2024/06/18 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」にテンタクロウさんが現れました。
ご案内:「落第街 路地裏」にシャンティさんが現れました。
テンタクロウ >  
道行く人の骨を砕き、風紀委員に追われ。
闇を掘るように星空を漫ろ往く。

辿り着いたのは断頭台ではなかった。

「ここは……」

落第街か。風紀委員だった頃にもあまり来たことのない路地のほうだ。
触腕で体を支えながら、激しく咳き込んだ。
仮面の呼吸循環システムに血が溜まっているようだ……

脳神経加速剤と悪魔の心臓の併用だ。
今日、ここで終わっても……運命か。

シャンティ >  
こつり こつり こつり
星空に硬質の音が響き、吸い込まれ、消えていく
硬い、靴の音

「平穏、は……一瞬、で……崩れ、る……
 理不、尽……はぁ……いつ、でも……襲って、くる……

 ふふ……いい、絶望(いろ)……ねぇ……いい、恐怖(いろ)……ねぇ……」

骨を砕かれ、悲鳴を、嘆きを上げる人々
その様子を読みながら、女は熱に浮かされたように歩を進める。

目的の人物は、この先にいる
ついに、だ。ようやく、会える。
かの魔人に、だ

「ふふ……いい、闇……ねぇ……
 こん、ばん、はぁ……魔人、さん……?」

くすくす、と薄く、小さく、すぐにも掻き消える
しかし、妙に響く笑いとともに女は機界魔人の前に姿を現した。

テンタクロウ >  
「……誰だ」

動くのも億劫そうに振り返ると、女は眼の前に来ていた。
異能者か。だが……

「なんだお前は………」

オーバードーズの症状が出て、意識を保つために全力を振り絞っている今。
満足な戦闘はできない。
まして異能者相手に大立ち回りなど。

「ハァァ……裏切りの黒(ネロ・ディ・トラディメント)か?」
「それとも……ゴボッ」

気管支に入った血で溺れそうになる。

「……私は機嫌が悪い、どこへなりと行くがいい」

シャンティ >  
「あ、ら……あ、らぁ……」

くすくすと微笑む
どこへなりと行くがいい
そんな言葉が出てくるなんて

「ま、さか……見逃、して……いただ、ける、なん、てぇ……ふふ。
 光栄、だ、わぁ……?」

まるで演劇のように手を掲げ、踊るようにその場でくるり、と回る。
そして、あらためてテンタクロウの正面に体を向ける。
挑むようにか それとも向かい合うようにか

「なん、だ……と、いわれ、れ……ばぁ……
 私、はぁ……あなた、の……ファン、よぉ……機界、魔人――テンタク、ロウ?」

ほんの僅かに首を傾げる。
しかし、虚ろな目はまるで見えているかのように魔人を見据える

「そう……悪、たる……あなた、の。
 そこ、に、いたって、も……なお、立つ……あなた、のぉ……
 だぁい、ファン……なの。」

極上の笑みを浮かべて、女は熱っぽく語りかける。

テンタクロウ >  
芝居がかった語り口。
かつて常世で悪を成した劇団フェニーチェの関係者か?
いや、もう彼らは表舞台から去ったはず。

油断してはならない。
心を(よろ)え。
疑い、拒絶しろ。

死の間際であるからこそ───悪でなくてはならない。

「ファン……?」

仮面の奥から訝しげに見た。

「ハァァ……指名手配犯のサインでも欲しいのかね?」
「馬鹿馬鹿しい」

私がやったことは骨を砕いただけだ。
誰からも肯定されてはならない。

シャンティ >  
「いい、ぇ……サイン、なん、て……不要、よぉ?
 大事、なの、はぁ……悪を、志、す…… 悪、を……貫、く……
 その、あなた、の……生き、様……だけ。」

馬鹿馬鹿しい。その通り。形だけの記念品など不要だ。
そして、判っている。これは相手の矜持との対話だ。

ああ、でも……高ぶってしまう。
この街の闇に浮かぶ星空の、一際輝く星のように、彼は輝いている。

「無粋、なの、は……わか、って、いる、わ……?
 あな、たの……悪、を……汚、したい、わけ……でも、ない、の。
 でも、ね?」

先程から、血を吐き、立っているのもやっとのような姿
彼が、このまま何者にも見られず終わることは……

「そ、う……こん、な……ところ、で……朽ち、て、いく……の、だけ、は……
 いや、なの……」

熱を帯びたような声は、一転。
悲しみを、悼みを持った、なんとも言えない声色になっていた

テンタクロウ >  
「生き様か……」

それも終わりが近い。
風紀は徹甲弾を持ち出した。
空中と重装のアドバンテージはなく、
体は薬毒に蝕まれている。

「無駄だ」

言い切る。私は死ぬ。

ダスクスレイがそうであったように。

「ハァァ……お前は例えるなら夢だな」
「私の目には不確かな存在に映っている」

「こうして話していることも夢と忘れろ……」

そうだ───死に場所くらい選ばせろ。

シャンティ >  
「えぇ、そう……そう、ね。
 あなた、は……あな、たの……幕、引き、を……目指、して、いい……」

そこに干渉するのは、無粋……それは、わかってはいる。
ああ、だけれど

「そう、ね……ええ。夢――それ、で……いい、わ?
 な、ら……夢、に……最期、の……意地を、みせ、る……手伝、いを……させ、て……ほし、い、の、よ」

わかってはいても、つい口が出る
悪の末路など、路地の裏がお似合いの死に場所だ、と吐き捨てるものもいるかもしれない
悪に華道などいらない、と彼自身が嘯くかも識れない

それでも

「ぇぇ、ええ……
 全身、を……治す、なん、て……そん、な……夢、物語、では、なく。
 全てを、元通、り……なん、て……ご都合、では、なく。
 ただ、立ち、あがる……それ、だけの……
 それ、だけの……手助け、を」

それだけでも、差し出したい
悪は、悪として 悪のまま 舞台を去るまで立っていてほしい

それは、ただの我儘だ。
女もわかってはいた。それは無粋なのだ。それでも

この物語は、此処で終わってはいけない

そう、女は信じていた

テンタクロウ >  
「何………」

 
サインよりも再起を求められている。
ここで死ぬなと言っている。
 

混濁した意識が悪夢を脳裏に浮かび上がらせる。

『藤井さんは友達を作ったほうがいいかも』
スクールカウンセラー。

『あの人…気味が悪いよね。何言っても反応が薄いし』
看護士。

『リハビリもいいけど、もう少し心に余裕を…趣味なんか持ってはどうでしょうか』
医者。

 
粥よりも薄い人間関係。
砂を噛むような日々。

私が死にかけているからか……?
初対面の女に縋ろうなど。

「……やってみせろ」

やめろ、テンタクロウ。
それは僕が望んだ姿じゃない。

シャンティ >  
「……ひと、つ……勘、違い、の……の、ない、よう……にぃ」

やってみせろ、という言葉に答える
女の手が、魔人に向けて伸ばされる

その手は、力なく垂れ下がった触腕に触れた
それは、持ち主の意思とは無関係に、女の腕に巻き付く

「私、は……あなた、を……堕落、させ、たい、の……じゃ、ない……わ?
 最期、まで……貫い、て……ほし、い……の」

気がつけば、顔が眼の前に迫っていた

「さ、あ……まず、は……ね?
 あなた、の……する、ことは……なぁ、に?
 どう、して……して、た、の?」

女は、微笑んでいた。
もし、触腕に力が込められれば……何が起きるかは誰の眼にも明らかだった

テンタクロウ >  
「ハァァ……誰が勘違いなどするか」
「私は機界魔人テンタクロウだ」

触腕が女の腕に絡みつく。
冬の枝のように今にも折れそうな細腕。

「思うがままに生きる……」
「誰の目にどう映ろうとだ……」

ハァ、と溜息を吐いた。

「……答えないとダメなのか?」

少しそのままにしていたが嘆息して。

「骨を折ることだ」
「子を持てなかったペンギンが石を卵のように温めるように」
「ハワイガラスが仲間の死体に花を添えるように」

「私なりの社会との折り合いの付け方……いや、違うか」
「社会への抗議だ」

微動だにせずに眼の前の女の瞳を覗いて。

「ハァァ……世間では反抗と思われているがね」

シャンティ >  
「あ、はぁ……そう……そう、よぉ……
 人、は……自分、たち、が……理解、でき、ない……こと、を。
 自分、たちに、都合の、悪い、こと、を……悪、と……呼ぶ、わぁ……
 ふふ。でも、それ、でも……思う、まま、に……つら、ぬく……
 いず、れ……正義、を……嘯く、ものに、潰さ、れ、た、とし、てもぉ……」

くすくす、くすくす、と女は笑う
悪は矜持だ。正義を嘯くものは矜持を失おうと、周りが勘違いをしてくることもある。
けれど、悪は?
悪は、矜持を失ってしまったら……何もなくなる

「そう……そし、て……もう、それ、以上、は……いい、わぁ。
 あなた、の……想い、を……真実、知る、ことは……でき、ない、けどぉ……
 あな、たが……あなた、の……意地と、想い、で……悪を、なし、て、いるの、が……
 わか、れば……十分、よぉ」

それさえあれば、”満足な死”だって迎えられるだろう
路地裏で虚しく散っていくよりもよほどよく

「同情、なん、て……いら、ない……で、しょう、し。
 理解、も……され、たけ、れば……聞く、け、どぉ……」

そうでなければ、言わせるだけ失礼だろう。
彼の想いは彼だけのものだ。女はそう思う。

「なら……やり、なさい……テンタクロウ
 どこへ、なりと、いけ……なんて、言っては、駄目」

闇の中に、ほんのりと浮かぶ薄い唇が三日月を描く
くすくすと微笑んで、触腕が巻き付いた腕を示す

「それ、とも……でき、ない……?」

くすくすとくすくすと

テンタクロウ >  
無礼(ナメ)るな女」

慈悲も許容も、躊躇いもなく。
触腕に力を入れた。

シャンティ >  
ごきごきごき、と音がする
骨が折れ、腕が曲がっていく

「ぁ、は……」

女の口から吐息が漏れる。
恍惚として、陶酔して、そして、微笑んでいた

「えぇ……ごめん、な、さぃ……ねぇ……?
 無礼、だった……と、想って、いる、わ。」

確かに、腕は折れていた。
形が歪み、曲がり、誰の目から見ても惨状は確かだった
それでも、女は静かに平然と語りかける。

「あぁ……本当、に……無粋、だった、わ……
 本当、に……ごめ、んな、さぃ……ね」

小さく、吐息をついた。
ぶらり、と折れた腕が力なく垂れる。

「……少し、の……回復、魔法、とか。
 そう、いう、の……の、方、が……よか、った……の、かも、しれな、い、けど……
 でき、なく、も……ない、けど」

でも、それはさらなる押し売りかと想って
さらなる無礼であろうかと想って

「死に、場所、は……此処、では……ない、はず……だか、ら。
 ……ね、ぇ……立て、る?」

女は問いかけた

テンタクロウ >  
そうまでしないと意図を汲めない僕は。
矢張り愚か者だ。

「ハァァ……キミの骨が折れる音、良いぞ…」
「ファンであるよりも楽器であったほうが良い…」

口中の血を飲み干し。
背を向けて邪魔な壁を、古びたコンクリートを、
建造物を破砕する。

「次は女の肋骨だ……男と並べて折り比べるもいい」

視界の邪魔を除けば見事な月が見えていた。
このまま行けば土曜日には満月か。

振り返ると、腕が折れた女を一瞥する。

Thank you Ms,Accomplice(感謝するぞ、共犯者)

折れかけた羽根はここに蘇った。

騒ぎを聞きつけてサイレンが近づいてくる。

「さぁ……踊ろうか、風紀委員の諸君」

イオン臭、リフターが起動すると満ちて行く月に飛び去っていった。

シャンティ >  
「……あぁ」

小さく、息をつく
裏方、などというのは体の良い言い訳にすぎないのではないか
差し伸べたのはなんということはない、なんの助けにもならない
ただ、消えかけた灯火を無理やり明るくしただけの

それでも……それを灯火を美しく感じてしまう
正しく、自分はおかしいのであろう

「楽器……ぁ、はぁ……いい、の……よぉ……
 私、は……道具、だ、ものぉ……あ、はは。 いい、わぁ、それ」

くすくすと笑う
笑いながら、建造物を破壊するタンタクロウを見る

「……もし……もしも……
 ゆるさ、れる……なら……最後、に……ほん、の……一時……だけ、でも……
 炎、を……燃や、せる……祝、福……を」

――The quality of mercy is not strained.
――It droppeth as the gentle rain from heaven upon the place beneath

女は謳うように一節を読み上げる

「……」

去りゆく悪に祝福を
留まる悪には悪徳を

この祝福は……何かに役立つだろうか

黙って去りゆく魔人を見送った

ご案内:「落第街 路地裏」からテンタクロウさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」からシャンティさんが去りました。