2024/07/08 のログ
■イーリス・ロッソルーナ > 電脳イーリス「そうなのです。体の不調を切り取って電脳世界の私に何事もない、というわけにもいかず……。体と心は切っても切り離せないという事ですね。このラボの電力はもう時期落ちますので、私も自分の体に帰ります。その時にいただきま……少し遅かったですか」
食料はあとでいただくという説明をしていると、エルピスさんがイーリスのお口の中に液状の栄養食を流し込んだ。
普通に喉を詰まらせて、咽て咳き込んだ。
電脳イーリス「呪いを通して、この状況を見られ……て……。い、嫌……です……そん……なの……。今は会いたくないです……。会いたくない……」
“王”へのはっきりとした恐怖を表したかのような震え声だった。イーリスの体も少し震えている。
呪いを通して状況を把握されている。考えれば分かる事だが、正常化バイアスが働き、いわば現実逃避していたところがあった。
他の屍骸はともかく、あの“王”に全てを知られているなんて、恐怖以外のなにものでもない。
いずれ“王”の討滅をしたいと願うけど、何の作戦も準備もない、それどころか容態自体が悪い状況で会いたくない……。
電脳イーリス「……そうなりますね。役割を終えたロボットです……」
エルピスさんが駆けつけてくれて、そしてその役割の全てを終えた。
ただ、この先余裕が出来て尚且つこの地下が無事だったなら、ちゃんと回収して新たに改造して使う予定。
電脳イーリス「申し訳ございませんが……行くアテがなく……。呪いがありますので……。サーバーにいるこの私は、体の方に戻ります。生命維持装置ごと運ぶのは大変……と言いますか、この建物に固定されているものなので運べませんね。代わりにあのテーブルに置いてあるアタッシュケースを一緒に持っていってください。中に私の命を繋ぐ薬品などが入っています。生命維持装置は十分私を治療してくれたので、それも役割を終えたという事になります。他は、メカニカル・サイキッカー含めて放置で大丈夫です。メカニカル・サイキッカーにはある程度稼働するよう動力を送っていますので、私にもう少し余裕が出来れば遠隔操作でここから脱出させます」
生命維持装置の拘束が外れ、意識のないイーリスの体がエルピスさんの方に倒れ込む。
電脳イーリス「……問題は行くアテ…………。ノープランで申し訳ございません……」
■エルピス・シズメ >
「あっごめん!?」
慌てて止める。
初歩的なミスだ。
動かせる範囲で胸元を少し叩かせて貰って、なんとかケアする。
喉を詰まらせた結果で紅きゾンビ化でもしたら、流石に笑えない。
「大丈夫。僕が何とかするから。」
安堵をさせるためだけにそう告げる。方便だ。
「それにきっと、『爆弾で遊ばれている間』は大丈夫だよ。
……ムカつくけどね。」
(いちばんこわいのは、爆弾をどうにかする瞬間。)
"それが故の懸念は口に出さない。"
"きっと怖がらせるだろうから。"
内心で想うに留めて、話を続ける。
生命維持装置は持ち運べないらしく、サーバーの人格も肉体に戻した。
そうして僕の手元に居るのが生命維持から外れたイーリスだ。
急いでテーブルの上のケースからアンプルを取り出し、一本打つ。
第3の腕でバックパックを取り、アタッシュケースも閉めて回収。
「アテがないなら、分かった。都合がいいのか悪いのか、"一個アテを思い出した。"
僕の事情は置いておいて、行先を告げるね。」
両手でイーリス、第3の腕でアタッシュケース、背中にバックパック。
重さを認めながらも救出すべきイーリスを落とさぬように抱きかかえ、小さく呟く。
「僕が『公安から離れ、落第街で便利屋稼業をやっていた』時の事務所を使う。
そこなら電気も物資もある。……思い出したくなかったけど。」
落第街の路地裏の通りの一つ。
何処かの『エルピス』が公安を嫌って辞職し、落第街付近で『数ある便利屋』稼業を行っていた拠点が在る。
長らく手入れされていないが、使える確信がある。
「そこで、いい?」
■イーリス・ロッソルーナ > 「げほっ……げほっ……」
エルピスさんに胸元を叩いていただいて、イーリス本体が咳き込み、吐き出そうとしている。
電脳イーリス「の、喉を詰まらせた時に、電脳世界の私もノイズが走り消えてしまいそうになっていましたが……無事です。適切な処置、ありがとうございます」
電脳イーリスもちょっと苦し気な声だった。
電脳イーリス「エルピスさん……。ありがとう……ございます。とても……安心できます……。……あなたが傍で励ましてくれて……とても……」
震え声が少し和らぎ、そしてどこか安堵したような、それでもやはり恐怖自体は消え去っていないような、そんな声。
電脳イーリス「……私の藻掻き苦しむ様を楽しんでいるのかもしれませんね……あの“王”……。本当に……腹正しく思います……。“王”め……」
不安の中に激しい怒りを感じさせる声。
イーリスが電脳世界から消えて、そして自分の体に戻る。
その瞬間、イーリス本体の表情が険しいものに変わった。
「ぐ……。はぁ……はぁ……。エル……ピス……さん……。改めて……助けに来てくださりありがとうございます……。あなたが来てくださなければ……私は……」
本体が双眸を開けた。左目が正常な青、そして右目が禍々しい赤色だった。無茶な戦い方をして体の所々が溶けて、体内に異常を起こし、そして感染と呪いによる苦痛。
体に戻れば、それ等がより一層イーリスを苦しめていた。
しかし、安堵するようにエルピスさんに凭れ掛かる。
薬品を投与してくだされば、イーリスの顔色が少しよくなった。
「……感謝です。なんとか……生きながらえるよう頑張りましょう……。呪いになんて……負けません……。ぐ……」
全身の紅き文様が輝く。それでも、イーリスは食いしばり耐える。
イーリスの重さは、外見から想像できる程度のもの。10歳の少女、そう重たいものでもなかった。
イーリスは少し前までちょっと震えていた。“王”を恐怖するようにして。しかし、エルピスさんが抱えてくださればその震えも止まっていた。
「エルピスさんは元々公安だったのですか。エルピスさんにとっては……あまり都合の良い場所ではないのですね……。申し訳ございません……。このご恩は……エルピスさんの腕のメンテナンスで……。いえ……それだけでは返せない大恩を受け取りましたね……」
そこでお願いします、と小さく頷いた。
■エルピス・シズメ >
「ほっ……」
あぶなかった。
次はちゃんと落ち着いて話を聞こう。
内心でしっかり反省する。
「だけど、その愉悦は"それはイーリスちゃんだけが突ける隙。"
強い感情は時に判断を狂わせる。それこそ、命すら優先しちゃう。
……だから理性を強く持って、生きて、イーリスちゃん。」
妙な言い回しで答える。
彼なりの持論で励ましたつもりなのだろう。
「……うん、良かった。
予想の何十倍も危なかったけど、何とか間に合った。」
イーリスの姿を確かめる。
苦悶の表情に目を背けたくなるが、逸らさない。
歪な紅の模様と溶けた身体、露出した機械部品が痛々しい。
"両の手に伝わる痛みが、呪いなのか共感なのか分からない"
「だったみたい。トラウマみたいなものだしツテも途絶えてるから、気にしないで。
それはそれで、今はイーリスちゃんのことが優先だから。」
話題を断ち切り、役目を終えた生命維持装置から背を向ける。
「僕のエゴだから、恩なんて……」
固辞しようと思ったが、かつて出会った"ファレーマン先生"の言葉が脳裏をよぎった。
サンタのようなひげが特徴的だったのと、真面目な話だったのでよく覚えていた。
(「君が誰かを助けた時、"過度にお礼を固辞する"事は止しておきなさい」)
(「そして誰かに助けられたら、無理の無い範囲でしっかりと"お礼"をしなさい」)
固辞の言葉を吞み込んで、彼女の謝恩を受け止める。
「うん……事が全部済んだらメンテナンスしてね、約束だよ。
足りない分は……そうだね、グレードアップして貰うことにするよ。
埋蔵金センサーを入れて貰うのもありかな?」
軽口を叩いてから走る姿勢に移行。
ここから先はエルピスの事務所までのタイムアタック。
「それじゃあ行くよ。
動けるようになったらの話だけど、拠点にあるものは自由に使って良いし、
外出も書き置きしてくれれば大丈夫。埃臭いのは我慢してね。」
反応を見てから、走ってこの場を立ち去る。
じっとしていれば落第街の裏通りの路地にある『エルピス』の拠点までたどり着き、
アンプルと鎮静剤、それと食糧などを改めて提供するだろう。
■イーリス・ロッソルーナ > 「……“王”の愉悦が隙。なるほど……そういった方面で考えていなかったです。ありがとう……ございます……エルピスさん。そうですね……私は、呪いなんかに屈しません……」
エルピスさんの励ましに勇気づけられ、苦し気な表情ながらも微笑んでみせた。
間に合った、という言葉に、改めてエルピスさんに感謝を──。
“王”に負けたけど、エルピスさんのお陰でなんとか微かな希望に繋げる事ができた。
だったみたい、という妙な言い回しには首を傾げてしまう。何かが原因で曖昧な記憶になっているのだろうか。ともあれ、エルピスさんの嫌な思い出を掘り起こしてしまっているようだ……。
「本当に……何から何まで感謝でございますよ。お任せ……ください。エルピスさんのお望みのままグレードアップしましょう。埋蔵金のセンサーを入れるなら……ついでに腕がドリルに変形するよう改造しなければ穴が掘れませんね。ちなみに、結局……埋蔵金センサーは一切反応しなかったのですよ」
埋蔵金で一括千金計画は、物の見事に失敗していた。グスン。
本当にあるのでしょうか埋蔵金。
「自由に使わせていただいて……よろしいのですか!? 今この状況では……本当に助かります、ありがとうございます。では、外出は書き置きさせていただきますね。むしろ……私としてみれば、屋根があるだけでも天国でございますよ」
そうしてエルピスさんにこの電力を失って崩壊するラボから運んでいただいて、彼の“拠点”にお邪魔させていただく事になった。
なお、ちょうど二人でラボ部屋を出た時、地下の全ての電力が落ちる事となる。
ご案内:「戦闘の跡地」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「戦闘の跡地」からイーリス・ロッソルーナさんが去りました。