2024/08/19 のログ
ご案内:「違反部活群 廃アパートの一室」に汐路ケイトさんが現れました。
■汐路ケイト >
夜半、ぱらぱらと雨が降り注ぐ落第街。
違反部活の本拠がうごめく危険地帯のなかで、背の低いビルの屋上にシスター服がはためく。
「七階のぉ……左から三番目……おっ!いますね、いますね~」
インカムからの連絡で指示された、対面の元・高層アパートの一室を小型単眼鏡でみつめる。
そこにはさて、よくある心霊写真――のような。
室内から窓にべったりとはりつく、絶叫をあげる人間の影。
「事故物件の一室に亡霊を溜め込んでいいように使う。
故人をなんだと思っておりますやら!まったくもって、度し難いことですね。
……はい、はい。一応、中は無人と思われる……と。了解です。
もし違反学生とかが潜んでたら連絡するんで、可能な限り対応はしますが……応援お願いしますね!」
祭祀案件と、風紀案件は、これまた別。
協力はするが、それぞれの領分と得意分野があるので。
「さてさて」
身を翻す。目標地点からは逆のほうこうへと足を進め、手すりのないビルの端までたどり着くと改めて向き直る。
クラウチングスタートの姿勢。そして、弾かれたように駆け出した。
■汐路ケイト >
発進、疾走、加速――跳躍。
コンクリートを蹴り砕くほどの脚力で、ビルとビルの間を矢のように飛翔する。
「おやすみのところ、失礼しますね!」
ホルスターから取り出した大型の自動式拳銃を構える。
十字型のマズルがひとつふたつ、雷鳴のような轟砲とともに雨粒を夜闇から照らし出す。
果たして弾丸によって罅をいれられた窓硝子に、鉄板を仕込んだ靴底から突撃、粉砕。
「祭祀局のものです! ……アルバイトですが!
出来ればご協力いただけると嬉しいのですが――――ッ」
はきはきとでかい声で挨拶し、首からかかったロザリオを見せる。
――が、耳にわんわんと響く怨念の声、部屋中を渦巻く複数の亡霊の影。
相当、負の感情を駆り立てられている。
死霊術師の類が、走狗として使いやすくするために、感情の極化をしてあり方を歪められた哀れなものたち。
■汐路ケイト >
「申し訳ございません!
……多少強引にでも、連れていかなきゃならなくってぇ……!
きちんとその後のケアもいたしますので、ちょっと我慢してくださいね」
ぞろりとまとわりつく亡霊。体温が一気に冷えていくのがわかる。
この耳元に死へ誘う恨み言を囁やこうとしたその気配に速やかに銃口が向いた。
雷鳴。
「よし」
がらん。
青白い宝石が床に転がる。
「一名確保! ――いち、にい、さーん……あと四人!」
天地をさかしま、物理法則にとらわれずに室内を舞い踊る亡霊たちにとらわれないように。
その銃口は踊って、簡易封印結界のなかに亡霊を保護していく。
強力な霊体、強い自我を持つ死霊などには効果はないが、こうして都合よく使われている犠牲者たちの確保にはとても便利な弾丸が支給されるのだ。しかも祭祀が経費をもってくれる。
「ようし! ……あー、もしもし!はいはい、五名です。
五名ぶん、確保しましたので。はい、いますぐ戻りますねー」
瞬く間に仕事はおしまい。五つ転がった青白い宝石をひとつひとつ拾っていく。
「ええ。報告だと五名でしたよね。……ん?ええはい。
いや……成人女性の亡霊はいなかったはずですけどお……?
―――痛ッ」
インカムごしに状況報告をしながら、奇妙な不一致に首をかしいだ瞬間、――肩に激痛。続いて、頬に熱い感触。
■汐路ケイト >
「えっ……」
肩に押し込まれている刃は、音もなく天井から滑り降りてきた存在によるもの。
一見して百足かなにかのようにも見えたが、よく見ると、
木組みの異国の人形の、手足や胴体のパーツを悪趣味につなぎ合わせた怪物だ。
顔にあたる部分に手があり、そこに握られた包丁が突き立てられている。
いいように使われている――成人女性の亡霊、それを使った人形操術!
(出血―――まずいッ)
暴れるように振り払って、そのまま転がって距離を取る。
天井に這い戻っていった人形。照明の落ちた広い室内では行方を探れない。
「すいません、これ多分……術師!シャーマンか何か……
――違反学生がいますッ! 良さげな応援があると嬉しいんですが!」
対人戦闘、できないわけじゃないがスペシャリストとは到底いえない。
インカムに吠えながら、応援が来るぞとどこかに潜む相手に脅しもかけてみよう。
闇に向かって銃口が彷徨う。……音もなく忍び寄る、人形と術師の殺意に、思わず固唾を飲みながら。
ご案内:「違反部活群 廃アパートの一室」に橘壱さんが現れました。
■橘壱 >
インカムに吠えた直後、窓を貫き迸る青白い閃光。
異能や術式と言ったものではない。
窓を焼き切り、床を焼き切ったそれは科学力によるレーザーの光。
内部にいる者への威嚇射撃である。
程なくして、空気を焼き震わせる炎の音と共に、派手に窓ガラスをぶち破る鋼の人型。
蒼白の鋼の体に、ボロ布を全身に身にまとった機械である。
その人型の機械についた一つ目が光輝き、ケイトと百足の間に割って入った。
『────機体名「Fluegel」
搭乗者、風紀委員橘壱。援護に来たよ、僚機。』
鉄仮面の奥、モニターのネオンライトに照らされる少年の声が響く。
風紀委員と祭祀局の案件は別件である。だが、協力はする。
偶然ではあるが、別任務で近かったからこそ選ばれ急行したのが此の少年である。
本来、霊的存在とは対局に位置する科学の手足から、排熱の白煙が吹き出した。
『一応祭祀局から間に合わせ程度の霊的装備はあるけど、メインは対人。
……無線じゃあ、違反学生相手の"良さげな応援"って話だったけど……。』
モニターの向こうに見える、百足めいた化け物を見て、目を細める。
『まさか、コイツがその違反学生とか言わないよな?』
■汐路ケイト >
眼の前を横切った熱線に眼を瞠り、続いた轟音、グラスシャワーに息を呑む。
暗夜に浮かび上がる力強いシルエットを見つめれば、名乗られる前にも素性が判る。
(風紀委員会の―――鋼鉄の翼!)
商品以上のデリバリーを即時お届け、サービスが手厚くて嬉しくなっちゃいますね!
あとから高額請求とか、来る心配もないはずだ。
「汐路です……ッ、おそらく、人形遣いの呪術か何か。
そちらの百足みたいな人形にも、保護対象の魂が利用されていますのでッ……」
すっと立ち上がり、僅かに一歩を引く。
ヒーロー到来にときめいてる場合じゃないのだ。最新世代の機動力の邪魔にならない位置へ。
「どこか近くに本体がいるはずです。
そいつを抑えちゃえばどーとでも―――フリューゲルッ!!」
■NPC >
慌てて呼びかける声より僅か先んじ、クローゼットから飛び出したひとつの影。
この場において何より死霊らしいおどろおどろしい痩せぎすの少年だった。
南米を思わせる外套の下、痩せこけた男の肉体に幾つも絡みつく無数の人形のパーツ。
それが虫の脚のように複数本展開し、それぞれが持つノコギリや包丁といった刃物が、
霊性の力強さをもって、鋼さえ切り裂かんばかりの勢いで襲いかかる。
まるで暗闇から獲物に急襲する、徘徊性の大蜘蛛のように。
違反部活の雇われ、呪術使い、八連眼。それなりに殺ってる凶悪犯だ。
更に挟撃しようとした百足人形が展開した包丁は、続いた汐路の銃撃によって撃ち落とされはするものの――
この違反学生の攻撃までは、対処しきれない。
■橘壱 >
『保護対象の魂、か。それじゃあアレは攻撃できないな……。
理屈はわからないけど、そういう対処はキミに任せる。それ以外は僕が引き受ける。』
そういう魂が利用されて、人形として使役されている。
操縦士が言えた立場じゃないが、まるで漫画みたいだ。
それも悪質な方法だ。人質と凶器の両立。合理的ではある。
だが、非人道的な行いには表情を顰めざるを得ない。
ともかく、本体を捕らえればどうにでもなるらしい。
ドロリとした空気感、宵闇の中でも科学の目にはクリアに映る。
暗視センサーにより、モニターとレーダーに映る情報は、いち早く飛び出した影を捉えた。
『アイツか……!気をつけろ、同時に来るぞ!』
不健全なまでに痩せこけた少年。
モニターに表示される情報はバッチリ違反生徒の合致する。
八連 眼。違反部活に雇われた凶悪な呪術使い。
自らの身体を改造したかのように展開した無数の脚。
昆虫の多脚めいたそれが無数の刃物を展開し迫りくる。
即座に腕部から飛び出したのは鎮圧用の電磁棒。
風紀委員は軍隊ではないし、ましてやAFは兵器だ。
異能同様、その気になればたやすく人を殺すことが出来る。
だからこそ、此のように装備に制限はあるのだ。
『数が多かろうと……』
電磁棒を振りかざすと同時に、機体を包むボロ布を纏わす。
間に合わせ用ではあるが、布自体に霊的防護術が掛けられているものだ。
本来の少年にはそういった術の適性は一切なく、こうsたい外部的装備で対応する。
迫りくる無数の凶刃を電磁棒で受け止めると同時に、もう片腕の電磁棒を展開。
『本体が近づいてくれるなら!』
鋼さえ切り裂かんとする凶刃は、事実受け止めた電磁棒を布ごと裂いた。
間に合せとは言え、相手は凶悪犯、違反者として活動できる実力者。
だが、此方の間合いだ。瞬間的にサブバーニアが火を吹き急加速。
片方の武装を捨て石にしたカウンターで放つ高速の突き。
迸る高圧電流。その胴体目掛けて突き出す──────!
■NPC >
鋼越しにも肉をえぐり魂を揺さぶる、凶悪窮まる呪術の業。
それも十全な対策によって弾かれれば、少年は跳ねるように背後へ跳ぼうとする。
しかし反撃体勢からの刺突撃には速度として及ばない、痩せた姿からわかるように本体の肉弾性能が高いわけではない――が!
「あはぁ~……おまえも自覚しろよ、名前売れてんだぜえ、橘くぅん」
いつの間にか床に這っていた別の百足が飛び上がり腕に激突、電磁棒の軌道を大きく逸らす。
そういう戦術だという情報が割れていれば、事前対策が行われる、情報は落第街においても大きな価値がある。
まんまと距離を取った少年はべしゃりと倒れ込むが、人形を操って起こしてもらう。
ひょいと細い腕をあげて指差すのも人形を介して行っている。
「そういう風紀委員を殺るとさあ~……懸賞金もらえるんだぁ~……
首はそのまま換金、体は皮ごと剥いて見せしめ、魂は…」
そう言うと少年はこれ見よがしに、目玉の飛び出た手のひらサイズの鳥の人形を見せつけた。
「こいつに容れて可愛がってやるよ……死ゃあッ!」
人形の腕や脚をつかい、やはり蜘蛛のように壁を天井をと高速で這う少年は、
テーブルやタンスといった家具を放りながら、その影より刃物で必殺を狙う。
いくら広めの物件とはいえ、狭所……そしてこの環境は八連眼の巣。
■汐路ケイト >
「――ですので、こう……!」
そんな名うての風紀と、投げられたテーブルの裏に隠れ、ちょいと時間を稼いでもらえればこの通り。
言うこと聞かせた幽霊よりは、いくらか頭も回って気が利くもの、なにより積極協力の意志がある。
『あなたのそばにおられますように!』
聖書を開いて、聖句を発唱。ごく僅かな空間に、一瞬広がる聖浄な力。
すぐ使えるものなので、はっきり言って猫騙し、スタングレネードよりも頼りない一発だ。
でも不意打ちで、霊体もろとも呪術師の動きを鈍らせるくらいはできる。
「フリューゲルッ!」
さあ、あとはお好きに!
■橘壱 >
手応えはない。躱された。
身体能力がぶち抜けて高いわけじゃないようだが、技量はある。
正規の委員会と違い、違反行為をこなし続けるのは至難の業だ。
何故なら学園の秩序機構は間抜けじゃない。
大事に成ればなるほど対処は早い。殺人なんてものは代表的。
それをこなし続けるということは、相応の実力者でなければ務まらない。
そもそも落第街で身を潜める以上は同じことを言える。
『(表も裏も、此の島は怪物だらけだな……。)』
つくづくそう思わずにはいられない。
人形に起こしてもらう凶悪犯の姿を見て、鉄仮面越しに少年は鼻で笑った。
『それはどうも。頑張ってたかいがあるよ。
それじゃあ次は、お前だな。悪趣味な人形マニア。
僕のその名声とやらの踏み台になってもらうぞ。』
それこそ軽口として返してやった。
悪趣味な話題に乗るつもりはない。
センサーが、モニターが検知する男の動きを少年の反射神経はしっかりと追いかける。
『(早いな……けど……。)』
まるで蜘蛛のような不気味な動き。
正しく昆虫めいた手脚は伊達ではなく、増設した役割は果たしているらしい。
機械を使う身としては、外付けの装備には合理性を感じる。
だがきっと、アレもろくでもない技術だ。表に出回るべきではない。
哀れにも縛り付けれた人形の魂と同じく、此処で終わらせる。
狂気的恐怖。蜘蛛の巣のように張り詰められた恐怖が機体越しに伝わってくる。
だが、微塵も恐れも恐怖も、その心は感じていない。何故なら─────。
『……ナイスタイミング!』
此方には信頼している僚機がいる。
そんな淀んだ宵闇を照らすような清浄の光。
一瞬でも隙があれば十分だ。マントの裏、腰裏にマウントしてあった筒を構える。
まるで御柱のように和装めいた砲身。
蓮根のような無数の銃口が光り輝く。
『残念だけど、牢獄にいれられるのはお前の方だ。八連 眼!』
手が容赦なく引き金を引いた。
瞬間、呪術師へと放たれる拡散する藍色の閃光。
祭祀局と鉄道委員会共同開発の試作型非殺傷兵器。
外付けに込められた霊力を渾身の電流にして放つ霊的スタンショットガン。
試作品ゆえ一発限りだが、その威力は十分。
生半可な呪術的装甲を貫通し、対象の意識と自由を奪う必殺の一撃。
その身でしかと味わうといい──────!
■NPC >
「なぁッ――――!?」
末期の悲鳴も悪役らしい捨て台詞も、立て続けのアクシデントには舌が回らない。
発声と言語にまでは、人形のサポートは受けられない。
常世島を維持たらしめんとする多方面の努力の結晶――その閃光を浴びて、
人形遣いの蜘蛛人はまるで強烈な殺虫剤を食らったかのように、
天井から床にべしゃりと落ちて、残存する電流に時折痙攣しながらもぐったりとうなだれていた。
■汐路ケイト >
「……ずびばぜん、助かりましたぁ……ッ!」
ばん、と銃声。残る5――6人目。
百足人形の中の魂をしっかりと保護は、それに僅か遅れて行われ。
なんとも情けなく近くに寄ると、フリューゲルに両手を組んだ。神様もいるのかも。
その片手は肩からの流血で赤斑に染まっていたが、出血はどうやら停まっているようだ。
「まさかフリューゲル……橘くんが来てくれるなんて思いませんでした。
おかげで無事にお仕事終了!ですよ……!
こう、もっと大きめの犯罪にかかってる人だなあ、って印象だったので……あ、これ!」
助けに来てもらえなければどうなっていたことか。
最低でも取り逃していた気がして、そう考えると祈りも捧げたくなる。
そこでふと、どうぞ、と壱に渡すのは、聖句がびっちりと刻まれた封魔手錠だ。
緊急時には自分に逮捕権が渡るけれど、基本的に犯罪の対処は風紀の領分。
もちろん手錠をかけるのも。
■橘壱 >
砲身から大量の熱を持った白煙が吹き上がる。
上部からカートリッジが排出され、御柱めいた砲身は真っ赤に染まっている。
威力は十分だが、相反する技術の調和が取れていない。
だが、実践で使用したことによりさらなる研究は進むだろう。
カートリッジを回収し、再度腰部分にマウントされた。
『……生憎と、僕の翼はFluegelだけだ。』
足元に転げ落ちた鳥の人形を一瞥し、低い声で吐き出した。
こんなものじゃ、目指すべき頂きでは辿り着けない。
今も昔も、時分の翼はただ一つ。何処か険しい目線でモニターを睨んだ。
『うわっ!?お、落ち着いて。居合わせたのは偶然みたいなものだし……。
それよりも怪我してるじゃないか!出血は止まってるみたいだけど……大丈夫?』
不意に組み付かれたもので思わずびっくり仰天。
ぎょっと両手を上げて鉄仮面ごしにあたふたしてくるのが伝わってくる。
ロボと言えど着込むタイプのパワードスーツなので動きはダイレクト。
鋼越しとは言え中身は彼女いない歴=年齢のオタクくん。
女性に組み付かれるとそりゃもキョドる。ちょっと声も上ずった。
それでもモニターに映った怪我を見ればすぐに冷静にもなる。
医療機器を扱う弊社が扱うAFにはしっかりと医療関係の機能も存在する。
出血は出来ているようだが、怪我は怪我。心配にもなる。
『別に、戦うだけが風紀委員じゃないよ。
交通整備は僕だってするし、巡回や書類仕事だってする。
まぁ、少し前までは仕事をえり好みしていたのは事実だけどさ。』
『それに、仕事も大きいも小さいも無いだろう?
キミだってこうして体張って頑張ってくれてるんだ。立派なことだよ。』
確かに違反生徒はそれこそ目の前の呪術師だけじゃない。
勿論それらを捕まえるのも仕事ではあるが、秩序機構である以上
それ以外にも仕事は幾らでもある。少し前ならともかく
こうして他人を尊重し、過去の己を振り返ると少し気恥ずかしい。
鉄仮面の奥では少しはにかんだ笑みを浮かべながら、封魔手錠を受け取った。
『いいのか?キミのお手柄だと思うけど……
まぁ、せっかくだし美味しいところもらうようで悪いけど……。』
鋼の足音が、フローリングを揺らす。
『八連 眼。現時点を以てお前を逮捕する。』
凛とした声音。即座に痩せこけた手首に手錠が掛けられた。
■汐路ケイト >
「あんまり大丈夫じゃない……けど、大丈夫です!
これくらいなら、はい!治りも早いので!痛ったあ!…だ、大丈夫ですから!」
おっと、と手を離した。はしたないったら。
そのあと、安心させるようにバシーン、と自分の傷口のあたりを叩いてみせた。
その叩いたダメージが痛かったからちょっとライフは減ったが、傷口はだいぶ塞がってきている。
フィジカルはこちら、だいぶ強いほうだ。
「うっ。……い、いえその、あたしはあれでしてね!
どれもこれもその……おカネのためにやってて……
そういう立派なことを言われるとっ……!」
眩しい……!ってなってしまう。
それにしても……鉄火場に現れる鋼鉄の機人。恐ろしい印象があったが、好青年だ。
さぞモテるんだろうなあ、なんて下世話なこと考えちゃう程度には。
「それにその、なんでしょうね。生きてるひとを殴ったり、血が出たりにどーしても抵抗が。
だからちょっと、選んじゃってる。今回はたまたま、八連と出くわして」
もともと幽霊とかを保護したりなだめたり、時々調伏の退魔が仕事。
素面の状態で他人を殴る、斬る、撃つ――そういうことをできる自体が、
感情の処理や反動の大きさはひとそれぞれとはいえ、ひとつの才能なのだった。
汐路ケイトは、そこに強くブレーキがかかってしまう、もってない側。
「いえ!おカネはもらえますからだいじょーぶ!……お見事です!」
むしろ犯罪者逮捕協力ということで臨時の報酬も出ます、あなたのおかげで!
余計なことは言わないまでも、サムズアップ!
そこで、サイレンが聞こえてきた。
「……あ、応援来てくれたみたい。
このあと引き渡しですかね。橘くんは、そのまま同道するんですか?
……ちょっといったとこ、実は美味しいラーメン屋台が!
お礼に一杯、味玉付きで奢らせて頂きたいなあ、とか!」
臨時ボーナスの分から、それくらいは―――!
■橘壱 >
意外と彼女はアクティブだな。危ない。
ちょっとオタク的には危ない。スキンシップは大変危ない。
危うく心臓が飛び出す所だった。ちょっと気をつけねば。
『いや、普通に痛がってるし大丈夫には見えないけど……
とりあえず病院に行った方がいいとは思うけど、まぁ……。』
確かに回復力は高いようだ。
実際センサーで確認できる範囲ではバイタルに異常はない。
本人が言うように問題はなさそうだが、出血量からして確かな傷だ。
強要は出来ない。事実、怪我が治ってしまったら無駄足だし。
だからせめて、医療検査だけは勧めておこう。
青白い一つ目が輝くと鋼人の体は溶けていく。
まるで糸がほどけるようにほつれて行き、中から出てきたは白衣の少年。
足元に残ったのは重厚な金属製トランクであり、それを持ち上げて一息。
懐から黒縁メガネを取り出せばしっかりと顔にかけ首を振った。
「いいんじゃない?お金、十分な理由だよ。
社会で生きていく上で必要な報酬を真っ当な手段で稼いでるんだ。」
「文句のつけようもなく立派な行為だと思うけどね。」
そこに違法性がなければ、十分過ぎる理由だ。
そもそも安定期に入ったとはいえ、超越した技術や幻想が跋扈する世の中だ。
生きるだけでも混沌の中を生きているようなものなんだし
社会にはみ出さないだけでも十分立派だと少年は考える。
「……別に僕だって、平気なわけじゃない。
血を見るのが好きなほど狂気的じゃないよ。
まぁ、AFを動かすのは好きだから、戦うこと自体は嫌いじゃない。」
「そこまで気負うことじゃないよ。
委員会にいるからって、戦うだけが仕事じゃないんだ。
そういうのが苦手なら、頼ってくれればいい。適材適所、だろ?」
初めてAFに乗った時の事は今でも覚えている。
初めて人を殺し、血を浴びた経験も、余り思い出したくはない。
脳裏によぎった忘れられない体験のせいで、顔色が悪くなり奥歯を噛んだ。
それでも気を取り直すように咳払いをし、安心させるようにはにかんだ。
そう、別に委員会は戦闘集団じゃない。
飽くまで、付随する業務に荒事も挟まってくる事があるだけだ。
風紀委員だからって、違反生徒と戦うのは義務じゃない。
ちゃんと事務職だって存在する。だから、やれる人間だけ背負えばいい。
それが出来る側だからこそ、少年は背負い、常に前線にいる。
自らの野望、夢のために、常に鋼の翼を羽ばたかせるのだ。
「……僕は応援に来ただけさ。間に合ってよかったよ。
さっきも言ったけど、まずは医療行為のがいいと思うけど……まぁいいか。」
「ラーメンか、それはいい提案だ。
けど、お金のためなら少しは節約しないとね。
奢りはいいから、一緒に食べようか。但し、後でちゃんと肩は診てもらおう。」
「それで良ければ、付き合うよ。えーっと……。」
確か名前は……なんて言ったっけな。