2024/08/22 のログ
Dr.イーリス > やがてご注文の品が届く。

「ありがとうございます。そうですね、いただきます」

やはり成人男性の方は食べる量も多いと、湧梧さんの前に並ぶお肉のお料理を束の間眺める。
スパゲティに手をつける前に焼き鳥を一串いただいた。
お口に焼き鳥を入れる。

「ここの焼き鳥、食べるのは初めてなのですがとても美味しいですね!」

おいしいものを食べて、笑みが綻んだ。

そうして先程の話の続き。
神妙な顔で、湧梧さんの話を聞く。

ショックかもしれない、その言葉にごくりと唾を呑み込んで、緊張した面持ちとなった。
続く湧梧さんの言葉に、イーリスは目を見開いた。
その双眸から、光が消える。

「……え…………」

焼き鳥とスパゲティの上に落としてしまった。

《月輪の王》が、まだ討てていない……?
まだ……《月輪の王》がどこかにいる?

「そ、そんな……ことって…………」

その声は震えていた。

「まだ……悪夢から覚めていないという事に……なりますね。絶望が……まだ終わっていないという事に……」

イーリスは自身の体を抱いて、全身が震えだす。
《月輪の王》が無事であるのは、単に可能性の話でしかない。
だが“王”がまだ無事である可能性、それだけで恐怖が蘇っていた。

九耀 湧梧 >  
「――すまんな。お前さんには酷な現実かも知れん。
だが、下手に希望を与えて後から突き落とす訳にもいかない。」

こつ、と小さな音を立てて、串だけになった焼き鳥一本を、皿に戻す。

「…これ以上については、考えられる可能性が多すぎて、俺にも絞り込めない。

《月輪の王》は「分裂する能力」を持っていて、お前さん方が倒した方はその片割れだった。
あるいは、お前さん方に倒される可能性を危惧した《月輪の王》が、どこかに予備…バックアップのようなものを
こっそり残していた。

……考えられる限り、最悪のケースが、お前さん方が倒した《月輪の王》が「分身だった」、という可能性だ。」

ごく、と喉を休める為にジンジャーエールを一口。
息を吐き、少女が落ち着くのを待って、質問を投げかける。

「…紅い屍骸は、死んだ者に感染してゾンビのように動く存在、だったな。
直接対峙したお前さんなら、何か――違和感みたいなものを感じはしなかったか?
本当に、何か些細な事でもいい。」
 

Dr.イーリス > 「……いえ、湧梧さんの推察を聞けてよかったです。ショックは大きいながら、もす《月輪の王》がまだ滅されていないというのなら、その現実は受け止めなければいけません……」

体の震えを止めて、一旦深呼吸。
もし《月輪の王》がまだ討たれていないのなら、気づかないままでいる方がとても恐ろしい事だった。

「呪いに広範囲の攻撃、空間の制御……《月輪の王》は多彩な技の使い手ですからね。分裂する能力を持っていたとしても不思議ではありません……。湧梧さんから剣を借り、エルピスさんと私が倒した《月輪の王》が分身……。ギアスの誓約が果たされていない事からも、その可能性は……最悪のケースであっても考えておかないといけないですね」

表情を引き締める。
《月輪の王》がまだ無事である可能性に恐怖を覚えてしまったけど、無事ならばまだ《月輪の王》との戦いは終わっていない。

「《月輪の王》に違和感……」

湧梧さんのご質問に、イーリスは右手で顎をつかみ神妙に考える。
違和感……。
数秒目を瞑り、そして、はっ、と瞳を開けた。

「《加牟豆美之刀》を《月輪の王》に突き刺した時、まるで幻影のようにも思えるように融解していました……。あの時は違和感に思いつつも、《月輪の王》を討滅するのに必死でした……。《月輪の王》がそれからだんだん消えていくようでもありました。そう……です、冷静に考えれば、おかしな事だらけです……!」

《加牟豆美之刀》は、湧梧さんから借りていた一太刀。
その逸話から、アンデッドに対して有効な小太刀。

九耀 湧梧 >  
「何とまあ…随分と芸達者な相手だな。
本当に、よく勝って、無事に帰って来られたもんだ。」

敵対した相手のスペック、それも最も危険な剣を使わなくては勝てなかったという事も加味して
考え、とんでもない相手だという事に舌を巻く。
同時に、完全な討伐は果たされていないとは言え、一度はそんな相手に生きて帰って来れた
イーリスの戦闘運の強さにも感嘆する他ない。

――イーリス本人は件の相手に相当に恐怖を刻み込まれているようだが、正直、これは
あまり良くない兆候だ、と感じずにはいられなかった。
戦いは常に最悪の可能性を想定して動かねばならない。
「恐怖」を乗り越えなくては…もし再び、《月輪の王》が立ちはだかった時、勝利が、生存が遠のく。

「《加牟豆美之刀》を当てた時に、幻影のように、溶けて、消えていった…か…。」

判断は、難しい。だが、最悪の可能性を考えるなら、

「……実体を持った、幻の身体、というのも考えられるか。
いずれにしろ、「次」があった時は、より強く、手強い相手かも知れないな。」

目つきが鋭くなる。
もしかしたら――今、貸している剣だけでは、不足かも知れない。

「……まあ、まだ確認も取れていない相手だ。
深く考えるだけ、休むに似たりの状況でもある。

――もしかしたら、先の戦いで、俺が貸した剣に対する「耐性」をつけられている可能性もあるかも知れん。
その時は、遠慮なく呼べ。」

その言葉は、つまり、
 

九耀 湧梧 >  
「――お前さん達が本当に《月輪の王》を倒し切るまで、盟約は延長だ。
必要なら、新しい剣も貸そう。」

――本当の勝利を得る為ならば、最後まで付き合うという宣言。

Dr.イーリス > 「湧梧さんから借り受けた武器がとても頼りになりましたからね。エルピスさんの助力を受けたり、ご一緒に住んでいるナナさんから力をいただいたり、私を試練で鍛えてくださった方もいました」

イーリスは瞳を細めて微笑んだ。
試練で鍛えてくださった人であるギフターさんは、今落第街で起きている騒動の渦中にいるが、イーリスはそれに気づいていない。
それだけ皆さんが力を貸していただいて、イーリスも準備万全で挑んだので、自信を持って《月輪の王》に挑めた。

とはいえそれでも《月輪の王》は強く、《不落ナル太陽》を抜かざるを得なくなった。

「幻の体……。もしそうだとすれば……《月輪の王》は、あんなものではないという事になりますよね……」

分身が最悪のケースというのは、そういった点も含まれている事だろう。
幻の体、分身体。
つまり、あれだけの激闘で、エルピスさんとイーリスが死にかけてまで倒した《月輪の王》は本来の彼ではない。
とするならば、“本体”はさらに強い、というのは疑いようもない。

盟約の延長、新たな剣を貸し出してくれると聞いて、イーリスは明るい表情になった後に凛と頷いた。

「ありがとうございます、湧梧さん! もうしばらく、剣はお借りします。ひとまず、《月輪の王》がまだ無事かどうかの調査から始めます。もし《月輪の王》が討たれていなかった場合は……また新たな剣に頼らせてください……!」

ぺこり、と湧梧さんに感謝して一礼する。
戦いはまだ終わっていなかった……のかもしれない。
だけど、湧梧さんの存在がとても頼もしくて、イーリスは《月輪の王》がまだ無事だったとしても、絶望に押しつぶされないと、そう思えた。

「エルピスさんに与えた簡易式神、私にもいただけないでしょうか」

九耀 湧梧 >  
「ああ、いいぜ。心配はするな。
そもそも、誓約が果たされてない以上、返して貰う訳にもいかないからな。しっかり持っててくれ
――くれぐれも、調査は気を付けてな。」

これならば…恐怖を乗り越えるのも、決して難関ではないかも知れない。
まずは調査から、とはいえ、逃げではなく挑む事を視野に入れての少女の行動に、
心の底でそんな事を考える黒いコートの男だった。

「確かに、毎度エルピスに頼る訳にもいかないだろ。
補充分も考えて少し多めに作って置いた。
こいつは誓約の外の事だからな、もし解析したければ自由に使うといい。」

コートの内側を探り、簡易式神の紙を取り出す。
ざっと20枚。これだけあれば、簡単に切らしたりはしないだろう。

「――それと、こいつは俺からのお守り代わりだ。
本当はお前さん達が目的を達成した祝いにしたかったんだがな。」

そう言いながら、ごそりとコートの裏を再び探る。
取り出し、差し出したのは――塗装がされてはいるが、何処となく土産物屋で
取り扱っている木製の刀のような二振りの刀。
片方は打刀、もう片方は脇差のサイズ。脇差サイズの方は《加牟豆美之刀》よりも短い。

「脇差の方はお前さん、打刀の方はエルピスへだ。
抜いてみな。重いから気を付けてな。」

その言葉通り、もし持ち上げたら本物の脇差――あるいはそれ以上の重みを、手に感じるだろう。

Dr.イーリス > 「感謝致しますね。ひとまず、現状《月輪の王》の存命……というのもアンデッドなのでおかしいですが成仏していないかどうかは可能性の域を出ませんから、そこをはっきりさせた上で湧梧さんにもお伝えしますね。お気遣いとても嬉しいです」

目を細めて微笑んだ。
調査の結果、《月輪の王》が本当に無事に討伐できているのならそれがいい。イーリスもそう願いたいし、そう願って調査する。
だが《月輪の王》が討たれてないのに、呑気に知らないままでなんていられない。まだ《月輪の王》が討たれてないなら、あの“王”の事……何を企んでいるやら。

「ありがとうございます、ご連絡したい時に使わせていただきますね」

簡易式神20枚、湧梧さんから受け取る。
この前は湧梧さんとの連絡手段をうっかり聞きそびれてしまい、エルピスさんが湧梧さんから簡易式神を受け取っていたので助けられた。


「お守り代わり……! 湧梧さん、ありがとうございます! 祝い……とはならなかったですが、嬉しいです!」

湧梧さんから木製のような刀をいただき、ぱぁっと表情を明るくさせた。

「お、重いですね。打刀はエルピスさんに、ですね。渡しておきますね」

両手で受け取った瞬間、イーリスの両手がその重量でがくっと下がる。
エルピスさんの打刀は、ホバー移動する傘立てに立てた。

そして、イーリス用の脇差をゆっくりと抜く。

九耀 湧梧 >  
すらりと脇差を引き抜けば、奇妙なものが目に飛び込んでくるだろう。
その刀身は、木目も露な、確かに樹木で出来たそれ。
しかし、同時にまるで磨き上げられた黄金のような、金属質な輝きを放っているという不可思議なもの。

「俺が元居た所で拠点代わりに使ってた所に置かれてた、特別製の木刀だ。
緋々金樹という、並の鋼より余程頑丈な妖木を何とか削って作った木刀になる。
刃は付いてないが、充分武器として通用する代物だ。

お前さん達は、暮らしてる所が所だろ。
それに最近、またぞろ妙な噂を聞いてる。身を守る手立ては多い方が良い。
少し手心加え過ぎかも知れないが、これなら加減次第で危ない得物を持った奴とも命を取らずにやり合える筈だ。」

刀身に触れたなら、確かに樹木に近い感触だが、それ以上に金属じみた堅さという
奇妙な感触を感じられるだろう。
どうやら、落第街やスラムで身を守る手立てに用意してくれたようだ。

Dr.イーリス > 左手で鞘、右手で柄を持ち脇差を抜く。
それは木刀、だがどこか金属質にも思えるものだった。

「この木刀、ただの木刀ではございませんね」

イーリスは興味深く、そして瞳を輝かせながら眺めている。

「鋼よりも丈夫となると、鈍器としては凄く優秀ですね! このような物をいただけるなんて、嬉しいですよ!」

イーリスは、にこっ、と笑みを浮かべてみせた。

「そうですね、危険なところではあります……。落第街を中心に、暴動が起きているみたいですね……。私のかつての仲間達の一部も、その暴動に与しています。まるで人が変わったように……」

妙な噂、最近起きる落第街の暴動だと解釈し、イーリスのかつての仲間もまるで人が変わったようにそれに参加していて、
イーリスは視線を落とした。

そっ、と刀身に触れる。
木なのに、とてつもなく堅いその感触に、心強さを感じてイーリスは再び顔をあげる。

「エルピスさんや私の新たな武器、有効に使わせていただきますね。凄く感謝です」

立ち上がって、湧梧さんに一礼する。

「私、湧梧さんに感謝いっぱいです」

木刀を鞘に戻してから、湧梧さんに紙袋を差し出した。

「エルピスさんと一緒に選びました。果物ゼリーの積み合わせです」

紙袋の中身は、果物ゼリーの詰め合わせ。
湧梧さんにはいっぱい感謝したいから、せめてものお礼。

九耀 湧梧 >  
「ギフトを得よ…とか唱えてる、白黒仮面の連中の事、だな。
……以前の仲間が関わってるってのは、心も穏やかじゃいられないだろ。」

白黒仮面の怪集団の噂は、耳に届いている。
今のところは様子見だが…降りかかって来るなら、火の粉は払わねばなるまい。
特に、《刀剣狩り》の噂はまだ健在だ。
自分を狙って来る者が現れても、何の不思議もない。

「おっと――こりゃ、気を使わせてしまったかね。
ま、折角のご厚意だ。有難く、ご馳走になる。」

軽く笑顔を浮かべつつ、差し出された紙袋をしっかりと受け取る。
遠慮も何だ、厚意はしっかり受け取るに限る。
甘味も偶には悪くない。

「――さて、まだまだ食事は残ってる事だし、今後に備えてしっかり食べるとしようぜ。
食は一番分かり易い力の源だから、な。」

まだまだ料理はある。お互い、しっかり食べる事にしよう。


そうして、食事と雑談を一しきり堪能し、最後に同居人によろしくと伝えて、この場はお開き、となるだろうか。
 

Dr.イーリス > 「はい……。とても……複雑な感情を抱いてます……」

力を与えられ騒動に加担するかつての仲間は既に、仲間だった者をも殺害する程に取り返しのつかないところまできていた。

「湧梧さんもお気をつけくださいね。彼等は反逆者……《刀剣狩り》の噂を聞いて、名を上げようとする人もいるかもしれません」

湧梧さんは歴戦の剣士なので早々滅多な事では痛手を負わないだろう。
一応、といった感じで警戒を促した。

紙袋を受け取ってくださった事に、イーリスは微笑んでみせて。

「はい! せっかくの美味しいお料理です。このスパゲティおいしいですね」

その後はおいしいものを食べて、湧梧さんと雑談をして、とても笑顔だった。

そして帰った後に、湧梧さんからいただいた木刀の一本、打刀をエルピスさんに差し出した事だろう。

ご案内:「違法パブ「地獄の門」」から九耀 湧梧さんが去りました。
ご案内:「違法パブ「地獄の門」」からDr.イーリスさんが去りました。