2024/09/12 のログ
『逃亡者』弟切 夏輝 >  
「わたしだって――そっちに居たい!
 そうやって、裁く側に!あんたと同じところに……!ずっと居たかったッ!」

最初の最初で、すでに掛け違えていたのに。

肉体の性能(フィジカル)は、俊才・伊都波凛霞に及ぶものではない。
しかして()――絶えた弟切の一族の伝える、瞬間的な肉体強化を用いれば
持ち前の武技と併せて、応じることは不可能ではない。

鋭い音が闇夜を裂いた。
振り抜かれた左銃の銃身が、その旋棍の一撃を受け流したのだ。
拳銃で打突武器に応じるなど正気ではないが、それを可能とする頑健さが"Fragarach(フラガラッハ)"にはある。

(おっも)……ッ!)

それでも、一撃受けていれば歩けなくされていたであろう衝撃に、受け流した腕に痺れが生まれた。
同時に前に動き出していた身体は、鋭く踏み込んだ凛霞と相すれ違うように前へ飛び出す。
振り向きざま、もう片方の手が持つ拳銃が続けざまに火を吹く。狙うは脇腹と、右大腿。

距離は至近。これにおいて、弟切夏輝の拳銃は無限長・弾数分のスペツナズ・ナイフに変ずる。
細い路地――"一定の広さがある閉所"をもっとも得意とする夏輝にとって、
不利な状態ではあるが、それでも、易い相手では――ない!

伊都波 凛霞 >  
──最初に掛け違えた段階で、踏みとどまっていてくれたら。
時間なんて戻す術もない、後悔も全てが今更。自分は何も知らずに、その頃はまだ彼女と笑って過ごしていた。
思えば、表情に不自然さにも似た陰りが見えるようになったのは、その頃だったんだろう。
彼女が完全にそこへと戻れなくなってしまった、その瞬間までに何も察することの出来なかった──私が偉そうなことを言える立場じゃない。

ずっと居たかった。その言葉が胸に刺さる。
でも、それはもう無理だ。──何もかもが遅すぎた。
彼女が軽々しく散らした命には、彼女が重く思う命と同じくらい大事な存在がいた筈なのだから。

「(っ…やっぱり……)」

旋棍(トンファー)の一撃を拳銃の重心で受け流す──なんて芸当。
一筋縄でいかないことは理解っていた。…理解っていたけど──、移動の要を削いで、投降して欲しかった。その望みも…最早。

すれ違い様響く銃声──それを、旋棍を引き戻し弾く。──常人ならざる反射神経の為せる技。

「───」

銃声はニ発。
高次予測を併用した弾道計算から優先的に弾いたのは脇腹への一発。
もう一撃…右の太腿を狙った一発は──その白い肌に深く掠め、紅い華を散らせていた。
明らかに、動きが鈍い──それは自覚している。抑えられない動揺が、身体への神経伝達を阻害している。

「(此処で、捕まえなきゃ、もう…きっと──」

動揺、不安。
凛霞の最も脆い部分が揺らぐ。
すれ違った彼女に追い縋る様、併走する位置にまで、一瞬で追い縋る。

大人しく捕まってくれ、なんて言えないだろう。
彼女が大人しく罪を認めたとて、待ち受ける罰は──限りなく重い。

此処で捕まえて、裁かせていいのか。
そんな雑念すらも、浮かぶ。

「っ……お願い、もう…!!」

それを振り切る様に…渾身。昏倒を狙うつもりで放った、頭部目掛けての一撃。
彼女がそれを避けるか、それとも防御けるか。あるいは反応出来ずに喰らうか。
──いや、どうなろうとも、凛霞はそれを振り切ることは出来ない。当たる寸前で、迷いがその一撃を寸止(とめ)ていた。

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
脇腹を優先的に守るのは想定通り。しかし二射目の大腿への一撃を決定打とする予定だった。
まさかそれまで弾くとは――しかし想定外とはいえ、予想の範囲を脱するものではない。
伊都波凛霞なら可能だろう。たとえ、明らかに動きが鈍っているとはいえ。

――だが、こちらもだ。相手を本気で停めてこの場を切り抜けたいなら、
.22LRなんてナメた弾丸を使うのが、失策だ。9mmや.45であれば右足を封じることもできたかもしれない。
場馴れしているふたり――であるはずなのに、あまりにぎこちない。
訓練場での手合わせのほうが、よほど精彩を放っていただろう。
身内への手心。冷徹に至るまでの閾値。奇しくも相通ずる弱さを持っていた。

(――ああ、追いつくよね……よく見せてた動き(パターン)だもんなぁ)

こちらが次の挙に至るまえに、間合いが詰まる。
相手の狙いは脳を一撃――攻撃の軌道は予測できる。防げる。いや――振り抜けないだろう。
殺すつもりで氣を解放すれば、返す(だんがん)で殺れ――

火花が散った。
左右の銃身を交差させ、旋棍をがっちりと噛みつくように受け止める。

「ねえ」

間近で睨み合う距離。
否、打ち込んだ側と防ぐ側で、凛霞のほうが有利ではある。
それでも、氣を操り、向上した身体能力でもって、
彼我とも迂闊に動けない拮抗を創り出しながら、不意に言葉を次ぐ。

「――わたしももらったんだよ。ギフターって名乗ってるヤツに」

伊都波 凛霞 >  
攻防の一つ一つに、記憶が蘇る。
お互いに、近い距離で…長い時間を過ごした弊害…。

一つひとつ、思い出す彼女の動き、行動パターン…。
それらに紐づく思い出が、より胸を締め付ける──。

振り被った旋棍は受け止められる。
本気で振り抜くつもりだったなら…止められることもなかったかもしれないが。
友人の頭目掛け、そんなことが出来る性格でないことはとっくにバレている。

ギリ…ギリ、と。
押し合うようにして動きを止める二人。
明滅する街灯に照らし出される彼女の顔は…綺麗だ。
疲労こそ感じられども…多くの風紀委員がに信頼を勝ち得た双炎舞踏(フラッシュバラージ)たる彼女の顔、そのもの。
…相対する、伊都波凛霞。
その顔と言えば、内心の叫び…訴えを抑えつけ、風紀に徹する──。今にも泣き出しそうな。されども強い視線──。

組み合う、そんな中で彼女から届けられた言葉は…耳を疑うよりも先に、呆気に取られてしまうもの。

「──……もらった……?」

彼女の口からその名が出ることなんて…想像すら、していなかった──。

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
彼女に捕らわれ、やがて邢台に送られるか。
彼女を撃ち殺し、消えない罪業を重ねるか。
ふたつにひとつ。それしか道はない。

(……そんな顔、しないでよ……)

悲痛に歪むその顔を、自分がさせているという罪悪感がなによりも苦しかった。
そう――自分が負うのが、苦しいのだ。どこまでも、卑小な人間だ。
――だから。

「見せてあげようか」

眼前の銃身、金属質の銀が、吐息に僅かに曇った。

「わたしの異能(ちから)を」

接触感応、記憶走査――伊都波凛霞の持つそれのように、汎用性に富むわけでもなく。
いまこの場で彼女を制圧するほどの、華々しい必殺技でもない。

七人の犠牲者に、理不尽をもたらした人間である弟切夏輝が求めたるものは。

(――嫌だ)

この悪人の中心核――根源ともいえるとある感情が、

(もう、この場にいたくない。凛霞と戦いたくない、殺したくない、傷つけたくない。
 嫌だ………嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!)

極限まで高まった時に、発動する――

(もう―――)

周囲一帯を呑むほどの効果範囲を持った――

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
 
 
(――逃げたい
 
 
 

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
瞬間、旋棍の手応えが消失する。
氣でもって鋭く後退(バックステップ)し、大きく間合いを開け――

そこにいたそこにいる筈のない新人の風紀委員を羽交い締めにし、
そのこめかみに銃身を押し付けている。

「動かないで」

人質。
氷のように冷徹な声と視線が、新人風紀委員の背後から凛霞に向けられる。

その風紀委員は、先日入会し、そして訓練を終えて目覚ましい成績を発揮し。
特定班でもって、落第街の警邏に加わっていたが――このあたりを巡回する筈がない。

「『アリアドネの糸』。
 運命に叛逆して、理不尽を徹す異能――……たとえば、この通り。
 この場を逃げおおせるための人質(うんめい)が、偶然ここに迷い込む

何が起こったのか判じかねて一瞬。
理解して、恐怖と不安に硬直し、凛霞に助けを求めるような視線を送る一年生の女子――新人風紀委員は。
冷たく硬い銃口をこめかみに感じながら、震えていた。

「……見覚えないね。この娘。新人かな……?ねえ、凛霞?」

伊都波 凛霞 >  
「ッ───!?」

押し合っていた手応えが消失。
揺らぐ身体を、その場に縫い止め─戻した視界に在ったもの。

"動かないで"
聞き慣れた声の、聞いたことのない、声色。

風紀委員を…あろうこととか人質にした…親友の姿だった。

「…何…、やってるの……?」

声が震える。

「私から、逃げるために…」

「その子を……どうするつもり…?」

震える…声だけでなく、下げられた、その手も…肩までも。
信じられない光景を見ている気分だった。
非異能者であった彼女が、件のギフターから異能を得ていた、"そんなこと"よりも。

「ねぇ…夏輝っ!!」

いくら、逃げ…追われる立場になったからといって、
自分の後輩にもあたる、風紀委員の女の子を人質に、その蟀谷に銃口を押し付けている。

そんなこと、あの彼女がするわけがない。
──出来るわけがない。

そう、思いたかった。
切望と、困惑と動揺に苛まれながら、凛霞は、……その脚は、動くことを恐れ、立ち尽くしていた。

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
「そんな間の抜けたこと訊かないでよ、凛霞」

 明々白々な事実がある。
 弟切夏輝は、伊都波凛霞を――大切な仲間を、親友を、傷つけることを望まない。

天才(あんた)なら――わかるでしょうに」

そう言うと同時に、とん、と捕まえていた新人風紀委員を凛霞のほうに突き飛ばす。

 でも、

銃声が続いた。
さっきまでの.22LRとは違う、烈しい爆発音のような。
.45ACP弾――殺傷力の高い弾頭で脇腹を撃ち抜かれた新人は、
悲鳴をあげることもできず、殴られたように前につんのめる。

 新人(こっち)は、どうでもいい(やつ)
 弟切夏輝は、そういう人間だった。……追い詰められれば、人間は本性を見せる。
 獣のように。

刑事部の鮮やかな色彩を、更に色濃くする鮮血の染み。
弟切夏輝は拳銃のスペシャリスト――レイチェル・ラムレイの薫陶を色濃く受けている。
即死はせず、いますぐ治療をすれば命を助けられる部位に的確に撃ち込むなど、朝飯前だ。
眉一つ動かさず、それを実行した。

伊都波凛霞の動きを止めるためのお荷物を作った。
彼女が単独行動を望む理由――弱点がないなら手繰り寄せ、この場に発生させれば良い。

伊都波 凛霞 >  
そう、彼女は仲間や友達を傷つけたりなんかしない。
だから、何をするつもりなのかを。問いかけた。
人質をとって、ましてや後輩を傷つけることなんて出来るわけがない。
そう、思っていた。
だから、とんっ、と…その背を押され新人の彼女が開放されると同時、その身を抱き抱えようと前に出ていた。
やっぱりそうだ。彼女は……。

「!!!」

そんな縋りつきたくなるような思いは、一発の銃声で打ち砕かれた。

抱き止めようとした瞬間、目の前で──新人の女の子は脇腹を撃ち抜かれた。
悲鳴すらもなく、糸の切れた人形のように倒れ込む少女を抱き留める。
──熱い、ぬるりとしたものが自身の手の上へと止めどなく、溢れて───

「あ……」

「あ、あぁ……!」

血の気が、引いていく。
自分の顔からも、腕の中の少女からも──。

どう考えても致命傷。
すぐに措置を施さないと──命を落とす。

「し、しっかりして…!すぐ…すぐに手当てを…っ、
 ───夏輝っ!どうして!!私は、動かなかったでしょう!!?」

その双眼からはぼろぼろと涙が溢れる。
…自分の親友が目の前で起こした凶行。
過去に行ったことが事実であったとしても、自身の眼でその瞬間を見てしまえば──もう否定することは出来ない。
彼女は、紛れもない……仲間を手に掛けた、凶悪な連続殺人鬼なのだと。

──伊都波凛霞という人間を近くの距離で見続けてきたからこその、余りにも的確で、効果的な一手。
これでもう、彼女(凛霞)は、少女を置いて犯人(夏輝)を追うことはできない。───

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
「だからその娘は死なずに済むし」

動かなかったから。
蟀谷を撃ち抜かれ、脳漿をばら撒かずに済んだ。
背後から撃ち抜かれて死んだ、最初の犠牲者のように。

「……わたしも八人目の死者を出さずに済む。そうでしょう?」

彼女の判断は的確だ。物理的に足を停め、心根も挫く必要があった。
もう、逢いたくない――……敵として相対したくない。
だからこそ風紀委員会という鉄の掟へと縛り付けるために。
自分への強烈な負の感情を向けさせなければならなかった。
コートの裾を翻し、踵を返す。

「わたしは逃げるよ、凛霞。
 罪も罰もない場所にたどり着くまで、この身が洗われるまで、ずーっと。
 ……必要がなければもう殺さない。わたしのことは忘れて、そっとしておいて」

その言葉を聞く余裕が、治療に専心する彼女にあるかどうか。
わからないけれども、訣別の宣言は確かだった。一方的に、顔を見ず、逃げる。

「……さよなら。大好きだった。
 できれば、あんたみたいに生きたかったな」

トン、と足音を残して。
その姿は消えた。軽功法による疾駆。瞬く間、彼我の距離は開く――あるいは、最初から、もはや。

ご案内:「落第街 路地裏」から『逃亡者』弟切 夏輝さんが去りました。
伊都波 凛霞 >  
「待って! 夏輝っ!!」

闇の深まる路地裏に、悲痛な叫びが響く。
けれどもう、それに応えるものは誰もいなかった。

「っ………」

叫びたい気持ちを飲み込んで、抑えつけて…。
目の前の、消えそうな命を繋ぎ止めることに懸命になる…。
急いで止血…撃たれた位置も悪い…内臓にも損傷がある位置…。

「頑張って…ごめん、…ごめん……ッ、私の、私のせい……っ」

嗚咽を零しながら、懸命な処置は続く。
止血を終えれば、震える手で手帳を操作し、救援を要請する…。
幸い、ギフト騒乱の関係で周辺に待機している風紀委員は多くいる──。

───……

なんとか、命を繋ぎ止めた少女と共に救急の車両に乗り込み、凛霞は流れ行く窓の外を見ていた。

罪も罰もない世界…ってなんだろう?

大好きだった…?
私にみたいに生きたかった…?

「──……」

「……… さよならの前に、もっと早く言ってよ……」

消え入る様な言葉が溢れ溢れる。…そして、車内に小さな嗚咽が響く中。
救急に訪れた風紀委員達は声をかけることも出来ず、ただ病院に向けて、先を急いだ───

ご案内:「落第街 路地裏」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」に青 空さんが現れました。
青 空 > ついに後期が始まる。少し練習しようか、、。

と、左腰にあった拳銃を取り出し、真上に向ける。

銃声が響き、私は深呼吸をした。

「ふーーっ、じゃあ、開始だ。」

青 空 > 「さて、なにを練習しようかっな」

5分くらい瞑想して、目をゆっくり開けようとした。

「痛っ!」

銃弾が足に当たった。銃声は聞こえなかったのに、何故、、。

わたしは周りを見回した。人影が1つ、あったーー

「誰だっ!」

右手に持っていた拳銃をその人影に向けた。

?? > 「おやおや。これは小悪魔ちゃんか。
青 空 > 「!!なぜその呼び名を、、?」

私は拳銃を向けたまま。向こうはどんどんこちらに近づいてくる。狐面を被っている。声からして男だ。

「貴様は誰だっ」

拳銃と声が震えている。

狐面の男 > 「ほらほら、あまり興奮しちゃいけないよ?鈴木(あかね)ちゃん?」
ご案内:「落第街 路地裏」から青 空さんが去りました。