2024/07/16 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」に九耀 湧梧さんが現れました。
無法者 > 夜の落第街、路地裏。

数人の無法者が、地面に這い蹲って呻き声をあげている。
いずれも表向きに傷こそないものの、身体の各所――それも急所になる場所を
押さえ、呻き声を上げるばかりだ。

ほんの十数分前まで、その数人のリーダー格は手下達に普段以上に威張り散らしてみせていた。
闇市で手に入れたという「魔剣」が、その理由だった。

この剣の力があれば、巷を騒がす怪異や取締りの風紀委員など恐れる事もないと、気炎を吐いていた。
気合いを籠めれば、炎を発するという魔剣。

たかが剣一振りで、劇的に己の立場が変わるならば苦労などない。

それを、彼等は身を以て思い知らされた。

無法者 > 件の魔剣は、既にリーダー格の男の手にはなかった。
その剣を手にしているのは、彼等を叩き伏せた張本人。

『畜生……返せ、俺の、俺の剣だ…!』

這いずりながら、それを奪った者へと掴みかかろうとする。
その執念だけは買っても良いか、と、強奪者は思った。

当然、返す道理など存在しない。

がっ、と音を立てて蹴りの一撃が叩き込まれ、リーダー格の男は路地を転がる事になった。

九耀 湧梧 > 「生憎だが、お断りだ。」

奪った剣を手に、黒いコートの男がそう吐き捨てる。

「お前のような未熟者には手に余る。
そもそも、お前らが持ってても碌な事には使わんだろ。
こいつは、俺が管理させて貰うぜ。」

男たちからすれば、あまりに一方的な物言いだろう。
だが、所詮はならず者。
その内に剣の力に溺れて碌でもない事件を引き起こすか、身の程を知らずに実力者に挑んで
命を落とす事にもなりかねない。

その点から言えば、寧ろ黒コートの男は優しい部類だろう。
命も取らず、怪我と剣を取り上げるだけに留めたのだから。

九耀 湧梧 > 無法者達の呻き声や怨嗟の呟きを他所に、黒いコートの男は
コートの中から一冊の本を取り出す。
古びた外見の、博物館辺りに所蔵されていそうな和綴じの本。

表紙に達筆で「捜刃録」と書かれたその本を開くと、男は手にした魔剣をその本に突き刺すように差し込む。

まるで引き出しの中にしまい込まれるように、魔剣は本の中へと埋まっていき――完全に収納されてしまった。

「――――魔剣・紅蓮。
炎を操る赫色の刀身は、持つ者次第で地獄の業火をも呼ぶ、ね。」

頁のひとつを覗き込みながら、独りごちる。
ぱたりと本を閉じると、そのままコートの中にしまい込む。

「《本物》には違いなかったようだが…持ち主の格と力は不足してたようだな。
ま、半端に強すぎる奴の手に渡る前で安心だったって所か。」

そう言い残すと、男は倒れたままの無法者達を放置して歩き出す。

「一応、年長者からの忠言だ。
身の丈に合わない力に手を出すものじゃあないぜ。
力に振り回されりゃ、最後に待ってるのは破滅だ。

――ま、最も、」

九耀 湧梧 > 「そんな事になる前に、
お節介ながら回収に来させて貰うがね。」

九耀 湧梧 > そう言い残し、無法者達を放り出したまま、男はマフラーをたなびかせ、
路地裏から別の路地裏へと抜けて来る。

「……全く、何処でも人を狂わせる剣はあるもんだ。本当に、碌でもない。
せめて、あまり多い数が持て余す様な奴の手に渡っていない事を祈るしかないか。」

そう考えれば、今日偶然目撃した連中はまだ可愛い方だった。
まともに剣の力を使いこなせてもいない。
お陰様で、大きな気苦労もなく回収も出来た。死人も出ていない。

「――それに、魅力的な代物が出回り過ぎて、あの「お嬢様」みたいな物騒な相手に
狩られたりしないかも、心配と言えば心配だからな。」

最も、それは今の自分もあまり変わらないか、と自嘲気味に笑う。
少なくとも、「管理対象」になるような代物が、まっとうに暮らしてる学生さんの手に渡っていないのを願うしかない。

ふぅ、と小さく息を吐き、路地裏の空を見上げる。

星空が、背の高い建造物に切り取られたような姿に見えた。

噂話 > この一件を皮切りに。

落第街を中心に、ある噂話が立ち上る事になる。

『身の丈に合わない剣を下手に持ち歩くな。
手に余る剣を見せびらかして自慢するな。

さもなければ、

黒い男が、剣を狩りに来る。

命は奪われないが、自慢の剣を奪われる。』

ご案内:「落第街 路地裏」から九耀 湧梧さんが去りました。