子の態度には基本的に甘々だぜ」

肩を竦めて、笑った。まじめな話――だった。
風体を取り戻して、卓の下で足を組んだ。

「勝ち筋は見えてるのか――? ボクの手札をわかったうえで?
 つよがりだな……フフ。ちなみにボクには見えない。
 つよそーだから抜かれたらどうしようかと思ってたな」

道化者のような所作。負けるつもりはない――その言葉の、実現性。
問いながらも、言っていることは本当だ。そのうえで、一切臆さないだけだ。
自負。あるいは、強がり。背中は見えない。冷や汗かいてるのかも。
演者(パフォーマー)だ。

「まだ、お互いなにも知らないしな―――なまえもきいてなかった。ええと?
 警察手帳(バッヂ)、……じゃないか、風紀だと、なんだっけ――いいか。拝覧させてもらっても?」

警察だ、なんて手帳と身分証明を見せるのが、ともすればお約束である。
見せればへりくだる、ふるいドラマで見た――印籠(インロー)だかいうのにはあまりに遠いものなのも、事実。
扱うべきものが扱わなければならないもの。

「…………」

かけられた言葉を、脚をゆらと動かしながらうなずくと。

「とても明瞭だ。てっきり――そうだね、風紀委員会のほうが本筋(・・)だと思ってた。
 いちばん大事なこと、正義や法の執行かと――、ボクのピントがずれてたな。
 ――技術(わざ)のほう?じぶんで編み出した。あるいは、もらった……いや、継いだ、が正しいのかな?」

ふむ……、と考え込む。ほんとうに、武術、その色合いに理解が及ばぬかたち。

「……確かめる。 
 生涯を賭した、存在証明(・・・・)……。
 風紀委員会に入ったのは、もしかして、それも兼ねて?」

興味があるらしい。
わかりやすくまっすぐな熱に、惹かれやすい。

桜 緋彩 >  
「私がノーフェイスどのが思うよりも強者なのかもしれません。
 あるいはただの強がりかも」

少なくとも、戦闘が避けられないならただで負けるつもりはない。
周りに人がいないなら、試してみたかったけれど。

「あぁ、これは失礼。
 桜緋彩と申します」

風紀委員を示す身分証を示しながら。
流石に渡すことはしないが、確認するには充分だろう。

「歴史の浅い現代剣術ですが、まぁそれなりには継いでおります。
 そうですね、存在証明(そう)言い換えてもいいでしょう。
 風紀に入ったのも、お察しの通りです」

存在証明、なるほどそう言われればそうだ。
最強よりもそれに至る道の方を重視する。

ノーフェイス > 「実はあんまりされたことないんだよね。こういうのみせてもらうの。
 ドラマで、よくある"警察です"って――ありがとう。緋彩。あざやかななまえだ。
 いつまでも風紀委員(ポーポ)ちゃんじゃ、ね……」

西洋人、ではあるからか。基本的には、呼び捨てだ。

「暴力、殺人で得られる結果や名声に、ボクはあまり――興味がない。
 この落第街、という社会単位なら、権威のひとつではあるケドね。
 なにかの手段に用いることはあまり気がすすまなくて。
 ボクの勝利条件は、基本的には無事に切り抜けるコト――になる。
 風紀委員に(・・・・・)仕掛けられたら、ね」

戦う、という点にあたって。
たとえば、戦士――それに誇り、一定のルールや何かを視るものならば。
決着をつける、というひとつの儀礼が存在する。

「自己研鑽の場ってコトか」

そのなかで、なるべく正義、善の実行――社会に属するものとしての責務を遂行する。

「ああなるほど、どうりで。
 けっこう、古い歴史があると、その源流を追いかけて、再現する、
 ……という活動(ムーヴメント)になってるイメージなんだけど。
 新しいってコトは、キミが最先端を歩いてる?
 要するに、キミだって、キミの技がどこまで行けるかを知らない……開拓(・・)か、登山(・・)
 技術の練磨を、方法論として――、」

なんとなく、近いイメージのものを思い浮かべてみる。

「最果ての景色がみたい、というよりは、自分が最後に刻んだ足跡がどこまで到達したかの」

研ぐような生き方。
と考えると、だいぶ理解できた。そこで、

「……ボクと戦いたかったりする?」

要するに、自分という存在――性能は。
それに使えそう(・・・・)なのか、と問いかけた。
頬杖をついたまま、まっすぐに。強い――とされる犯罪者が。
誘いをかける、というのではなかった。これもまた、純粋な疑問。

桜 緋彩 >  
彼が名前を確認したなら、身分証をしまう。

「あぁ、つまりあなたは――興味のあるものに興味がある、と」

当たり前のことを言っているようだが、そう言うのが一番近い気がする。
富や名声のようなある種固定された概念ではなく、自分の中にないとか、理解できないとか。
そう言うものを理解ししたい――つまりその時々で興味があるものにしか興味が無いような。
だとすれば、あまりにも厄介だ。

「そうですね、最先端かどうかはあまり関係が無いかと。
 どちらかと言えば、流派の者一人一人が各々の剣を探すような流派です。
 なので一門と言うよりは、剣術家の寄り合い所、と言った方がいいでしょう。
 そこは新しいか古いかではなく、そう言う流派と言うことです」

一門の技は三つのみ。
型はなく、ひたすら実践稽古で技術を磨く。
そもそも異端すぎる剣が桜華刻閃流だ。

「――。
 とりあえず、風紀の立場やノーフェイスどのが捕縛対象だと言うこと、諸々を考えずに答えれば。
 是が非でも、と答えましょう」

初めて見せる笑顔。
獣のような、新しいオモチャを見付けた子供のような。
無邪気さと獰猛さが同居した様な笑みを、隠しきれずに覗かせる。

ノーフェイス >  
「いい音を生むために、かな」

と、微笑んだ。
彼女の言葉は肯定の意を示すものの、そうなるには目的意識がある。

「ボクは音楽家(ミュージシャン)だから。
 識らないものを混沌(うちがわ)に取り込んで、秩序(かたち)を与えてこの世界に解き放つ。
 この街にしかないものは多くある。とうぜん、この街の外にしかないものも。

 成長とは、いまあるものに積むのではなく、在るべきかたちに……目指す?戻る?というのかな。
 ……なんだろうな、ともかく――
 自分以外の、他人や、もの、できごとは――なにかしらの、自分の断片をもっていることがある、って考えてて。
 それに惹きつけられる。なんとなくの"好き"と、"嫌い"――それはその兆候(サイン)なんじゃないか、と。
 それを集めて、実現すべき理想(じぶん)に至るための、在るべき自分に還るための――証明行為。
 ……そうやって、生きてきたし、いまも生きてる」

言語化が難しいな、と視線を泳がせながら。
努力を重ねる、努力しかない人生。茶で潤し、乾きを干す。

「魂の羅針(コンパス)がそこを示している」

自分なりの、哲学(いきかた)――抽象的な物言いは、直感的な部分も多く含むから。

「ことばより、歌をきいてもらったほうがはやいかもしれないケド」

さすがに、自分の楽曲の良さなんて、口では語れないけれど。
自分がどういう人間かは、しっかりそこにおいてきている。

「うーん……なるほど、ね?」

正道も異端も、よくはわからなかったが。
とかく、新しく――そして、質実だ。ロマンチシズムというよりは。

「技術の完成とかそういうんじゃなくて、自分を高めて至ることそのもの?
 それがキミの流派の特色か。実践的な感じだね。剣の技、戦の技……奥が深いな、ケンジュツ。
 なんかこう、技術交流というか……研究、研鑽なんだな。
 ……いまの時代、武術が必須になることは、あまりないもんな。戦争も終わって…。
 いや、単に、こういう時代で新しいものを作ってるってのが、スゴいって思ったんだけどね」

そこで。
見せてくれたほほえみに、こちらも――笑い返す。
ごく自然な、表情。――さっきまでの演技がかったものとは違う。
生の、感情。微笑みだった。

「そっちの緋彩のほうが、スキだな。どきどきする……キミのうちがわにふれているみたい」

頬杖を深く。血の色の髪が、白い腕に流れた。

「……風紀委員のキミとは戦えない――キミの人生にとってのいちばんではないから。
 剣士として(いま)のキミには、興味がある。
 ただし、どっちが強いか――ってんじゃなくて」

ぐっ、と伸びをした。深呼吸。けっこう話した。

「キミが、ボクをまえにして何を起こせる(・・・・)のか。
 ボクが、キミとかかわって何を起こせる(・・・・)のか。
 その検証実験(・・・・)には、条件次第で付き合える」

強くなるため、研ぐように生きている少女に対して。
その存在証明に、興味をそそられた。
こちらは――しずかに。戦いへの興味ではなく。彼女自身の、興味。
存在証明に、そそられる。

桜 緋彩 >  
「はぁ。
 ミュージシャン」

ぽかんとした様な顔。
なんだかよくわからないが、芸術家と言うものはそう言うものなのかもしれない。

「生憎ですが、どうも剣以外のものには疎いもので。
 聞いてもわからないかもしれません」

とにかく、今はそれはどうでもいい。
今自分の興味を引くのは、

「ノーフェイスどのと立ち会って、お互いに何が変わるのかはわかりませんが。
 桜華刻閃流、桜緋彩の剣をご覧に入れることは、お約束いたしますよ」

そうして立ち上がる。
少し時間を使い過ぎた。
同僚もなんだか不安そうな顔をしているし、そろそろ風紀の仕事に戻らねば。

「次はこの赤い外套は置いて参りましょう。
 その時また声をおかけください。
 条件とやらはまぁ、取り返しのつかない事以外でしたら、どうとでもなるでしょう。
 今日はこれで失礼いたします」

一礼して歩き出す。
青い顔をした同僚が「ヤバい奴に目付けられましたよ」とかなんとか言っているが、むしろ望むところだ。
立ち会えるのなら、それでいい。

ご案内:「落第街大通り」から桜 緋彩さんが去りました。
ノーフェイス > 「……………」

がんばって剣術のことを理解しようとしてはいたので、ちょっと悲しくなった。
あからさまそういう顔を浮かべながらも、震わせ(・・・)られなかったのなら仕方がない。
自分の不足。

「ボクと緋彩(キミ)が、もっと仲良くなってから、ね」

まずさいしょの、前提条件。
苦笑した。焦らすような物言いになってしまうけれど。
命を賭けるなら、いくらか自分からも、特別な感情はもっておきたい。

剣士(すはだ)のキミと会えたときに、それはまた――
 ――おつかれさまであります、風紀委員(ポーポ)"どの"」

ひらひらと手を振った。
純粋な熱意、ベクトル。風紀委員という面にかくれていた獰猛なかたち。

「いやでも……、おっきかったな……ごちそーさま」

だいぶ気になって、しょうがなかった。目の保養になっていた。
その背にそう笑いながら、自分も立ち上がる。腹も膨れた。
生きなければ。

ご案内:「落第街大通り」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「落第街 建設放棄地ビル群」に橘壱さんが現れました。
橘壱 >  
夜空が赤く、明るく燃え上がる。
轟音が大気を揺らし、爆炎がビル群を燃え上がらせる。
落第街に出現した公安のとある職員曰く「SS級の怪異」とやらの探索と捜索。
風紀委員としての仕事もそうだが、個人的に強者との闘争を望む故の行動だ。
このAF(ツバサ)を羽ばたかせるのには十二分な相手のはずだ。
そう思い、隈なく飛び回っていたが思わぬ標的に出会ってしまった。
違反組織の非合法な無人兵器輸入。居合わせたのは本当に偶然だ。
現場判断にはなるが、違反生徒を抑えて兵器の破壊に成功した。

『まぁ、そこそこ楽しめたな。』

前菜としては悪くはない。少年、橘壱の身を包む鋼鉄の兵器AF(アサルトフレーム)
明るく燃え広がる夜空に一筋の光として舞い上がり、砕けたコンクリートの上に着地する。
瓦礫が舞い上がり、バーニアの熱が熱風を巻き上げる。フレーム全身から白煙を排熱し、青白いモノアイが光り輝いた。
作戦終了(コンプリート)。急なことで連絡は遅れたが、上空から風紀のヘリがライトを点滅させている。
怪我人は出たが誰一人死者は出していない。違反生徒(のしたやつら)と兵器の後始末は彼等に任せるとしよう。

『両肩兵装、EMP(パルス)ライフルのエネルギーは…65%か……。
 まぁ、ジェネレーターの回復分で賄えるか。引き続き、巡回任務に戻るとしよう。』

燃え盛る炎に振り返ることなく、地面を滑走する。
ヘリから降り注ぐ消化液で、この夜中の夜明けは再び夜の帳に包まれる事となった。

橘壱 >  
鉄仮面の奥、複合モニターには様々な情報が映し出されていっる。
現在のAFの状況、周辺状況を確認するレーダー。
そして、噂の怪異と追うべき犯罪者の数々のデータ。
勿論そこには、今話題の連中もわんさかいる。
正直、手応えとしてさっきの連中は悪くなかった。
だが、今追ってる奴らは恐らくこんなものではないだろう。
こんな余力を残してもらえるはずもない。奴らはどんな闘争(たたかい)を自分にもたらしてくれるのか。

触手怪人(テンタクロウ)にSS級怪異……心が踊るな。』

このAF(ツバサ)を一体何処まで羽ばたかせてくれるのか。
考えるだけで口元が緩むほどに高揚してくる。非常に高い期待値だ。
精々、肩透かしだけはさせないでほしい。そう考えていた矢先、レーダーからピピッ、と音がなる。
ビル群を抜ける手前。鉄筋だらけの建設放棄された建物群の付近だ。

『生体反応か……。』

それ自体は珍しいことじゃない。この落第街(ふきだまり)にも人はいる。
だが、如何せん反応が弱々しい。此処の連中がどうなろうと、自分の知るところではない。

『…………。』

だが、気づけばその体は、鉄の鎧はその方向へと舵を切った。
装甲の隙間、サブバーニアを一瞬加速させる急回転(クイックターン)
生体反応の場所、建設放棄されたビルの裏側。夜のさらなる暗がりに倒れている女性。
夜間でも鮮明に景色を映し出すカメラのおかげでよく分かる。

『……"酷い暴行跡"だな。』

橘壱 >  
乱暴に破られた衣服に見える限りにも打痕が見られる。
うっ血か、内出血しているのか幾つかの患部が青黒い。
意識は完全に途切れているのか、口元に垂れた体液とともに目も虚ろだ。
"何をされた"かは一目瞭然。だが、此れ自体は落第街(ふきだまり)にとってはよくある光景だ。
秩序もモラルもないスラムにとって、力とはかくあるように振る舞える。
彼女が弱かったからこうなった。同情する必要も無い。

『…………。』

そして、何よりも自分には何ら関係もない。
カメラスキャン、顔や指紋の細かいデータを参照しても学園関係者の名簿には引っかからなかった。
不法入島者か、迷い込んだ異邦人か。何方にせよ、関係の無い人物だ。興味も無い。
何より落第街(ココ)は、学園には公式として存在しない区域となっている。
どういうことかと言えば、企業は此処で起きたことを認知しない
つまり、彼女を助けた所で、企業的にも何らメリットは無いわけだ。
モニターの光が乱反射する少年の視線だって、興味がないのか冷めている。

そう、どうだって良いはずだったんだが、既にこの鋼鉄の体は"彼女の目の前にいた"。
膝をつき、青白いモノアイはまじまじと彼女のことを見つめている。

『……やるぞ、Fluegel(フリューゲル)。』

どうしてこんな事をしているのか、自分にだって理解出来ない。
ただ目前に消えかける名もなき命をただ、少年はモニター越しに真っ直ぐ見据えた。



Main system engaging operation mode.(メインシステム、医療モード起動します。)

ご案内:「落第街 建設放棄地ビル群」にエボルバーさんが現れました。
エボルバー > 命が儚く宙へと昇ろうとしている...。
ただ科学の申し子はそれを許さない。
科学とは何か?人類が生み出した未知に対する回答。
人類の可能性。
無限の未来を切り開く可能性。


そして、可能性の元に”ソレ”は現れる。


それは、極めて緩やかに。
不意に現場へ耳鳴りのような甲高い音が包み込む。
命を救わんとする一人の青年とマシンをただただ見つめる
一つの黒い影。

橘壱 >  
システム音声とともに、背中のバックパックから伸びる無数の細かいアームが少女へと伸びる。
頭部カメラアイからスキャンライトが光り、彼女状況を鮮明にモニターへと移してくれる。
『肋骨乖離骨折』『腹部、及び腕部の内出血』『それによるショック症状』etc..。
中々の死に体具合だ。放っておいたら確実に死んでいる。
恐らく、状況発生から間もない。起きたことは不運だが、同時に幸運(ラッキー)ではあった。

『……あれだけドンパチした近くで"ヤってた"のか?イカれてるな……。』

自分で言うのもなんだが、度胸試しなら度が過ぎている。
呆れながらも、直後には一言も喋りはしない。見開いた目が、意識が、AF(マシン)の操作に集中する。
先ず背部のチューブが彼女の腕部に突き刺さる。血液ではない青い人口体液。
人体への適合率は高く、異邦人にもある程度適合性はある。
彼女の身元をチェックすることは出来ないので、まず賭けだ。
失血状態をなんとかするための人口体液による輸血。
同時に、一応ショックによる目覚めを考慮し麻酔を注入していく。今の医学は偉大だ。
同時並行し、サブアームが医療行為に邪魔な衣類を切り裂き、患部へと迫る。

レーザーメスが患部を切り裂き、骨折部位と内出血部位に迫る。
溜まった血液を吐き出し、破損した血管に更に細いナノアームが迫り、切開。
溜まった血液は溢れるも、患部を焼き切る関係上必要以上の出血はしない。
その場の細胞は焼いてしまうが、同時に回復力も高める医療用レーザーメス。
医療用ファイバーによる患部縫合。此れもまた、人体の回復力を高め接合すれば自然融解する代物だ。
乖離骨折した肋骨は、先ず可能な限り元の位置へと戻す。
AI補助によるアームによる移動。接合位置を定めれば、バックパックから接合用のファイバー糸を伸ばす。
血管よりは太く、骨折を縫合するためのものだ。一つ一つが繊細な動きであり、思考操作にも集中力を使う。
全身から滴る汗を考慮することなく、一体どれだけの時間が経ったのかはわからない。ただ…。

<バイタルサイン、不安定。医療行動、終了。>

作戦終了(コンプリート)。緊急オペの範疇故、完全とは言えない。
彼女には長い休息が必要だろう。鉄仮面の奥、モニターに深い息を吐きかけた。

橘壱 >  
『──────……それで。』

立ち上がる蒼白の鉄人。
何時からいたのかは覚えていないが、"ソレ"がレーダーに映ったのは気づいていた。
ゆるりと振り返るマシンのモノアイが、背後にいた"ソレ"に向き合った。
そこにいたのは、虚ろな瞳をした一人の男だった。

『アンタは僕に何か用か?それとも、"コイツ"で遊んでた主犯格?』

足元で倒れている、今救った命を指して尋ねる。

エボルバー > 「風紀委員会。」

作り物のような男性声でソレは一言放つ。
虚ろな瞳は救った命になどまるで興味が無いようだった。
真っ直ぐにモノアイを見つめている。

この奇妙な物体は風紀委員会に追われている。
多くの物語が光を浴びるその影で約1年ほど。
風紀委員会は強い。
新しい戦力、新しい戦術を拡充し己を追い込む。
だからこそ
”興味深い”。

「僕は、人では遊ばない。
遊んでいた人間は、君が殲滅したのではないか?」

男の右手が黒ずんでゆく。

「君は、どんな力を持っている?」

黒ずんだ右手が鋭利に変化する。

「僕は、それが、興味深い。
それは、きっと僕を、変化させる。」

男の右手がブレードへと変化する。

橘壱 >  
それはまるで機械音声のような言葉だった。
カメラアイが分析する目の前の"存在"が人でないことを教えてくれる。
機械(マシン)の反応。それも一個体ではない、目の前に一に、無数の反応が点滅している

『……もしかしたら、連中の仲間だったのかもな。まぁ、"そんな事は今どうでもいい"。』

彼女を酷い目に合わせた犯人なんて、今はもうどうだって良い。
目的を探していたら、まさか二度目の予想外(サプライズ)があるなんて思いもしなかった。
モニターの光に照らされる少年の心は、高揚感により笑みを浮かべていた。

『風紀委員と知ってて尚喧嘩を売ってくる奴は珍しいな。
 アンタがどういう理由で襲ってくるかはしらないが……。』

僕にとっては、魅力的な口説き文句だな。』

理由はどうあれ、このAF(ツバサ)をまだ動かす理由を作ってくれた。
此の謎の正体不明(アンノウン)がどんな理由かは知らないが、"とても良い"。
そう、こういう事を望んでいたんだ。マシンの背部、脚部のバーニアノズルに徐々に熱がこもる。

『────此方Fluegel(フリューゲル)。負傷者を見つけた。すぐに応援を頼む。僕は……。』

『"残党の追撃を開始する"。』

通信回線にそれだけを言い残すと同時に、一気に加速した。
バーニアが青白い炎を吹き出し、空気を切り裂き一直線に突撃。
正面にエネルギーフィールドを展開した体当たりだ。破壊力を重視したものではない。
"追突して相手を現場から離れされる目的"だ。それもそうだ。
こんな魅力的な相手、他の連中に渡せない。自分だけの獲物だ

エボルバー > >高エネルギー反応検知

ブレードを垂らす男に繰り出されるは
合金に包まれた装甲に高エネルギーを纏わせた
攻防一帯の突進攻撃。
凄まじい熱量がスラスターの生み出している推進力を物語る。

しかしそんな苛烈な攻撃を前に奇妙なソレは微動だにしなかった。
あえて受けたといわんばかりに。

そしてそれは瞬きすら許さない。
エネルギーを纏った機体が男を吹き飛ばす。
男の身体は宙を舞うように吹き飛ばされ
運動エネルギーによって体の随所が引き裂かれる。
ただし、それによって散っていたのは血などではなく...
奇妙な黒い「粉」であった。

現場から少し離れた所にボロ雑巾となった男は転がってゆく。
相変わらず粉を散らしながら惨たらしく。
やがて男の身体は全てが黒ずんでゆき地面へと
融けるように広がってゆく。

一部始終だけ切り取れば欠伸が出るほどに「あっけない」。


しかし


広がる漆黒の砂漠は

胎動する。

橘壱 >  
電磁フィールドによる突撃。
本来ならば強硬突破の為の行いだが、相手が機械であれば遠慮はなかった。
どれほどの耐久性だと目の前の"ソレ"は吹き飛ばされた。
十分な飛距離だ。血の代わりに飛んでいく黒い「粉」は、恐らく体の一部と思われる。

『手応えがない。いや……。』

こんなものじゃない。充分な距離は離した。
無理矢理アスファルトに脚部を引っ掛け、赤熱するほどに擦り切らし強制停止。
バーニアから排熱の白煙が吹き出し、転がった男を青白いモノアイの光が見下ろす。
少年に一切の油断はない。細部のモニターが、センサーが周囲の「粉」に反応、感知する。
此の程度で終わるはずもない。広がり始める漆黒の砂漠を目の前に、ニヤリとほくそ笑んだ。

『────"久しぶり"にまともな戦いが出来そうだ。行くぞ、Fluegel(フリューゲル)……!』


Main system activating combat mode.(メインシステム、戦闘モード起動します。)


本来の風紀の執行範囲内では決して聞くことのないAI音声。
全身の鉄が、エネルギーゲインが駆け巡りマシンが戦闘用のエネルギーに適正されていく。
モノアイが一度光り輝くと、薄っすらと機体の周囲にバチバチと大気を迸るエネルギー。
薄型のエネルギーフィールド。機体の装甲強度を高める、戦闘用のエネルギーバリアだ。
腰部ハンガーに装着されたノズルのようなライフルを即座に握り、銃口を向ける。
一切の躊躇も、遠慮もなく。即座に引かれた引き金から放たれる一筋の青い閃光。
空気を切り裂き、鉄をも容易く焼き切り裂くレーザーライフル。さぁ、この漆黒の砂漠はどうでる────!

エボルバー > 緩やかに胎動していた漆黒の砂漠に放たれるは
空気を焼きながら描く高出力のレーザー。
治安維持目的にしては明らかにオーバー出力の光学兵器。

それを前にした砂群は先ほどのまでの緩やかな動きとは一変。
のたうち回るような激しい躍動を発生させ
黒い粉末を宙に霧散させ星々のように空気を細かく輝かせる。
それはつまりおぞましい数の分子マシンで構成されたナノサイズの”鏡”。
青白いレーザーを屈折させあらゆる方向へ捻じ曲げて分散させる。

<強力だ。今まで以上に。>

先程まで空気を伝っていた声は電磁波へと変わり
貴方の脳内へと語りかけられる。


>戦闘経験を統合中...


<全ての経験を使い、新たな経験を得る。>


>新規構造を形成中...


黒い砂が何かを構成してゆく。
粘土が組みあがるように構造体が出来上がってゆく。
少なくとも先ほどのような男の姿などではない。
もっと一回りも二回り...いやもっと大きな...



そこに現れていたのは二足で立つ人型。
それはまるで装甲化が成された漆黒のパワードスーツと言える物体。
極めて鋭利なフォルムで、頭部には多眼のレンズが翡翠色に輝く。
輝くプラズマジェットのスラスターがそれに力を与える。
人型ではあるが手先が無く武器と一体化している武器腕が
不気味な機影を浮き彫りにする。




<試行を、始めよう。>

ソレは科学の申し子を見下ろした。

橘壱 >  
放たれた光が黒砂に乱反射する。
夜の闇を切り裂くように辺りに分散させられた。
ナノサイズの"鏡"か。あの小さな塊一つ一つが、そうなっているのか。
目の前で起きた防御方法自体はともかく、目の前の変異に少年は目を見開かざるを得なかった。

『そういう材質……違うな。"変化"か、或いは"作った"のか?
 あんな砂粒(ナノサイズ)一つ一つが統率された軍隊のようにきめ細やかに……。』

ナノマシン技術自体は今この世界でも珍しいものではない。
エレモニーハーツカンパニーを筆頭に医療技術から日常に溶け込んでいることだってある。
だが、此処まで無数の砂粒(ナノサイズ)の機械が即座に変異、或いは変形してみせた。
こんなにも混沌した世界だ。そういう技術があってもおかしくはない。
だが、余りにも洗練された動きはある種、より先の技術ではないかと感じさせる程の美しさだ。

『……何?』

そして、流動する砂漠はやがて凝縮して"形"となっていく。
人の形に近づいていくが、より大きく、夜に溶け込むような漆黒のボディ。
空気を突き刺すような鋭利なボディに、怪物のような翡翠の多目。

Assault Frame(アサルトフレーム)……!?』

そう呼ぶにはもっと歪で、怪物的な威圧感を感じる。
だが、男だったものが成した姿は間違いなくそれだ。
戦うための、人型の姿。両手を武器と一体化したのがより戦闘的だ。
漆黒の夜に降り立った、夜の鉄怪(ナイトプラウラー)
だが、そうこなくちゃ面白くない。術式後の疲れなんて吹き飛ぶくらい、全身の高揚感(アドレナリン)が溢れ出る。

『面白い。僕で試してみるなら……やってみろッ!!』

ソレを見上げるモノアイの奥で、少年が吠える。
二対のバックパックの先端が開くと同時に、白煙を撒き散らし翔ぶ飛翔体。
夜を照らす青白いエネルギー弾、便宜上パルスミサイルと呼ぶべきエネルギー集合体。
着弾と同時に破裂し、無機物、有機物を電解し破損させる兵器だ。さぁ、どう出る────!

エボルバー > >敵弾接近
>軌道計算中...

彼の兵器ーーAFから放たれたのは
正に強力な科学的エネルギーが生み出す疑似魔術。
空気すら燃やそうとする光弾の雨は
漆黒のソレへと降り注ぐ。

>ビット射出

漆黒の機体の肩部に備えられたコンテナ状の物体から
何かが射出される。電磁気により奇妙な音と共に打ち上げられたのは
独立駆動する無数の小さいドローンともミサイルとも呼べるようなもの。
それは群れを成し、エネルギーの雨の一発一発へと極めて正確に突っ込んで相殺してゆく。

しかし、彼のAFの激しい光学兵器は容易に凌ぎ切れるものでもない。
一部分は迎撃できずに本体へ着弾し漆黒のボディを削って紅く変色させていた。


<強力な兵装は、多くの命を奪う。>

>スラスター出力上昇


漆黒の機体はその高度を上昇させてゆく。


<命は尊い。なぜなら可能性の種であるからだ。
ボクは、それを奪い尽くさない。
次の可能性に、繋がらないからだ。>


ソレは戦いのフィールドを移そうとしている。


<だから、ボクはキミを殺さない。>


青年から向かって右の武器腕。
二本のレールが青白く灯る。


<ただし。>


>レールガンチャージ


<キミには負けてもらう。>


凄まじい破裂音と共に蒼い電光を描きながら
槍上の長弾頭が超音速で射出される。
それは、ただ青年、AFへと一直線目掛けて。


<これは、悪魔の槍だ。
キミの、
風紀委員会の、
力を見せてみろ。>

橘壱 >  
相手の肩部コンテナから放たれた独立駆動物体。
ミサイル、否、自立兵器(ドローン)だ。
一発一発が雨のように打ち込まれ、威力を相殺していくも着弾。
エネルギー体が大きく広がり、装甲を融解させるも有効打にはならない。

自立兵器(ドローン)か……兵器としては珍しくないが……!』

凄まじい操作精度と数だ。勿論技術にもよるが、人間の操作、機械の操作にも限界がある。
あれだけの数を操れる処理能力。やはり今の技術力の上を行っている気がしてならない。
得体のしれない兵器。きっと、アレもその場で生成したのだろうか。
その場で変化、変異、状況に合わせて変質する機械(マシン)

『兵器の理想形だな……!』

一切の換装必要もなく、恐らくあの変形力なら自己修復とみた。
兵器としてみれば、此れほど頼もしい(おそろしい)ものはない。
鉄仮面の奥の笑み。僅かにこめかみに汗が伝う。武者震いだ。
なら次は、と背部バーニアに火が灯る。鉄の怪物と距離を詰めようと前進した直後、向けられる銃口。モニターに表示される高エネルギー反応と<Alert(警告)

『何……?……!』

レーザー兵器。いや、違う。回避運動────。
脳裏をよぎったが、回避は出来ない。そう、避ければ背後への被害が懸念される
先ほど助けた彼女は?後ろで現場作業をする風紀委員は?
その疑問が過る頃には、けたたましい破裂音が空を裂く。

『────!』

蒼い稲光とともに槍状の弾頭。電磁砲(レールガン)
直進するAFの機体に、悪魔の槍は重なり──────。

橘壱 >  
轟音。直後に爆炎が着弾地点に広がり、プラズマ粒子が空気中に弾けた
機械(マシン)一つの爆発としては十二分。ジェネレーターに直撃すればあり得る程度には周囲の瓦礫や鉄骨を吹き飛ばした。
一瞬の迷いが決着を付けてしまったのか。否────!
夜の月明かりを陰り、もしレーダー類が補足出来るなら警告音を出すだろう。
夜空に舞い上がり、両手甲部位から伸びる青白い光。レーザーブレード。
先程の機影とは違い、背中部に背負ったバックパックはない。
そう、咄嗟にパージをし、悪魔の槍にぶつけて目眩ましと囮に使ったのだ
細かいバックブースターによる瞬発力と、爆炎を影に飛び上がる機動力。
全身を高負荷のGが締め付けるも、そんな痛みは高揚感(アドレナリン)が消してくれる。

『殺さない?よく言うよ……!』

電磁砲(あんなもの)撃っておいて無理を言う。
普通の人間どころか並の機械(マシン)でも粉々だ。
脚部、肩部、全身の細かいサブバーニアも総動員して急速落下────!

『だが、悪いが負ける気はサラサラ無い。勝つのは……僕だ……!!』

口元に垂れる血液が弾ける程に好戦的に笑った。
振り上げた両腕のレーザーブレードを急降下と同時にX状に振り下ろす。狙いは胴体────!