2024/08/20 のログ
緋月 >  
「――――。」

繊細な事を訊いてしまった、と、心中で少しだけ後悔する。
この人も、立ち位置は違っても似たような経験をしたのだ、と。

「……。」

だが、そのお陰だろうか。
語られた話は、とても明確で、噛み砕きやすい内容だった。

「想いを、固めて…正面から……。」

諭されるような言葉を、自分でも繰り返し、口にする。
ふぅ、と一つ息。

「――すみません、知らなかったとは言え。恐らく繊細な部分に踏み込むような質問をしてしまって。
ですが、お話、とても参考になりました。」

ひとつ、深々と、折り目正しく礼をする。

「……実際の所、その人が死んだ――という、確たる証拠は、出ていないのです。
書類上は、生死不明・消息も不明。
その後の捜索でも、目撃証言は得られなかったと。

……ですが、その人が所属していたという学園の組織は…詳しい対象は不明ですが、
怪異との戦闘で、既に事実上、全滅していた、と…。」

小さく、歯を噛み締める音。
泣きだしそうなのを、我慢するような。

「……そんな扱いの人が、何の前触れもなしに、私の前に現れて。
最初は、「ファン」なのだ、と言われて…戸惑っていましたが、何度も関わる内に…決して、悪くないと、
思うようになって……そんな時に…生死が不明、探されても見つかっていないのだと…。」

顔を伏せる。
涙を堪えるように。

「――ただの、間違いだったら、それでいいのに。
もし…彼女が、生きていない人だったなら…どうして、私の前に現れたのか…。

もしも、害をなすような死人だったら…私は、彼女と、どう向き合えばいいのか…結論が、恐ろしくて…。」
 

エルピス・シズメ >  
「ううん。ちょっとびっくりしただけだか。
 僕はもう隠してないし、何とかなった側だから。」

 気負っていないことを強調して伝えながら、
 内心で、自分が恵まれていたことを再認する。

「そうだね。そもそもこの学園で死亡が確認される方が珍しい。
 故エルピスもそうだったし、ここ……落第街やスラムみたいな、
 存在しない筈の場所で死んだとすれば特にそうなりやすい。」
 
 思い返す。
 自分のもととなった故エルピスも、生死不明のまま放置されたと。

「最終的に、僕は故エルピスとしての死亡届を出した。
 ……死んだと認められることすら、幸福なことなのかもしれない。
 憶測だけど、誰かの死を確定するための労を割ける人間は、そう居ない。」

 死者として認められる。
 慰霊碑に乗る事すら出来ないことは、たぶん少なくはない。
 
 ……書類上の話にはとどまらない、もっと重要な問題が目の前の女性から告げられた。
 今にも泣きだしそうな瞳と空気を受け取りながら、一つ一つの感情を呑み込んで思考する。

「それは……わからない。お姉さんと、お友達の問題だから。
 害を成す存在であるかどうかも……お姉さんたちが決めること。でも、そうだね。」

「僕は、害を成すものが『もう害を成さない』のなら……
 ……いつか来るその時まで、目を瞑っても良いと思う。」

「害を成した事のない存在は、罪を犯した事のない存在は、この世に居ない。」

エルピス・シズメ >  
 
「裁かれない罪を、背負ったまま生きていくのも一つの生き方だと思う。」
 
 

緋月 >  
「罪を犯した事のない者は、存在しない……。」

告げられた言葉を、反芻する。
――確かに、そうだ。
誰であれ、直接間接・大小あれども、何かを奪い、何かの命の上で生きていると言っていい。
そういう視点では、罪を犯した事のない者など、いる訳がない。

「……ずっと、目を瞑る事は、多分…無理です。
その人が生死不明だと判明する前…彼女の事をもう少し詳しく知りたいと思って…誰かは口に出来ませんが、
公安委員の知り合いの方の手を借りました。
問題の人が、元々、公安委員だというので、その伝手で調べられないかと…。

今は、私と、その方の所で、話の流れが止まってますが…私が放置するなら、恐らくその方が
私の知らない所で、「片付け」にかかると、思います。」

つまり――目を瞑り続けて過ごす事は、とても、難しい。

「……でも、お話を聞けて、どうすればいいか…道の一つは、見えました。

まだ、そこまでの覚悟は…決まりませんが……出来るだけ、早い内に、準備は、終わらせます。

最期に、お互い、しっかり話し合って――――」
 

緋月 >  

「――――罪を犯す必要があるなら、それは、曲りなりにも、彼女を友人だと認めた私が、
手を下して、背負う必要が――あるから。

他の誰にも……人任せにすることだけは、できません。」 
 

エルピス・シズメ >  
「……そっか。」

 彼女の決断に小さく頷く。
 その道の在り方を、貴重なものを味わうようにゆっくり認める。
 きっと自分には出来ない決断を、彼女はしたのだと。

「お姉さんは、強いね。いつか来る『その時』がもうそこまで迫っているなら、
 そうできるのが、きっといいことだと思う。……とてもとても、大変な道とも思う。」

 他の誰にも渡さない、と言う決意。
 人任せにしないし、させない覚悟。

 大事な友人を、しっかり話し合った上で手を下す。
 断ち切るために、丁寧に積み上げる。

 彼女たちは、そうしなければならない

(……僕は、恵まれていたんだ。本当に、本当に。)

 自分と重ねる事すら烏滸がましい。
 
 彼女の決意は、眩く燃える緋色の焔の様にも見えれば、
 鋭く冷たい刀の様だとも、肌で感じ取れた。
 

緋月 >  
「いえ…お話が聞けなかったら、どうすればいいのか、まだ迷っていたままでした。
本当に、ありがとうございます。」

改めて、再び頭を下げる。

「――名乗るのを忘れていて、すみません。
私は、緋月と申します。

もし不都合でないなら、ご連絡先を教えて貰ってもいいでしょうか?
全てに決着が着いた時――改めて、報告と、今日のお礼が言いたいので。」

ごそ、と書生服の中から取り出したのは、生徒手帳。
それも最新型のオモイカネ8。偽造品や横流し品の類ではない。
正真正銘、学生の立場のようだ。

エルピス・シズメ >  
「気にしないで。でも、どうしたしましてかな。
 こんな形でも、僕の歩んだ経験が、少しでも参考になったのなら嬉しいから。」

 礼を受け止め、柔らかく笑ってみせた。
 お礼は固辞せず、素直に受け止めることにしている。
 そう教えてくれた恩師が居る。
 
「緋月さん、だね。
 ……ん、大丈夫。ちょっと待ってね……。」

 緋月の生徒手帳──最新型のオモイカネ8を認め、自身もオモイカネ8を取り出す。
 彼の持つオモイカネ8も正規品だ。ただ、使用感は少ない。

 それだけ、最近は表の立場として過ごす事が、少ない

 使い方を思い返しながら、連絡先の交換の準備を進める。

「あったあった。えっと……連絡先の交換はこうだっけ。
 ……どう、できてる?」
 

緋月 >  
「――はい、大丈夫です。
えと、連絡先を相手に送るのは…。」

お相手が同じ生徒手帳を持っているのは有難い。
かつての機界魔人との最後の戦い、その後にしばらく入院を余儀なくされた時に、
これを貰ってから、使い方を勉強する時間は十分あった。
そのやり方を少しばかりたどたどしくも正確になぞり――

「…これで、送れている筈です、よね?」

何度か繰り返していても、相変わらず上手く送れているかは心配になる。
尚、連絡先はしっかり相手側に登録されている筈だ。
 

エルピス・シズメ >   
「うん。ばっちり送れていると思う。
 確認してみたけど、大丈夫そう。改めて……エルピス・シズメだよ。よろしくね。」

 正規の身分として、連絡先を交換し終える。
 交換を終えれば、大事そうにしまう。
 
「緋月さん達は、とても大変だと思うけど……
 ……頑張り切って、すべてがおわって、それから気持ちも落ち着いたら、
 美味しいものでもたべながら、ゆっくり話を聞かせて欲しいな。」
 
 僕ができないことを彼女を択んだ。
 その過程と結末は、択べない僕にとっても大事なものとなる。
 
 ……そんな気がして、その時が来る事を待ち望むことにした。
 その時が訪れるしかないのであれば、彼女の決断を軽んじない様に。

「僕はそろそろ戻るけど……緋月さんは帰り道、大丈夫?」
 
 実力的には問題ないだろう。
 そう思いつつも、一度物凄い方向音痴の生徒が迷い込んだことを思い出した。

(あの人も氷割りの時にいたっけ……)
 

緋月 >  
「こちらこそ、改めてよろしくお願いします。」

礼を告げつつ、自身もしっかりと生徒手帳をしまい込む。
内側にポケットでもあるのか、滑り出て来る事はない。

「……そうですね。
食事の席のお話に出来る位に、事が落ち着いたら。
その時は、改めて、ゆっくりと。」

ふ、と、少し憂いは残っていたものの、唇が小さく微笑みを浮かべる。
簡単に他人には出来ない話が出来て、気持ちが安らいだのだろうか。

「はい、大丈夫です。
方向も分かりますし、なるべく速足で、変な人に絡まれないように帰りますので。」

たん、と軽くジャンプ。
履いているブーツが乾いた音を立てる。恐らく、素早く移動できる手立てのひとつもあるのだろう。

「――今日は、ありがとうございました、エルピスさん。
では、またいずれ。失礼します。」

そう、別れの挨拶と、いつかの再会を約すると、すいと踵を返し、たん、と音を立てて風のように走り出す。
何らかの身体強化の異能か、あるいは魔術か。

ともあれ、風のように少女は去っていき。
残されたのは、彼女の怒りに触れ、仲間にも置き去りにされた、未だに泡を吹いているチャラい男だけ。
 

ご案内:「落第街大通り」から緋月さんが去りました。
エルピス・シズメ >  
「うん。またね。緋月さん。」

 風の様に去った緋月を見送り、振り向く。
 残っているのは気絶したチャラい男のみ。

「……放っておくのもなんかよくない気がする。
 近くでギフト貰ってた人が伸びてたし、ここから離した方が良いかな……」

 逃げていったあの3人はともかく、この一人は歓楽区まで運んでおこう。

 第三の腕で適当に持って、歓楽街の適当な場所に寝かせておく。

「よし、帰ろ。」

 騒がしい気配は大分落ち着いた。
 調査は切り上げて、帰路に着く。 

ご案内:「落第街大通り」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に蒼き春雪の治癒姫さんが現れました。
蒼き春雪の治癒姫 > "―――私の月白に、汚い手で触るな。"

その言葉を、反芻する。
どこか、遠くから"監視"していた誰か。

(つまり―――)

蒼き春雪の治癒姫 > (貴女にとって、私の手は、汚くない事を、意味する?)

目を閉じる。
零れる雫。

(……ごめんね。)

(本当はさ)

(私―――)

(貴女がさっき拒んだ誰よりも)

(汚い)

(汚い)

(汚い)

蒼き春雪の治癒姫 > (汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い―――――)
蒼き春雪の治癒姫 > 「おえ……」

……もう長くない。

そんな予感がした。

だからこそ―――

(最後まで、笑っていよう―――!!)

殺害欲を、抑え込んで、元気よく笑った。

蒼き春雪の治癒姫 > (せめて最後まで、綺麗なフリは、していられますように―――)
ご案内:「落第街大通り」から蒼き春雪の治癒姫さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に緋月さんが現れました。
緋月 >  
「……また、か。」

日の沈んだ落第街。その大通り。
確たる覚悟が定まらぬまま、ふらふらと歩いていたら、また此処についていた。
先日に騒動に巻き込まれたばかりだというのに、まるで懲りていない。

「……はぁ。」

小さくため息。
昨日のように、五月蠅い与太者がいない事が、正直有難い。
またあのように絡まれたら、今度は堪えが効かないかも知れなかった。
だが、誰もいないと、今度は思考の堂々巡りになってしまう。

「――いいや。」

堂々巡り、というのは、正確ではなかった。
実際は、自分に覚悟が……最後の一歩を踏み切る、あと少しの覚悟が、足りていないだけなのだ。

少し前の祭りで、先日の落第街で。
色々と会話を交わし、言葉を貰い、自分なりの気持ちは固まりつつある。

「……でも、やっぱり…。」

どうしても、覚悟が固まり切らない。
決意に、皹がある。
半端では――きっと良くない事がある。

――それにしても、静かな通りだ。
先日と同じ通り通りを歩いているとは、思えない。
 

ご案内:「落第街大通り」に紅き牙針蟻人さんが現れました。
紅き牙針蟻人 >  


       ズァンッ!!ズァンッ!!


 

紅き牙針蟻人 > 静寂。

それを唐突に切り裂く
"貫通の音"
何故斯様な地に静寂を齎したのかの
"答え"
が同時に視界に訪れる。

紅き蟻型の亜人が、

すれ違う人間を全てその鋭き槍の如き牙で射抜き、
殺していたのだ。
最近は何やら能力に目覚めた者が増えたというが
それが何だというのだろう

この万物を射抜く牙を防げようはずもなし

「邪魔だゾ~お前、下等種族(ゴミ)~」

殺した人間は

まるで当然であるかのように紅く染まり生き返る

それを、蟻はゴミと罵り蹴飛ばした。

緋月 >  
「……!?」

轟音に、思わず顔を上げる。
其処に居たのは、紅い色の、蟻のような姿をした、何か。
まるで人を人とも思わぬ暴挙。
そして――

(こ、殺された者が、生き返った…いや、黄泉還った!?)

不意に、以前に知り合いの教師から語られた言葉が、脳内で再生される。

『――あなたが会った■■ ■■■は、本物かしら、偽物かしら。
 人間かしら、それとも――

生きているように装った――屍人かしら

(――まさか、まさか、そんな筈は――!)

思わず、一歩。
一歩を、退いてしまう。


ざり、と。
下がった足が、思ったよりも大きな音を立てた。
 

紅き牙針蟻人 > 「おっ下等種族(ゴミ)だな~わかるゾ~」

音に気付いたのだろうか。
それとも、気配に気づいていたのだろうか。
禍々しい毒塗りの牙を持った紅き蟻は、
すぐさま貴殿へ向いた

「さっきから俺がぶっ殺してるトコ、見てんだろ?」

「いいゾ~」

見下した笑い
それは
己が圧倒的上位種族であることを疑わぬ傲慢

「もっと見てえだろ?」

「こっち来いよ」

「もっと近くで見せてやるゾ~」

決して友好的ではない言葉
だが、やけにフランクに
まるで見世物でもするように

毒に塗れた紅き2つの牙針を
槍のように煌めかせる

緋月 >  
――なんだ。

(……塵?)

――なんだ、この生き物は。

(…殺している事を、楽しんでいる?)

――いや、

(そもそも、)

――これは、

(この生き物らしい何かは、)


――――生きているのか?



その結論にたどり着いた瞬間。
驚愕と恐怖は、まるで暴風に晒された木っ端の如く、消し飛んだ。

代わりに、心に湧き上がったのは、

「――――蟲に言葉が通じるか分からぬが、一応、訊いておく。

これは――貴様が、やったのか。」


――――虫のような姿の怪物に対する、怒り。
 

紅き牙針蟻人 > 「お、そうだが」

それは、
いとも、
平穏な問答、
当然の如く答える。
普通の会話―――

「ついでにお前もそうしてやるゾ~」

―――なんて、するつもりあるわけなかった。
そうとも
殺す事こそ
最大
最高
の喜悦

故に殺す

会話の中に紛れ込むは不意打ち
激毒を潜ませた

"貫通針"が

貴殿の目下
会話するつもりであれば―――恐らく死角であろう点から飛ぶッ!


卑怯、卑劣、
なんなりと罵るが良い

何故なら
貴殿と"戦い"がしたいのではない

紅き牙針蟻人 >  
ただ。
殺したいのだよ。
手段は問わぬ。
故に死ねッ!

緋月 > 「――ッッ!!」

死角から聞こえた、風切り音。
それを聞き逃す程に、少女の耳は鈍くはなかった。
だが、届いたのが「寸前」であった事が、良くなかった。

ギリギリ、身体を動かして躱し――貫かれる事は、避けられた。
が、それは、「回避できた」を意味するものではない。

「…っ、痛ぅ――!」

左の肩。其処から、軽く血が噴き出し、地面を赤く濡らす。
完全な回避は成らず、肩を軽く抉られた。
加えて、

(この、感覚――毒か…!)

幸い、直撃を避けられたお陰で、毒による即死は免れた。
ぐらり、と、足元が毒によってふらつくが、死んでさえいなければ――大丈夫だ。

『……第一蓮華座、開放。』

しゃん、と、口から洩れる、鈴のような音。
それに続いて、口から響く、奇妙な呼吸音。
ホォォ、と、響くような音と共に、口から毒々しい色の煙が吐き出される。

蓮華座の開放と、耐毒の調息法。
それを組み合わせる事で、強制的に体から毒を排出する「裏技」。
蓮華座を長時間開放する訳にはいかないので、完全解毒とはいかないが、戦闘行動を行うだけの
解毒作用が得られれば、それで充分。

風が吹くような音が口から洩れ、蓮華座が閉じられる。
同時に、赤い瞳が紅い蟻人を見据え、

「――そうか、よく分かった。」
 

緋月 >  
次の瞬間。まるで、瞬間移動をしたかのように、己の刃圏に蟻人を捉えるまでに、踏み込む!

(居合は不得手だけど――この際四の五の言っていられない!)

直後に放たれるは、居合の横一線。
然して只の一閃に非ず。
ひとたび振るえば、無数の不可視の斬撃がその後を追う、異能の一太刀!
 

緋月 >  

これは、この生き物の振りをした何かは、
存在してはいけないものだ。
故に殺す。二度と生き物の振りを出来ぬよう、殺す。

手段は問わぬ。
黄泉路へ落ちろッ!!

 

紅き牙針蟻人 > 回避された。
その判断は、正しい。

今の貫通弾は、防ごうとしたら死んでいた筈だ。
何故なら、先ほど殺したやつらが
鼻にかけていた
完全防御の異能を
紙屑のように貫く程の
威力がある。

その様な、超常威力の牙の針。

だが捉えた。
当たった。

「いいゾ~」
「俺の毒は死毒(イヴィルヴェノム)っていうんだゾ~!」

「大体の人間ならば」

「毒が回れば15分で死ぬゾ~これ♪」

解毒によって、マシにはなろうが。
この毒は生物にとって
実に悪質なモノだった。

牙針蟻の毒は、「殺人蟻の毒」とも呼ばれている。

「ぐ…ッ?!」
(これは…ッ何だ?!)
(見えない何かに攻撃されたッ?!)

瞬時に襲う、不可視の斬撃。その群れ。
見えぬ。
だが理解する。
"これは、このまま喰らってはまずい"
と。

「―――ハッ!」

下等種族(ゴミ)がッ!!」

「俺の槍捌き、みたけりゃ見せてやるよォォ!!」

腐っても、そいつは蟻人―――
常世島本土襲撃を行った怪異、その超上位種

なんと

その瞬間移動に付いてくる

初撃のみを打ち込まれたが、
即座に二本の牙槍が、
"見えぬ"はずの斬撃を「貫く」。

「…ッ…」
「槍は、剣より強いゾ?」
「剣で槍と対等に戦うには、3倍の力量が必要だゾ~」
「俺の2本の牙針と戦うには、何倍の力がいるんだろうなぁ?」

だが、
発言している蟻人本人が理解する。
こいつはヤバイ。

不意を打ってなお劣勢ではないか?

先の見えぬ斬撃は、

"喰らってからでなければ対処が出来ない"

故に

"長期戦では確実に不利を取る"

故に

"即座に殺して終わらせる必要がある"

如何なる卑劣な手を使ってもだ。

如何なる…ッ

卑劣な…!
手段を使っても…!


下等種族(ゴミ)の肉壁♪」

さっき殺したガキの首掴んで盾にした。
1秒でも怯んだらその隙を見て追撃してやるッ

緋月 >  
「――

黙れ。」

酷く静かな、底冷えのする声が、能書きを垂れる蟻のような人のような「何か」の言葉を遮る。

「貴様も既に死んでいるのだろう。
貴様が殺した、そこな者達と同様に。」

根拠は、はっきり言って薄弱だ。
紅い色をした怪物に殺された者が、紅い色の死人になって動き出した。
ならば、それを行う者もまた死人のようなもの。
もしそうでなくても、「人を積極的に害し、死人に変える、危険性の高い存在」だ。
その時点で「生かして置く」必要性がまるで感じられない。

ちゃき、と、音を立てて、己の半身たる刀――月白を構え直した所で、

「――――」

何やら叫びながら、蟻のような何かが、死体を掴んで盾にしている。
 

緋月 >  

「――――

死んだ者は、

ただの肉と骨の塊だ。」
 

緋月 >  

                  ()

 

緋月 >  
躊躇もなく放たれるは、肉の壁など意に介さぬ、斬撃の異能。
斬り上げと共に放たれるは、「飛翔する斬撃」。
盾ごと、斬り裂く、無情の一刀。
 

紅き牙針蟻人 >  



         「 は ? 」


 

紅き牙針蟻人 > 愚かにも握りこんだ盾諸共。

その一刀で、二つに分けられた。

どさり
どさり

2つの屍骸がそこに落ちた。


あまりにも
あまりにも―――呆気ない一瞬。



紅き牙針蟻人は、死んだ。

紅き牙針蟻人 > ―――倒れた、2つの屍骸は、
もう起き上がることはない。

だが、
最初に刻まれた毒と
紅き感染が、
貴殿を苛むやもしれぬ

感染がどれ程の効果を齎すかは
貴殿の意思の強さ次第
無論、治療も容易かろう

さりとて、毒はどうだろうか―――



もうそれを知るものは、居ない(死んだ)

ご案内:「落第街大通り」から紅き牙針蟻人さんが去りました。
緋月 >  
「――――――。」

じわ、と、毒針による怪我を負った肩が、嫌な熱を持つ。
これは――恐らく、殺意。
完全に呑まれれば……碌な事にならないのは、理解出来る。

だが、今はそんな事はどうでもよい事だった。
まだ何人か、紅い死人となった者が動いている。

きり、と、口を噛み締める音。
ぽた、と小さな音を立てて、


――肩の傷と唇から血の雫が、赤い双眸から、涙が落ちる。
 

緋月 >  
「――――ごめんなさい。
ごめんなさい。

あなた方は、理不尽に巻き込まれて、命を奪われて、死の尊厳すら、踏み躙られた、被害者なのに。

それでも――――」
 

緋月 >  

「――――私は、あなた方を再び殺さねばならない。

あなた方は、生きていてはいけないから――――!」

 

緋月 >  
――静かな殺戮であった。

残った紅い死人は、一人残らず、首を刎ねられて、その動きを停止していた。

事を終え切った書生服姿の少女は、大きく息を吐き、思わずその場にしゃがみ込む。
――怖気のする感覚はいい。気力で何とでもなる。
問題は、毒だ。何とか応急的に排除したが、まだ体に幾分か回り続けている。
 

ご案内:「落第街大通り」に蒼き春雪の治癒姫さんが現れました。
蒼き春雪の治癒姫 > 「緋月様……ッ!」

心配そうな声
まるで、図ったようなタイミングで
それは現れた

恐らく
きっと


絶対に

"見たくなかった姿"だろう

その


蒼い、蒼い、雪柄は。

緋月 >  
「――――。」

聞きなれた、声がする。
ふらり、と、頭を巡らせば、駆け寄って来るのは――雪柄の着物を着た、蒼い少女。
良く知っている、彼女。

「………あ、」

名前を呼ぼうとして、姿勢が更に崩れた。
気が抜けたせいで、毒の回りが早くなったらしい。


(…………なんで、こんな時に、顔を見せに来てしまうんですか…。)

悲痛な言葉は、声にはならなかった。
 

蒼き春雪の治癒姫 > 「緋月様、しっかりしてくださいッ!!!」

「緋月様、緋月様ぁ…!!!」

泣きそうな声で、
崩れた姿勢を支えるように駆け寄った
抱きしめた。

(ああーーーバッカだなー私)
(黙って)
(知らない顔して)
(風紀委員とか誰かが)
(別の誰かが)
(助けてくれるように連絡すりゃいいだけじゃん)

(なんで)

(どうして)

蒼き春雪の治癒姫 >  


     (自分から、汚い手で触りに行った?)


 

緋月 >  
「あお、ゆき、さ――――は…れて…。」

毒が回り出したせいか、呂律が回ってない。
何とか、自身を抱き締める腕を解こうとするが、

「う、く――げほ、っ…!」

力が足りず、咳き込んだ拍子に、やや黒ずんだ血が、口から飛んで、
蒼い少女の頬と、雪柄の着物に飛んでしまう。

「ごめ、なさ――――ふく、よごし、ちゃ―――た……。」

もう、彼女に何かを問い詰めたり、探りを入れる気力は、少女からはすっかり飛んでいた。
身体に回る毒、何とか押さえ込んでいる怖気のする殺意、既に死んだとは言え罪もない人を斬った罪悪感。

それが、正常な判断力を少女から削っていた。
 

蒼き春雪の治癒姫 > 「……汚れて。など……」

小さく、呟く。
吐き出した黒く濁った塊など
知る由もないように。

「……失礼します。」

その濁り切った血液を掌で掬い取って、
目の前で飲み下した。
そして―――手を翳す。

蒼い雪色が、注ぐ。

「初めて会った時、言いましたよね」
「治癒は、得意だって」
「―――血液を代償に、いくらでも治癒することが出来るって。」

「緋月様」

「今、再び…お見せします―――ッッ!!」

(今からすることは。)
(……殺害欲の目的とは、おおよそ真逆)
(……こんな行為、"許されない"ッッ!!!)
(……だが、振り切れ―――!!!)

(振り切れェェェ―――!!!)

「……くうううううううう……ッッ!!!!!!」

全身に汗をかきながら
身を震わせて
明らかに"何かしてはいけない事"をしているような顔で
逆らうように、

貴女様に癒しを与えていく事だろう。

毒も
感染も
疲労も

全て取り除く
そうしなければならない

それがせめてもの

罪滅ぼしだ

緋月 >  
「あ――――。」

その感覚には、覚えがある。
確か、最初に会った時に、お世話になった力だった筈。

なのに、どうして、
あなたは、そんなに、

(――苦しそうな、顔を、しているの?)

まるで、何か、
そう、してはならない事を堪えながら、やっているような顔。

(どうして――そんな、かお、を――――)

癒しの力は安らぐ感覚を与える。
今まで毒に耐え、感染による殺意を堪え、精神の負荷に堪えた少女には――それは、少し、優しすぎた。

(だめ…このまま、眠ったら――――)

――二度と、会えない、そんな予感がする。


必死に意識を落とすまいと抵抗をするのも空しく。
書生服姿の少女は、心地よい眠りに落ちていく――。
 

蒼き春雪の治癒姫 > ぐふ、……
うぁ……

「緋月様」
「ごゆっくり」
「おやすみください」
「私も……少し、疲れてしまいましたので……」

大丈夫

まだ
会える
笑える

―――その回数は、刻一刻と減っているけれど。
眠りに落ちた姿を見て、蒼い雪は安心したように、息を吐いた。


なにも、安心できるような場所では、ないというのに。

ご案内:「落第街大通り」から緋月さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に九耀 湧梧さんが現れました。
九耀 湧梧 >  
書生服姿の少女が意識を失い、蒼い少女が苦し気な様子を見せてから、幾許か。
たん、と、誰かがその場に降り立つ音。

「――いいのかい、起こさなくて。」

問い掛けるは、壮年の男の声。

振り向けば、其処に立っているのは、赤いマフラーに黒いコートの男。
一際目立つのは、和の鎧を思わせる肩当と装甲で固められた右腕。

赤黒い、流れて固まった血のような瞳が、蒼い少女に向けられる。
友好的とは言い難いが、敵意は全く感じられない。
 

蒼き春雪の治癒姫 > 「……?」

誰だろうか。
そちらに、振り向く。
振り向いた顔は、何故だか青白い。
雪のようだ。

「……大変、お疲れの様、ですから。」
「今起こしては……」

すぐに感じられるのは
敵対的でもない
友好的でもない
紅いのでもない

それは少なくとも、現状を悪化はさせなさそうだった。
逃げる必要は…ないだろうか。

九耀 湧梧 >  
「――そうかい。」

蒼い少女に、黒い男は短くそう答える。
そのまま、凄惨な事になっているであろう場を、顔色も変えずに歩を進め、
眠っている書生服姿の少女に軽く目を落とす。

「…随分良く寝てる。よっぽど、お前さんの治癒の技が効いたんだろう。
偶然目に入った事とはいえ――恐らくは同門だろう剣士としての因縁って奴だ。

このお嬢ちゃんは、後で俺がこの街の外まで運んでおこう。」

そのまま、軽く蒼い少女を一瞥。

「――お前さんが少しばかり怪しい、って事は気になるが、
ま、このお嬢ちゃんを助けてくれた借りだ。
それらについては、俺の腹の内に納めて置こう。」

蒼い少女から感じた違和感については、口外無用とする、という宣言。