2024/10/11 のログ
ご案内:「落第街 バー『シルバークラウン』」に真詠 響歌さんが現れました。
■真詠 響歌 >
「はろはろ、マスター。半年ぶり?」
開店前の静かなバーの店内。
関係者用の出入口から顔を出して早々、死人でも見たような顔。
目を丸くする、っていうのも存外比喩じゃないんだね。
クラシカルなデザインで纏められた落第街の中ではこじゃれた部類のスタンディングバーのひとつ、『シルバークラウン』。
地獄の門が最寄り駅、アングラ界隈の先っぽの部分。
皆に黙ってちょっとシュワシュワしてみたい初心な子もちらほら見えるような、黒寄りのグレーゾーン。
こっちに転がり込んですぐの頃からちょくちょく演者として暫くお世話になったお店。
……と言っても此処だけじゃなくてふらふら色んな所に出入りしてたけど。
■真詠 響歌 >
「祝いに来たんだからヤな顔しないでよぉ。来月で五年目デショ?
これ、いつかのお礼も兼ねたお祝いが半分と━━」
机の上にスポーツバッグをひとつばかり。
中身は特別保護指定種とか持ち込み禁制の外来種由来の違法品、その成れの果て。
地下倉庫で半ギレというか全ギレで根こそぎ持って帰ったブツから物理紙幣への錬金術。
現代式だから等価交換どころか手数料と仲介料で目減りしたけどひと財産だったよね。
「で━━もう半分が悪巧み♡」
手のひらサイズのケースに納められた小さな円盤型の保存媒体。ぶっちゃけ骨董品。
演奏以外だと頑なにこれでしか音楽を流さないから、四苦八苦して詰め込んできた。
電子データの方が良かったしダビングが面倒だったから二度とやらないけど。
「気が向いた時で良いからさ。流してみてよ、これ」
■真詠 響歌 >
『……気に入ったらな』
ぶっきらぼうに、そう言って。
カバンを戸棚に仕舞う背中が勝手にしろ語ってたから、仰せのままにディスクを挿入。
木目調の古めかしい本体に、円盤がスルリと飲まれていく。
真っ白なラベルには曲名も何も無い。
再生ボタンを押せば、脳みそ溶けそうなくらい向き合った音楽が奏でられる。
2分45秒。ご清聴どうも。
いわゆるノスタルジックミュージック。
柔らかくて、それでいて素っ気ないメロディーライン。
何処にでもある気安くて居心地の良い音。
構成するのは打ち込みのビートとピアノ。それから━━
『……うちよりカフェ向きだ。それよりもインストだと? お前が?』
「ん、実際他に持ち込んだのはだいたいカフェとか雑貨屋だしね。
メロディはバイオリンに歌ってもらってるから良いの良いの。
これは私の音だからさ、歌まで盛ったら初手から致死量じゃない?」
意味不明な事言ってる自覚はあるけど、コレはそういう物だから。
アルコールみたいな物。
いきなりパーセンテージ振り切ったのイッたら死んじゃうよね。
「━━で、どう?」
■真詠 響歌 >
『気が向いたら、だ』
お許しが出た。
「ん、さいっこー。マスターの気まぐれくらいが多分適量だし。
ただリクエストされてもすっとぼけてね? コピーも無し。
なんというか……たぶん危ないから」
誰が、というのが難しいけれど。
知らぬ存ぜぬで、気ままに流して嗜んでくださいな。
『まさか異能だとか魔術の類じゃないだろうな』
ずっと訝し気な顔こそしてたけど、初めて刺すように疑いの視線が向けられる。
残念ながら私の声も音楽も、異能なんて物は携えて無い。
偶然と必然と、タイミングの噛み合いで正体不明の危険物と取り違えられただけ。
「大丈夫、正真正銘のタダの音だよ。
ただ、二週間……んや、もうちょっとかな
ひと月経って同じ事思ったら、私の音に賛辞をちょーだい?」
偶像としてでも。歌姫としての真詠響歌でも無い。
音楽家として、一人の人間として私が吐き出した原音を。
ありのままに、感じた答えを頂戴。
■真詠 響歌 >
『訳の分からん事を……まぁ良い。
そら、曲名ぐらいはあるんだろ』
ボタン一つで吐き出された白地のラベルを指の腹で撫でて差し向けられる。
「う゛ぇ……?
私の名義にはしたくないんだけど……空欄じゃダメ?」
サインペンを押し付けられて無言の拒否の構えを取られた。
上目遣いが通用しない人キライ。
「んー、じゃあ……あれでいいや」
カウンターの奥、細い指で指し示すウィスキーのラベル。
はてさて私は何年物でしょーか。
ロックでもストレートでも、皆様がたのお好きなままに。
たまたま耳にするだけで良い。
聴いて、感じて。それで一度は全部忘れて。
それからふと思い出した瞬間に、焦がれてね?
朧げなままに無意識に口ずさんで、しっくりこなくて切なくなってよ。
求めてよ。
激烈な感情じゃなくて良い。
もっと底、戻れないくらい暗くて深い所で感じて。
まだ、満たしてあげない。
安心と心地良さを手に入らない音に抱いて━━溺れてよ。
■響 > 『水底』(2:45)
■真詠 響歌 >
書きなれた崩し書きのサインじゃない。
事務的なくらい簡素に、書き込んでおしまい。
何の気も無しに飲んだ一滴の味に捕らわれて、
探しても見つからない寂寥感を感じて。
他では満たされない飢餓感に気が付いて乾いてよ。
欲して。求めて。
狂った先に、私を見つけて。
ご案内:「落第街 バー『シルバークラウン』」から真詠 響歌さんが去りました。