2024/07/31 のログ
エルピス・シズメ >   
「あ、えと……性分なのは、否定しないけど……
 ……礼儀ややさしさも、身を守る力だから……ありがとね。」

 素直に褒められたからか、気恥ずかしそうだ。
 多少の戸惑いや誤魔化しの素振りは見せたが、最終的には素直に受け取った。
 
「うん……でも、きっと僕のことを信頼してくれてるし、僕も信頼してるから。」
「心配はするけど、それ以上に信頼し合ってるから大丈夫。」

 迷いなく告げた。
 同居人達を束縛したくない意思もあるが、それ以上の『信頼』がある。

「……すごい。剣も魔法も熟達してる。湧梧さんのことは、敵に回せないね……」

 魔法を用いた動きを観察すれば、感嘆と尊敬の視線を見せる。
 少なくともエルピスの観察眼は、そう捉えた。

「異邦人さんなら、色々納得。
 出来れば敵じゃなくて隣人さんで居たいから、宜しくしたいな。」

 そう言って、生身の左手で握手を求める。
 

九耀 湧梧 > 「処世術って事か?
どっちにしろ、良い事だと俺は思うぜ。下手に敵を作るよりずっと「良い」在り方だ。」

現在進行形で狙って来る人間を増やすのがどの口か、と内心思うも、
少年の在り方には好ましいものを感じる。
少しばかり捻くれた若年時代を過ごした自分には、ないものだった。少し、少年が眩しく見える。

「…そうか。そりゃ、いい同居人達だな。大事にしろよ。」

やはりそれは家族ではないのだろうか、という疑問は喉の奥にしまって置く事にした男。
得難いものには違いがないので、そう声を掛けて置く事にした。

「はは、それでも此処に来てから中々凄い手合いに何度か遭遇してな。
世界の広さって奴を実感してる所だ。まだまだ俺も未熟だ、ってね。」

卑下でも謙遜でもなく、心の底からそう語る。
それでも口元が少しだけ上がってしまうのは、強者を前にすると腕が疼く剣士の業だろうか。

「俺もあまり敵を増やしたい訳じゃないしな。
知己が増えるのは有難い。こちらこそ宜しく頼む。」

黒いコートの男も、装甲に覆われていない左の手を伸ばし、握手を交わす。
利き腕を使わない非礼などより、生身の手で交わす握手の方が、この場には相応しいだろう。

エルピス・シズメ > 「受け売りみたいな経験だけどね。」

 この辺の処世術も、『外付けの経験』と言えばそうだ。
 それでも肯定されると嬉しいのか、口元が緩む。

「大事にするよ。絶対に。」
「だから僕は此処も大事にしているんだ。」

 後の言葉は自分に言い聞かせるような妙な言い回し。
 それでも確たるものがあることだけは、強く示されている。

「湧梧さんでも未熟なんだ……世界は凄いね。」 
 
 どこか嬉しそうに口角を上げた湧梧を認め、"純粋に戦うことが好きな部分もあるのかな"などと考えつつ。

「良かった。……それじゃ、僕もそろそろ行くけど……
 その前に、名刺も渡しておくね。これも何かの縁になりそうだし……」

 少し古びた名刺を一枚を取り出す。
 エルピスの事務所と、手書きの取り消し線と共に新しい連絡先が記載されている。

九耀 湧梧 > 「ああ、世界は本当に広い。
お陰でお前さんみたいな良い奴にも会えたからな。」

そう答えつつ、差し出された名刺を受け取る。
軽く改めると、小さく顎をさすり、

「成程、こりゃ有難い。
本当なら俺も連絡先を渡すべきなんだろうが…生憎、まだ此処での公的な身分やらは持ってなくてな。
…ちょっと待っててくれ。」

言いながら、右手でコートの内側を探り、何かを取り出す。
少年に差し出したのは――漢字や記号の類が円形に整然と描かれた、折り紙のような正方形の紙が10枚綴り。

「いささか時代がかった連絡方法で済まないが、これを持っていってくれ。
陣の中心に、髪とか爪とかを置いて燃やせば、俺の所に報せに来る。
式神と言えば通りが良いか? 用があればこれで呼び出せる。

それじゃ、お互い帰りは気を付けるとしようか。」

エルピス・シズメ >  
「了解。何かあったらこれで報せる。」

 紙を10枚受け取り、使い方を聞きながら検分する。

(漢字……東洋式? そもそも異邦のものかな。)
(あんまり見た事のないタイプだ。僕の身体の一部で識別するのかな?)

 とりあえず必要な時は言われた通りに使おう。
 そう思って紙をしまう。

「うん。それじゃあまたね。湧梧さん。」

 新たな縁に内心喜びつつ、一足先に現場を立ち去った。

ご案内:「落第街 路地裏」からエルピス・シズメさんが去りました。
九耀 湧梧 > 「はいよ、それじゃまたな、エルピス。」

軽く手を振って去り行く少年の後ろ姿を見送り、黒いコートの男は軽く伸びをひとつ。

「…この街も、ごろつきや無法者ばかりじゃないみたいだ。
久しぶりに「良い奴」と会った気がするぜ。」

小さくそう呟くと、黒いコートの男は少年とは反対方向へと歩き出す。

「今日は少しぶりに、歩いて寝床を探せそうだ。」

小さく、黒いコートと赤いマフラーが風に靡いた。

ご案内:「落第街 路地裏」から九耀 湧梧さんが去りました。