2024/08/25 のログ
■真詠 響歌 >
「痛い所突くなぁ」
否定は、しない。
逃げてない? と言われれば猶更しようが無い。
ただの音楽好きだった少女、真詠響歌のシンデレラストーリーは、既に終わっている。
寄り添う事、繋がる事を心のままに書き上げて、自分の全部を乗せて世に放った音は果てに人を殺めた。
人の心を動かすという常識的な危険性は、超常の力と見紛われ、自己理解よりも先に隔離が進んだ。
『君の歌は人を操る』
『集団自殺を引き起こした要因である異能が解明されるまで君を自由にはさせられない』
物理的な脅威に抗う力を持たない小娘は、我儘を述べながらもその隔離を受け入れた。
研究者たちのモルモットとして、無自覚な危険な異能の保持者として。
魔法が解けたのは、きっとその時。
我を通すなら、殺せば良かったのに。
本当に歌一つで、言葉一つで人を変えられるのなら。
大人しく首輪を付けられたあの日から、本質的な意味で真詠響歌の歌は力を喪っていた。
その手に握られたチケットを私は知っている。
実績と、才能と、巡ってきた好機を逃さない幸運を逃さなかった者だけが掴める切符。
いつかの自分ならいざ知らず、行く宛ても無い小娘には眩しすぎた。
オンリーワンである事の証明に他ならないそれは、残酷な程に自分の今を思い知らされる。
「まぁ逃げたのは事実だし、風紀委員の中に訳わかんないくらい怖いのも居たし。
ソレについてはおめでとう、って言うべきかな?」
違う。
違う違う。
「命あってのなんとやらだし自由なんて――――」
二の次? 本当に?
怖かったのは本心だ、死ぬかモルモットかの二択で後者を選んだのも仕方が無かった。
――――仕方が無かった?
だったらこの、苛立ちは なに?
サムズアップして一人の音楽家の大成を祝う?
違う違う。
これだけ煽られたら、分不相応にも甚だしいけど。
■真詠 響歌 > 「あるわけないじゃん、ばっかじゃないの」
死ねば良いのに。中指立てて、言い放つ。
眼前の美貌の主に向けて。
あるいは常世島に、世界に向けて。
それは怨嗟の言葉。
力を持たない小鳥の、精一杯の強がり。
自信に満ちた顔が嫌い。
果てまで届く声が嫌い。
余裕綽々の姿勢が嫌い。
眩しくて、手放した光がダブって見えて、眼が焼ける。
■ノーフェイス >
「当然の結果――なんて言うつもりはないケド。
……ボクが掴んだ切符は、スタートラインでしかない」
ゴールではない。間違っても。
神を奉じない人間であっても、運の巡りそのものは否定できるわけもない。
一分一秒のずれが結果を左右するともされたこの業界において、
運も実力のうち、としばしば言われるのは、誰かの目に留まるということが、
古今東西において大きな障壁であり続けていることの証左だ。
「…………」
突き出された中指と、怨嗟。
彼女の事情は推し量るしかない。一切の異能や魔術を感じないこの娘の事情は。
下世話な噂話と都市伝説の向こうにいる存在を、ただ。
冷ややかな表情で見つめて、受け止めた。
――心は、揺れない。その声は、響かない。
真詠響歌の現在地を、どこまでも残酷に知らしめる勝利者の姿。
挑まぬものに、黄金の夏は微笑まない。
「……自由って、そんなに良いものかな……」
不意に。それが、本当に尊い輝きを放つ概念なのだろうかと。
かつての翼に憧れた少年が口にしていた言葉を、思い出しながら。
指摘するのではなく、思推の音がこぼれた。
――渡すものは渡したと、背を向けて、ぽい、とこの倉庫の鍵――木札の形をしているが――を、投げて寄越す。
「あげるよ、もういらないから。
ここにあるものも、ノーフェイスも」
出口に、足を進める。
まばゆい光射すほうに。
新たな試練の待つ次元へ。
「ねえ、響歌」
■ノーフェイス >
「キミは、そのままでいいの?」
肩越しに、振り向かず。
返答を待たず、ただその言葉を残した。
試練は――自己の超克は、成長のためにある。
かつてのハロウィンと、見下す側と見上げる側の構図は変わらず、距離だけが開いた。
どこまでも正しく聖哲に、焼けたナイフで、敗北の烙印を刻みつけるようにして。
「……いまの自分を、赦せるの?」
怒りを、嫉妬を、嫌悪を、怨嗟を――――力の源を、扇動する。
その意図を隠そうともしない。
返答は聞かなかった。
挑んで、勝ってみせろと。
その試練は、最初から響歌の眼の前に存在しているはずである。
ご案内:「違反部活群 とある地下倉庫」からノーフェイスさんが去りました。
■真詠 響歌 >
高い所に声は届かない。
賞賛に後押しされて羽搏く足元で汚い言葉が蠢いたとしても、
それは酷く小さくて、響かない。
良く、知っている。
「――――ッ!」
扉は閉ざされる。
膝を突いたままの落伍者を残して。
良い訳が、赦せる訳が――――無い。
それなのに言い返す言葉が咄嗟に出てこない。
あぁ、腹立つ――――。
分かりやすすぎるくらいに焚きつけられて、怒りに震える手を壁に叩きつける。
パキン、と乾いた音が鳴る。
折れた。絶対折れた。
痛い、痛い痛い。痛い痛い痛い自分に。
「うるっさいのよ! 良い訳ないでしょ!
不自由でも満足できる道を進めてるならどーでもいいけどっ
赦せる訳がっ、無いよ!」
イライラする、顔見知りだったあの人に。
イライラする、踏ん切り付かない自分に。
あぁ、違う。
死ねば良いのに、じゃない。
呪詛を吐くなら死ねって言いきらなきゃいけないんだ。
届かない言葉に意味はない。
届かない呪詛はただの負け犬の遠吠えだ。
「あぁ、腹立つ……」
めっちゃ痛いし、完全に頭に血が上ってる。
けど――――
「うん、あの人いつか殺す……」
言いつつ、端末の録音機能を起動する。
今の感情を、取りこぼさないように。
溢れる情動の全部を、紡いで、吼える為に。
ご案内:「違反部活群 とある地下倉庫」から真詠 響歌さんが去りました。