2024/08/07 のログ
ご案内:「落第街」にDr.イーリスさんが現れました。
ご案内:「落第街」に九耀 湧梧さんが現れました。
Dr.イーリス > 月が昇りし夜。落第街の一角。
手入れがされていないため雑草だらけの公園。
右脚が欠損しているため機械の車椅子に乗るイーリスは《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》を動かし、その巨大な腕で一人の青年を捕えていた。
青年は明らかに正気ではなく、機械の腕に捕まれながらも藻掻いている。

「完全感染しているようですね。今、安らかに眠らせてあげます」

イーリスは注射器を取り出す。
青年は既に生存している状態ではなかった。
紅き屍骸、それらが落第街やスラムに蔓延している。
この青年は、哀れにも屍骸の犠牲となり、そしてゾンビ化してしまった存在……。

公園近くの路地 > 車椅子の少女が注射器の中身を屍骸と化してしまった
青年に投与し切ったであろうタイミング。

公園から暫し離れた路地から、何者かが争うような音が響いて来る。
喧嘩、というには派手な音、そして叫び声。
誰かが戦っている、のだろうか。

様子を見ようとしたなら、路地から一人の青年――否、一体の屍骸が飛び出してくる。
駆け出して来た、のではなく、文字通り吹っ飛ばされてきたものだ。
派手な音と土煙を立てて地面を転がり、屍骸はそれきり動かなくなる。

――調べるなら、片腕が落とされ、袈裟懸けに深々と斬り裂かれた痕が残っているのが直ぐに分かるだろう。
恐らくは袈裟懸けの一撃が致命傷…既に死んでいる者に「致命傷」というのもおかしな事だが。
兎も角、間違いなく活動を停止している。

その間にも、戦いの音は路地の向こうから響いて来る。
少しずつ、その音は小さくなっていくが。

Dr.イーリス > メカニカル・サイキッカーが青年を取り押さえている間に、イーリスが青年に薬物投与。
青年は二度目の安らかな死を迎えた後、二度と屍骸として活動できないよう溶けてなくなった。
そんな事をしていると聞こえてくる派手な音と叫び声。

「この街ではよくありそうな喧嘩……いえ、今は紅き屍骸も蔓延していますからね」

先程まで、イーリスも紅き屍骸の青年と戦っていたという事にはなる。
車椅子を動かし、メカニカル・サイキッカーと共に様子を見に行ってみる。
すると、飛び出してくる青年。イーリスに搭載されているセンサーはその青年を屍骸だと判断した。

「ここにも屍骸がいましたか」

だが、何者かとの戦闘によって既に傷つき、動けなくなっていた。
死体を見れば、見事な切れ味で斬撃を刻まれている。
戦いはまだ続いるようだ。
メカニカル・サイキッカーがその死体を掴みながら、イーリスは戦いの音がする方向へと向かっていく。

屍骸 > 路地へ向かって歩みを続ければ、やがてその光景に
辿り着くだろう。

10体近くの紅き屍骸――中には蟻人の屍骸も混じっている――が、あるいは地に伏し、あるいは壁に
叩きつけられて、その活動を停止している。
そして、最後の一体が「それ」を成した者に飛び掛かり――逆に打ち下ろしを喰らって、叩き伏せられた。

それを以て、この場に動く者はいなくなった。
車椅子の少女と、屍骸を片付けた者を残して。

九耀 湧梧 > 「――む。」

屍骸の群れを倒し切った者が、そちらに視線を向ける。
赤黒い瞳が射抜くように少女を見据え、

「……どうやら、屍骸(こいつら)の同類、じゃなさそうだな。
念の為に訊くが、生きてるか、お嬢ちゃん?」

その問い掛けと共に、ひゅん、と、白刃の唸る音。
黒いコートに赤いマフラーの、右腕が和の鎧のような装甲で覆われた、30代程の男。

――噂には聞こえているかもしれない。
暫し前まで猛威を振るい、ある時期を境に以降ぱったりと、とはいかないが、
それ以前よりも話題に上る頻度が激減した、落第街やスラムの噂。

人呼んで、「刀剣狩り(ブレードイーター)」。
その男の特徴に、ほぼ一致する要望。

Dr.イーリス > そこにいたのは、屍骸の群れと戦い、そしてその屍骸の群れを倒した男性。
十体近くの群れを軽々く葬るその実力、とても強い方のようだ。

「お見事です。感染してはおりますが、ちゃんと生きておりますよ」

黒のコートに右腕の義手……。見事な剣捌き……。
男性の風貌を見て、心当たりがある。

「あなたはもしや、噂の《刀剣狩り(ブレードイーター)》ですね。道理で腕が立つはずです」

無双の剣撃もあの噂に聞く《刀剣狩り(ブレードイーター)》なら納得がいく。

「屍骸には厄介なところがありましてね。ただ動かなくしただけでは、屍骸はまた動き出す可能性があります」

メカニカル・サイキッカーが握っている屍骸にイーリスは注射器をうつ。
すると、屍骸の体が溶けてなくなっていく。

「このように完全に消滅させるなりしなければ、ゾンビなだけにまた蘇る可能性すらありますね」

九耀 湧梧 > 「成程、話も通じるし確かに生きてるらしい。」

するり、とコートの裏地から取り出すように鞘を引っ張り出し、手にした刀をすらりと収める。
音もない、静かな納刀だ。

「生憎、公安の怖いお兄さんに目を付けられてな。今は刀剣狩りは廃業してる。
それでも、あぶく銭目当てか、単純に魔剣が目当てなのか…襲ってくる奴等には事欠かないがね。」

だが、此処まで熱烈な歓迎は久方ぶりだ、と、少女が注射器で処理を行っていく屍骸を眺めて回る。

「成程、参考になった。今度からは内功込みで体の中から壊して置く事にしよう。
だが、感染はしてるが生きてる――とは、またけったいだな。
――――いや、」

其処まで口にして、何かを思い出すように顎髭をさする。

「…そう言えば、随分前にかなり大規模な騒動が起こってたな。
確か落第街(此処)で、ドローン飛ばして配信を行ってたって話だったが――」

確か、あの騒動は屍骸の脅威の再認識、という結末だった筈。
直接配信は見ていないが、それは無惨なものだった、と噂には聞いた。

「……あの騒動の渦中にいたのは、年端も行かない外見の少女だったと聞くが。
嫌な事を思い出させたら悪かったが…もしかしてお前さんが?」

屍骸への処理が終わったであろう少女に、そう声をかける。

Dr.イーリス > 剣術についてはデータでしか知り得ないが、刀を納める動きからも達人らしさがある鮮やかなものだ。

「最近はあなたの噂をあまり聞かなくなりましたが、自粛していたのですね。あなたは珍しい武器を多く持っていると聞き及んでおりますので、それに興味を抱く方は多いでしょう。私も魔剣は、研究対象としても興味を持っています」

一体薬で葬れば、またメカニカル・サイキッカーがまた一体、車椅子に乗るイーリスが注射器を刺しやすいよう巨大な腕でしっかり掴む。
次々と屍骸の処理を済ませていく。

「特に多くの屍骸を家臣にするアンデッドの“王”なら、簡単に屍骸を蘇らせたりします。紅き屍骸から攻撃を受けると感染する恐れもありますから、そういった意味でも紅き屍骸は厄介な存在になり得ますね」

イーリスは積極的に紅き屍骸を駆除しようとしている。保有しているデータもそれなりにあった。
屍骸処理が終わったあたりで、彼の問いには、こくん、と首を縦に振った。

「……随分とお見苦しいところをお見せしてしまいましたね。私が想定していた以上に、紅き屍骸が脅威な存在という事でした……。あの時に私は“王”に敗れて呪いをもらい、感染を拡散する次元爆弾をこの体に仕掛けられました。今では、色んな方の助けを借りてその呪いもかなり弱まっていますのでご安心ください」

この体に、と口にする時に、右手を自身の胸部にもっていく。

「申し遅れましたね、私の事はDr.イーリスとお呼びください」

九耀 湧梧 > 「生憎、直接見聞きした訳じゃなく、伝聞だがな。
大口叩いて結局手も足も出なかったとか、口さがない連中の陰口を時折耳にする事もあるが…。」

言いながら、処理の終わった周囲を見渡す。
綺麗さっぱり掃除も終わったようで、路地は綺麗なものだ。

「…ま、そんな事を陰でこそこそ言っている連中程、何か起こった時に泡喰って誰かに縋るタイプだろ。

お前さんのは飽くまでタイミングの問題だった。間が悪かった…と言った方が良いか。
その「王」とやらが出て来た日には、どっちにしろ大惨事だったと思うぜ。」

下手な慰めの言葉ではなく、どちらかというと単純な事実を並べるような言葉。
「間が悪く」彼女の所にその「王」とやらが現れただけ。
何かの歯車が違えば、別の誰かが同じような目に遭っていたというだけだ、という。

「Dr.イーリスね。悪く言う訳じゃないがまた大仰な冠を名前に抱えちまっているな。

湧梧だ。九耀湧梧。こっちこそ、名乗りが遅れた。」

軽く手を振り、名乗り返す。

「――ま、それがただの興味ならいいんだが。
魔剣と言っても、本当に色々さ。それこそ、取り扱いを間違えば大惨事を起こしかねないモノもある。
俺が刀剣狩りなんて仇名を付けられるような真似をしてたのも……まあ半分は、そんな事をするような
連中から、危険な物件を取り上げる為の個人事業さ。」

Dr.イーリス > 「……悔しいながら、大口を叩いて手も足も出なかった事自体は事実ですからね。落第街やスラムから紅い屍骸の脅威を取り払うはずが完全に裏目に出てしまいました……」

“あの時”の事を振り返れば、暗く視線を落としてしまった。だがすぐに、彼へと視線を戻す。

「……“王”が動けば大惨事、というのはその通りではありますね。あまりに、“王”の力が巨大すぎました…………」

彼の言葉は、的を射ている。
イーリスがどうこうしようが、屍骸側に“王”という巨大な戦力がある事は変わらない。
言い訳にしていいわけではないけど、“王”という戦力が屍骸側にある以上、いずれその脅威が迫るのは事実だろう……。

「……しかし、私が“王”を炙りだし、そして大敗した事実は変わりません。私の計画が裏目に出て被害を大きくした事も、あの戦いで私は仲間を大勢死なせて屍骸化させた事も……“王”により私に呪いがかけられた事も事実です……。だからせめて……私は必ず“王”を討ち滅ぼして終わらせます。しかし……」

“王”に敗れた後、“王”と再戦する準備を随分と進めてきた、その覚悟を込めた瞳で彼を見据えた。
しかし、だ……。その準備も完全ではない……。
まだあの圧倒的な力を振るう“王”に勝つには足りない……。
その不安もまた、イーリスの瞳に揺らぎという形で現れる。

「こう見えてしがない科学者でございますからね。湧梧さんでございますね」

自己紹介していただき、イーリスは微笑んでみせた。

「そう……ですね、特殊な能力を宿す魔剣ですから……とてつもなく危険な物もあるとは聞き及んでいます。刀剣を狩っていたのは、危険な魔剣を安全に回収するためでもあったのですね。それはとても立派でございますね」

感心するように湧梧さんを眺める。
同じ危険な魔剣でも、取り扱いになれている人が管理するだけでも大分リスクが軽減されるものだろう。
ただ魔剣の力に魅入られた者がその危険性を知らずに魔剣に振り回されでもすれば、瞬く間に大事件が起こる事だろう。

九耀 湧梧 > 「今言った通り、半分は、だがな。
オマケに風紀委員やらの後ろ盾がある訳でもなし。
お陰様で、とうとう公安まで噂が届いて怖いお兄さんが釘を刺しにやって来てしまったという訳だ。

ま、此処まで噂が広がったのはある意味「想定通り」だが。」

と、奇妙な口ぶり。
普通であれば、魔剣の回収に噂が広まるのは避けるべき事柄である筈。
具体的な噂が上れば、それだけ警戒を受けるであろう事が間違いない筈だからだ。

と、その間に巨大機械を従える車椅子の少女を、まるで値踏みするかのように鋭く見据える。
やがて出て来た言葉は、

「――成程。
一度は完膚なきまでにやられても、まだ心は折れていない、か。」

詳しい内容を見聞きした訳ではないが、手も足も出ずに生き延びてしまった事は、通常ならトラウマにもなるだろう。
呪いとやらをかけられたというなら猶更だ。
其処まで圧倒されれば、尋常であれば精神が折れて再起不能になったとて是非も無い事。
しかし、目の前の少女は尚も「王」とやらを滅すると言って憚らない。

どうやら、その辺りは黒いコートの男には興味深く映ったようだ。

「つまり、お前さんがその"王"とやらを討とうとしているのは、自分がやってしまった事への責任もあるって所か。
悪くはない。悪くはないが…ま、あまり気負い過ぎるなよ。
使命感は大事なもんだが、重い物を背負い過ぎて潰れたら本末転倒だ。」

年上の性というものか。ついこうしてアドバイスめいた事を口に出してしまう。

「――で、だ。
その口調からすると、まだ大将首を獲る確実な算段が立ち切っていない、っていう所か。

……そうだな。俺も、あの紅い連中には困らされている所もある。」

再び、赤黒い瞳が少女へと向けられる。

九耀 湧梧 > 「――此処でこうして顔を合わせる事になったのも、何かの縁だろ。

聞くだけは聞いてみる。返答については、まぁ今は深く考えなさんな。

俺に何か求める物があるなら言ってみな。」