2024/10/05 のログ
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に青霧 在さんが現れました。
青霧 在 > 多くの委員が慰安旅行を満喫している事は知っている。
反面、現場に駆り出される委員も大勢存在する。
その事実だけは忘れないでほしいものだ。

暖かい湯を浴びて談笑する者がいる影で、生暖かい血を浴びて罵声を交わす者もいるのだ。


……


「A地点。制圧完了しました」
「5名が継続して戦闘可能です。俺はここに残り捕縛及び接収を指示します」

違反部活群の廃ビルの屋上。頭部に装着した通信機で報告を行う陰鬱とした男。
見下ろす先には戦闘の跡。元々あった筈のビルは倒壊し、赤い液体が所々に荒々しい跡を残す。
戦闘こそ終了しているが、事態の収束とは程遠い状況と言える。

『近接戦闘が可能な者がいればDへ』
『Dの戦況が膠着し始めている。BとCは現状問題ない』

「了解。坂城とテレジアをそちらへ回します」

全体指揮を行う委員からの指示を受け待機中の委員二名へ指示をだす。
坂城とテレジアと呼ばれた二名の特別攻撃課委員が西へと移動を開始する。
その背中を見届けながら、地上の状況を再確認する。

青霧 在 > 状況はこうだ。
10月5日の10:00。人身売買を行う違反組織《肌色の宝石商会》と新興宗教を騙る違反組織である《異邦至上の会》の大規模な取引が行われるとの情報が入った。
取引されるのは、大量の《人間だったもの》。
これを急襲し、まとめて捕縛しようという作戦だ。

これほど大掛かりかつ大胆な作戦になったのは、《異邦至上の会》がこれまで尻尾を出さなかった事。
そして、《肌色の宝石商会》が大規模な違反組織であった事が理由として挙げられる。
これを一網打尽とする為に、現場を直接抑える作戦が決行された。

「A地点は6名の特別攻撃課と4名の後方支援と俺…」
「負傷者一名で済んだのは奇跡だな」

AからDの4地点を4つの部隊で同時に襲撃するこの作戦で最も過激な戦闘になると予想されたのがA地点。
所謂正面であり、最も目立つ地点。特別攻撃課の委員が7名も配属された事もり最も早く鎮圧が為されたとはいえ、その戦闘は決して楽ではなかった。
違反組織は銃火器で武装していた事もあり、最前線に立ってタンクを務めた飯田はかなりの負傷を負った。
迅速な制圧に最も貢献したのは飯田だろう。今は後方支援の委員による治療が行われている。
青霧が何をしていたかというと、指揮と援護だ。
高所から視線を通しての異能によるサポート。
青霧は近接戦闘向きではない上、視線が全体に通る状況でこそ、万全に能力を発揮する為だ。

青霧 在 > 「何事も無ければいいのだが」
「BとCの鎮圧が済めばDもすぐに終わるだろう」

制圧された違反組織の構成員達を残った7人の委員で捕縛する。
構成員達は今でこそ気を失ったり、重傷を負った者ばかりだが、そうなる前は容赦なく銃火器と異能、魔術を放っていた者達だ。
再び目を覚ます前に全て行動を封じる必要がある。
捕縛した構成員の輸送を行う者も現地へと向かっている。
大半が非戦闘員である彼らの到着までにこの場の安全を確保する必要がある。

青霧の役目はその護衛のようなもの。
全体を俯瞰し、伏兵や反撃を警戒する。
場の安全を確保する7人の安全を保障する役割だ。

虚ろにも見える眼を満遍なく光らせ、周囲の状況の変化を察知する。
怠れば死傷者が出るやもしれない重要な役割。
青霧の周囲には鉄球や持ち手のない刃物が置かれている。
これまでの戦闘でも使用されたのだろう。どれも赤黒い液体が付着していたり、歪んでいる。

青霧 在 > そうして状況を把握していた青霧は気づいた。
捕縛に励む1人の女子委員が溜息をこぼした事に。

「すまない…」

青霧は届かない謝罪の言葉を口にした。
同じ特別攻撃課である青霧は知っている。溜息をこぼした女子委員…聖園には恋人がいる。
そして、慰安旅行をその恋人と過ごす事を楽しみにしていたという事を。
聖園の恋人は交通課の重要な役割を担っており、激務に身を晒しているらしい。
ようやく取れた共通の休日であったと、とても喜んでいた。

そんな中、今日の任務。
聖園は攻防一体の障壁を魔術で操る。
そして、彼女を今日の作戦に抜擢したのは青霧だ。
正面からの攻撃において彼女の魔術が非常に有用であると判断したのだ。

だから、負い目を感じている。
聖園が今日を楽しみにしていた事はよく知っていた。
それでも彼女を抜擢した自分を少なからず責めていた。

「埋め合わせは必ずする」

控えめに呟いて、警戒を続行する。
埋め合わせはまた考えておこう。

青霧 在 > 「そろそろ終わったか」

そうしてしばらく時間が経過し、構成員の捕縛が完了する。
両手両足を拘束し、異能者には異能抑制の為の拘束具を装着。
そうして一か所に集められた構成員はなんと四十名ほどにも及んだ。

何名か意識を取り戻した者も居たが、拘束済みか、青霧が手を出すまでもなく再び沈んだ。
一名だけ意識を失った振りをして詠唱を行っている者も居たが、青霧が鉄球を投げつけた事で意識を失った。
鼻がひしゃげているが命に支障はない。

離れた場所にまとめて置かれた武具も多岐にわたる。
中には高価なものもあるようで、後方支援の委員が何かを訴えるようにこちらを見ていた。
その要望は青霧ではなく、しかるべき者に伝えてほしい。

「全地点の制圧が完了。残すは輸送と調査か」

輸送された後は、尋問や残党の掃討も残っている。
A地点は青霧による監視が功を奏し逃走に成功した者はいないが、Dでは数名逃走したらしい。
とはいえ、現場での仕事は殆ど終了した。
この後は何も起こらなければ、輸送の為の人員が到着しその護衛を行えば一息つける。

何も、起こらなければ。

ご案内:「違反部活群/違反組織群」に夜見河 劫さんが現れました。
通信 >  
その「一息」を遮るように、突然通信が入る。
通信が入ったのは……数名の逃走者を出した、D地点。

『――こちらD地点、こちらD地点。
指揮担当、応答願います。繰り返す、応答願います――。』

通信の声は、狼狽はしていない。
だが、明らかに「予想の外」の出来事が起こった事に対する「焦り」が見える。
「緊急」がつかなかったので、状況悪化というほどに緊急性が高いものではないようだが…。
 

全体指揮の委員 > 「こちら指揮。D地点、報告を求む」

青霧にも聞こえる回線で全体指揮の委員が応答する。
何か起こった事は伝わっているが、指揮を執るだけあってか落ち着きが感じられる。

通信 >  
通信が繋がれば、一度の呼吸音。
それに続いて、

『――こちらD地点。
警備をリザーブに引き継ぎ、フリーとなった人員を逃走した数名の追跡に向かわせました。
結果、逃走者を発見しましたが――

いずれも重傷です
至急、収容と最低限の手当の用意を願います。』

――逃げた者が、重傷で発見されるという、奇妙な事態。
追跡を行った者が攻撃を加えた訳ではない、ようだが…。

全体指揮の委員 > 「了解した。人員を送る」
「座標を送信してくれ」

例え違反組織の構成員でも、簡単に死なせるわけ訳にはいかない。
罪を償わせる必要もあり、貴重な情報源である。

要求された人員を派遣するために状況を確認する指揮。

「A地点の青霧。通信は聞いていただろう。今向かえる人員は居るか?」

BCDは制圧後の処理が終了していない。
処理が終了したA地点に確認をとった。

青霧 在 > 通信を聞いて、青霧は地上を見下ろす。
構成員達の捕縛と武装の回収を終えた委員達は怠けることなく、各々が警備に当たっている。
これならば青霧1人抜けた程度であれば問題はないだろう。
彼らも熟練の委員だ。

「それでは俺が物資と人員の運搬を行います」
「D地点を経由して向かいますので、余剰物資と座標をお願いします」

青霧ならば、物資も人員も運べる。
安全確保のための戦力としても運用可能だ。

指揮は了承し、D地点と再び通信を開始する。

「酒井、セレナ、柴崎。手当の為の人員が不足している」
「俺が今から運ぶが、いいな」

4人の後方支援を担当する委員のうち3人に声をかけ、物資と三人の運搬を開始する。
そしてそのままD地点を経由して指揮から送られた座標へと向かうだろう。
何事も無ければ追跡を行った委員らと合流するだろうが、果たして。

通信 >  
『了解、至急座標を転送します。』

その通信から程無く、現場の座標が転送されてくる。
廃ビルからは近いとは言えないが、それほど極端に離れているという程でもない。

そして、運搬の為の人員が運ばれれば、追加で通信が入る。

『…追加報告。
状況確認が完了したので共有します。

逃走者に重傷を負わせたのは、敵対的違反組織・風紀委員会の一部の暴走、そのいずれでもなし。
偶発的に遭遇した者と交戦になり、重傷を負わされたものと判断されます。
交戦者の証言によるものですが。

――交戦者は、監視対象。』


『…コードネーム・"狂狼"です。』
 

夜見河 劫 >  
果たして、到着した先には、地に叩き伏せられた逃走者たちと、
無気力な表情でその只中に立っているボロボロのブレザー服の男の姿。
それを取り囲むように、追跡に当たっていたと思しい面々が立っている。

倒れている逃走者は、主に顔面を激しくやられているのが分かるだろう。
意識を失っているが、幸い命に関わる程ではない。

その中に立っている男もまた、無傷という訳ではなかった。
拳には皮膚の破れた痕、顔に巻かれた包帯は一部が千切れて垂れており、そこからの傷痕も見える。

そんな中でも、"狂狼"は、ただ静かに…あるいは無気力に、風紀委員達を眺めながら、立っている。
 

青霧 在 > 現場に到着した青霧が始めに取った行動は、後方支援を行う委員達の安全確保。
通信で伝えられた通りであれば、現場には監視対象の危険人物がいる。
現場付近で青霧達を迎えた追跡を行った委員の一人に状況を聞き、連れて来た3人を預ける。

「状況が分かっていないのか?まさか風紀委員会を相手取るつもりじゃないだろうな」

いくら監視対象といえ、今この周辺には風紀委員が大勢集まっている。
そんな状況の中で去る事なく留まっているというのだから、そんな冗談も口をつく。
信じがたいが信じざるを得ない。
流石に状況は変わっているだろうという正常性バイアスのようなものを感じながらその場へ向かう青霧。

「……夜見河、だったか。何をしている?」

こういった状況は特段珍しくない。
酷い負傷を負った人間を見た事は何度もある。青霧自身も何度か重傷を負っている。
同じ状況を作ろうと思えば、青霧にも可能だろう。
ただ、ここまで顔面が歪むような攻撃は行ったことは無い。
どれほど執拗に攻撃したのか、想像がつかない。

監視対象《狂狼》の事は把握している。
だが、実際に遭遇したのは初めてだ。

他の委員と共に距離をとった状態で話しかける。
それと同時に魔術を発動し、準備する。全員を守れるように。

夜見河 劫 >  
「――――――」

声をかけられれば、ぬるり、と血塗れの包帯の合間から覗く瞳が向けられる。
燃え残った焚き火のように、勢いのない、しかしどす黒く燃えるような色の瞳。

その目が、「いたのか」程度の空気感で新手を眺め、少し遅れて肩を竦めるような仕草。

「……先に来てた連中に、話はしたと思ったんだけど。」

この状況にあって、異様に平坦な調子の声。
あるいは、やる気のなさそうな声色。

こいつら(違反部活の連中)が走って来て、払い飛ばそうとしてきたから。
喧嘩を売られたのかと思って、仕掛けただけ。

風紀(あんたら)が追っかけてた相手だったんなら、手出しなんかしなかった。
今日はついてない。」

そうして、憂鬱そうなため息の音。

――監視対象、通称"狂狼"の行動原理は、極めてシンプル。

因縁をつけてきた相手、仕掛けて来た相手、喧嘩を売るような真似をした相手。
強弱関係なくそのすべてに対し、等しく「暴力」で以て答える。

そして、その凶行には常にある共通点がある。
即ち、相手が「殴られても文句を言わない相手」――落第街やスラムのゴロツキや半グレ、
強弱問わず、そういった反社会的な相手に対してのみ。

風紀委員や公安委員に対しては「一切」、その()を向ける事はない。

――「相手を選んでいる」分、無差別に仕掛ける奴より、ある意味悪辣と取られかねないかも知れないが。
 

青霧 在 > 「直接聞きたいんだ。また聞きでは伝わらない事もある」

夜見河は無気力か諦念か、失望のように感じられた。
それでいて消えない炎がちらつく瞳に、青霧は少しばかし肝が冷えるような感覚をおぼえた。
勝手ながら親近感のようなものを感じた故だ。

「…そうか」

強まった親近感を抑え込み、少しばかし考える。
夜見河をどうするかについてだ。
正直、助かった面もある。彼が逃走者を攻撃したお陰で追跡の手間が省けた。
しかし、その行動こそが彼が監視対象である由縁であり、問題なのだ。

些か対処に困る。恐らく他の委員も同様の考えなのだろう。

「とりあえずは…感謝しよう。お陰で追跡の手間が省けた」

逃げられていた可能性を考えると、この状況は任務の面では都合がいい。
死んでいれば話は変わっていたが、生きている。
背後から見守る委員に安全を伝え、手当の為の人員を呼んでもらう。

「ひとまずはそいつらの手当と捕縛をしたい。少し退いてくれないか?」

問題の追及は後だ。
優先順位を見誤る訳にはいかない。

夜見河 劫 >  
「別に――。
俺の都合(勝手)でやった事だし。」

愛想のない返事をしながら、退くように言われれば素直にひょいひょいと歩いて位置を変え、
適当な場所を見繕って無造作に腰を下ろす。
全く以て周囲の困惑やら何やらには無関心な動きと態度。
自身の立場を知ってか知らずか…その態度も、問題視され監視対象となる原因となっている。

倒れている逃走者たちは相変わらず気絶したまま、鼻血を出したり顔をひどく腫らした状態である。
それでもしっかり息があるのは幸いであろう。
手当と捕縛の活動は順調に進む。

そして、その光景に既に完全に興味を失ったらしいブレザー姿の男も、千切れている
顔の包帯を鬱陶しそうに取り払いにかかっている。
戦闘になった為か、切れた箇所は切り傷になっており、それも決して軽い訳ではない。

しかし、風紀委員達の活動が進む間に、その傷はまるで巻き戻るようにどんどん小さくなっていく。
皮が破れ、出血していた手の甲も同じく。

風紀委員の注意が再び向くころには、負っていた傷はかすり傷程度の、無視が出来るレベルになっているだろう。

顔の包帯を外せば、その下からは二枚目といってもいいだろう素顔。
しかし、負傷に加えて相変わらずのどす黒い瞳のせいで、まっとうな神経の主なら恐怖の方が先に立つ雰囲気。
 

青霧 在 > 随分と無関心な様子だ。
にも拘らず、売られた喧嘩は買ったというのだからちぐはぐな不整合を感じる。
殴れない相手には興味が無いとでもいうのだろうか。
歪みを感じる。

「助かる」

素直に退いた夜見河を見て、3人の委員がそれぞれ手当と捕縛を開始する。
大丈夫と判断したとはいえ、念には念を入れて夜見河からは目を離さない。
親近感を感じたとはいえ、信頼できない相手には変わりない。
報告通りであるならば大丈夫だろうが、あの目が正常な人間の目ではないと言う事は青霧にはよく分かっている。

そんな警戒も幸いか無駄になり、捕縛と手当は順調に進む。
そして、夜見河の傷も癒えていく。
報告書通りだ。

包帯が取れ晒された素顔に青霧の隣にいた委員が一歩後ずさる。
青霧もあとずさりこそしないが、その表情に少々眉を顰める。

「夜見河、何故ここに居たんだ?
ここは学生が気軽に立ち入る様な場所ではない筈だ」

夜見河に感じた親近感を探りたい。
どうせ事情聴取は行うだろうと言う事も加味し、ここで聴いてしまおうという魂胆。
あわよくば、二人を救う手立ても探りたい。そんな事を考えながら。

夜見河 劫 >  
「――――。」

赤い制服の青年の言葉に、ブレザー姿の男はのろりと視線を向ける。
面倒に思っているのか、あるいは言葉を選んでいるのか。
少しの合間を置いて、口を開く。

「……寝床に帰る途中だった。
俺が落第街(ここいら)で寝泊まりしてるの、風紀には割と有名だったと思ったんだけど。」

相変わらず無気力な言葉だが、二言目は、別に他意や嫌味の色はなかった。
呟くように、違ってたのかな、といった言葉が後から漏れて来る。

「……学生寮も、他の学生街の集合住宅も、部屋を借りようとするのが
俺だって分かると、大体嫌な顔してくる。

そいつらに気を使うよりだったら、ここらで寝泊まりした方がいい。
他の住人に文句を言われる事もないし。」

酷くシンプルな回答。
トラブルを避ける為に辿って行った先が落第街だった、という事なのだろう。
監視対象とはいえ、しっかりとした学生身分としては異常といえるかもしれない。
しかし、この男にしてみれば、これが当たり前なのだろう。

「――――俺も連行されるの?」

聊か面倒そうに、直球の質問。
とは言え、既に慣れているのか面倒ではあっても嫌そうな雰囲気はない。
 

青霧 在 > 「すまないが、知らなかった」

青霧は特別攻撃課だ。
監視対象の名前や能力、外見的特徴は一通り把握こそしているが、それ以上は殆ど知らない。
管轄外である事や、他業務の事が頭に詰まっている分、そういった情報にまで手が回らない。
言ってしまえば、優先度が低い。
だが、もう忘れないだろう。

「……」

夜見河の言葉に青霧は眉をひそめた。
青霧も理由こそ違えど同じような目で見られていた事がある。
青霧はその状況から抜け出せたが、抜け出せなけなかったらこうなっていたのだろうか。
だから、軽々しく言葉はかけられなかった。
夜見河が同じかどうかは分からないが、分かったフリをされるのは非常に不快だと思っている。

「まだ分らない。俺としては……あまりそうはしたくないな」

委員の一人が目を丸くして青霧を見る。
青霧の言葉が意外だったのだろうか。何か言い出しそうに口を動かし、すぐにおとなしくなる。

「…何故このような事をした?」
「喧嘩を売られたからというだけではないだろう」

報告書を探せば出て来るかもしれない。
だが、当人の口から聞きたかった。
その辺の手ごろな瓦礫を異能で引き寄せ、腰を下ろす。
目線の高さを近づけた。

夜見河 劫 >  
「そう。」

知らなかった、という言葉には、短くそれだけを答える。
知らないなら仕方がない。その程度の、相手にも分かる位にシンプルな感想。

ポケットを探り、スーパーなどで使われていそうなビニール袋を引っ張り出すと、
解き終わった包帯を無造作に突っ込んで口を縛って纏めて置く。
そこらに捨てても良かったのだろうが、風紀委員の手前、少しは配慮したのか。
あるいは普段からこうなのか。

「――――――」

連行については、したくはない、という言葉と、続く質問に、やはりのろりと視線を向け、
少ししてその視線を何処か遠くに向ける。

「……相手次第だけど、連行されれば飯が出て来るから、晩が楽だったんだけど。」

酷い発想。風紀委員会はホテルではない。
質問に対してはまた少し間を置き、相変わらずのどす黒い瞳を向け直す。


「――――話してもいい事ないから、黙秘する。
どうせ話したって理解できないだろうし――」


「……理解したらあんたはまともじゃいられなくなる。」


誰も自分を理解できない、という思考は、往々にして「そういった年代」の人間が抱きやすいもの。
歳が立てば、隠したい歴史となって記憶の奥底に葬られる類だ。

だが、この男の発言は、「それ」とは違う。
ただ単純に「まともな人間には理解できない」として、動機に対して口を噤んでいる。

本当に理解したら理解した人間がまともでいられなくなると判断した上で。
 

青霧 在 > 「なら俺の方からは何も言わないでおこう」
「飯が出るかどうかは運だと思っておくといい」

流石に風紀委員会をただ飯の食える場所とは思って欲しくはない。
親近感を持っているとはいえ、そこは流石に許容できない。
とはいえ、顔も知らない委員の善意を蔑ろにする気もない。
だから、何もしない事にした。

「そうか。話したくないのなら、無理に話せとは言わない」

善意の押し付けとお節介は嫌いだ。
だからしない。
それに、夜見河の物言いには捻じ曲げられた者特有の雰囲気がある。
逆らえない力によって捻じ曲げられた者の雰囲気だ。

「だけどな…夜見河。俺は既にまともじゃない」
「だから、その心配は不要だ」

夜見河の瞳を直視して、言い放った。
先ほど目を丸くしていた委員が、戸惑ったような顔をする。
青霧の同期である彼も初めて聞いた言葉のようだった。

夜見河 劫 >  
「そ。
まあ、出ない時もよくあるから、出たら運と相手が良かった事にしておく。」

これまたあっさりとそう返す。
流石に何度もただ飯が来るほど期待をしてる訳ではない模様。
更に言うと、「よくある」位には連行されてる事が多いとも。

「――――――。」

此方の目を真っ直ぐ見て、言葉を言い切る風紀委員の青年に、少しだけ小さく息を吐く。
……暫く前の時計台で遇った女といい、自分の得にならないのにどうしてこうも他人に気を回すのか。
どうにも、理解し難いと言った雰囲気。

だが、「まともじゃない」という相手に、少しだけ気まぐれを起こしたのか。

灰色の髪の男が、息と共に、「質問」を吐き出す。



「――――あんた。

生きてて幸せか?」

単純な、しかしそれ故に絶対の回答が難しい一言。
 

青霧 在 > 「……」

夜見河の問いに、青霧の表情が突然曇った。
陰鬱な表情が更に暗くなっていき、最早憎しみにすら見える程のものへと変化する。
だが、その感情が向く先はここには居ない誰か。
それでも、周囲の委員は少しばかし気圧されたのか、1人が短い悲鳴を漏らす。

「……すまない」

その悲鳴に自分がどんな顔をしているのか自覚したのだろう。
一言謝り、数秒目を閉じて表情を落ち着ける。

再び開いた眼は、夜見河と似た濁った瞳。
違う点は、その濁り具合と、火が消えている事。

「普段は考えないようにしている」
「だが、答えるなら…幸せじゃない」

夜見河の瞳を再び見つめて、冷めた声色で淡々と吐き捨てた。

夜見河 劫 >  
「――そう。」

相対する憎しみの表情を浮かべる風紀委員の青年にもまるで物怖じせず、
灰色の髪の男は短く一言だけの返事を返す。

その表情と、冷めきった声色の回答に、少しだけ考えて、

「――いいよ。
それなら、ちょっとだけ話してやる。」


瞬間、その言葉と同時に、物静かだった雰囲気が、まるで牙を剥く狼のごときものに。

「俺には、何も分からない。

道を歩く連中が楽しそうに会話してるのも、
美味そうに菓子や食い物を食ってるのも、
幸せそうにいちゃついてるのも。

理解できない生きてる実感が、そこらを歩いてる奴等の
気持ちとおんなじものが、感じられない。」

「誰かをぶん殴ってる時、誰かにぶん殴られてる時だけ。
その時だけ、自分が生きてるって最高に感じられる――!」

猛り狂った狼が立てる唸り声のように、そう言葉を吐き出す。
ぎらり、と三日月のような笑みを浮かべ、


「――これ以上は知らない方がいい。
知ろうとしたら、碌でもない事になるよ。」

次の瞬間には、まるで火が消えたように、無気力な姿に戻る。
最後の言葉は、忠告、というよりは警告じみた言葉。
 

青霧 在 > 青霧は、夜見河の話を黙って聞いていた。
牙を剥くような雰囲気に怖気づく事もない。
他の委員が冷や汗を流す中、その程度の恐怖には慣れているとでもいった風に、物おじせずにいるだろう。

そして、最後の警告を聞いて数秒。
日常会話でもするかのように開かれた口から言葉が紡がれる。

羨ましいな

そういい、一瞬穏やかな表情を見せた。
どこか諦念を感じさせる表情であった。
そしてすぐに元の表情へと戻った。

「殴って殴られていれば幸せなのか…そうか、そうか…」
「夜見河、お前の気持ちが分かった気がするな」
「俺はな、何をしても感じられないんだ。幸せが、生きている理由が」

穏やかに、当たり前のように紡いでいく。

「ゲームに夢中になっても、どれだけうまいものを食っても」
「仕事を完璧にこなしても、テストでどれだけいい点をとっても」
「運動しても、寝ていても」

「感じるのは、底のない渇きばかりだ」

周囲に他の委員がいる事など忘れて、両手を広げてどこか演劇のような口調で語る。

「それにな、俺は真面目なんだ。規則に従う事しか出来ない」
「だから、お前が羨ましい。規則を破るだけで生きていると実感出来るお前が羨ましい」
「…すまないが、俺はそう思ってしまった」

そして、演劇じみた手ぶりをやめて黙った。
すこしばかりの後悔が滲んだ表情だが、見つめる瞳は変わらない。

夜見河 劫 >  
「……。」

相変わらず、無気力そうな雰囲気で目の前の青年の話に耳を傾ける灰色の髪の男。

話しが終われば、軽く頭を掻く。
まだ塞がり切ってない傷を引っ掻いてしまったのか、ちょっと血が出て来た。

「……俺からすれば、あんたの方が羨ましいかな。」

軽く、そう声を掛ける。

「何やっても、生きてる実感が感じられないのに、あんたは人間らしく生きようとしてる。」

気を使った訳でもない、ストレートな感想。

落第街(ここ)の連中は――例外もいるけど、だいたい世の中に拗ねて、落ちこぼれた連中ばっか。
……俺が喧嘩になる相手も、大体そんな連中。

本当に生きてる実感がないのがどれだけ「空っぽ」か、分かりもしない奴ら。」

どす黒い瞳が、青年の瞳に向けられる。

「でもあんたは違う。
そんな空っぽを抱えてんのに、真面目に、人間らしく生きてこうとしてる。

俺なんかより、よっぽど人間らしいし、ずっとまっとうな生き方。
俺には出来ない生き方が出来てる。」

ふぅ、と、其処まで言って、他の風紀委員の面々に、軽く視線を向ける。
怯えられるかも知れないが、そんなの今更慣れっこだ。

「――悪いけど、ここでの話、内緒にしてもらえる?
風紀が監視対象の事を羨ましがったら、立場が悪い。

……都合が悪い事は黙秘するけど、任意同行要求くらいなら聞くから。」

そう言い終わると、ふぅ、と気が抜けたような声。
 

青霧 在 > 「…」

天に向かって唾を吐いたのかもしれない。
隣の芝生は青いという言葉もある。
少々冷静さを欠いていたかと、後頭部を掻く。

「確かに、俺は人間らしく生きようとしているかもしれない」
「だがな、人間という枠組みと肩書に執着した生き方が人間らしいと俺は思えない」

「自分を満たす為に…夜見河、お前みたいに生きられる奴の方が俺は人間だと思う」
「俺には出来ない生き方だ。真っ当な生き方なんて、別に楽しいものでもなんでもない」
「同じような事を言い合ってるな。まあ、隣の芝生は青いという」
「多少似た境遇にあっても、それは変わらないみたいだな」

夜見河の言葉は青霧に効いたらしい。
少しばかし表情が和らいだのか、気まずいのか…
複雑な表情で話す青霧はバツが悪そうだ。

「夜見河の言う通りだな。完全に失言だった」

また酔っていたのかもしれない。
失態を反省し、大きな溜息を一つ。

「すまないが、この事は内密にしておいてくれ」

青霧と夜見河のやり取りに気圧されていた委員達が各々の肯定の反応を返す。
いずれどこかから漏れるかもしれないが、報告書に乗ることは無いだろう。

そこに、指揮から連絡が来る。

『監視対象《狂狼》を任意同行しろ』

「了解しました。…すまないが、連れて来いとのことだ」
「飯ぐらいは出そう。何か食いたいものはあるか?」

指揮の判断は幸か不幸か、夜見河を連れて来いとの事であった。
既に逃走者の手当と拘束も済んでおり、この場からは撤退出来る。
ついでに連れて行ける状況だ。

夜見河 劫 >  
「――ま、あれだね。
自分が羨ましがるものが、それを持ってる人間にはいいモノとは限らないって、話。
これも、ここだと時々ある。」

そんな事を言って、よっこらせ、と立ち上がる。
連れてこいとの言葉と、飯の都合については少し首を傾げ、

「同行しろって言われたらそうするつもりだったし。
別に構わないよ。

贅沢言って通るなら、親子丼とか。」

そう答え、任意同行には素直に後を付いていく姿勢だ。
逃げも隠れもせず、戸惑う位に堂々と。
 

青霧 在 > 「いざ手にしてみれば思っていたものとは違うなんてことも珍しくない」
「知ったような事を言ってすまなかった」

それなりに酷い事を言ってしまったかと後悔すらした青霧に素直な感情を返した夜見河。
そんな構図に恥じるべき部分すら感じたのか、謝罪を口にする。
夜見河が気にせずとも、青霧当人が気にする。

「親子丼か。分かった」
「俺がデリバリーで頼んでおく。無理に話させた礼だ」

夜見河の態度は疑わない。
この場で起きた場面のみ切り取れば、夜見河は青霧よりも模範的と言える行動をとってみせた。
それゆえに、青霧は夜見河を少しばかし信頼していた。
と言っても、常人に向けるそれと同等か少し劣るものではある。
とはいえ、監視対象に向けるものとしては別格とも言える。

「俺はまだこの場に居なければならないから、別の委員について行ってもらう事になる」
「親子丼は後からちゃんと届くようにしておくから安心してくれ」

拘束された逃走者や非戦闘員を異能で浮かせ、移動を開始する。
A地点まで同行し、既に到着している輸送担当の委員に夜見河を引き渡すだろう。

その日、夜見河の前に青霧が姿を表す事は無かったが、親子丼はしっかりと届いた。
親子丼を届けた委員は大層不思議そうな顔をしていた。

夜見河 劫 >  
何事もなく連行されていき、親子丼をご馳走になれば、"狂狼"のコードネームに似つかわしくない大人しさ。
最も、取調に当たる風紀委員には毎度の事、であるのだが。

取調に対しては、一貫して「遭遇したのは偶然、喧嘩を仕掛けられたと思って乱闘になった」
という証言を崩さなかった灰色の髪の男。

そして身柄の確保から2日程が経ち、捕縛された逃走者たちの証言から
その発言がほぼ間違いない出来事であった事、加えて「身元引受人」が
現れた事によって、注意を受けた後に"狂狼"は解放される事となった。

――身元引受人は、「異能研究機関・第6研究室」。

その身元引受人の事も、「知っている者」にとっては「いつもの事」であった。
きな臭さを感じて、件の身元引受人に下手に首を突っ込もうとするものが居ない事も。

知る者にとっては、いつもの事、だった。
 

ご案内:「違反部活群/違反組織群」から青霧 在さんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」から夜見河 劫さんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に神代理央さんが現れました。
神代理央 >  
嘗て落第街に砲火の雨を降らせ続けた風紀委員。
違反部活のみならず、周囲に住む二級学生の被害すら厭わないその苛烈な攻撃は、風紀委員会内部からも問題視される程。

数か月の間直接前線に出る事は無く、直近の目撃情報は新入委員の指揮や護衛と大人しくしているものだ、と噂されていたものだが。


歓楽街で薬物を売り捌き、学生達を薬物中毒へと陥れていた組織があった。構成員が数人逮捕され、組織の解散や投降も促されたが黙殺。
かかる上は、落第街の綱紀粛正と違反部活の見せしめとするべく…殲滅の許可が下りた。

「……Brennen!」

拠点である大型商業施設の跡地。入り口に屯していた半グレめいた構成員達は、砲撃音と着弾音で飛び上がった。
視線の先では、囂々と燃え上がる自分達の拠点。彼等が音の発生源に目を向ければ…。

「住宅地なぞに拠点を構えていなくて助かったよ。此処ならまあ…多少暴れても、問題はあるまいからな」

無数の砲塔を生やした多脚戦車の如き巨大な鋼鉄の大蜘蛛の様な異形。
召喚主を守る様に付き従う、両腕が大楯へと変貌した巨大な蟷螂の様な異形。
それらを従えた、金髪紅眼の小柄な少年。

「久し振りだ。加減が些か分からぬが…まあ…」

呆然と立ち尽くす構成員達にゆっくりと歩み寄る少年。
それに付き従う、鋼鉄の異形の群、軍。

「宜しく頼むよ」

ぱちり、と指が鳴らされれば。
大蜘蛛の異形の背から、轟音と共に数多の砲弾が放たれた。

神代理央 >  
轟音、轟音、轟音。
降り注ぐ砲弾の雨が違反部活の拠点を瓦礫の山に…は、しなかった。

「…ほう?活きが良いな。いや、だからこそ風紀委員会に対しても強気な態度で臨んでいたと言う事かな」

複数の防御魔術による結界。
古式ゆかしいSF映画のバリアの如く建造物を守るソレは、二撃目以降の砲弾を防ぎ続けている。
全てを弾き返せている訳では無さそうだが…重要区画へは、直撃を許していない。

「そうでなくては。無抵抗の儘死ぬくらいなら、最初から抵抗しなければ良いだけの話であるしな」

反撃も始まった。乾いた銃声。炎やら氷やら、目に見えて分かりやすい異能も入り口に築かれたバリケードから撃たれ始める。
拳銃程度では異形が動きを止める事は無いが、異能の直撃を受けた異形が数体、たたらを踏んでバランスを崩す。

「では消耗戦と行こうか。何、君達も武器弾薬の蓄えは十二分にあるだろう?幸い、此方の砲弾も尽きる事は無い」

倒れた異形をすり抜ける様に、次々と異形の群れが前進していく。
針鼠の様に生やした砲身を全てバリケードに向けて、機関砲を撃ち続けながら進み続ける鋼鉄の異形の群れ。

「逃げ回る鼠を捕まえるのは苦手だが……一ヶ所に集まってくれたのなら、その殲滅は得意な方なのでな?」

神代理央 >  
…良く持った、と褒めるべきだろう。
薬物販売で得た利益による拠点の要塞化、及び大量の武器兵器の保有。
資産を活かした異能者等の戦力確保。
果てには、興奮剤の類と治療薬を混合した薬品を構成員に投与する事で、擬似的な再生能力を持たせて特攻までさせた。

風紀委員会に真向から喧嘩を売るつもりは無くとも、万が一に備えての戦力増強と、時間稼ぎの為の手段を揃えていた。
組織の首領と幹部クラスの逃走する時間だけなら稼ぐ、という強い目的意識と、その為の手段の確保。
それらは、素直に賞賛に値するものだった。

「だが、まあ…」

燃え盛る拠点。ぐるり、と拠点を囲み淡々と一定の間隔で砲弾が撃ち込まれている。
防御魔術は、無限に撃ち込まれる砲弾に耐え切れず砕け散った。
特攻する構成員達は、重戦車の如き異形の脚に踏み潰された。
それでも迫った者達は、親衛隊宛らの大楯の異形に弾き飛ばされ、圧し潰された。

「戦場において最も重要な事は、投射する火力の量。それは千年前も今も変わらぬ、不変の法則」

結局は、物量で押し切っただけだ。
バリケードを踏み潰した異形が拠点に突入し、砲弾を撃ち込みながら暴れ続ける。
崩れ落ちる建物から逃げ出した高級車は、包囲していた異形に砲弾を撃ち込まれて鉄屑と化した。

英雄的な武勇も栄光も無い。目を奪われる様な武術も無い。
神代理央の異能は、そういう力だった。
湧き出る鋼鉄の異形が、溢れ出す火砲の群れが。

敵を圧し潰し、殲滅する。
戦争の為の異能。
それが────『鉄火の支配者』