2024/09/13 のログ
ご案内:「廃工場」に『逃亡者』弟切 夏輝さんが現れました。
『逃亡者』弟切 夏輝 >  
 
 
その区画の路地に、まばらに倒れ込むものたち。
まるで突風になぎ倒された木々のように伏して、苦しみうめいているのは、
何者かに襲撃されたか、返り討ちにあったかの群れ。

違反生であったり、仮面のものたちであったり、いずれにせよ、
そうした有象無象を寄せ付けない何かが通過した災害の痕跡だ。
血は流れていない。発砲されたものはいない。その必要がないほどの実力の懸絶。
 
 
 

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
――その、奥。
すでに内装が引き上げられた広い廃工場に、ひとつの影があった。
中央に積み上げられた資材箱のうえに座り込む姿が、天井から落ちる光によって浮かび上がる。

中折式(トップブレイク)のヒンジを展開し、回転式のシリンダーに弾丸を込める――.500S&W。
大口径、高威力。拳銃としては最高峰の威力を誇る。
――装填。手首をするどくスナップさせて、Fragarach(フラガラッハ)が左右に5発ずつの死神を孕む。

「…………」

うつむく所有者の表情は氷っている。
誰も来なければいい。誰にも逢いたくない。
目を閉じれば、親友の悲痛に歪む表情が蘇る。眠ることもできない。
自分の名前を叫ぶあの声が、ずっと頭のなかで反響している。

「…………」

ポケットからケースを取り出した。注射器はあるが――……薬液がない。

「適当に違反部活(どっか)から()るか……」

それでも、今は動く気力すら沸かなかった。
いますぐここから消えてしまいたい。ずっと、そんな気持ちに支配されている。

ご案内:「廃工場」に橘壱さんが現れました。
橘壱 >  
どうにも都合の悪い事というのは、
連続で起きてしまうらしい。
静寂に満ちた廃工場に、波紋のように響く音。
大気を焼き、機械的駆動音が聞こえた同時に、
天井の光を遮り、轟音と土煙を上げてそれは飛来した。
蒼白の鋼の装甲。人の体躯をした機械(マシン)
膝つき姿勢から立ち上がると同時に、
排熱される白煙が周囲の空気を歪ませる。
青い一つ目(モノアイ)が輝き、@逃亡者@を捉えた。

『……間違いない。』

鉄仮面の奥、モニターの光を乱反射する
少年は沈痛な面持ちでぼやいた。
様々なデータと外の形式の他、
逃亡者のデータと、その鎮痛な面持ちが合致する。
風紀委員会、操縦士(パイロット)橘壱。
今回の騒動鎮圧目的に駆り出された一人であり、
『逃亡者』の追跡。科学の力だ。
何の対策もない相手なら、位置を割り出すのは容易だ。

『……随分と酷い顔をしているな。
 精神的疲労も見える。その様子だと、ろくに休めてないな。』

オープン回線。
鋼の奥から、少年が語りかける。

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
飛来した闖入者の気配にぴくりと眉が動く。衝撃に煽られ、髪が揺れた。
視線だけがそちらに動いて、鋼鉄の機人を見据えた。

「あんた人見知りはするほう?」

気だるげな声が投げかけられる。

「わたしは結構するの。見ず知らずとのおしゃべりって、けっこうつかれるから。
 ……そっとしといてくれない?だれか知らないけどさ……」

埃が舞い上がり、不快げに目を伏せた。
見ず知らずは事実。だれか知らないは嘘だ。よく目立つ風紀委員の名は、たとえ単独でいても聞こえてくる。

橘壱 >  
『コミュニケーションは、不得手かな。
 悪いけど、気の利いた言葉は掛けてやれない。
 僕は西川さんより口達者でもないし……』

凛霞先輩より、優しくもない。』

敢えて、その名を口にした。
モニターの光を乱反射する
少年の表情は僅かな怒気で強張っている。
弟切夏輝(おとぎりなつき)。今回の加害者
元・風紀委員であり、現交殺人犯。
あの時、きっちりと報告書には目を通し、
Fluegel(フリューゲル)にもしっかりデータは記録している。
彼女が、とうの先輩と親しい人柄で、
偶然にも接触してしまったことも。

腰にマウントされていた
ライフルを、右手が握る。
それが何よりも、逃がす気は無い意思表明。

『……風紀委員、橘壱(たちばないち)
 凛霞先輩から、少しだけアナタの話を聞いた。
 詳しくは知らないけど、仲が良かったんだな。』

モニターの向こう側、
酷く冷めた視線を、碧は見据える。

『僕はアナタの事を良く知らない。
 ……が、撃ててしまうんだな
 元の仲間も、親しい相手だって。
 一体何が、アナタをそうさせる?』

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
「コミュ下手を交渉事(ネゴシエーション)に寄越すなんて、指揮系統どうなってんの」

表情がうまれた――わけではない。
ただ口端だけが、笑おうとしたのか歪に釣り上がる。
親友の名前を出されても――表情は揺るがない。
他人に対して、ひどく冷徹になれる。その本性を、極限状態がむき出しにしている。
鋼鉄の向こうから感じる感情が伝わらないわけでもあるまいに、箱のうえに座り込んだまま悠然と。

「輝せんぱ……、」

言い淀んで、

「……テンタクロウと戦りあったあんたなら、わかるんじゃない?
 人それぞれだよ。なに、話したら見逃してくれるの?
 そうじゃないんだったら、話す必要もないように思うけど……」

僅かに身を乗り出すようにして、炯々とした双眸がみつめた。

「わたしを捕まえて……凛霞に気に入られたいのかな、新人くん?
 残念だけど、あんたじゃノーチャンスだと思うよ」

凛霞(シンデレラ)の王子様にはなれないと、せせら笑う。

橘壱 >  
ふ、思わず鼻で笑い飛ばしてしまった。

『まさか。此れは、僕が勝手に行っている。
 しっかり交渉する気なら、それこそ僕らじゃなく
 公安委員会の怖い人達が来る頃だろうさ。』

既に交渉なんて段階はとうに過ぎている。
複数人の生命を奪った凶悪犯だ。
見かけ次第、制圧・確保が基本。
やむを得ない場合だって想定されている
歪な表情が、モニター越しによく見える。
高精度なカメラ、AI補正により、
鋼の奥からも酷く冷たい何かが
少年の肌を撫で回す。

『(……凄い威圧感(プレッシャー)だ。
 "双炎舞踏(フラッシュバラージ)"弟切夏輝……だっけ?)』

異能者ではないが、
その戦闘術は一線を画す。
何よりも二つ名がその証。
このAF(マシン)を持っても、
何処まで食い下がれるかはわからない。
冷や汗が、頬を伝っていくのがわかる。

それもで引き下がる気も、
気圧される事もない。
凛然とした表情のまま、
無機質な銃口が向けられる。

『彼女は美人だと思うけど、そんな目で見てはない。
 どちらかと言うと好みで言えば妹のが……んん!』

咳払い。気を取り直す。

人それぞれ……そうだな。
 見逃すことは出来ない。野放しにすれば、
 きっと、アナタはまた人を殺す。』

『だから、止めはする
 その上で、アナタの事を知りたいだけだ。
 何がアナタをそうさせる。』

あの時の自分は、他人に興味さえ抱かなかった。
だけど、今は違う。倒すべき相手には違いない。
だが、ただ踏みにじるだけではダメだ。
一人の人間として、それを聞くことに意味がある。

大切な友人まで裏切って、そんな顔するのがアナタの望みなのか?

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
「はぁ、悠薇ちゃんに……
 あのコも可愛いし。凛霞と姉妹だからもちろんあれだし。
 大人しくて彼氏の気配もないから、あんたみたいなのは嬉しくなっちゃうよね」

いるいる、こういうやつ――
そんな感じに、鬱陶しげに溜め息ついた。
悪い虫が、よくついてた。まあ、実際仲いいのかもしれないけど。
言われた言葉にも、眉ひとつ動かさない。凍った心は、氷解しない。

「人を煽って言葉を引き出そうとするのはおすすめしないよ。
 挑発行為は犯人を激させ、イレギュラーのアクシデントを呼ぶ。
 引き出したい言葉があるなら、もっと簡潔にわかりやすく相手を誘導しなさい」

鋭い鞭のような声が、後輩を鋼鉄越しに打ち据えた。

「即戦力として入学してすぐ前線に投下されたくちでしょ、あんた。
 基本の()も出来てないじゃないの、新人くん。
 ……普段からそうやって同僚とかも煽ってないと思いたいけど……」

両手の拳銃を、向けることなく弄んだままで。
気だるそうな瞳でみつめたままだ。
同じ人間を見る瞳では、ない。

「あんたが引き返さなければ、ここでわたしが人を殺す可能性はゼロじゃないね。
 おとなしく帰ればそうはならない……、わかる?
 ここにはだれもいなかった、捜査は空振り……
 ついでに西方300メートルのけちな集団でも潰してけば?お土産にさ」

そこで、溜め息をひとつ。

「わたしになんて言ってほしいの。教えてみなよ」

橘壱 >  
『──────まだ、そういう事が言えるんだな。』

話す言葉はどれも凶悪犯とは思えない。
当たり前のように、友人を語り、
当たり前のように、後輩へ指導し、
当たり前のように、人を気遣う。
まるで、"日常"にでもいるような物言いだ。
とっくに自らが壊したものを、
反芻(リフレイン)しているかのようだ。
こんな場所でもなければ、
笑って済ませられる先輩と後輩。

……だったのかもしれない。

そう思うと、心が酷く痛ましい。
だって、なんだよあの
いや、覚えがある。あの目は、そう。


人殺しの目ってやつだ


表情が歪んだのは、悲痛からだ。
直情的になるな。わかってる。
ついこの間も、痛い目をみた。
だけど、此れは……。

『……そうやって僕を叱責して、嫌味を言いたいなら
 投降すべきだろう。今の"アンタ"のいる場所は、
 とてもじゃないけど、彼女を語る資格も、僕を叱責できるようなものじゃない。』

天井の光が遮られる。曇り空だ。
彼女の姿を暗がりが包んだ。
暗闇の向こうを対を成すかのように
蒼白の貴人は、僅かな明かりの中一つ目(モノアイ)で暗がりを見据える。
悲痛に歪んだ顔のまま、少年はモニターを睨んだ。

『……だってそうだろ!
 そんな事が言えるくらい仲がいいのに、なんでこんな事をしたんだ!?
 そうやって自分からひだまりを捨てて、人殺しの顔をして!友達を撃って!』

『……満足なのかよ……!アンタはそれで!?』

言われた傍から、声を張り上げた。
未熟、若さ故に、抑えられない感情を吐き出してしまう。

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
「あんたもわたしに死ねっていうんだね」

ひどく静かに、問い返した。感情は波立たない。
投降しろというのは――そういうこと。
ひとりだって、罪状や裁判の結果、そうなる可能性が。
さんにんなら、ほぼ確実に。
そして弟切夏輝は――――七人。
奪うという行為は、それだけ重く、取り返しがつかない罪業なのだ。

「死にたくないから。命が惜しいから。
 だから逃げてる。それだけだよ。どこまでもね。
 追いかけなきゃ、殺さない。邪魔しなければ、傷つけない。
 だからそっとしておいてほしい。凛霞にはそう伝えたんだけどな……」

それを負ってなお、憔悴はしていても省みる色はない。
あっても、見せないのだろう。他人には。

「逢いたくなんてなかったけど、偶然ばったり逢ったから、そうなっただけ」

伊都波凛霞と出逢ったのは、本当に偶然だった。
ああしなければ、逃げられなかった。それだけのことだ。

「あんたってほんとうにコミュニケーションが下手なんだね。
 ひとを傷つける言葉を無自覚に選んでる……
 自覚がある相手に、あんたは間違ってる、って言ってなにか変わると思う?
 ちょっとどうにかしたほうがいいと思うな」

闇に沈んだ影は、疲労をにじませて言葉を継いだ。

「……それにさ、語る資格でいえば。
 わたしからしたら、あんたに凛霞を語る資格なんてない。
 いくら情熱に任せて熱くなってたところで、
 夏輝(わたし)凛霞(あのコ)のあいだに割って入れるやつなんていないの。
 のぼせないでよ、新人くん。ちゃんと、距離感まちがえないようにさ……そう、距離感」

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
「つかめてる?」

橘壱の背後から、その言葉が不意に響いた。
忽然と消えた存在が、背を向け合うようにして至近の背後に立っていた。
コートの裾がはためいた。――神速機動。

纏う前に殺せる。
一挙の速さを、そう告げた風紀委員がいたことだろう。
比肩し得るものは――ここにいる。
熱くなった瞬間に、生まれる意識の死角を縫うように。

橘壱 >  
常世学園は一つの社会である。
当然、罪は罰せられ、更生の形を促される。
だが、司法には手に負えない、やむを得ない場合
というものが確かに存在する。彼女は、酷く危ういラインだ。
そう可能可能性だって、ゼロではない。

『違う!生きて償えと言ってるんだ!
 凛霞先輩を大事に思うなら、尚の事……!
 アンタに償いの意識があれば、減刑だって可能なはずだ!』

裏を返せば、彼女自身
それだけのことをした自覚がある。
彼女の生命の絶対は、保証できない。
それを決めるのは司法だ。
現場仕事である少年には、
その後の事は保証する力はない。
どれだけ感情的になっても、
無責任にはなっちゃいけない。
凍てついた感情に、真っ向から向かう。
碧の目を見開き、奥歯を噛み締めた。

『……余程仲が良かったんだな。
 似たようなことを言われたよ。
 けどさ、わかってるなら尚の事だろ
 それこそ身勝手だな!アンタのは言い訳だろ!
 僕をダシにして、僕に当たるのこそ、間違っている。』

コミュニケーションが下手なのは、否定しない。
ただ、口にしなきゃ人には伝わらない。
エスパーなんかじゃないんだ。
黙っていたって、何にもならない。
結果、人を傷つけてしまう事もあるだろう。
だが、そんな物言いは身勝手だ。
わかっているのであれば、


こんな事にはなっていない


『何をい─────!?』

目の前から、彼女が消えた。
操縦士(パイロット)の反応は遅れたが、
機械(マシン)はその神速の機動を捉えていた。
消えた直後に鳴り響く<ALERT>が、
僅かに遅れながら振り向き銃口を向ける。
戦闘においては、余りにも致命的過ぎる一瞬だ
その気になれば、やられていたかもしれない。
戦慄。思わず息を呑んだ。

『……その力ばかりは、健在ってことか……!』

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
「さっきから凛霞凛霞って……だーかーらー……女同士の事情(もんだい)にさ。
 さして親しい間柄でもないのに顔突っ込んでくんなって言ってんの、男子

へらつきながらせせら笑う。
彼我の関係は、犯罪者と風紀委員。それ以上にはもうなり得ない。
いたずらに時間を消費してしまえば増援が来る可能性が飛躍的に高まる。
おとなしく帰ってくれないのならば――対処するほか、ない。
減刑?――保障もない。七人殺して、何を贖えるのか。

「いいの、撃たなくて」

背に向いた銃口に、肩越しに振り向いて視線が問う。
刑事としての能力は完全に下に見てはいるが。
橘壱とその鎧の、戦士としての能力は、決して過小評価しない。
そして安堵もしている。

「わたし、あんたには容赦しないけど?」

殺してもいい相手だ。
瞬間、その姿がまた掻き消える。
動体と体温、その存在を示すレーダーが弟切夏輝の現在地を、橘壱からして11時の方向、数メートル先に移動する。
移動は優美な曲線を描きながらも、速度はまるでコマを落としたような超神速。
そのさきで、銃声が一発――空砲。窓硝子が粉砕された。

それをフェイントに意識を引き付け、
次の瞬間、5時の方向から.500S&Wの死神が飛来する。
装甲板すら貫き得る拳銃弾としては最高峰の威力を誇る超大型弾頭。
十数メートルの間合いを開け、迫る弾丸の向こう側に射撃を終えた弟切夏輝の姿が、静かに鋼鉄の機人を見つめている。

円の軌道で、11時方向へ瞬転し一発の空砲、5時方向へと更に瞬転して意識の外側から狩る。
瞬間移動(テレポーテーション)めいた速度で移動して、翻弄する。
広さのある閉所――弟切夏輝の最も得意とする狩り場(スケートリンク)

橘壱 >  
『何を────!?』

問いかけの前に、姿が消える。
瞬間移動。違う、単純な速さだ
この世界には、往々にして、
このような超人が何人もいる。
当たり前のように行う高速起動。
機械(マシン)の力を頼りに、何とか捉えている。

『(目視出来ない……なんて速さだ……!
 寧ろタガが外れたみたいに……!)』

『……!?』

発砲音、硝子が割れる。
牽制のつもりか。
ほんの僅かでも、意識を持っていかれた
瞬く間もなく、<ALERT>音。

『な、いつの間に……!?』

全く別方向からの発砲。
伊達に先輩なんかじゃない。
わざと、ほんの一瞬でもいい。
こっちの気を逸らせば、それを隙に出来る人物。
回避運動は間に合わない。
だが、弾丸は到達せず、四散する。
機体の全面を一瞬覆い尽くす
翡翠色のまばゆい光。
電磁パルスを用いた防御シールドだ。
半自動的に、攻撃を防いでくれる。
如何に強力な弾丸とて、
エネルギーの本流の前には霞となった。
機械(マシン)の力に、救われた。

橘壱 >  
しかし、少年は安堵はしない。
落ち着け、落ち着け。
熱くなった心を落ち着かせるように、
自らに言い聞かせる。集中するんだ。

そんなもの、僕には関係ない
 凛霞先輩を泣かせたアンタに、それが言えるのかよ。』

言葉は変わらないが、
感情は抑えられた冷静な色。
碧の双眸を見開き、深呼吸。
感覚が鋭く、より広がっていく。
カメラが捉える残影めいた軌道が、
少しずつくっきりと、『逃亡者』の姿を目に映した。
それでもまだ、全然疾い。
けれど、いける

『それに、それを言ったら、見過ごせないだろ。
 泣いている彼女も、そんな顔をするアンタもだ。』

『僕だって、男なんだから。』

青白い一つ目(モノアイ)が光り輝く。

『弟切 夏輝……アンタを此処で止める!』

Main system engaging combat mode(メインシステム、戦闘モードを起動します。).>

その言葉と同時に、臨戦態勢に入った。
全システムの駆動が切り替わり、
銃口から放たれる青白い稲妻。
非殺傷性の電磁パルスを放つ
鎮圧式パルスライフル。
破壊力こそないが、人体や機械に
電気的刺激を与え、機械なら機能障害を、
人体なら"電気ショック"を与えて鎮圧する。

動いてる相手を狙っても当たらない。
その動きを読んで先に、先にと偏差射撃。
一発、二発、当たらなくてもいい。
だが、三発、四発はより近づいていく
その神速に、確実に近づいてくる。

『逃亡者』弟切 夏輝 > (ずっる)いなぁ、それ」

霧散した.500S&Wに苦笑する。決まっていれば一撃で行動不能にも追い込める。
――つまり、あれを撃ち抜くには……持ち合わせてる中で、最も強大な弾丸を使うしかないか。
 
(想定してたけど、やっぱり木偶の坊じゃない……追いついてきてる)

無駄弾は撃てない。
しかしいまの二射で、確実に自分の脅威度を自覚させることはできた。
舞うが如く、地面を滑走する――だけならず。
壁を跳ね、天井を踏み、完全なる立体空間を支配する移動法。
半球状の空間を我が物とする神速軌道も、しかし、ここにいるという事実は消えない。
偏差射撃をしかし、影を踏ませるように置き去りにしながらも、
彼のパルスライフルの着弾点が確実に近づいてくるのがわかる。
慣れ――肉体の性能差を埋め得る目と脳の持ち主だ。

(ジリ貧……まあ、追われる側なんだからそりゃそうか……)

たとえ氣をめぐらせて自己を強化し続け、
相対する者たちが舞うように倒れ伏す、この立体神速戦型――
"双炎舞踏(フラッシュバラージ)"の最中にあっても、弟切夏輝は生身だ。

(凛霞が一緒だったならな……)

――過去に引きずられながら、幾度目か壁を踏んだ。

(――ないものねだり!)

瞬間、鋭く跳ねるように、壁を蹴り、
弾丸のようにまっすぐに橘壱との距離を詰める。
無謀ともいえるほど肉薄する突進。

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
直後――身体をひねりながら左銃を虚空へ向けて発砲。
それによって加速・物理法則を強引にねじ伏せる軌道変化。
全力で放たれた独楽(こま)のように回転し、彼の横へ超神速で回り込む。

氷上の神業、回天演舞(アクセル・ジャンプ)のように。
そして右銃――所有者の下知に応じて形を変える流体金属で編まれた魔銃は、
その銃身(バレル)の下部を大きく変じていた。
砲口を阻まぬよう、上弦の月――肉厚の銃剣(バヨネット)がせり出している。

相すれ違いながらその脇腹を狙い、
加速に次ぐ加速、ダメ押しの銃撃加速まで乗せた必殺剣。
鋼鉄をバターのように切り裂く威力の抜刀術で、決めにかかる――!

橘壱 >  
世界の技術力は、飛躍的に進化した。
異能、魔術、技術。どれをとっても、
少なくとも人類は大きな力を持った。
否、表に出たと言うべきか。
此れがどちらかは、語るに及ばず。
しかし、それに比肩しうるほど、
科学もまた追いついている。
最先端を行く技術が作り上げた
科学の結晶。肉体のハンデをもってしても、
どんな異能者にも、超人にも、
操縦士(パイロット)の力も合わせて、
確実に、追いすがって見せる。

『……わかってるんだろ。
 こんなことしたって、"限界"はあるぞ。
 アンタがどれだけ強くても、一本調子じゃあ無理だ。
 此処で仮に逃げられても、何時か擦り切れてしまうだけだ。』

感情的な事じゃない。大局的事実だ。
何の後ろ盾(バックアップ)も、
きっと彼女は持ち合わせていない。
確かに戦闘力としては、魅力的だ。
だが、既に"バツ"が付いた人間を、
匿うには幾ら数多の違反組織でも
リスクが伴う。進んで爆弾を抱える
なんて真似、慎重なら尚の事だ。

間違いなく、彼女は強い。
だが、何処までいっても人間だ。
精神も、肉体も、このまま追い詰められて、
間違いなく何処かで、躓く。
肺を絞り出すように、少年は声を張り上げた。

『そんな結末アンタも……凛霞先輩だって望んじゃいないはずだ……!
 確かに確実な保証は出来ない。だけど、まだ"どっち"とは決まって無い!』

生命惜しさに逃げ出すのもわかるけど、
どちらも可能性の話なら、プラスに掛けたっていい。
寧ろ逃げれば逃げるほど、逃げている"死"が近づいてくる。
いたちごっこなんだ。それがわからないはずもない。

橘壱 >  
言葉の合間にも、攻撃の手は緩めない。
影を縫い、工場に着弾し、パルス弾は四散する。
暗がりを一瞬照らすフラッシュが、
まるで花火のように何度も、何度も、
影法師を射抜いていく。

『(本当に速い……一体どれだけの鍛錬を積めばあそこにいける?
 皆、もう少し自覚すべきだ。そこまでこの若さでいける、自身の才覚を。)』

非異能者である少年は、
身体能力に多少の自信はある。
だが、彼女達の足元には遥か及ばない。
日々続ける鍛錬には手応えもあった。
その証拠に、徐々に機体の負荷には耐えれてきている。
だが、どれだけやってもそこはまだ遠い。
弛まぬ鍛錬の末というが、そこに至れる
歳の短さは、間違いなく才覚なんだ。

羨望に耽っている暇はない。
機械(マシン)の補正と、
操縦士(パイロット)の反応速度。
確実に、パルス弾は距離を詰め、
照準(サークル)に、その顔が映った。

『捉え────、!?』

加速。更に加速した
銃の反動も、全部込にした超神速。
物理法則も何もあったものじゃない。
安々とその肉体一つで、破ってみせた。
全ての神経を注いで、集中しても、
動きが見えたとしても、反応が追いつかない

『くっ……!あああああああッ!!』

破れかぶれ気味に右手甲部位から
展開する電磁(スタン)ロッド。
青白い電流を迸り、すれ違う寸前
素早く横薙ぎに、残影を切った
鋼鉄の超人が交差し、直後一瞬の静寂。

少年の脇腹から、腹部全体に、熱く、鈍い痛みが広がっていく。
鋼鉄の装甲を切り裂き、その肉体に達した。
脇腹部位を鮮やかに切り裂き、
内部の部品やケーブルがまろび出て、
血液のような動力液がどくどくと溢れ
バチバチと切断部位がスパークする。

『ク、ソ……!まだだッ!!』

まだ、途切れていない。
集中力も、闘志も。
パルスシールドがあったから、
この程度で済んだ。
シールドが無ければ、今頃真っ二つだ。
まだ機体も、体も動く。
全身のバーニアが青白い炎を吐き出し、
大気を焼いて急接近。
パルスライフルを乱射し、自ら距離を詰めていく。

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
言葉は――もう返さない。
返す余裕もない、というほうが正しいし。
彼の言う通り、このままでは早晩限界が来る。いまこの場ですら。

切り抜いた右銃(やいば)は、そのまま放り捨てられた。
橘壱を切り裂いて、しかし決着に至らなかったその剣は、
装着者を助命すべく展開された電磁障壁に絡め取られ――捻じ曲がり、破損する。
使い物にならなくなった右銃を、もっていても仕方がない。ダメージを与えられただけで御の字だ。
即座の、熟練の判断だった。

(やっぱ(とびどうぐ)で仕留めるしかない、か――)

手に残る、最悪の不快感に眉根を顰めながら。
駆け抜けた先、靴が火花をあげながらブレーキング。

残る左銃のヒンジを展開。シリンダーから弾き出された5発の.500S&Wが宙空に踊る。

背中を向けたままに、左銃が、流体となって形を変えていく――単発式拳銃へと。
銃を放り捨てた側の右手がコートから何かを取り出し、軽く放る。
雲間から差し込んだ光を受けて鈍く輝くそれは、規格外の超巨大弾頭

空中での、瞬速かつ精密なるリロードが完了する。
肉薄する鋼鉄の翼に対し、背は向けたまま、凍てつくような殺気の吹雪が荒ぶ。

早撃ち(クイックドロー)
到達点たる弟切夏輝の極技が、振り向きざまに放たれんとしていた。

橘壱 >  
モニターに映る様々な情報。
人体よりも融通が利くとは言え、
機械とても破損すれば不調に繋がる。
出力低下、システムエラー、計器エラーetc...
自己修復機能なんて付いてちゃいない。
例え追い詰められても、逃げ出す選択肢は、
初めから、持っちゃいない。
ノイズ混じりのモニターで、
その動作は確認できなかった。
どれだけ体力が消耗しても、
どれだけ痛みが迸ろうと、
集中力だけは、切らさない。
自らのゾーン、意識の奥。
機械(マシン)だけじゃない。
操縦士(パイロット)の全てを、
意識を先鋭化し───────。

『─────!』

常に銃口は向けていた銃口が、
青白い光に輝き、大気をバチバチと焼いた。
最大出力。殺傷能力こそ無いが、
広範囲にばら撒かれる電磁パルスは、
銃身の限界と引き換えに、多大な範囲を齎す。
その殺気が届いた途端、淀みない動作でそれは終わっている
西部劇の決闘のような緊迫した空気。
身体能力ならまだしも、
反応速度なら負ける気はしない。

相打ち覚悟で撃ってくるのか。
それとも、このまま膠着状態を続けるのか。
意識のトリガーに指をかけたまま、
呼吸すらも忘れて、永遠のような時間間隔を過ごす。

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
殺気を浴びてなお、背越しに感じた、応ずる構え。
――なるほど大した度胸の据わりっぷり。
前途有望の大器を感じて、なお。
凍れる心は一切の油断も容赦もなく。
そこにいるどうでもいい(もの)に向けて。

轟雷。
反射も物理も飛び越える極理の早撃ち。
持てる疾さのすべてを抜き撃ちに込める奥義。

.577T-REX(ティラノサウルス)
恐竜を絶殺する――などという狂気に恥じぬ威力を持つ死神(だんがん)が、
半身を向け、腹の高さに寝かされた銃身から――既に放たれている

凌ぐのであれば、撃たれてから避けるしかない。
伊都波凛霞のように。

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
 
 
「悪いね」
 
 
 

橘壱 >  
『───────!』

世界が一瞬、静止する。
否、実際の止まった訳では無い。
一種の走馬灯のようなものだ。
今の橘壱には、伊都波凛霞のような、
超人的な反応、動作精度による先読み。
何よりも身体能力を持ち合わせていない。


そう、理解した所で遅かった


時代の支配者であった生物を、
絶死させる弾頭。発砲音が響き、
凶弾は、少年の意識より先に放たれた。
蒼白の装甲が一瞬ひしゃげ、小規模な爆発。
遅れて放たれた電磁パルスは拡散するも、
着弾の衝撃で大きく狙いがそれ、放射する。
爆煙が立ち上り、蒼白の機人は膝をついた。
弟切 夏輝の絶技を以て、決着()は訪れた。

橘壱 > ───────……はずだった
橘壱 >  
弟切 夏輝ほどの実力者の目には、
確かにその光景は映っていただろう。
弾丸が放たれる"寸前"、僅かに機体が動いた。
但し、速度も、何もかもが遅い。回避にはならない。
事実、弾丸は胸部から肩部に掛けて貫通し、
確実な損傷を与えた。だが、その僅かな動作が、
生命までには届かなかった

爆発の衝撃で割れた頭部。
スパークした隙間から、碧の瞳が相手を睨む。
確かに胸部を貫いたが、心臓(きゅうしょ)には至らない。
ほんの僅かではあったが、それが(だんがん)を避けた。

が、被害は甚大だ。
胸部から肩に掛けて爆散し、
砕けた破片が露出した少年の体に突き刺さる。
血も、肉も爆破の衝撃で焦げ、意識も半分とんだようなものだ。
隙間から睨む(いし)だげが、今も尚生きている。

『ハァ……!……ッ……!
 まだ、だ……!終わって、ない……!』

しゃがれた声。
爆発の影響で、喉も焼けている。
よもや、自分が動いたという意識はない。
たまたま偶然、相手の狙いが命に届かなかった
橘壱は本当にそう考えている。あの動作は、意識していない。
だが、確かに生命は繋いだが、絶体絶命には変わらない。
見下ろすのが勝者なら、少年は今敗者だ。
生殺与奪の権利は、『逃亡者』の手の中だ。

『これ、以上……!ゲホ……!
 アンタに……ひとごろ、しは……させない……!』

k下されるその瞬間まで、
その意思が変わることはない。

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
撃たれてから避けるやつ(伊都波凛霞)と、
 撃たれても避けられるようにするひと(レイチェル・ラムレイ)には心当たりあるんだけどさ」

つとめて冷静に、冷酷に。
その一部始終を見守って、眼を細めていた。
なるほど、彼はどうやら自分を殺人者にしたくなかった。
その一心で動いたのか、それとも単に……

反応できてたよ。動体と反射神経は一級品だわ、あんた。
 惜しいね、その才能。いや、惜しかったのはわたしのほうか……」

淀みなく、ヒンジを解放して、冗談のような空薬莢を排莢する。
再び回転式拳銃の姿を取り戻した左銃に、転がすように.500S&Wを2発。
心臓と頭の分を再装填(リロード)照準(ポイント)
殺人者として、追い詰められ、より磨かれた有り様で、――

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
「あんたが挑んでこなきゃ、そもそも殺すつもりもなかったんだけど
 ……よほど、わたしがいまこうなってることが……
 それが凛霞を追い詰めてることが、気に入らないみたいだけどさ……」

硝煙をたなびかせる銃口を向けたまま、じっとりと汗が浮かぶ。
感慨もない瞳が、しかし僅かに疲労に霞み、息が荒くなった。
右銃損失。希少なT-REX(きりふだ)も消費。
負傷はしていないとはいえ、彼の指摘通りのジリ貧――
補給路のない弟切夏輝の戦力は大きく削がれている。
風紀委員として、大金星といえる成果だ。

「わたしからしたら、あんたの感情こそ関係ないんだよ新人くん。
 じぶんとおなじ原理で言い返される覚悟くらいはあるんでしょ。

 ……気に入らない?放っておけない?ゆるせない?

 そんな感情で動くってんならさ、腕章なんて破り捨てなよ、男子
 もやもやして、くるしくて……どうしようもないなら、さ……
 あんたの、そのオトコノコな正義感を必要としてるひとを、探せばいいでしょ……」

押し付けないで。
逃亡者は、その意思に背を向けた。
動悸のように急ぐ鼓動のなか、静かに、……

「――みんなが、苦しんで……傷ついてるなんて、わたしが一番、わかっ、――」

言葉を遮るよう、ごぼ、と醜い音が喉から鳴った。

『逃亡者』弟切 夏輝 >   
がら空きになった右手が口元に運ばれる。
指の間から、赤黒く濁った液体が、あふれる。
てのひらで受け止められず、吐瀉物のように服に、地面に吐き散らされる。

「……っ、……ぅ、……」

倒れこそはしないが。
ここにいたるまでの連続戦闘。伊都波凛霞と、橘壱との交戦――氣の長時間濫用、強大な異能の使用。
本来、代償を伴う強さ――なんて扱いづらいものを背負う委員ではない、が。
委員会のメディカルチェックも、違反部活や協力者のサポートもない孤立無援。
無理が祟るのは必定であった。この戦いで、弟切夏輝は大きく削れている。
手のひらをコートで拭い、飛びかけた意識を奮い立たせながら、どうにか背筋を伸ばす――

「……増援か。……時間稼ぎは、された、ってわけ、ね……」

やにわに、周囲が慌ただしくなった。時間をかけすぎた。
自分の血溜まりを踏んで、踵を返して、歩き出す。

橘壱 >  
再度(だんがん)が込められた。
無機質で無情で、冷酷なまでに冷たい鉄が向けられる。
決して目は逸らさない。
碧の双眸は、尚も彼女を射抜く。
臆して死ぬつもりはない?違い。
死ぬつもりなんて、初めから無い
焼ける喉が、息を吸うたびに苦痛を肺へ。
もう何処が痛いのか、わからない位だ。
まだ、口も動く。体だって、動く。

『……ちが、う。どっちも、だ。』

伊都波凛霞が悲しむことも、
弟切夏輝が擦り切れることも、
何もかも見て見ぬふりなんて、出来はやしない。
碧の双眸に宿る光は、より一層、強くなる。

『────それでも……!
 やぶり、すてる……つもりも!
 止ま、る……ゲホッ!、とまる、
 つもりだって、ない……!』

どれだけ否定されようと、
どれだけ謗られようと、
それこそ、関係ない
自己満足と言いたいなら、
そう言っても構わない。
それでも誰かの為になるなら、止まらない。

重々しい音を立てて、
ひしゃげた鋼を無理矢理立ち上がらせる。
割れたモニターには、何も映らない。
機体の機能は停止している。
言ってしまえば、もう鋼の重しにしかなっていない。
半死半生、意識は彼女しか見ていない。
周囲の喧騒が近づいてきているのにも、気付かない。

『……だ、ったら、かえ、ろう……。
 アンタは、ここに、いるべき、じゃ……っ……。』

彼女が、咳き込んだ。
朧気な意識の中、
良くないものだとわかる。
重い足音が、一歩、一歩、
その背に近づいていく。
決して追いつけはしないだろう。
急がずとも、容易に振り切れる。

追い付けるはずもないのに、
重い足音は、その(こまく)に踏み込むように、
ずっと重い足音がいるような錯覚を覚えるかもしれない。
焼け焦げた右手を、その背に伸ばす。
もう、届くこともないだろう。
それでも、諦めない。進むのを止めない。
止めたいんだ。彼女を。
意思の力だけが、限界であった肉体を、動かし続けた。

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
(たちばな)さあ……?」

振り向かず、静かに名前を呼んだ。

「風紀委員ってね、ほかの生徒より立派じゃないといけないんだよ。
 そういうひとたちだけが、ちゃんとできる仕事なんだ。
 わたしには無理だった……荷が重かった。それだけの話なんだってば……」

声は冷たい。凍った心に、言葉は届かない。
手向けられるのは先達、それも堕ちた側からの要らぬ節介だけだ。

「腕章を破りたくないなら……風紀委員としての自覚を持ちなさい。
 どうして、あんたがいま、そこにいるのか。 
 じぶんが、どんな風紀委員なのか……
 はっきりさせないまま、そういう情熱に任せてると、いつか……わたしみたいになる」
 
それも橘壱のため――ではない。
それを受けて、痛みを受ける誰かのための言葉だ。
法律を、鉄の掟と絶対の正義と掲げるのが警察機構だ。

「あんたの頑張りを評して、八人目にはしないでおいてあげる。
 凛霞(あのこ)のためだっていうなら、おとなしくそこで伸びてなさい」
 

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
 
 
「あそこはもう、わたしの帰る場所じゃない」

息を吸って――吐いて。
調息。内傷を押し留め、氣を発し、跳躍。天井の崩落部を跳び抜ける。
 
 
 

ご案内:「廃工場」から『逃亡者』弟切 夏輝さんが去りました。
橘壱 >  
理屈としては、彼女のい言ってる事は正しい。
秩序機構。厳格であり、一種の"顔"だ。
かくあるべき、感情だけでは、
それだけではいけないことは、
わかっている。わかっていても

「ちが、う……それでも……、……ひと、だ……。」

それでも、そこにいるのは、人間だ。
一人の人間として向き合うのに、
何の間違いがあるというのか。
確かな若さで、情熱だけではある。
けど、それ自体に間違いはないと、
信じている。ついに、限界を迎え、
鋼の足音が、止まってしまう。

『まってい……る、ひとが……、……。』

待っている人が、学園(そこ)にはいる。
焼けた手を、空へと伸ばした。
まだ、そこには届かない。
喧騒が近づく頃には、もう意識はなかった。
次目覚めることには、病院のベットだ。

また届くことはなかった。
虚しさの去来を押し殺し、
後のことは、他の風紀委員が処理してくれただろう。

ご案内:「廃工場」から橘壱さんが去りました。