2024/06/28 のログ
ご案内:「落第街某所 プライベートスタジオ」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
年代物のアコースティック・ギター。
乾いたコードストロークにハミングを重ねる。
アナログ/デジタルで、それぞれ短期・長期で録音機器を回しながら、
スタンド上の楽譜(スコア)に、形になりきらぬ音が記される。

「………………………」

消音(ミュート)
アナログテープマシンの録音スイッチを停止して、
一番上の一枚を手に取り上げながら、座っていたベッドに背中から倒れ込む。
天井と自分の間に置かれた、新たに()まれようとする世界を眺めた。

ノーフェイス >  
夜をともにして、ふれた彼女のかたちをなぞるようにして。
あのとき懐いた熱と、放たれなかった欲望の反芻(リフレイン)
いまでも――もどかしい衝動が下腹部に渦巻くような、
ブラックコーヒーより深い夜。
胸元、首筋によみがえる、生暖かい舌の感触。

「……………」

疲労と憔悴の極限で、あのあとは泥のようにねむった。
色々あって、打ち上げの予定を延期し、こうしてアジトに戻って爪弾いている。
ぬくもりややわらかさが消えるわけではないだろう。そうしたかったのだ。
スタッフもメンバーも、それぞれが個人であり、仲間で、ビジネスパートナーだ。
個々人の意志があり、そして配慮があった。いいのが来たといえばわかってくれる。
決して自分の手足や部品ではなく、そこに利害の一致と共鳴がある。

「ふしぎ」

フルアコの空洞にも響かぬような小さなつぶやきとともに、五線譜に舞う音をみる。
鋭くざらついた、キレたゴアとグロウル……
軋み、奪い、奪われる危険なラウドを紡いだものか。
あるいは重く落ち窪んだ、地響きのように暗くも、
聖歌(ゴスペル)の側面をそなえたような。

そのどれも違った。

扱おうとしている主想(テーマ)に対して、
誕まれた旋律は――あまりに浄く、やわらかく、そして優しかった。

ノーフェイス >  
殺人鬼(かのじょ)がなぜ落第街におとずれるのか、
その疑問は重なり合ううちに熱でもって解けて、
汗とともにシーツに吸われて、やがては乾いていった。

酸鼻なる悲嘆、残虐なる猟奇、融けるような愛に、清算と赦し。
語られる物語は単独の主観を通しながらもひどくバリエーション豊かで、
だからこそ他者依存という印象を、まどろみのなかで懐いたのだ。
自己肯定をしながらも自己評価が低いような、不思議な感性だった。
あの姉妹はやはり同一に思えた。人間は誰も多面を備えるから。

芸術はすばらしい(・・・・・・・・)などといわない。
それらは常に作者と大衆の間に育まれる、ごく普遍的な文化(カルチャー)だから。
100年ちかくむかし、それ(ロック)であるというだけで特別だった切符(・・)は、
それが広く認知され信仰(・・)されていくにつれて、
あまりに人々の身近に寄り添いすぎて刺激性も独立性も失われていったという。
自分が音楽にふれたのはそう(・・)なったあとのことだった。
ゆえに()はもう生まれ得ないと、そう語った男もいた。
身近(カジュアル)大衆的(ポピュラー)な――音楽、とはそうした芸術になった。

『大変容』によってめちゃくちゃになった世界をつなぐために、
加速的進化を遂げたという通信技術は、
同好の士たち(ファンコミュニティ)の輪を世界の枠組みすら跳躍させ、
ゆえにこの世界に大量に現出した異能、魔術、異世界、怪異といったものが、
単なる現実(・・・・・)になってしまった現代において、
アーティストから神秘性を奪い尽くし、大衆を真に信徒から客であり価値基準と変えた。
黄金の夏は終わって久しく、商業主義かそうでないかの、
アクセサリのように音楽を愛好するものたちの意地の張り合いすらむなしいほど、
盲目な神秘をそこに求めるのは、的外れな行為だ。

ゆえに、たいせつなのは、ふるえ(・・・)……そして()
それだけだった。

ノーフェイス >  
翻って、閉じれば閉じるほど(・・・・・・・・・)神秘性は増すのかもしれない。
彼女は同好の士をもとめて言葉を重ねていただろうか。
そうではない――とは、思う。はねのけることはせぬまでも。
自分だがわかっていればいいと、愛していればいいと。

同担拒否(・・・・)、っつーんだっけ……」

ぼんやりと、どっかできいた言葉を口にのせた。

独占欲――自分に存在する強い感情と重ねて、寓意化して解釈したものだが。
美を見出す彼女(もの)死にゆくものたち(芸術家)との間にだけ生まれ出でる文化(カルチャー)は、
そこに禁忌の領域をつくりだし、彼女のなかにそっと閉じ込められた。

理解することはなかった。
死に敬意はあれど、やはり何らかの結果として見てしまう自分は。
だが、社会が認めずとも、美を見出す感性そのものは決して否定されてはならない。
斯くあるべしをさだめたがる(・・・・・・)衆愚の声にまどわされずに。

殺人鬼(かのじょ)が死を芸術たらしめる。

論理的な帰結だった。そこだけで完結していれば良いものだ。
あの毒々しい花と自分の間にだけ生まれたものがあったように。
広くなりすぎた世界のなかに生じた、極小の芸術文化(クローズドカルチャー)
生の欲動に突き動かされる自分が、踏み込むことを赦されなかった花園。
だがそれでいい。いまになって思う。
自分は、自分にないものに嫉妬する。

「キミの美的感性(あい)を、ボクは妬んだんだ」

懐き得ぬもの。あまりに遠い裏側。

ノーフェイス >  
体を起こす。サイドボードのロンググラスを手に取った。
手ずから搾ったオレンジジュースにガムシロップを多めにぶち込んだものだ。
リンゴの時期は遠いし、今はこれがいい。勢いよく傾けて喉を潤す。
グラスをキンキンに冷やしているので、氷はいれていない。薄くなるから。

「………………」

弦のうえを指が滑った摩擦音。
それでもすぐに音にはしない。

渾身作の『The Edge(ジ・エッジ)』――自分をより高めた、あの剣持つ少女という断片(ピース)が。
自分という人生がかちりとハマって誕まれ出でたもの。
識りたい、という自分にとっては手段であるものを目的としている、似て非なるがゆえの共鳴。
青天の霹靂だった。自分があの時、木材目当てにひょいと登山しなければこの手に掴むこともなかった。
刃。

高次へ足をかけた――つぎなる断片(ピース)。殺人鬼。死に美を見るもの。
不透明に、粉っぽく甘く、安らかで、柔らかな音。
そう――完全なる死ではなく、完全なる殺人鬼の再現でもなかった。
自分がうたうなら、そこにノーフェイスは介在し、偏在する。そうでなくては意味がない。
興ざめな現実性だけで構成された、あの時(・・・)から変わり果ててしまった世界において。

殺人鬼をとおして死をうたう――挑戦。

眼を閉じる。
死。

  >  
 
 
 
背後から眼を覆うおおきな掌。

頸にからみつく冷たい十の指。

うちがわから胸を叩くおわり。
 
 
 

ノーフェイス >  
 
 
 
散弾銃。 
 
 
 

ノーフェイス >  
「―――――、」

迎えたくない、死のかたち。
おそれ(・・・)。自覚していなかった、自分の側面。

うれしいね(・・・・・)……」

その一瞬だけで、ぶわりと吹き上がった汗を、手の甲で拭った。
すっかりつなぎ合わされ、痕のなくなった膚が、
しかし忘れたくないとばかりにずきずきと痛む。

だがそれでも。それはきっと、
悪くない(・・・・)、と思ってしまうほどの――

だから――こんな旋律が、生まれるんだろう。
らしくない。
ゆえにこそ、進化。

ノーフェイス >  
 
 
 
 

ノーフェイス >  
「ぅひゃ……!?」

びくーん、と肩が竦んだ。
気づけば床やベッド、そこらじゅうに散らばった楽譜のなかで、
時間も忘れて向き合っていたから、不意に他者からの介在を受けた。
人には聴かせられないような声が出て、思わず誰もいないのに唇を手で覆った。

これも聴こえてやしないだろうな、と――
窓を見た。朝方からやってたが、きづけば陽もくれかかっている。
何杯めだろう。飲みすぎたオレンジジュースを干した。

「……電源切れないのがほんとうに難儀だな。
 お楽しみ中にやってきたら、さすがに怒るからな……?」

まあ、でも。
煮詰まってきたところだ。
ある程度形になってきたからこそ、それを今度は磨かなければならない。

『――いつ?どこ?
 キミからのお誘いなんて嬉しい。なんなら、いいホテル知ってるケド』

立ち上がる。
シャワーを浴びよう。汗じみて、ひどく疲れた。
明日にむけて。どうしようもなく生きていた。

死という断片をこの手に。

ご案内:「落第街某所 プライベートスタジオ」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」にエルピス・シズメさんが現れました。
エルピス・シズメ >   
「んもう……」


 落第街の一角。
 角材を下ろして一息ついた少女のような少年が一人。

 入った所で柄の悪い生徒に絡まれ、ちょっとした組み手になったのだ。
 数分程戦った所で去ってしまったので、今に至る。

 たぶん、ただの血の気の多いだけの生徒だ。
 一旦、そのように判断した。

「治安が悪いのは知っていたけど……。」

 機械の腕をぐりんぐりん回して示威しつつ、大通りの隅を歩く。


「改めて見ると、やっぱりすごいね……。」

 臭い、声、音。
 どれをとっても小奇麗な表通りとは違う。
 
 売っている食物も由来の分からないものばかりに見える。

エルピス・シズメ >    
「既視感が強いから来てみたけれど……
 ……何回かに分けてこないと、隅々まで回れないね……」

 どうしたものかと途方に暮れる。
 とにもかくにも、この通りは情報量が多い。
 少女のような少年は、そのように判断した。
 
 通りを歩きながら、ふと、既視感の一つを思い出す。

「……僕が公安委員会や風紀委員会だったら、
 積極的に指導してたのかな。それとも甘い奴って思われていたのかな。」

 "どっちにしても、向いていなさそう。"
 憂鬱と安堵を足して割ったような溜息をついた。


「ひとまず、どうしようかな。
 暫くは警戒しながら散策を続けたいけど……。」

 情報上は"歓楽区街の一部の扱いになるのかな。"
 そんなことを考えながら薄暗い道を歩く。

エルピス・シズメ >    
露店の一つ、謎のケバブが売られていた。
強いスパイスの香りは落第街に劣らない強さで食欲をそそる。
とは言え、見るからに不衛生そうだ。そして以上に安い。
 

「美味しそうだけど、ちょっとお腹壊しそうかな……」

 一旦見送ることにした。
 試す勇気がなかったとも言える。

 第3の腕をぐりんぐりんと回して道を征く。
 雑多さに戸惑うし迷うが、思ったよりも自然に歩けている。

(ちょっと不思議。)

 これも既視感の一つなのかな。
 そう思いながら危険を冒しながらも落第街の道を歩き、頭に入れておく。

 

ご案内:「落第街大通り」にカエルムさんが現れました。
カエルム > 落第街の露店の一つ。小柄で目付きの悪い少年。

「へいらしゃーい、やすいよー」

本を読む傍らでひたすらに棒読みで呼び込みをする。
心の底からものすごく嫌だがこれも生活費の為だ。
…というか、幾ら顔見知りかつ緊急だったからとはいえこれで多少金になるものだから意外とチョロい、というヤツなのかもしれない。

「はぁ。全く、ちゃんと報酬払うって言うから仕方なく受けたケド、店番なんてもっと愛想の良いヤツ雇った方がいいんじゃないの」

急用が出来ただかで既にこの場に居ない雇い主に向って愚痴をこぼしながら

「やすいよー」

変らずの棒読みに本に落した視線と一定の速度で捲られるページ。やる気は一切無い。

エルピス・シズメ >   
 やる気のない声が聞こえ、意識を向ける。
 落第街で怠そうに出来る人間は相応に余裕のある人間だ。
 既視感を覚えた気もした。……流石にこれは気のせいだろう。認識を改める。
 
「こんにちは。ここは、何かのお店?」


 丁寧な仕草で近寄り、怠そうな店番に声を掛ける。
 とりあえず危険はなさそうなので、警戒は解く。

カエルム > 声を掛けられたが本から視線は上げずに少年は文字を追い続ける。
気配と声色から少なくともよくある“吹っ掛けられる”というやつではない、と判断をした。

「あー。そう。ボクは店番頼まれただけだケド」

売り物の説明は一通り店主に聞いた通りにそらんじる。
これが骨董市なら多少は興味も沸くものだが残念ながら食物の屋台である。上に何処にでもあるような物。故に関心はあまりない。

エルピス・シズメ >   
「店番? お人よしだね……」

 反射的に言葉が漏れる。
 落第街の大通り、出自不明の食物屋台。
 その上でやる気のない少年を使う。

 たぶん、"ここに誰かいること"が大事なのだろう。
 当たってるかどうかも分からない推察めいた妄想を膨らませ、一人で納得する。

「とりあえず、この分で適当に包んで貰えるかな。」

 紙幣を取り出し、適当に食物を見繕って貰う。
 お腹を壊したらその時はその時。
 
 カエルムの身なりを態度を改めて観察しながら応答を待つ。
 遮るか受け取るまでは注がれる視線は、人によっては“ジロジロ見られている”と思うかもしれない。
 

カエルム > 「…は?」

お人よし、その言葉に思わず視線を本から上げる。
眉間に寄った皺が更に深まる…が、不快というよりも意図を計り兼ねる、といった表情。

視界に映ったニンゲンの温和な雰囲気を見て納得する。
「ああ、自己紹介か」
おそらく通常の人間ならギリギリ聞えない声量。

差し出された紙幣に流石に本に栞を挟み、受け取る。
適当に、と言われてもな、なんて思いながら店主の説明を思い出し、眼の前の相手を見、ここへ来る前の仲間の好きな食べ物なんかを思い出し。
四苦八苦、といった様子でなんとか金額分きっちりと包んで渡す。

「………何」
観察されているような視線に低い声で問う。不機嫌なのは通常運転。

エルピス・シズメ >          
「あ、ごめん。つい癖で……」
 
 感情を隠さない声色に反射的に謝る。温和なニンゲンらしい仕草だ。
 なので、注ぐ視線を逸らすよりも謝る声の方が早かった。

 呟いた声には、反応する素振りはない。

「店に来て何も頼まないのもシツレイって言うのと、あとは……
 ……そうだね……何かこの辺で変なこととか、最近話題になってる話とか、気を付けた方がいいこととか、ある?」

 風紀委員に聞かれたら『全部』と言われそうな大雑把さだ。
 
「僕、なんか忘れっぽいみたいでね。思い出しがてらに色々歩きまわることが多いんだ。だから聞いておきたくて。」

 厳密にはちょっと違うのだが、説明は省く。
  

カエルム > 「はぁ…。別にいいケド」
正直謝られると対応に困る。驚いたものの納得したのでそれ以上の興味はない。

「あぁ、なるほど。だったら…」
つらつらとこのあたりでも特に危険度の高い地域の話などを羅列していく。
「…とまあ、挙げていくとキリないんだケド、まだ聞く?」
荒事は得意じゃないケド用心棒なら請け負ってあげようか、なんて営業もかけてみたりもする。

「忘れっぽい…ねえ、ま、どうでもいいケド」
相手の言葉選びの違和感には目を瞑る。突っ込んで面倒事になっても困る。

エルピス・シズメ >     
「ごめん……」

 また謝る。そういう気質なのだろう。

「本当にキリがなさそう。でも助かるよ。用心棒も今のところ平気。」

 微妙な空気があったかどうかはさておき、列挙された情報を頭に叩き込む。

 ……ドンパチの多い地域やら、危険度の高い区域の情報はありがたい。
 噂話や広報されている警告情報と突き合わせれば、おのずと見えてくるものもある。
 そんなことを考えながら会話を続け、相手が敢えて目を瞑ったと判断すれば適当な所で身の上話を切り上げた。
 
「うん。食べ物もちゃんとある。改めてありがとう。
 ……ところでこれは単純な興味なんだけれど……何を読んでるの?」

 何となく気になった。
 視線を注ぐと嫌がられそうなので、聞くに留めている。

カエルム > 「はぁ」
思わずため息が出るがはたと止まる。
「いや、もう謝らなくていいから」
善良なニンゲンを相手にするのはいつも調子が狂って仕方がない。

「あ、そ。別にいいケドさ、無視して変なところに突っ込んでいくとかされても責任取れないから」
興味の有無に関わらず情報は耳に入る。それで情報提供相手が何かに巻き込まれた、なんて話は単純に寝覚めが悪い。

「は? …あぁ。はい」
本を少し持ちあげて表紙が見えるようにする。
………島外の観光ガイド本のようだ。
「…あのさ、勘違いしないで欲しいんだケド、こういうのばっかり読んでるワケじゃないから」
雑食読書家でありガイド本はこの世界を知るのに丁度いい、それだけである。

エルピス・シズメ >   
 天丼が揚がるほど繰り返すこともなく、謝る言葉もここで止まる。

「そこは大丈夫……だと思う。
 お互い名前も身の上も名乗ってないし……。」

 そこまで言って何かを自覚して、ほんの少し寂しそうな顔をした。
 純朴さとしたたかささがチグハグだ。

 持ち上げられた冊子を目で追い、表紙を確かめる。
 彼の言う通りの本と認めた。

「そっか、島の外に興味があるとかじゃなくて色々読むんだね。
 ……不要な本もここには流れ着きやすいのかな。」

 言葉を信じているのか、"暇つぶしに色々な本を読む"ぐらいの認識らしい。
 全体的に疑う素振りはない。

カエルム > 「ここに居る以上学園の関係者デショ」
調べればいくらでも辿れる、と言外に含めつつ。
…実際は面倒だし必要もないのでやらないのだが。

「知らないことを知りたい。誰にでもある欲だと思うケド」
それを手軽に知ることができる、故に本は良い。
…もちろん、百聞は一見に如かずだというのは数々の冒険で痛いほどに知っている。
それでも、知らずにはいられない。

「あのさ、これは無料で教えてあげるケド、人のコトジロジロ見るの、ここじゃヤメた方がいいよ」
なんていいつつちゃっかり落第街の情報料の請求をする。とはいえ先に有料だと伝えていなかったので無理なら無理で構わない、とは添えて。
…調子が狂う。いつもならもっと雑に情報料をもぎ取るところなのに。

エルピス・シズメ >    
「そうかも……。」

 否定はしないしできない。
 『否定できてしまった方が問題』と既視感を覚えている。

 いない筈の人間と自白していることになってしまう。

「未知への探求、知的好奇心だっけ。確か先生も言っていたような。」

 それが本能的欲求だったか、自我由来だったかまでは覚えていない。
 そんな話を聞いたことがある、程度だ。

「気が緩みすぎてた、ごめんね。で、えーと……
 そういえば、食べ物代を支払い忘れていたね。」

 本当はそんなことはないのだが、そういうことにして数枚の紙幣を上乗せする。
 このくらいのごまかしはなんとなく覚えている。自然なそぶりだ。