2024/06/21 のログ
ご案内:「《常世フェイルド・スチューデント》のアジト」にDr.イーリスさんが現れました。
■Dr.イーリス > スラムにある《常世フェイルド・スチューデント》のアジト、その一つ。
廃墟を住めるように軽く改装したアジト、そこにあるイーリスのラボ。
先日、優希さんの魔導書を盗み、それを保管していたラボでもある。その魔導書が逃げられた事で、優希さんにラボやアジトの情報が抜かれている事にイーリスは気づいていない。
《常世フェイルド・スチューデント》の数あるアジトの一つに過ぎないが、されど現在イーリスがメインの拠点としているアジトでもあった。
盗品や廃品の機械を分解してパーツを取り出してラボの機材を作り上げた。材料不足は工夫を凝らして技術力でカバー。しかし、日に日に貧困である事が重くのしかかっている。
白い台に黒い立方体の物体が置かれており、無数のコードが繋がれていた。先日、黄泉の穴から持ち帰ったアーティファクトだ。
台のすぐ傍にあるテーブル、そこに置かれている画面をイーリスは椅子に座りながら眺めつつ、キーボードをタッチしている。
また別の場所では、《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》が無数のコードに繋がれていた。
そんな時、一人の男がラボの扉を開けた。
■エメラルド田村 > 彼はエメラルド田村。緑色の髪で黒いコートを着た青年だ。
不良集団のトップたるエメラルド田村は、イーリスの傍らに歩み寄る。
「最近、風紀委員が活発で俺等不良も動き辛ぇよな。えっと、なんだっけか?」
■Dr.イーリス > 「機界魔人ですね。かの怪人が島で暴れていて、風紀の警戒が強まっていますからね。違法部活は、どこも委縮気味です」
世間を騒がせる怪人……。風紀委員襲撃による被害は大きいと聞く。
「とは言え、機界魔人は島の治安を大きく乱す存在。特に、風紀委員自体に被害が大きく出ているようです。風紀委員は正当に島を守っているのですから、私達も今はある程度自重しましょう」
■エメラルド田村 > 「今、俺達のような不良で風紀の奴等の仕事を増やすっつーのも可哀想な話だもんな。だが現実的に、食糧難だ……。生活費を得るには、最低限やる事はやらないといけねぇ」
エメラルド田村は、イーリスが使っているPCが置かれてたテーブルに座って腕を組む。
「危ない橋を渡るが、しばらく“表”での活動割合を落として落第街で稼ぐ事になるか。……うちの者が何人か犠牲になるのを覚悟しねぇとな……」
比較的、風紀委員の手を煩わせない場所が落第街だ。
ただし、《常世フェイルド・スチューデント》の理念でスラムの貧困層は絶対狙わない。彼等から奪えば、明日の生きる道すら奪ってしまう事になる。それに同じ境遇の人達だ。
《常世フェイルド・スチューデント》が働く盗みは、被害者の人生が壊されないよう注意を払って行う。表の人間はある程度お金を盗んでも全然生きていける人達なので、ターゲットにしている。だがスラムの貧困層はだめだ。
故に、落第街でのターゲットは違法部活などになり、まさに不良集団がマフィアに喧嘩を売るようなリスクが伴う。
■Dr.イーリス > 「……仕方がないですね。事態が落ち着くまで耐え忍びましょう。この島の風紀委員は有能なので、これだけ騒ぎが大きくなっているなら、件の怪人も程なく捕まるのではないでしょうか。各種データからシミュレーションによる予測を算出する限り、怪人にそれ程未来はありません」
モニターに目を移しながら、淡々とそう答える。
データと言ってもイーリスは直接怪人と会った事もないし、それ程正確なものではないので、予測自体どこまで正しいかは何とも言えないところはあるが。
■エメラルド田村 > 「だといいな。なあ、イーリス。俺達は、“後どれぐらい”もつ?」
エメラルド田村が真剣な表情で、イーリスを見据えた。
■Dr.イーリス > エメラルド田村の問いを聞いて、モニターから目を離して天井を仰ぐ。
「ストリートチルドレンの人生は短いです。食糧不足による餓死、悪環境による病死、敵対組織からの攻撃、風紀委員による捕縛、はたまた民衆による逆襲や私刑……。二十歳まで元気に生きられていたらいいですね。二、三年後には、私達はどうなっているか……。先の事を考えても暗くなるだけです。今を生き延びて、今を楽しみましょう」
先の見えない人生の諦観。もちろん、出来る限りなんとか延命するよう頑張るが、いずれ限界がくるだろう。
幸いにも先の暗い未来を見据えているのはイーリスとエメラルド田村だけだ。他の構成員は学がない故に、未来を考える程賢くはないので、絶望せずに暮らせている。
■エメラルド田村 > 「……そうか」
エメラルド田村は俯いた後、黒い立方体に目を移した。
「ところで、イーリス。これはなんだ?」
■Dr.イーリス > イーリスはPCの画面に視線を戻して答える。
「先日、黄泉の穴の向こうから回収したアーティファクトですよ。名前は《インテリジェスト・マジカル・ディスク》。解析したところ、どうやらこの立方体には無数の魔術が保存されているようです」
■エメラルド田村 > 「アーティファクト……? 数多の魔術がこんな箱みてぇな物に収まっているのはすげぇが、危険な代物ってわけではないのか?」
エメラルド田村は、立方体を凝視する。
■Dr.イーリス > 「慎重に解析した結果、とても危険なロックが仕掛けられておりましたよ。立方体に施されたセキュリティシステムが作動すれば、スラムの一部が木端微塵。私達全員揃って、黄泉送りです。風紀委員は、この忙しい時期にさらなるお仕事が増える事になるでしょう」
さらっとそんな事を言ってのける。
「優希さんという方がアーティファクトの回収を妨害してきましたが、その行動が大正解であると証明されたと言えるでしょう。こんな物が下手に解き放たれれば、大惨事になりかねません」
■エメラルド田村 > 「おいおい……。その優希って奴に素直に従って、この立方体を穴の向こうに置き去りにしちまった方がよかったんじゃねぇか……?」
咄嗟に、立方体の方を向いて身構えるエメラルド田村。
■Dr.イーリス > 「ご心配には及びません。既に、危険なセキュリティは解除しています。今は中身の魔術を解析している段階ですね」
そう口にして、キーボードを素早くタッチしていた。
「中身の魔術を抽出すれば、様々な事に活用できますね。例えば各種メカのアップデート。そして、抽出した魔術をデータ化し、コンピューターによりAI学習させるといった事も出来るでしょう」
ちらり、立方体の方へと視線を移した。
■エメラルド田村 > 「すげぇな。今日販売される学生手帳の新モデルにも行動支援型AIが搭載されるらしいし、最近はAIの発展が目まぐるしいと聞くが、魔術まで機械学習できる時代になったのか」
エメラルド田村は目を見開きながら、モニターへと視線を移した。
■Dr.イーリス > 「そうですね、学生手帳の新モデルは気になるところです。プログラミングを作動させて魔術を発動させる技術は既に確立されていて《メカニカル・サイキッカー》にもそういった機能が搭載されていますので、その応用とも言えます。AIにより膨大な魔術を機械学習させ、それを元に全く新しい魔術を生み出す。いわゆる生成AIというやつです。画像や映像、音声などをAIにより作り出す技術の魔術バージョンですね。魔術の生成AIも、技術的には既に確立していました。突然覚醒したかのように習得する異能と違い、魔術はあくまで学問や技術と言ったものなので機械学習による模倣が可能なのです。しかし、《魔術生成AI》を生み出す上で必須となるのは膨大な魔術のビッグデータ。《魔術生成AI》を作り出す程の膨大な魔術データを集めるのは中々に思っていたのですが、それを可能とするのがこの《インテリジェスト・マジカル・ディスク》です」
椅子から立ち上がり、台に置いてある立方体に軽く触れた。
■エメラルド田村 > 「……そこまで出来るのか、科学ってのは。魔術は人間が苦労して習得する努力の結晶だと思うが……それをAIなんかであっさり誰でも生成して使えるようになると、半端な魔術師の中にはプライドがへし折れる奴もいるんじゃねぇの……」
生成AIと言えば、究極的には一般人が誰でも魔術を作って扱えるという事になってしまう……。
■Dr.イーリス > 「さすがに、一般に出回るような魔術生成AIは現段階ではおそらく無理ですよ。もし技術革新が起きて誰かが一般に普及できる魔術生成AIを完成させるにしても、それはもっと未来の話になるでしょうか……。案外、どこかで開発が進んでいるかもしれませんけどね。それに、例によって生成された魔術の一つ一つは、熟練した魔術師の魔術を上回るものにはならないと思いますよ」
学習や生成の速さにおいてAIは人間よりも格段に優れている。だが達人と呼ばれるような人達は生成AIを上回るものだ。
機械学習により多くの魔術を生み出したとしても、それは元を辿れば達人達の魔術。多くの生成魔術を用意できるというメリットがあるが、一つを極めた本物に及ぶものにはならないだろう。
「例の魔導書がラボから逃走していなければ、《魔術生成AI》はより完璧なものになっていたと確信できますから、その点は非常に残念です……。本当に……凄く……」
優希さんの魔導書が手元にあれば、より洗礼された《魔術生成AI》を完成させられる見込みだった。一度は手に入れた魔導書だけに大変悔しいが、いつまでも失った物にしがみついても仕方がない。
■モブの不良達 > ラボの扉が開き、四人の不良達が入ってくる。
不良A「兄貴! 姐さん! 蓬莱オンラインやりやしょう!」
不良B「巨大なフクロウのボスが倒せずに困ってるっすよ!」
不良C「姐さん、蓬莱オンラインのランカーじゃないっすか。助けてほしいっす!」
■Dr.イーリス > 仲間達からの誘いに、イーリスとエメラルド田村が顔を見合わせて、互いに微笑む。
「分かりました。今やってる作業が終わればそちらに行きますから、少し待っていてください」
エメラルド田村「俺も後でイーリスとそっち行くから待ってろ」
先が見えない未来だけど、今は仲間達と楽しく過ごそう。
最近は《常世フェイルド・スチューデント》の仲間以外にも、仲良くしてくれる人達が出来た。
人生というのは、暗い事ばかりじゃない。ちゃんと前を向いて生きよう。
ご案内:「《常世フェイルド・スチューデント》のアジト」からDr.イーリスさんが去りました。