2024/08/29 のログ
■エメラルド田村 > 「なにっ……? つまんねぇ……だとぉ!!」
アジト屋根上部から出ている顔、その内部のコックピットでエメラルド田村は額に筋を浮かべていた。
「くっ……!!」
ドラゴンブレスにより爆散させられるミサイルを見て、エメラルド田村の額にはさらに筋が増えた。
「俺ァ……俺達はァ……スラムのストリートチルドレンだ! これまで不良として過ごして、今更どの面下げて表に出ればいいっていうんだよぉ! お前等大人は散々俺達を見捨ててきたくせに、ふざけんなぁ!! てめぇならよぉ、スラムで貧しく暮らし奴らがいるのは知ってるよなぁ? この街には、見捨てられた子供達が多くいるんだよぉ!」
だから、任侠が必要だ。
弱きを助け、自分達も生きていく。
互いに助け合って、生きていくんだ。例え、マフィアに縋ってもだ。
だが、なんだ?
イーリスをはじめ、なぜ一部のフェイルド・スチューデントのメンバーが鋼先生側にいる……?
「うおおおおらああああああぁぁ!!!」
顔部分にまで迫りくる鋼先生。
アジトロボが殴って対処しようとしたが、鋼先生の動きがあまりに素早過ぎた。
「ぐはあああああああぁぁぁぁ!!!」
鋼先生の拳はアジトロボの顔面を貫き、そしてコックピットのエメラルド田村の顔面を殴った。
エメラルド田村はそのままコックピットを貫通し、アジトロボから投げ出されて地面に背中をつけて倒れた。
「ぐはっ……! ふざ……けるな……。この俺が……あんな先公なんかにぃ……!! ふざける……なぁ……!!」
痛みで全身が動けなくなった。それでもエメラルド田村は鋼先生を睨んでいる。
■龍宮 鋼 >
「テメェらが大人をそう言うもんだと思ってっからだよ」
裏を知らない連中は、自分たちを見捨てている。
自分たちのような裏で生きていくしかない連中を踏み付けていることなど知らずに、幸せそうに暮らしているくせに。
かつて自分もそう思っていた。
けれど、それは自分がそう言う風に生きようとしていないからだった。
彼らを救おうとした誰かいたはずだ。
助けようとした誰かがいたはずだ。
それを彼らが見ていなかっただけ。
「オラ、立てよクソガキ。
立てねェなら腕ェ動かせ。
腕動かねェなら噛み付いて来い。
わかってんのか。
動かねェとテメェ、死ぬぞ。
テメェらが生きようっつーのァ、そう言う世界だ」
こちらの右腕は完全にひしゃげている。
拳はぐしゃぐしゃにつぶれているし、前腕の真ん中あたりに関節が一つ増えたようにあらぬ方向を向いている。
それを無理矢理に真っ直ぐ伸ばし、甲殻で支えて。
潰れた拳も甲殻で覆い、無理矢理拳を作る。
折れた腕でぶん殴り、砕けた脚で蹴り飛ばし、血反吐を吐いても暴れることを辞めなかったあの頃の様に。
■エメラルド田村 > エメラルド田村は過去の左腕と右足を失っており、義手と義足。
その義肢も含めて、エメラルド田村は体を一切動かせない。
先程の衝撃で、もう体のあちこちが折れている。
それでも気力だけで、鋼先生を睨む田村。
鋼先生もまた、右腕が潰れてしまっている。
それでも、鋼先生は向かってくる。その事にエメラルド田村は少なからず恐怖を覚えている。
「くっ……。ぐぐ……!! く……くそおおおおぉぉおぉ!! 動け、俺の体!!」
死への恐怖を感じていた。
このままでは殺される……。
それでも、エメラルド田村は動けない。鋼先生を睨む事しか、エメラルド田村にはできない。
「こんなところで、死んで……たまるかぁ! 俺は《常世フェイルド・スチューデント》とエメラルド田村だぞ……! 誰からも見捨てられたフェイルド・スチューデントを守り続けなきゃならねぇんだ……! こんなところで……!」
体さえ動かせるなら、右腕が壊れた鋼先生になら一矢報いれる、そんな無謀な事も考えるぐらい余裕がない。
エメラルド田村の顔がだんだん恐怖の色で染まっていく。
■Dr.イーリス > 「鋼先生……。エメラルド田村さん……」
鋼先生の腕が、ひしゃげている……。それでも鋼先生は、体を張り続けてくれている。
一方のエメラルド田村は、もう体を全く動かせない。
「あのような状態になってまで、あれだけ体を張ってまで……鋼先生は私達の事を想ってくださって……」
過激派不良達の応急処置をしていたイーリスは、地面にぺたんと座っていた。
イーリスは祈るように両手を組む。
鋼先生は、とても強い方……。
戦闘だけじゃない。
アジトを制圧する時に、例え右腕が壊れても、生徒に向き合い続けてくれた。
生徒と真正面から向き合ってくれて、そして殴り飛ばしてくれて……。
鋼先生がイーリス達を掬ってくれた……。
イーリスの右目から雫が零れ、頬に垂れていく。
■龍宮 鋼 >
「身体動かねェ程度でもう戦えねェつーなら、所詮その程度だったっつーことだろ」
守りたいなら動かない身体も動かせるはずだ。
あちこちの骨が折れた程度で動けなくなるなんてことはないはずだ。
だって自分はそうして来たのだから。
自分が死ねば残されたものが死ぬ、と言うのなら、動けないはずがない。
「そんだけ喋れんなら動けるだろうが。
下らねェワガママ食っちゃべってねェでよ」
そのまま彼に近付き、左手で彼の服の襟を引っ掴んで持ち上げて、
■スーツの男 >
「あー、イーリスちゃん、ッスっけ?」
イーリスの側にいたスーツの男――龍宮鋼の上着を持っている男が困ったような笑顔を浮かべて。
「姐さんのアレはそう言うんじゃないスよ。
多分――」
■龍宮 鋼 >
そのまま折れた右腕を振りかぶり、エメラルド田村の顔面を思い切りぶん殴った。
■スーツの男 >
「スジ通せ、ってだけスーー姐さん!それ以上やったら死んじゃうスよ!!」
喚きながら男たちが龍宮鋼に群がっていく。
■エメラルド田村 > (動かねぇのに、戦えるわけねぇだろ……)
ごく普通の事を考えてしまう。
痛みで動かないものは動かない。
死んではいけないというのは頭で理解しているが、気力で動くわけがない。
ようは、鋼先生に対して『無茶言いやがって』とエメラルド田村は思っていた。
そうして抵抗できないエメラルド田村は、鋼先生に襟を引っ張られ、持ち上げられる。
「ぐっ……!!」
■Dr.イーリス > 「へ……?」
鋼先生のお仲間のお一人、スーツの男性に言われた言葉に、イーリスは目が点となる。
その後、エメラルド田村は殴られて吹き飛ばされていた。
しかも、鋼先生の右腕が凄く痛い事になってるのに……!!
「あの……わわ!? こ、殺したらだめです……! それに、それ以上殴ったら鋼先生の右腕も可哀想です……!!」
鋼先生の仲間達と一緒に、イーリスも慌てて鋼先生へと群がっていった。
■龍宮 鋼 >
「離せヤス!!
こいつの甘ったれた根性叩きなおしてやるァ!!」
吠えて暴れる。
数人の男が腕や脚にしがみ付いているのに、それらを引きずる様になおも前へ歩を進めているのだから凄まじい。
それでも更に人が増えれば、流石に進めなくなったようで。
「――わァったよ!
うっぜェなァ、オマエらよォ!」
そんな彼らを振りほどき、内数人を跳ね飛ばす。
右腕がひしゃげているとは思えない暴れっぷり。
しかしそれ以上暴れる様子は見せず、腕を組んでエメラルド田村を見下ろして。
「今日はこの辺で勘弁しといてやる。
テメェも含め、怪我した連中は治療してやるよ。
表の病院は色々面倒だからな、裏の医者で我慢しろ。
心配すんな、腕はいい」
そこで腰を曲げ、彼に顔を近付けて。
「ただし、まだヤクザの兵隊続けるつもりなら、怪我治ったらまた来るからな。
それを辞めねぇ限り何回でも、だ。
腕やら脚やら叩き折って、病院ぶち込んで、治ったらまた叩き折る。
テメェらが折れねェ限り、ずっと続ける。」
やると言ったらやる。
そんな迫力で睨みつけて、体勢を戻して。
「それが嫌ならちゃんとした学生証貰って真面目に暮らせや。
捨て子じゃァねェが、こいつらもそうやって今真面目に暮らしてんだからよ」
親指で示すのは、自身が連れて来た男たち。
中にはチャラい恰好をしている者もいるが、全員がちゃんと表で仕事をしている連中ばかりだ。
かつてのチーム――鋼の両翼の元構成員たち。
■Dr.イーリス > 鋼先生の仲間達が鋼先生を押さえている姿を非力なイーリスはあわあわと見ているだけしかできなかった。
それでも鋼先生は前に進む。鋼先生の仲間は、とても慣れている方である。そのような方々に押さえつけられても尚前に進む。しかも、右腕は壊れている状態で。
えっとえっと、と迷った後、イーリスは意識が朦朧としているエメラルド田村の前に立ちふさがっていた。
「あの……えっと……あの……その……」
鋼先生の方向を向いて、イーリス物凄くがくがくと震えていた。だが、さすがにこれ以上殴られたらエメラルド田村が死んでしまう。
制裁はお願いしたけれど、殺害まではお願いしていなかった。
だが、非力なイーリスが全身震えながら立ちふさがっているのは、物理的には何の役にも立っていない。
やがて鋼先生のお仲間達が鋼先生を止めてくだされば、イーリスは安堵の息を漏らしながらその場にぺたんと座り込んだ。
■エメラルド田村 > 「…………う……うが……」
意識が朦朧としている田村ではあるが、鋼先生の言葉は聞こえていた。
(鋼……。とんでもねぇ奴に目をつけられちまった……。マフィアの連中に仕事をもらうのはもう無理だ……。次は殺されちまう……。それに、イーリスが鋼側についている……。俺は……間違っていたのか……。どうすれば……よかったんだ……)
「……まじめ……に……だと……」
(表に戻れるっていうのか? 今更、表に戻ってこれるのか……? 鋼がいる限り、もうマフィアからは仕事を得られねぇんだ……。どうするか……考えねぇと……)
エメラルド田村はかつての鋼先生の仲間達を目にしながら、ぐたり、気を失ってしまうのだった。
鋼先生の拳、そして言葉は、エメラルド田村に強烈に響いた。
もう、マフィアから手を切る事を決めてしまう程に。
表で働ける可能性は置いといても、マフィアから仕事を受ければ、次はまた鋼先生にどんな目に遭わされるか分からない。
鋼先生は、実質的に不良集団《常世フェイルド・スチューデント》を壊滅させた。この日をもって、不良集団《常世フェイルド・スチューデント》は滅びたのだ。
それなりに名が知られる不良集団《常世フェイルド・スチューデント》。それを滅ぼしたのだから、鋼先生の勇姿、その噂は瞬く間に落第街やスラムで広がる事になるだろう。
ただし、あくまで不良集団《常世フェイルド・スチューデント》が滅びたのである。
フェイルド・スチューデント自体は、また別の形で残り続けている。
■龍宮 鋼 >
「――んな顔すんじゃねェよ。
一応これでも手加減はしてる。
人間どこをどう、どのぐらいまでならぶん殴っても死なねェかっつーのはわかってっからな」
当たり所が悪ければ一発小突いただけで死んでしまうが、ちゃんと気を付けて殴ればただ怪我をして痛いだけだ。
現にエメラルド田村は生きている。
とは言えもう殴るつもりはないが。
周囲では男たちが腕や脚をへし折られて呻いている不良少年たちを運んでいる。
どこからかマイクロバスを調達して、それに次々乗せていた。
行先はさっき言った闇医者だ。
「さて、と。
これで一応片ァ付いたか。
俺ァもう帰るが、オマエはどうすんだイーリス。
バス乗ってこいつらに着いてくか」
そうじゃないなら送っていくが、どうする、と。
■Dr.イーリス > 鋼先生の言葉で、イーリスは明るい笑顔になった。
「鋼先生、ほんとにありがとうございました! 私達、これからきっと前に向かって歩いていけます。エメラルド田村さん達がどんどん闇に堕ちていって……もう、どうすればいいのか分かたなくなって……」
笑顔だったイーリスの瞳から、涙が溢れていた。
「ひぐっ……。もう……フェイルド・スチューデントのみんなは助からないのかなと不安に思ったりもして……。それでも……鋼先生がずっと私達を真っ直ぐ見続けてくれていたから……。真っ直ぐ向き合ってくれたから……。私達、また歩みだしていけます」
当然ながら穏健派不良達も過激派不良達をバスに乗せていくのに力を貸している。
イーリスは右手の甲で自身の涙を拭う。
そして、鋼先生の左手首をつかむ。
「帰ったらだめですよ、鋼先生。先生も無茶したのですから、一緒に病院に行って診てもらうのです。治療費ぐらい、私に出させてください。私、いまはちゃんとお仕事していますからね。ご一緒にバスに乗りますよ、鋼先生」
再び笑顔に戻り、鋼先生の手を引いてバスに連れて行こうとする。
鋼先生も随分と無茶をして、右腕が凄く酷い事になっている……。
■龍宮 鋼 >
「別に構いやしねェよ。
センセーっつのァそう言うもんだ」
正確には彼女は正規の生徒ではないが、細かいことは良いだろう。
どちらにせよ子供と大人と言う意味では同じことだ。
「言っとくが、これで万事解決って訳でもねェからな。
正規学生の手続きだって残ってんだし、正規の学生になったからっつって周りの目が変わるわけでもねェ。
不良って見られてたのが元不良って見られるようになるだけだし、それに耐えて真面目に暮らさなきゃならん。
なんかあった時に真っ先に疑われることだってあんだろ。
事と次第によっちゃ、今までより大変かもしんねェからな」
実際自分がそうだったし、それで中々表の生活に馴染めなかった。
未だにそう言う風に見られることもたまにある。
上司からとか。
「ッチ。
こんなもんほっときゃ治るんだがな……おいヤスオマエなに笑ってんだ」
めんどくさそうな顔をしつつも、彼女に腕を引かれてバスの方へ歩いていく。
そのやりとりを見て笑っていたスーツの男の頭を右手で殴り付けた。
ヤスと呼ばれた彼は「イッタァ! 姐さんやめてくださいよスーツに血ィ付いちゃうじゃないスか!」などと騒いでいたとかいないとか――
■Dr.イーリス > 「生徒のためにここまで体を張ってくださる先生、そうそういませんよ。凄く感謝してます、鋼先生」
にこっと笑みを浮かべてみせる。
「鋼先生が私の身元引受人になってくださって、凄く嬉しいですよ。正規学生になってからは、そうですね……私もこれまでの行いを反省して、私なりに少しずつ罪を償いながら、学園で少しずつ学んでいこうかなって思います。何かあった時に疑われたなら、身から出た錆だと思う事にします。鋼先生は、不良から教師になった身ですので、そういった意味でも私達の先輩です。ご指導お願いしますね」
元不良同士で、鋼先生はとても頼りになる。
もちろん、自分から学園に溶け込めるよう率先して動く必要はある。
「鋼先生は私の身元引受人になってくださるのですよね……。なら、先生というよりも……」
イーリスは、少し顔を赤らめる。
「鋼お義母さん……ですね」
そう口にして、イーリスは嬉し気な笑顔を鋼お義母さんに見せた。
そうして、鋼先生の手を引いてバスに乗り、みんなで病院……というより闇医者に向かう。
バスの中でイーリスはヤスさん達にも、今日の事でいっぱいお礼を述べた。
■龍宮 鋼 >
「バカヤロウ、この歳でオマエみたいな歳の子供がいるか。
良いとこ姉貴ぐらいが精々だろうよ」
お義母さん、と呼ばれて露骨に嫌そうな顔。
娘は勘弁だが、妹なら別に今更一人や二人増えたところで構いやしないが。
尚。
病院に着いたところ、闇医者は自身の顔を見るなり、
『お前さんに治療はいらねえだろう』
と告げてきただろう。
実際その頃に腕の形はぐしゃぐしゃのままだが、傷は塞がっていたのだから。
■Dr.イーリス > 「それでは、姉貴ですね! 姉貴!」
笑みを浮かべてそう呼んだ。
姉貴、そう呼べるできる人ができて、それもその方が鋼先生で、イーリスはとても嬉しく思うのだった。
ご案内:「《常世フェイルド・スチューデント》のアジト」からDr.イーリスさんが去りました。
ご案内:「《常世フェイルド・スチューデント》のアジト」から龍宮 鋼さんが去りました。