2024/06/16 のログ
ご案内:「落第街大通り」に神代理央さんが現れました。
神代理央 > 思えば、落第街と呼称される区域は神代理央にとってある意味で歩き慣れた場所でもある。
多くの戦いがあり、多くの陰謀と策謀があり、殺し、殺され…それでも此の場所は変わらずに存在している。

「それを逞しいと褒め称えるべきなのか、生き汚いと蔑むべきなのか。普通なら、罵る事は人道的にも過ちではあるが…」

落第街とて常に夜の帳に覆われている訳では無い。
朝日が昇り、日中は陽光が煌めき、黄昏を終えて宵闇来る。
今は昼前。天頂に太陽が至る寸前。瓦礫と廃墟と崩れかけたビルで形作られた混凝土の森も、今は何処か幻想的な廃墟の街であるかの様に振舞っている。
行きかう住民も多い。悪徳が夜蠢くのなら、真っ当な者達は日の当たる場所で活動するのは当然だ。

「…だからこそ、というべきか。私もあまり、この時間帯の落第街は…」

そんな落第街の大通りを見下ろす少年。そこかしこに穴が空き、外壁は崩れ落ち、何時倒壊してもおかしくは無い…が、それでも人の営みが今も築かれているビルの屋上にて。
小さく溜息を吐き出しつつ、手元のタブレットに何かを入力しては指先をスライドさせている。

神代理央 >  
違反部活の戦闘、風紀委員会の武威を示す為に重武装の部下を率いての警邏。そう言った任務は当然夜半に行われる事が多かった。
違反部活が活発に活動する、と思われる時間に此方が合わせていたという謂い方にもなる。その分、寝静まっていた落第街の住民は避難が遅れ、被害が拡大する要因でもあった。

落第街の住民への被害は、黙認されども容認された訳では無い。
また、元違反部活生や二級学生の部下を抱える身となった以上、彼等が真っ当な学園生活を送る為には、上層部からの評価も変える必要がある。
その為には…まあ、今まで以上に知らなければならない。落第街の事も。其処に住む住民達の事も。
其処に自らの感情を置く事は、当然否定しなければならない。仲間が危険になれば落第街の住民の命など天秤にかける迄も無い。
されど、無益な殺生は────『部下にさせるべきではない』

「……此の街に。此処の住民に感情移入などすれば、それはもう風紀委員では無くなってしまうからな」

それは極論だ。理解はしている。
されど、それが神代理央の思想であり理念であり、其処に共感や従属を求める訳では無い。
何を守るべきで、何を切り捨てるべきか。その線引きを強く持つべきだ、と。そう思っているだけなのだ。

ご案内:「落第街大通り」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
「どういう論理(ロジック)?」

独りごちる言葉の背に、問い返す言葉が投げられたことで。
それは会話となった。そこにいらえが変えるなら。

いつの間にか、階段室に背を預けて、ころころと棒付きキャンディを転がしているのは。
この場にいていい程もない、絢爛な空気を纏った美貌が。
6月の空を浴びることを拒むように、日陰に佇んでいる。

神代理央 >  
「…論理とするまでも無い、社会の倫理だろう。治安維持に努める者が、守るべき治安の外に居る者に感情移入をするべきでは無い」

下界を見下ろしていた視線が、投げかけられた声へと向けられる。
普段仰々しい護衛の如く引き連れている金属の異形の姿は無い。身体の向きを変え、改めて声の主と向かい合うのは小柄な少年唯一人。

「非道になれ、とは言わない。けれど、過剰に情を向けるべきでもない。粛々と、規則に従い条文に従い条項に従い…適切に対応する。私達に求められているのはそういう事で、それを遵守すべきだ、と……」

其処で一度、言葉が滞って。

「…と、自戒していると言っても良い。規則や規律に従っていれば何をしても良いのか、と。問わねばならない立場にもなってしまったからな」

経験を積み、学年が上がり、部下を持ち。
かつてはワンマンアーミー宛ら。個人の理想と思想を強要する為に、自らの力を振るっていた。
今は、そうするべきではないし、そうある事は出来ない。力を振るわない、とは言わないが、そうすれば不利益を被る被保護者がいる。

「住民達からすれば、何を今更と憤りもするだろうがね」

と、僅かに首を振って言葉を締め括る。
唐突に顕れた闖入者。ソレと敵対や交戦の意思を少年が見せる事は無い。
対話を求められているのならば答えるし…何より、此処で戦闘になれば、こんなガラクタの様なビルなど何時崩れてもおかしくは無い。そうなれば、夜半と違い人通りの多い日中。被害も相応に増える。
それでは、と首を振る為に、この時間に、此処に居るのだから。

ノーフェイス >  
「べつに愛されたいワケでもないんだろ。
 赦してほしいワケでも、ないハズだよな」
 
いまさらだ。なにもかも。
彼のことばをきいて――言うことに、否定も肯定もしない。
ただしさを語るなら、唯一無二、法という規則だけが絶対である。

「ちょこっと背ぇ伸びたんじゃなあい」

くっくっ、と剥き出しの白い肩が揺れた。
ゆっくりと壁から背を剥がす。血の色の輝きが陽空の下に舞い踊る。
彼がいる位置の隣まで歩み出た。こんどはこちらが地上を見下ろす立場。

「理想の官僚は義務(・・)の奴隷たれ……みたいなコト言ってたのは、いつのダレだったっけか。
 私情は差し挟まずに、ただただ公平に在るヤツだって。ふるい、ふるーい本だケド」

しゃがみこむ。頬杖をついた。
見下ろす風景は、いつものことだ。ただ機嫌が良さそうだ。
どこにも属さぬ、強大なる個は。

あの夜(ハロウィン)以来か」

その時はなにも持たぬ、正体不明の個人だった。
いまや王者の如く振る舞う、正体不明の個人となっていた。

神代理央 >  
「そうだな。それは"役割"が違う」

愛されたい。赦して欲しい。
少年がそうでないのなら、逆説的にはそういう風紀委員が居ても良いのだ。落第街の住民から愛され、風紀委員会として歩み寄り、風紀委員会が彼等に与えた傷に赦しを乞う。
…いや、赦しを乞うべきは本来は私か。だが、私が頭を下げたとて…そも、下げるべき頭は持ち合わせていない。
私が赦しを求めないから、彼等の憎悪が少しでも此方に向く。そうあるべきなのだから。

「当然だ、成長期だからな。何時までも体格差で嗤われる様ではやってられん」

若干、不機嫌そうに眉をひそめる。どれほど偉そうに振舞っても、自らの体躯について…恥と思う事への話題には機嫌を損ねる。
所詮は、17歳の子供。

「しかして、行き過ぎた官僚主義は社会に悪影響を齎す。
かと言って、成果主義を賛美すれば弱者を切り捨てる事になる。
……まあ、それ以上を考えるのは風紀委員の仕事では無いがね」

身体は再び、相手を追い掛ける様に向き直り。視線は再び下界へと向けられる。
並び立つ者に視線を向ける事は無い。情熱的に視線を交わし合う様なものでもないのだ。
唯今は、同じ方向を────同じものを見ているだけ。

「息災にしていたか、とは聞かぬぞ。息災で無い方が有難いからな」

対して、此方は出逢ったあの夜とさして変化があった訳でも無い。
強いて言うなれば、組織の為に働く個人が、組織の為に働く組織の長になったくらいだ。
体躯、思想、理想、立場。其処に変化はあれど、それは決定的な変化では無い。少なくとも、風紀委員会の書類上に特記される程の変化では無い。
人間は変わるモノだ。だがその変化は、組織や社会という巨大な器の中において、巨大な影響を及ぼさないのであれば無きに等しい変化なのだから。

ノーフェイス > 「えっ、マジで伸びたの……?」

意外そうに顔を向けた。内面の変化を誂ったつもりだったらしい。目測では変わってないように見えた。
こちらはすこし伸びた。16歳なので。

「残念ながら絶好調(スモーキン)だぜ。体調も儲けもな。良いニュースももらってる」

ぐぐーっ、とその長駆はさらに伸びをする。
白い腕はなまなましく陽光に透ける。生きていた。あまりにも。

「多少は、切り捨てられるかも――ってピリつき(・・・・)は、感じててほしいトコではあるけどな。
 安心は牙を抜く。結果として自分で考える能力がなくなる――発展(進化)がとまってしまう。
 戦争がおわって、ずいぶん経ってるって話だけど。
 世界があたらしくなって、その世界のいちばん尖ってるばしょで、
 ここはこんなにも、……こんなにも平和だ。代わり映えもしないほど」

ふ、とため息をつく。
表の学生が、自分や他のいろんな存在によって、ここに目を向けるようにはなったろう。
自分はここを変えたかったわけではない。血のめぐり(・・・・・)をよくしたかった、それだけ。
その目論見はうまくいっている――といえる。それはあくまで、手段でしかなかったが。
見下ろし、静かで、穏やかな。ごみごみとした、まさに雑踏。
日々を生きるものたち。存在しないものたち。
治外は――しかし。あのときから、なにも変わっていなかった。

成し遂げられなかった(・・・・・・・・・・)な」

隣人(・・)を、憐れむでも、蔑むでもなく。
あの夜交わした――成し遂げたものがヒーローだというやり取りの、果てを。
初夏にして、夏の終わりを憂うようにして、彼に告げた。
ヒーローにも、独裁者にもなりきれなかった、キミに。

神代理央 >  
「…其処で本当に心底意外そうにされるのは実に腹立たしいな」

深い溜息。悪意は無いのであろうことが尚腹立たしい。

「良いニュース、か。それが風紀委員会(わたしたち)にとって悪いニュースで無い事を願うばかりだね」

少年は照りつける陽の下で大きく身体を動かす事は無い。
彫像の様に。石像の様に。自由に動く事など忘れたかの様に、落第街を見下ろすばかり。
陽光に照らされる事を拒むかの様に肌を隠す制服。

「……そうだな」

最初の返答は、切り捨てる事について。
それは当然の事だと、返答も肯定的。肯定的、というよりは事実の確認めいたものでもあるのだけれど。
代わり映えしない事については、否定したいとは思うが悪ではない。少なくとも、表の学生達が平和でいられるのならば。

「…………ああ、そうだな」

二度目の返事は、告げられた終わりについて。

「期待には応えられなかった」

それは父親の期待か。組織の期待か。部下からの期待か。
誰からの、何の、どんなものか。

「それでも、別に世界がどうこうなる訳では無い。いや、違うか…正確には、私の世界が…私を取り巻く環境が、と言い換えるべきか」

「私はまだ此処に…此の常世島に存在するのならば、燃滓の様な何かであっても、するべき事があるのなら、それに殉ずるだけ」

小さく、肩を竦めて。

「何事も成し遂げられなかった、期待外れだったとしてもな」

ノーフェイス >  
解釈次第(・・・・)

風紀にとってどういうニュースか?といえば。
そうこたえるしかなく。
言い終えた彼に対して、しゃがみこんでいて目を向けた眼下から。
ひとりの人間である少年に、横目で視線を向けた。

「期待に、ねえ」

すこしピンと来ないな、というようにして、顎を撫でながら空へと目を向けた。
青い。これからきっと、もっと青が濃くなる。

「そしてボクからも、期待を感じてたか。
 まあ、落胆(がっかり)したのは事実だよ。
 だってキミはずっと未来(まえ)へ進んでいなかったのだもの」

その、代わり映えのしなかった破壊しか認識していなかったが――と。
彼が、誰と話して、なにを思って――翻して、生きてきたのかはわからない。
だが否定の言葉がかえらなかったのは、そういうことなのだろう。
と、仮定して。

「期待に応えるためにやってた」

腕を組みながら、考える。

「――て、コトは」

すこし飛躍した考えかもしれないが。
情報社会全盛も著しく、世界が変わったからこそ情報が力を持つこの時代に、
隣にいる少年は、すこし調べれば――行き当たるような権威ある者の血族である。

「借り物の理想を追ってたのか?」

神代理央 >  
「…であれば、無辜の生徒達に害するものでない事を願うよ。お前個人の欲を満たすだけであれば、それは少なくともまあ…お前を追う委員は、私では無いのだろうし」

まあこれは単純に、個人の追跡だの調査という任務に自分が向いていないという事実による憶測。
犯罪者を追い回すに、鈍足な大砲を持ち出す者などいない。それだけの事だ。

「まさか。流石に其処まで驕りはしないさ。
そうだな……総意、と言い換えるべきか?いや、それも驕りやもしれないな」

自問自答。これは相手に対する答えにならないか、と思い直す。

「此の街の住民を人として扱わない様な。被害を顧みない様な。風紀委員会としての権威と武威を誇張する様な。同僚たる風紀委員からも嫌悪される様な。その様な私の存在が是正される様な何かが起こるか、と」

「結果として起こったのは、落第街の憎悪が違反部活の活発化となっただけ。それ以上は、何も無かった。それはつまりまあ…私の行動は、求められるべき行動ではなく、或いは行き過ぎた、という事だったのだろう」

其処で一度言葉を締め括れば、再度投げかけられた言葉に────僅かに、思案した後に。

「借り物…そうだな。与えられたと言い換えても良い。だが私にとってはそれが絶対の理想で、果たすべき理想で、目指すべき理想で、誇るべき思想」

「自らが鋳造し、醸造したものでない事は認めよう。否定出来る程の人生経験がある訳でも無い」

ノーフェイス >  
()

彼の言葉を、違う、とか、ヒミツ、とかではなく。
彼自身が思考し、たとえば、とか。そういうのを出すなら。
するりと指を紅い陽炎が抜けながらも、ヒントは出される。

「ボクが弱者に興味がないのは知ってるだろ。
 ボクに傷つけられ、奪われるのは、承知のうえでボクに挑むだれかだけ」

無辜の誰かを直接傷つけるなんて、興味がない。
暴力や、殺生を、好みも嫌いもしない(・・・・・・・・・)からこそ、無意味だと断じられた。
それで手に入るものには、いかほどの価値もなかった。

「いやそーでもないな。純潔(バージン)を奪うのもサディスティックなプレイも大好きだったわ」

フフフフ、と何かを思い出しながらのにやつき。
そういう噂(英雄色を好む)も、つきない正体不明であった。

「………………」

視線をぼんやりと、空に。

お姫様(・・・)かよ」

肩を落とした。

「そりゃそもそもの前提が違う。単純な話だ。なにも言わずに待ってたから来なかったんだ。
 都合のいい救いなんて来ないんだって、キミが終わらせてきた(もの)を見てたらわかったハズだ。
 パパからもらうプレゼントとは、ワケが違う。
 ――キミが自分で探しに行かなかった。そんだけの話じゃないのか」

問題の拡大化はしなかった。求めたるものがあるなら、掴み取ればいいというのが、持論なだけ。
待っていても、訪れなかった。青い鳥、正しきもの、ヒーロー。
終わってから言えることだ。終わらなければ、彼はきっと他人には言えなかったはずなのだ。
こんな犯罪者にすら胸襟を開いてしまうほどの、あるいはとっくに終わった話。

助けてくれ(・・・・・)って言えなかっただけだ」

先日。あの大通りで見た、風紀委員を睨みつけて、路地裏に消えた怯えた少女は。
――どうだったろう。都合のいい妄想だ。

「……そう言えるコトでもないケドな」

それこそ、積み重なった時、今更ではあったろう。
いずれにせよ、聞いたままの事実。責めるつもりはない。
未来に持っていかなければならない、事後処理すべき書類を、積み重ねてくだけ。

「んー」

理想については、すこしだけ考えると。

「キミ、バイク……あー……自転車って乗れるか?」

神代理央 >  
「ならば、良い。いや、良くは無いのだろうが…少なくとも、今ここでどうこうしない。何より、此処でお前と撃ち合うには…そうさな。撃ち合うよりは、紅茶でも飲んでいたい」

それは慣れ合おうという意思表示では無い。目の前の相手を強者と認識した上で、それと戦おうと言うのならば無意味で無益な被害が拡がる。それは望んではいないから。

「お前に傷付けられ、お前に奪われるとしても。それが必要でそうするべきなら私はお前に挑む。しかし今はそうではない。それだけ。……お前の性的嗜好については、別に口出しするつもりもない」

最後の言葉には、僅かに呆れを滲ませたかの様に。

「……………」

視線は、ぼんやりと大地に。

「そうだな。いや、そこも驕りだったのだと思うよ。
私は誰かを助ける側なのだと。或いは、打ち倒される側なのだと。
私が…私自身が助けを求めているのだと、自覚していない……」

「…違うか。認めたく無かっただけだ。探しに行かなかった癖に、手を差し伸べてくれた者達の言葉を受け入れようとしなかった」

「助けを求めなかったのではなく、助けが必要なのだと自分で認める事が怖かった」

全て、過去形の話。

「それは、私自身の在り方を変えてしまうものかもしれない、という恐怖。与えられた理想に応えられなくなるのでは、という猜疑心、だったのだと思うよ」

大きく、背を伸ばす。視線は下に向けられたまま。
素肌は、制服に隠された儘。

「自転車…?いや、まあ。流石に乗れる。積極的に乗ろうとは思わないが」

そんな会話の最中。急に投げかけられた問いには、不思議そうに瞳を瞬かせ、下げられていた視線が持ち上がって、再び君に向けられるのだろうか。

ノーフェイス >  
文化人(ボク)の遇し方をよくわかってるじゃないの。
 日本様式(こっち)の、ミルクで煮出したやつに砂糖いれるとイイんだよな。ああ、風紀委員の――
 キミんとこの猟犬でもいいから、可愛い娘を接待にひとりふたりつけてね。
 ――喧嘩好きなら今でも溢れてる。落第街(こっち)にも表舞台(あっち)にも」

やり合うことには、興味がなかった。倒されるべき悪としての役割を負うつもりもない。
はじめから。暴力以外で示すことに、拘っていたから。
だから砲口を向けるのは自分以外だ。――そのうち来る。触手を備えた男のように。あるいは紅い殺意のように。
武力が求められる局面があるのも、また事実。

「…………」

それでも、そう。
理解はしているようだった。一言一句を聞き流すつもりもなかった。
受け止めたうえで、なるほど、と一言、うなずいた。

「経験に学べるぶんだけ、猿よかマシだと思いたいな。キミもボクも。
 いまの述懐してくれたコトに対しての解釈は、ひとまずあとにまわすとして」

賢者にはなれそうもない。なる気もなかった。
山も谷もない順風満帆、はじめから完成した人生など。

「……………」

へえー……と吟味する。
自転車で通勤してる姿を想像すると、すこし面白かった。
笑いそうになったので顔をそむけておく。

「ボクの言ってる自転車とおなじだとイイんだけど――さいきんは人間がふつうに空飛んでんだぜ。
 本土での最新式がどんなふうになってるかちょっとわかないケド……アレだよ。
 チェーンがくっついてて、ペダルをこいで、車輪を回して進むアレね」

両手を、くるくる、とペダルの回転を思わせる動きで互い違いに動かしてから。

「ぐって押し込んで、漕ぐと――まえに進むだろ。
 あとは勢いがついて、特に下り坂なんか、すごいスピードが出て気持ちイイんだよな。
 いまとなっちゃボクは専らモトサイクル(自動二輪)だケド」

くるくる、と両手が空転し続ける。

「……チェーンが切れててもある程度は進むよな」

くるくる、くるくる。
手応えなく、ペダルが回る。

神代理央 >  
「遇される事を望むなら、風紀委員会ではなく違う連中に求める事だ。そういう事が必要で、私もそれを否定はしないがね。
……喧嘩で済めば此方も目くじらは立てぬがね。表の者達に、手を出さないのであれば」

結局のところ、学園が公式に落第街という区域を認めていないのであれば。風紀委員会が積極的に此処に介入するのは、違反部活を取り締まる為でしかない。
此の中で争い合うに留まるなら、どうぞどうぞと見守るだけ。線引きされた居住区。持つ者と持たざる者の区別。
風紀委員が明確にすべきは、それを見定める事ではないか、と。

「そうさな。寧ろ聞き流されなかっただけ有難いと思う故、此の場でどうこう、とは私も思わぬさ。私とお前は、無二の友人という訳でも無し」

と、肩を竦める。
急に顔を背けられたのには、僅かに首を傾げるが────

「お前の認識している自転車で間違っていないよ。
アレは結局、安価かつ容易に、人力で機動力を得られる事に意味がある道具だ。どれ程最新の技術と魔術があろうと、その絶対の利点がある限り、自転車という単語が意味する道具は変わる事は無かろう」

両手を動かす相手に頷く。
嘗ては戦場において銀輪部隊なるモノまで存在し、アジアの超大国足り得た中華圏の国家では人民の足として長らく大量に製造されていた。……いやまあ、自転車について論じたい訳では無いので、其処で一度言葉を区切って。

「そうだな。人の力が無くとも、勢いがついていればある程度は進む。与えられた運動エネルギーが尽きるまでは。位置エネルギーが持つまでは。足て漕がずとも、進むだろう」

チェーンが切断されても。手応えが無くとも。人の意志が介入せずとも。
自転車は進む。ソレが持つエネルギーが尽きるまでは。

ノーフェイス >  
「おっぱいが大きい娘の接待がイイんですケド!」

唇を尖らせた。遇しろよ。文化人だぞ。とでも言いたげ。

「あー………………大東亜戦争(グレーターイーストアジアウォー)だっけ?
 たしか……ちっちゃいころに勉強したな。陸路輸送ならたしかに便利だろーな……」

話のタネ。戦史にも、大変容直前の近代史であればある程度は通じるようだった。
多くのものに歴史がある。今となっては。
こうして積み上がった平和が――今。

「まァ、そゆコト。
 目的地にたどりつく(理想を成し遂げる)よりも、ペダル漕ぐことに頭がいっちゃうんだ。必死になって。
 理想をまえに、がんばっているふり(・・)……キミの場合は、期待に応えるために、か……?
 そうなってしまうと、多くの人間が、それに気付かない。 
 気付けないまま、それでも進むから……自分で気付けないんだ。怖いだろ。
 漕ぎ始めのころは、意志をもって、踏み込んだはずなのに……空気もちゃんと入ってるか確認してたハズ」

ふう、と息を吐いて、両手をポケットに。

所感(インプレッション)だケド。
 成し遂げることと、期待に応えることの、比率っつーのかな。
 なんかイマイチうまくいかなかったりしてたから、期待に応えるっていうほうに行ってたんじゃない。
 ひとから……もらった、大切な理想(もの)なんだったら、なおさらな」

挑戦、成し遂げること。
それは、失敗したら、何よりも恥をかくことだ。
目の前にたちあがる、あまりに大きな荒波に挑んでみれば。
無様に砂浜に打ち上げられ、ともすれば波に飲まれるかもしれない。
あの夜話したように――、……。この存在は。
なにももたぬ、いち個人であるがゆえ、成し遂げること、自己の理想の実現に、ひたすらに純粋だった。

「……さっきの話な。
 だいたいのひとがさ、失敗しても。人間って、ごまかしちゃうんだよ。
 よく頑張りましたって。頑張ってもこれだからしょうがないって。努力(・・)したんだから十分スゴいって。
 ただしい道だったんだと――自己正当化に走ってしまう、失敗したのにな……」

前をみた。ビルのうえ。近い空で、どんよりと雲が動く。

ちがう(・・・)はずだ……」

理想を追うならば。
理想に届かない自分は、不完全なゴミなのだ。
そう考えて、生きてきた。いまも生きている。

「そこまでふがいない自分を直視できてるキミは、まァ――
 それなりに……スゴいヤツなんじゃね。最悪の気分だろ……?
 くちのなかに苦い味がひろがって、指先からすっと冷えてく、そういうふうになる」

試練だ。受け入れがたき自己(シャドウ)の直視は。

神代理央 >  
「知るか。そういう娘が好みなら金を払ってそういう娘が遇してくれる店に行け」

そもそも文化人なら権力と体制に阿るのも仕事の内だろうと言わんばかり。まあ、文化人が体制に膝をつくのは大抵指導者が碌なものでは無いとは思うが。

「その呼び方は日本だけ、らしいぞ。というよりも、他国にとっては極東なぞ副次戦線でしかない。
彼等にとっては祖国の大義と利益の為の大戦争でも、世界から見れば華々しい舞台の主役を彩る脇役でしかない。残酷なものだな」

まあそれは、別に国と言う大きな括りで見ずとも…と。
またもや脱線しそうになった話に、小さく吐息を吐き出す事で一度切り替えようか。

「……………」

比率。最初はその言葉に眉をひそめたのだろう。
自らの理想を現すに、その単語はあまりに機械的に思えたから。
だが…続いた相手の言葉には、素直にその表情を和らげ…というより、理解の色を浮かべた上で。

「…私もそうさ。時に誤魔化し、時に取り繕う。
失敗は認めたくないものだ。𠮟責される事は誰だって嫌なものだ。
自己正当化しなくては…怖いのさ。皆。だって結局、何かを成し遂げようとするのは…自分だけじゃ完結しない事じゃ無いか?」

初めて、疑問符を投げかける。

「極論、世界に自分一人だけだと仮定するなら。何をしようと何に失敗しようと、誰も責めない。自分を変える必要も無ければ、世界を変える必要も無いのだからな。何かを成し遂げよう、という理想や目的は、他者がいるから成り立つもの。だから…だから、それが出来なかった時、他者の目が怖い。言葉が怖い。評価が怖い」

「そして私は…私もさ。理想を与えられたからこそ、叶えられなかった事を言い訳したい。正当化したい。だけど……」

視線は、ずっと"街"を見ている。
自分が蔑ろにしてきた街。踏みにじってきた命。それでも、強く逞しく生きている人々。

「最悪の気分でも、口の中が大嫌いな苦みばかりになったとしても」

「言い訳すれば、過去に戻れる訳でも無い。だからといって、開き直る愚は犯したくない。
ならば、冷たい泥水を口に含みながらも、足掻いて、成し遂げられなかった事を、少しでも良い様にしていくしかない」

未だ子供の身体で、大人ぶる為に咥えていた煙草。
懐から取り出した、仰々しい装飾のシガレットケース。火を付けずとも、取り出さずとも、甘ったるい葉の匂いが漂う。

「不貞腐れて朽ち果てるだけでは、奪ったものに対する責任が取れないからな」

ノーフェイス >  
「社会と契約(・・)するってのはそういうコトだからね」

まして、音楽家(ミュージシャン)――興行者(エンターティナー)は、つねに世間からの評価に左右されるゆえ。

「ボクの理想は、ボクが択んで、この手で掴んだ。
 すべてを成し遂げるために、理想の自己の実現と証明のために生きてる。
 これは……まわりにいるひとのだれもが、ボクがそうすることを望まなかったものだ」

キミとは逆だ。

「家族もね」

そう悲しげに笑った。人生はひとそれぞれ。まったく違う視点から、それを見ていただけに過ぎない。
くるりと体を向けた。目線はすこし見下ろす形になる。

「……ンじゃなんかひとつ、小さいことでもなんか……確かなの。成し遂げてみたら。
 方法や、アプローチ、立場が変わっただけだ。もらった理想はまだ輝いてんだろ」

先ず。先に進むなら。

「ボクにとってはあの夜が、それだった……たしかな第一歩だ。理想への。
 あのときも言った気がするケド、もっかい伝えとく」

手を伸ばし、どん、と。握りこぶしで、制服に包まれた胸をノックした。

「来てくれてありがとう。たとえ風紀の仕事だったとしてもさ。
 誰も来ないんじゃないか、しくじるんじゃないか――って。
 ふるえあがるほどの不安は、その場に――ボクを視るものたちがいるということで、乗り越えられた。
 今日、キミがなにかを得ることがあれば、あのときの礼だと思って」

にひ(・・)、と笑った。
用件は、これを言うことだ。なんか独り言言ってたから、遠回りになったけど。

「――……あ、ンじゃそろそろ行く……ついでに。
 最後にいっこ、イイ?」

神代理央 >  
「確かなこと、か」

思えば、そもそも抱えていた理想は少し大き過ぎたのかも知れない。
千里の道も一歩から、と言う訳でも無いが…あの時。或いはあの頃とは、確かに変わった事もある。やりたい、と自主的に思う事もある。

「………礼を、言われる様な事では無い……とは、言わない。
その礼に対して、此方から何か礼を以て返す事もしない。
私は、風紀委員だからな」

風紀委員として、ノックされた胸の鼓動を伝える事は出来ない。
風紀委員として、相手の言葉に此方も礼儀を尽くす事は難しい。

「…………だが、お前を視て、お前を観る者の感情は否定しない」

だから返せるのは個人の感想だ。
神代理央という少年の、細やかな言葉。
芸術に敬意を。表現する行為に祝福を。その才覚に拍手を。
返せるのは、それだけだから。
まあ、にひと浮かべた相手に返すのは、普段通りの仏頂面ではあるのだけれど。

「…構わない。言うだけならタダなんだ。何でも言ってみろ。犯罪者(アーティスト)

はてさて、何を言われることやら。

ノーフェイス >  
「一発殴っていーい?」

その拳を、そっと掲げた。

「これは私怨(・・)

まっすぐ見つめた。いつもの笑み。
目だけは笑っていなかったけども。

神代理央 >  
「…………」

ちょっとだけ、悩んだ様に瞳を彷徨わせる。
何故かって、それはまあ…。

「私怨なら、良いよ」

風紀委員として殴られる訳にはいかないが、私怨ならそれを罰する校則は…まあ、あるにはあるが。

まあ何より、殴って良いかという言葉に対して直ぐに肯定出来る程には。神代理央という少年は如何せん非力な体躯であるが故に。
話を聞いて貰った恩と礼もある。故、覚悟を決めたかの様にぎゅ、と目を瞑るのだろうか。

ノーフェイス >  
「そか、ありがと」

にこ、と微笑んで。

やりやがった(・・・・・・)なッ!」
 
暴力によって得られる名声も、結果も。興味はないけれど――そう。
これは――清算(・・)の儀式だ。自分への、でもある。
手を解いて、その頬を張った――まあ、すこし腫れる程度。渇いた音が響き渡った。
ひらひらと手を振る。結局、怪我したら困るのはこっちも。

「――はぁ。 じゃ、これでおしまい(・・・・)
 遠巻きに見とくよ、風紀委員。ボクもまた、キミを視る、社会の眼のひとつだ。
 ……キミも、ボクの音楽(うた)を聴いてくれよな?」

すくなくとも、そこには垣根は設けていない。
誰でも、きけるようにしてある。
そして、ひらひら手を振りながら、身を翻してた。

Bye(じゃね)。挑むのなら、祝福あれ」

ご案内:「落第街大通り」からノーフェイスさんが去りました。
神代理央 >  
「……っ」

張られた頬の痛みは当然あったが、それよりもその言葉の意味が。
まあ確かに、風紀委員としては恨みを方々に押し売りしてはいるが、しかし────

「おい、待て。今のは……ああ、もう!いざ仕事の話になろうとするとこれか!」

此方の身の上話は聞いてくれるが、いざ相手の事を聞こうとした瞬間にはその姿は無い。
追い掛けろ?私の短距離走と持久走の記録を確認してから指示を出す事だな。馬鹿者め。

「……全く…しかし今回に限っては何も言えんか。いや、言わねばならなかったのだろうが…」

何を言うべきだったのか?
そんな事は簡単だ。しかし、それを口に出す事が許される立場で無いのなら。

「…その祝福は、私以外のものにあるべきだろうな。きっと」

他者を傷付ける事しか出来ない異能。
破壊を振りまく従物。焔と鉄の力。
嘗ては好き放題に振るい続けたこの力で、今は何を為すべきか。

…考える時間はある。考える余裕もある。考えるべきだ、と思う事も出来る。
その事に気付かせてくれた相手に、礼の言葉を一つも言えない事が、唯一の懸念事項。
僅かに張れた頬に手を当てて、苦笑い交じりの溜息を供に。
少年もまた、罅割れたビルの屋上から、行儀よく階段を使って…見下ろしていた場所へと、降っていったのだろう。

ご案内:「落第街大通り」から神代理央さんが去りました。