2025/06/30 のログ
ご案内:「歓楽街 路地裏」に青霧在さんが現れました。
■青霧在 > 夏の暑さは殺人的だ。
しかし、技術はそれを凌駕する。
屋内は空調で快適、屋外であっても様々な技術により暑さを和らげる工夫が為されている。
しかし、それはあくまでも整備された環境に限った話である。
整備が行き届いていない地域では、屋内はともかくとして屋外の暑さは据え置き、殺人的な直射日光とシナジーを持った湿度が人々を蝕む。
例えばそう……落第街なんかは―――
「見失ったか……」
じめっとした湿度が肌に纏わりつく路地裏、一人で項垂れていた。
先ほどまでは、夏でも涼めるように工夫された場所にいたのだが、ここはそんな工夫など一切なく、容赦なく暑い。
何故こんな場所まで何の対策もなく深入りしてしまったのかと、後悔が過る。
本当に、何故こんな場所にいるのだろうか……
■青霧在 > 時は少し遡り―――
夏場の炎天下の歓楽街、腕章を隠した制服姿での警邏。
誰もがやりたがらない現場へ駆り出されていた最中である。
歓楽街の中でも特に避けられる場所、路地裏と直接接する辺りで見つけてしまった。
穏やかではない気配を察知し、見上げた無人のビルの屋上には人影が二つ、今まさに戦端が開かれようというところ。
これは非常に危険だ。いくら路地裏に接した場所とはいえ、歓楽街は安全地帯でなければならない。
戦闘の余波が及ぶ事態は当然として、今の状態が誰かに目撃されることもあってはならない。
しかも片方は学生服を着た男子でさらに、
「怪我をしているのか……?」
遠目で少し見えづらいが、学生服の片腕が赤く染まっているように見える。
それを視認してすぐ、足が動いた。
今ここで異能で飛びあがる訳にはいかない。
周囲に悟られないように、反対のビルの屋外階段を駆け上る。
必用な高度を確保した頃に腕章を取り出し、それを見せつけるようにして飛び上がる。
「武器を収めろ!」
まずは状況を収めることを最優先に、学生服の男子を保護、場合によっては両方取り押さえて―――
―――そして時は現在へと戻り…
「まさか逃げるとは思わなかった」
額を伝う質量のある雫を拭い、状況を再確認する。
保護しようとした学生と思わしき男子は先ほど見失い、敵対していたと思わしき人物はとうに姿を消した。
歓楽街から5分ほど入ったここは、今すぐにでも立ち去りたいほど不快な場所。
最も恐れていた事態こそ未然に防いだものの、虻蜂取らずの結果に。
状況は報告済みだが、それは下手に動くことを躊躇わせる要因となった。
「一度……水分を取りにいきたいな……」
少し湿った地面は熱をはらみ、周囲の廃屋も熱を放っている。
連絡を入れて場所を移そうか。
そんなことを考えながら地理の再確認を行う。
■青霧在 > 地理の再確認を進めつつも、追っていた学生服の男子の足取りを探る。
見失ってそれほど時間も経っていないし、見えない距離まで逃げられた訳でもない。
恐らく、あの男子はまだ周辺にいる。
……とはいえ、異能や魔術を絡められればその限りでもないが。
少なくとも、飛行能力もなしにビルの屋上から飛び降りてそのまま逃走出来ることは既に分かっている。
そんな彼が逃走手段として何かしら隠していたとしても何ら不自然ではない。
自分に出来るのは、彼の逃走経路を確かにすることか、可能なら補足すること。
必ず捕らえる必要がある相手でもないが、学生服を着ている以上、放置は好ましくない……と思う。
「水をもっとけばよかったな」
適当なことを口にしながら周囲を見渡す。
ここは一本道に見えて、いくつにも枝分かれした暗い道。
人と人とがすれ違うのに苦労はしない程の幅、直射日光は地面にこそ注がないが、空はよく見える。
「あつい……」
はぁ。
早く歓楽街に戻って涼みたい。
オモイカネで見失ったことを報告し、次の指示を待ちながら、路地裏の奥へと歩みを進めた。
■青霧在 > 望んでいたものは迅速に与えられた。
だがその内容まで希望通りとはいかなかった。
「『現場の判断に任せる』……」
その文言を見ただけで、友人の呆れ顔が脳裏に浮かんだ。
『バカ真面目なんだよ』と言われる光景が再生される。
「仕方がないだろう……」
長期休暇でも気が緩む時期ではなくても、道を踏み外す学生は決して少なくない。
そんな、道を踏み外そうと……死へと向かうかもしれない彼らを見捨てる様な真似はしたくない。
風紀委員として、青霧在という個人として。
幸い、今日に備えて朝食も昼食もしっかり摂った。
水分摂取も怠っていた訳ではない。
まだ動ける。
「早く帰りたいな」
もう少し探すから、早い所見つかって欲しい。
悪い様にはしないから。
捜索を続ける。
危険を感じるまでは。
汗を拭って、歩みを進めた。
■青霧在 > 結果は分かっていた。
見つかる可能性は元々限りなく低く、捜索を続ける判断は楽観的と言わざるを得ないものだと。
風紀委員のイメージは良くも悪くも厳格だ。
そもそも彼が正規学生かすら分からない。
現場の判断などという曖昧な指示が下ったのも、その重要度や緊急性が著しく低いものであると理解していたからだろう。
当然応援も現場検証もない。
当事者は逃走し、目撃者も居ない。騒ぎも起こっていない。
「…っはぁ……」
腕章を外して歓楽街に戻り、自販機の冷たい水を呷る。
空のペットボトルをゴミ箱に……入らない。
涼しくて冷たくて快適だ。少なくともあそこよりは。
それでも何となく心は晴れない。
あの男子が気がかりだ。
背丈は……自分より低いぐらい。
恐らく流血し、攻撃を受ける様な状況。
……死んでしまわないだろうか。
「……考えすぎ……だなっ」
ペットボトルを強く押し込む。
バリバリと音を立てるペットボトルと共に、自責を騙る身勝手を押しつぶす。
現場の判断を一任された以上、自分の判断は風紀委員会の判断とも言える。
役割を放棄してまで個人の思想と希望に時間を割く訳にはいかない。
警邏の再開を報告し、その場を去った。
ご案内:「歓楽街 路地裏」から青霧在さんが去りました。