2024/07/05 のログ
龍宮 鋼 >  
「あァいや、全員に正規学生なって貰うぞ。
 形としては俺が身元引受人になるが、オマエらのチームのって形で、そん中でのことは出来る限り自分らでやってもらうってことだ」

彼らがそうなりたいと言うのなら、全員を正規学生にするのは大前提だ。
その上で、全員を直接面倒を見続けるのは手も時間も足りないので、彼らにも自立して貰うという、そう言う話。

「あー?
 どんなっつーか、まァ荒れてたなァ。
 風紀が嫌いで、弱い者イジメが嫌いで、世の中にオマエらみたいなやつらがいることを知らずに平和な顔してる奴らが嫌いな悪ガキだったよ」

ソファにもたれ掛かって懐かしそうな口調で話す。

エメラルド田村 > 「俺達は違法部活って事になる。正規の手続きをするにしても、チームで身元引受人ってわけにはいかねぇだろうな。権限が強い人ならば、ある程度は捻じ曲げられるんだろうが……」

風紀委員に目を付けられる事もある違法部活という立ち位置だ。
様々な事が原因で正規入学できない人がいるが、違法部活がそのままチームで入学手続してはたして審査が通るかどうか……。
強引に通るやり方として権力という手があるかもしれないが、もはや学園のお偉方のみが許された一手。

「なるほどなァ……」

鋼先生のかつての生き様に、エメラルド田村は理解を示すかのように頷いている。

「……なぁイーリス。説明してやれ」

Dr.イーリス > エメラルド田村に頷いて、口を開く。

「これは先日、鋼先生に話そうとしていたけど《常世フェイルド・スチューデント》のみんながいる所の方がいいかと思い後回しにした話なのですが……。私達はこれでも任侠に生きているつもりの不良です」

イーリスの言葉に、不良達がこくこくと頷く。

「スラム街にいくつものシマがあり、私達は彼等を守っている立場にあります。彼等の期待に背くような、そのような不義理を働く事を私達はよく思いません……」

つまり、見捨てられない人達がいるという事を意味する。
規模が拡大したストリートチルドレンは、それだけ救わなければいけない子供が多くなる。

「……私達は……自分達だけが救われようという考えはありません……。まさしく、この島の“闇”の部分……。人が差し伸べられる手の数には限りがあります。私達は……その事を理解しています……」

イーリスは少し俯いた。

「最近は、このスラムや落第街を脅かす紅い死骸という怪異に立ち向かったりしています。見捨てられないものが……ありますから。落第街の事情は、今色々と入り組んでいます」

視線を先生に戻す。

「……解決しなければいけない問題もありますから、ただ単に“表”へ逃げて終わり、というわけにもいかないのですよ」

正規入学して支援を受けられる、そこは魅力的である。
しかし、先生が提案する全員分の仕事探しを始める事は現状だと裏を捨てて表に行くという事であり、そのような不義理を働くわけにはいかない、という事だ。

龍宮 鋼 >  
「なんでだ、別に続けりゃいいじゃねェか」

彼らの言葉を聞いて、不思議そうな顔をする。

「ここァ風紀の連中も手ェ焼いてる地域だ。
 風紀差し置いてここの治安守るっつーと流石にヤツらもナワバリ荒らされて面白くねェだろうけどよ。
 あくまでここの連中の復帰支援する部活立ち上げて、その一環で活動すりゃいいだろ」

今彼らが問題なのは大きく二つ。
形の上では不法滞在者に近い形になっていることと、彼らが犯罪行為で生計を立てていることだ。
前者に関しては手続きすれば解決するし、後者は手続きをするならばどちらにせよ制限されることである。
風紀に筋を通す必要はあるだろうが、流石に落第街の人道支援をする、と言ってダメとなることはないだろう。

「似た様な事ァ俺もやってたしな。
 俺ん時ァ無許可の愚連隊みたいなもんだったが、ちゃんと申請して公式な組織立ち上げるなら、俺ん時より悪いことにゃならねェだろ。
 人のためになることしてェって言えば申請も通りやすいだろうし。
 まァ今よりやること増える分大変だろうが――つーかよォ」

そこで身を乗り出し、集まった不良たちを睨め付ける様に見回す。

「俺が今聞きてェのは、オマエらの話だ。
 オマエらがちゃんとしたとこでちゃんとした教育受けて、ちゃんとした将来送りてェかどうかだ。
 ここの治安やら守りてェヤツやら、そう言う周りのことは、俺が、俺たちがいくらでも手ェ貸してやる。
 だからオマエらが今、このままでいいと思ってるかどうか。
 それだけ聞かせろ」

Dr.イーリス > 「…………」

鋼先生の主張を聞くと、だんだんと瞳の輝きが消えていく。
なるほど、自分と同じようにやれば上手くいく、そう考えるのは自然な事だろう。
手を差しのべてくれる人がいるのも、嬉しい事だと感じる。だからこそ申し訳ない……。

犯罪で生計を立てる事を問題視しているのだろう。その善性には好感が持てる。
しかし、手続きをすれば済む、解決する……。そればかり……。
無論、先生は好意で提案してくれている。それは重々理解できる。
先生は落第街の二級学生から、今の先生という立場になった人だ。だから、どういったやり方で正規の学生となり、支援を受けられるか、イーリスは期待していた。

「……先生は多分、この島の本当の“闇”をまだ知りません。どうして、二級学生なんてものが生まれてしまうのか……。どうして、この落第街が見捨てられているのか……。どうして、スラムの人々が救われないか……」

イーリスは視線を下に向けた。

「……この島が、先生の言う通り全て上手くいくなら……ただの手続き程度全て丸く収まるならば、二級学生なんていませんし、見捨てられたスラムや落第街なんてものもありません……」

そんなもので全て解決できるなら、どれだけよかったか。

「手を差しのべていただいている身で申し訳ございません。先生、考えがあまいです」

龍宮 鋼 >  
彼女の話を聞く。

「――ま、オマエらにその気がねェなら無理強いはしねェけどよ」

バリバリと後頭部を掻く。

「オマエらのやりたいことが良くわかんねェな。
 闇がどうとか、そう言うのは俺ァよー知らんけどよ。
 オマエらの話聞いてると、オマエらは正規学生になれねェっつってる様に聞こえる」

そこがわからない。
少なくとも、自分が知っているこの街の制度はそうだったはずだ。

「それとも何か、オマエらが正規学生になれんっつー心当たりでもあんのか」

Dr.イーリス > 「…………」

鋼先生の言い分には、少しだけ眉が動いた。
あたかも、学園側がこちらを正規学生として突っぱねているのに、こちらから突っぱねているかのような言い方をされたのだから、親切心であっても少し思う事はある。
しかし、別段、イーリス達を突っぱねる学園を責めたいわけではない。
今の自分達の立場を受け入れて、いくら格差があろうとも世の中を一切憎まず、風紀委員も一切憎まず、割り切って生きるだけ。

「……もう一度言います。あなたは、この島の本当の“闇”を知りません。申し訳ございませんが、あなたでは私達を救う事はできません……。正規学生になれない心当たり……そうですね、いくらでもあります」

顔を上げて、先生を見据えた。

「私達は、“この島にいない子”ですから」

実際にどれだけ認められるか未知数だが、鋼先生が身元引受人となれば正規入学できる希望が持てるかもしれない。問題は山積みではあると思うけど、希望を抱くぐらいはしてしまう方法だっただろうか。
しかし、“いない子”で纏まっている違法部活を正規部活で申請……。成功例がどれだけあるかは知らないけど、正直言って、考えがあますぎるという印象だ。成功例があっても、厳密に同じ状況とも限らないわけだし。

話は終わった、と言わんばかりにイーリスは立ち上がり、部屋を出ていこうとする。

龍宮 鋼 >  
「そうか」

彼女が話を終わらせようと言うなら、こちらも特に話すことはない。
自身も立ち上がり、尻に着いた埃をはたく。

「――お節介かもしれんがな。
 一応俺も"そう"だったぜ」

この島にいない子。
彼女とは形は違うかもしれないが、元々この世界の人間ではない。

「俺も元はセンセーに拾って貰った。
 その後はまァ色々あったが、今はこうしてセンセーやってるよ」

そうして入り口まで歩いていく。

「テーブルは届けといてやるよ。
 オマエらに回せる仕事も探しとく。
 だからまァ、悪いことァあんますんなよ」

Dr.イーリス > 扉の前で振り返る。

「誰かに手を差しのべられるのは、とても素敵な事だと思います。どうか、その手は……まだ救える人達に差し向けてあげてください」

イーリスは扉に持たれつつ、ほんのりと微笑んだ。

「先生の心の温かさは理解しています。世話を焼いてくださり、ありがとうございます。テーブルを届けてくださる事もありがたき話です。感謝します」

イーリスは鋼先生を見上げて、握手しようと右手を伸ばす。

「……先程は、突き放すような言い方をしてしまい申し訳ございません。私達が正規入学できるかどうかといった話に関係なく、鋼先生とは仲良くしていきたいと思っています」

悪い事をあまりするな、という言葉には肯定を示す事ができない……。
しかし、盗んで生活費などを稼ぐという行為をいつまでも続けていいのか、という疑問点は当然抱き続けてはいる。

この島には“闇”がある。あくまで、今回先生が示す方法で解決に向かうのは難しいという判断から突き放す形となった。せっかくの親切心を、本当に申し訳ない……。
しかし、今後とも何かを盗まなくても生きていく方法を模索するべきという考えを持つ事は変わらない。

龍宮 鋼 >  
「今は確かに難しいかもしれんけどな。
 犯罪して暮らしとるわけだし」

闇とかなんとかは置いておくにしても、現在進行形で犯罪を犯している者たちを迎え入れるのは、確かに難しいかもしれない。

「逆に言えば、そー言うの辞めりゃハードルは下がるだろ。
 働いてりゃ勉強の大事さもわかってくるだろうし?」

最後のセリフはニヤリと笑いながら。
彼女らのテストの結果が散々だったのは、聞いている。
そして差し出された手を見て。

「――あー、そう言うのは趣味じゃねェ。
 すんならこっちだ」

こちらも右手を掲げる。
平手ではなく、握った拳。
それを彼女の目の前に突き出して。

Dr.イーリス > 「そう……ですね。私達は、社会の枠組みの外に生きる者……という事にはなるのでしょう」

その犯罪を犯す者が、正規学生では無理なのに、二級学生なら見逃されているというのがまず闇だろうか。
スラムや落第街が見捨てられていると同時に、二級学生が見逃されている。

「ハードルを下げていく、というのは一理あるのかもしれませんね。しかし……そうですね……。彼等に、ただ仕事を与えて上手くいくかどうか……」

就職という方法は、これまでだいたい上手くいかなかった。
何せスラムの不良である……。
解決手段としてはまだ足りず……というのがイーリスの印象。

鋼先生が拳を見せると、イーリスはほんのりと微笑みつつ、自身も拳を突き出した。
鋼先生とイーリスの拳同士が触れあう。

龍宮 鋼 >  
「心配すんな、言ったろ。
 そう言うノウハウはある、ってな」

曲がりなりにも不良たちを集めたチームを率いていたのだ。
まともに仕事を出来ない連中に仕事をやらせるやり方はいくらでも知っている。
そして部屋にいる他の不良たちを周り、一人一人に拳を合わせていく。
最後にエメラルド田村の前に立ち、拳を突き出す。

「オマエも。
 なんか困ったことあったら言えや。
 勉強もちゃんとしろよ」

Dr.イーリス > 「先生のノウハウは心強いですが……それだけの問題でもなくて……ですね……」

最終的に職にありつくのがお金を得る方法、それは分かる。
しかし、若干の不安を覚える……。

「……いずれ職を得る必要があるかもしれない、それについては理解しました。しかし、これは私達の人生。先程も言いましたが、私達は任侠に生きる不良です。見捨てられないものもたくさんあります。一方的に“仕事をやる”、と言うばかりで私達の事情を考えられていますか……? 勘違いなさらないように言いますが、職を得るべき、という事を否定しているわけではありません」

ひとまずこちらの気持ちを伝えたが、仕事についての相談はまた後日にやるべきだろうか。
不良達も。次々と鋼先生と拳を合わせていく。

エメラルド田村 > エメラルド田村「いや、悪いな……今はやめとく。鋼先輩の人柄をもっと知ってからか……」

エメラルド田村は、今は首を横に振った。

龍宮 鋼 >  
「任侠に生きるっつったって、色んなことは知ってかなきゃいけねェだろ。
 もしかしたらオマエらがこれから先人を使う側に回るかもしれねェし、そうじゃなくてもそう言うとこと関わりを持つことはあるかもしれねェ。
 そう言う時、経験がありません、で繋がりを持てねェと、それは損なんだよ」

仕事をして生きろ、と言うことではない。
簡単に言えば経験を積め、と言っている。

「表に出てフツウに暮らすにしろ、ここで潜って暮らすにしろ、色々やった経験ってのは絶対オマエらの力んなる。
 経験だけじゃねェ。
 知識もそうだし、人との繋がりも、勿論お勉強もそのうちの一つだ。
 そう言う"力"っつーのは、生きてく上でいつか絶対役に立つ時が来る」

ぐるりと彼らを見渡して。

「だから色々経験しろ。
 "俺たちはこうだ"っつー決め付けはしねェで色々やってみろ。
 それァそれで案外楽しいもんだしな」

そしてただ一人拳を合わせなかったエメラルド田村の方を見て、

「んでオマエは今度俺んとこにケンカしにこい。
 オマエの根性、俺ァ割と気に入ったしな」

に、と笑って肩をべしりと叩いておく。

Dr.イーリス > 「経験が大事である事は、それはそうなのでしょう。鋼先生のその主張を否定しません。仕事などの相談については後日させてください。進路相談というのは基本的に、教師から『この仕事をしなさい』と言うものではなく、生徒側から『こういった職に就きたいのですが』というところから始めるものだと認識しています。こちらの希望も聞かず一方的に仕事を回してやると仰られても、ただ困惑するのみでございますよ」

そういった意味で、先程イーリスが口にした『私達の事情を考えていますか?』という問い。

「しかし、私達を正道に導こうとしてくださる事は重々に理解しました。お金を稼ぐ方法を変えられるならば、それに越した事もありません」

エメラルド田村 > 「てめぇと喧嘩して何になる? さっきも言ったが俺達は喧嘩屋じゃねぇ。必要ねぇ暴力は極力振るわねぇのが、俺達のやり方だ」

任侠に生きるが、喧嘩に明け暮れるというタイプの不良ではない。
イーリスもエメラルド田村も必要以上の喧嘩は避けている。

龍宮 鋼 >  
「そらァそうだ。
 紹介っつったってコレしろアレしろたァ言わねェよ。
 「こう言う仕事あるんだが、やりてェやついるか?」程度の話だ。
 ま、その辺はまた後日ってのもわかってらァな」

もちろん今話してすぐに決めようと言うつもりもない。
その辺はやはり彼女の言う通り、後日また話す機会を設けるつもりだ。

「何って、楽しいだろうが、ケンカ。
 殴って殴られりゃァ、なんとなく相手の事わかるだろ?
 オマエが嫌っつーなら無理にたァ言わねェけどよ……」

きょとん、とした顔。
根っからのケンカ屋であるが故に、どうしてもコミュニケーションがそちらに寄りがちである。
ケンカはしない、と言われて少し残念そうな顔。

「ま、いいや。
 とりあえず俺ァ相談ならいつでも受けてっからよ。
 困り果ててロクでもねェ事件起こすくらいなら相談してくれや。
 センセーつーのは生徒から頼られっと嬉しいもんだからな」

それだけ言い残し、じゃあなと手を振ってアジトから去っていく。

Dr.イーリス > 「そうでしたか。進路相談、頼りにさせていただきますね」

ゆったりと微笑み、頷いてみせる。

エメラルド田村「喧嘩っつーのはな、手段だ。誰かを守りたい時か、倒さなければいけねぇ奴がいる時か……。必要な時に、力を振るう。俺とてめぇの不良の在り方には差異があるようだからな。てめぇの生き様に文句は言わねぇが、誰もかれも不良なら拳で語り合うものだと思わねぇ事だな」

あくまで任侠重視で、実利主義。

「ありがとうございます、鋼先生。本日はお越しくださいましてありがとうございました」

不良達「鋼パイセン、ご苦労さんした!!」

エメラルド田村「またな」

イーリス達は、鋼先生を見送るのだった。

ご案内:「《常世フェイルド・スチューデント》のアジト」から龍宮 鋼さんが去りました。
ご案内:「《常世フェイルド・スチューデント》のアジト」からDr.イーリスさんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」にDr.イーリスさんが現れました。
エメラルド田村 > 廃ビルの地下。そこはとある違法部活の拠点になっている。ちなみに、《常世フェイルド・スチューデント》の拠点ではない。
不良集団のリーダー、エメラルド田村は招かれた側だ。
薄暗くだだっ広い空間の中央に大きなテーブルがあり、それを囲むようにいくつかのソファが置いてあった。ソファにはそれぞれ、様々な違法部活のトップが座っている。

マフィアボスA「件の紅い死骸には我々も手を焼いておりますからねぇ……。あんなものがのさばっちまったら、おちおち裏稼業もできませんねぇ」
マフィアボスB「《常世フェイルド・スチューデント》さんところのDr.イーリスは、紅い鮫と紅い花を討滅した実績がある。そんなお前達が紅い死骸と戦い続けるというから、利害一致の同盟として支援してやっている。だが、たかだが学園の筆記試験の出来栄えでそのDr.イーリスが落ち込んでいる姿をうちの者が見た。こう言っちゃなんだが、東大卒の俺からすりゃ不安要素だぜ……」

そんなガラ悪い頭悪そうなナリして東大卒のインテリマフィアだったのか、という驚きの視線を各違法部活トップ達がボスBに向ける。

「筆記試験の事は言ってやるな……。俺も全然出来なかったから追試確定だ……。それより、てめぇ等の支援もあって戦力は整った。うちの科学者は優秀なんでね、紅い怪異に対抗する兵器を十全に用意出来たわけだ。俺等が紅い死骸を始末してやるから、てめぇ等は俺達《常世フェイルド・スチューデント》に感謝して安心して稼業に専念しろよ」

エメラルド田村がソファにふんぞり返り、マフィアボス達の前で不敵に笑った。

マフィアボスC「随分大口叩くじゃねぇの、不良風情が! 図に乗んじゃねぇぞ、おらぁ!!」

ボスCが立ち上がり、テーブルの勢いよく足を乗せた。

「ほう? 感染したてめぇの女を治療してやったのは、うちのDr.イーリスだぜ? “表”よりも、“裏”は治療方法も限られてくるもんなぁ? あの時、Dr.イーリスに泣きついたてめぇの……いやこれ以上言うのはよそう」

その時の動画をエメラルド田村は残している。

マフィアボスC「くっ……! 人質を取る事さえ成功していれば、無理やりDr.イーリスに要求を飲ませる事もできた……。そうなれば、こんな事には……!」

中々ロクでもない裏社会である。

「それはともかく……だ。準備は既に整っている。今宵、スラムと落第街の命運を賭けた大戦を仕掛ける。ここらで、ショータイムといこうぜ」

壁に取り付けられたモニターへと、各違法部活の首領達は視線を向けた。
そこに映し出されているのは完全武装した不良の軍勢、そしてそれ等を指揮するイーリスだった。

Dr.イーリス > 収容人数500人程度の多目的ホールの廃墟。その舞台にイーリスは腰を下ろして完全武装した数十人の不良達を見下ろしていた。軍隊で例えるなら、一個小隊の域は超えており、だが一個中隊としては規模が小さめといった人数。不良集団を全員集めたというよりは、一部集められるメンバーを集めた感じだ。
不良達の武装は、ただの兵器ではない。紅い死骸を脅威とみなしている違法部活の数々から支援を受け、イーリスが開発したものだ。
イーリスの背後、舞台上には漆黒のアンドロイド、体長三メートルのメカニカル・サイキッカーが佇んでいた。

「悪や闇が蔓延り、貧困に苦しむ人々の無情を叫ぶ声が木霊する落第街及びスラム街。それでも私達は、“島の闇”が集まるこの街で助け合い、生きてきました。これまで、生き延びてきました」

いつもは悪ふざけしたり、悪ぶったりする不良達が真剣にイーリスの言葉に耳を傾けている。

「しかし、今聞こえるスラム住民の悲鳴は、あまりに悲惨……。私達もスラムで暮らし、同じ苦痛を知る人々が今苦しんでいます。全ては、紅き怪死骸によるパンデミックによるものです。私達のシマも既に荒らされ、その脅威、被害は日々拡大する一方。無情なる苦痛に耐え兼ね、私達に助けを求めるスラム住民も多数います」

紅の怪異をどうにかしようとしている勢力は各種ある。その最たるのが、かのユートピア機構だろう。風紀委員の組織であるユートピア機構を頼るスラム民がいる一方で、裏社会において任侠に生きる不良集団《常世フェイルド・スチューデント》を頼るスラム民も多くいた。

「今こそ、彼等の悲痛を胸に刻み、私達が立ち上がる時です。このスラムや落第街で仁義を欠いた愚行を繰り返せば滅びゆくのみ、という事を卑劣なゾンビ達に教えてあげましょう。いざ、決戦です」

不良達「おおおおおおおおぉぉぉおぉ!!!! 姐さん!! 姐さん!! 姐さん!!」

湧き立つ不良達。
今宵は決戦。挑みゆく不良集団の士気が上がる。

Dr.イーリス > 続々と多目的ホールから出ていく不良達。イーリスは彼等が全員出ていった後で、メカニカル・サイキッカーと共に多目的ホールを後にする。
多目的ホールの出入り口で、イーリスはふと空を仰いだ。
月の光がイーリスを照らし出す。
ぽつんと闇に浮かぶ三日月。ふと、ツキノワグマは胸部に三日月を連想してしまう模様があるからそういった名称で呼ばれているという、今どうでもいい知識を思い出した。

「熊さんと言えば、かの《三大獣害事件》に上げられる最凶の一角も、熊さんでしたね」

最悪とすら謡われる世界的に有名な大事件。
最凶の熊さんが暴れまくり、異能者や魔術師で編成させた討伐隊をも壊滅させて、甚大な被害を及ぼしたという。

……眼前の相対しているのは紅き屍骸であって、《三大獣害事件》は今関係ない。思考が脱線しすぎである。
イーリスは首を横に振った。今回の作戦に思考を戻そう。

その時、視界に映る紅い文字。

──Prediction Error

「……!?」

目を見開いた。
現実として、文字が現れているのではない。イーリスの体内にあるコンピューターのシステムがメッセージを表示させているのだ。
その紅い文字は、夜空の三日月を紅く染めた。

メッセージを意味するのは、予測演算の不具合。すなわち、これから起こる事が予測演算できない事を意味する。

どういうこと……?

先程まで、予測演算は正常に出来ていた。システムそのものに不具合は見られない。
イーリスの計画で、紅き屍骸が滅せれるないし大打撃を与えられるはずだ……。
なのに、計画の決行直前にして、何だこの不吉なメッセージは。

「……嫌な予感。当たらなければいいのですが……」

様々な違法部活から支援を取り付け、兵器を増強し、メカニカル・サイキッカーに改造を施し、緻密に計画を練って準備を進めてきた今回の作戦。
このような不確定要素で、後戻り出来はしない。
イーリスは紅き月から目を離し、改めて覚悟を抱いて歩き出した。

ご案内:「違反部活群/違反組織群」からDr.イーリスさんが去りました。