2024/06/15 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に?????さんが現れました。
■裏路地の風景 > とてもよくある風景だったといっていい。
弱いものが、強いものに胸ぐらを掴まれて、殴られている。襟を締められて身動きもできないまま、食らっても痛みと恐怖があり、かつ気絶しづらく重傷になり得ない場所に。握り込まれた拳が、手袋の奥からもたしかな打突の心得をともなって、顔に、腹に、体の各所に。
■違反学生 >
「や……」
殴られる。
「や、め…」
殴られる。
「ごめんなさ…」
殴られる。
■????? >
黒尽くめ。無骨なフルフェイス。細い体とそこまで高くない身長。そんな謎の影が、ほんの数分前まではナイフと異能をちらつかせていた少年を、嬲りものにしていた。
堅い壁面に押し付けられた青年はがっちりと押さえつけられて身動きもできない。涙で顔を濡らしながら、後悔と絶望のはざまで、殴られる、殴られる、殴られる。
(ああ…)
拳を叩きつける。
(サイアクの気分だ)
拳が停まった。
■????? >
気絶してしまったようだ。痛みよりも心神耗弱だろう。軽傷だ。黒尽くめの影は少年を解放し、地面に放り捨てた。
拷問。これは、テンタクロウがやっていたこととどれほど違うのだ。黒い情念の渦巻くままに暴力を叩きつけたこの漆黒は、ひと仕事を終えたばかりでも、餌食となった少年を見下ろしたまま肩で荒く息をしている。
おさまらない、おさまらない、おさまらない――――!!!
ふと物音がしてフルフェイスが肩越しを振り向いた。
■正規学生の少女 >
「ひッ」
へたりこんで腰の立たない少女が、蛇にでも睨まれたように竦んだ。目の前で行われていた凄惨な暴行を、ただ怯えて見つめているしかなかった少女。
数分前に、性質の悪い違反学生に絡まれ、拐かされるか襲われるか、いずれにせよ何かを奪われかけていた力のない少女。服の入った買い物袋が散らばっている。おそらく、常渋帰りに黒街にでも迷い込んで、引っ張り込まれたのだろうか。
この少女は助けられた側だった。
■????? >
突然割って入ってきた黒尽くめはヒーローのような登場をしたのだ。最初だけは。
そして加害者をひたすらに痛めつけ、加害者となっていた。
「ああ」
黒尽くめは、少女のことをようやく思い出したようだった。少年を殴るのに夢中ですっかり忘れてしまっていた。ぐるぐると揺れる脳と思考。それでも近づいて、血のぬめりを帯びた手袋が、少女に差し伸べられる。
「立てる…?」
■正規学生の少女 > 「~~~ッッッ!!」
悲鳴、恐怖。
当然の反応だ。少女の目の前にいるのは、ただひたすらに暴力に没頭していた凶悪犯。
「な、なに…なんなの…あなたは…?」
かちかちと奥歯を鳴らしながら、涙で潤んだ瞳が黒尽くめを見上げていた。
■????? >
手を引っ込めた。
この光景は知っている。最悪の気分だ。遠くに聞こえる、サイレン…風紀が来る。携帯のGPS機能を辿ったのか。友人が通報したのかもしれない。
面倒なことになる。行かなければ。ああ、名前、名前か、そうだ。
自分がこんなことをすることになってしまったのは、あの噂話を聞いたからだ。存在しない街に存在するといわれた、存在するかも定かではない違反部活。法のもとでは裁かれない悪を裁くという断罪者。紋切り型のダークヒーロー。今となっては転がっていて虫の息の少年も、突き出せば普通の罰を受けるだろう小物だというのに。
こんなことをしているのが端集シスイという自分だと認めたくなくて、自然と口からその名が出ていた。少女にそう名乗ったのだ。どうせいるかもわからない都市伝説だ。
「俺は」
少し後に、その噂が加速してしまうことになるなんて、浅はかな考えでは思い至らなかったのだ。
■????? >
「《裏切りの黒》」
ご案内:「落第街 路地裏」から?????さんが去りました。