2025/10/29 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」にサロゥさんが現れました。
■サロゥ > 日付も変わろうという深夜、落第街の路地裏で奇妙なやり取りが行われていた。
この島では珍しい戦闘服を纏った女が、女傭兵の四肢をぺたぺたと触っている。
性的な気配も、濃い警戒や敵意もない。
女傭兵の困惑した表情だけが、この状況を理解するためのカギになるだろう。
戦闘服の女は、微笑みを仮面のように貼り付けながら女傭兵の身体を触り続ける。
微動だにしない微笑みは不気味さや違和感などとうに通り越し、女が人ではないと女傭兵が確信するに至っている。
女は瞬きと呼吸こそしているが、あまりに規則的なことで人らしさを著しく欠いていた。
足を触るために屈んだ女が顔を上げ、膝の裏を触られている女傭兵に向けて声を出さずに口を動かす。
困惑と不可解を隠せずにいる女傭兵は、数秒躊躇ってから返事をする。
返事の内容は、人間の関節についての説明。
折り曲げることのできる部位であるという程度の簡単な説明だが、学の無さか状況が悪すぎるのか、説明に手間取っている。
たどたどしい説明は一分弱続いた。
説明を終えるも不安げな女傭兵に女が一度頷き、再び口を動かす。
やはり声も音もないが、女傭兵には何かが伝わっているらしい。
女傭兵が狼狽しながら肯定の言葉を返すと、女がスッと立ち上がった。
■サロゥ > 女傭兵の視線が女の膝へ向き、数秒見つめてからすぐに視線を逸らす。
屈む時と立ち上がる時の膝、女傭兵に触れる時の膝や手首といった関節全てに違和感があった。
女の全身を覆う戦闘服と夜闇がある程度誤魔化していても、女傭兵は察してしまった。
女には関節が無いのだ。
それらしく曲がっている関節のあるべき部位は、丸みを帯びて不自然に曲がっていた。
まるで軟体生物のような関節は、女が人ではないことを証明している。
少なくとも、人間の四肢を持っていないことは確定的だ。
しばし沈黙が続く。
女は貼り付けた微笑みを女傭兵に向けたまま微動だにしない。
一方傭兵は、悲しみや後悔すら滲ませ、今すぐにでもこの場を離れたいという様子だ。
先に動いたのは女だった。
腰や肩、膝に肘といった大きめの関節にあたる部位が突然膨らみ始めたのだ。
ぼこぼこと泡立つ液体のように膨らんだかと思えば、すんと萎む。
そして少し関節を動かしたかと思えば、再び膨らんで萎む。
何度も何度も、膨らんでは萎む関節。その様子を見ていた女傭兵は腰を抜かし、その場にへたりこんでしまう。
腰が抜けた様子で、小刻みに震えながら少しずつ後ずさる。
■サロゥ > 女の関節が膨らんで萎むを10回ほど繰り返したころ。
調子を確認するかのように大きく関節を動かす。
肩を回し、腰を捻り、腕を折りたたみ、屈伸してみせる。
するとどうだろうか、女の肩、腰、腕、そして膝は、しっかりと人のように動いてみせたのだ。
可動域がやや不自然なことに目を瞑れば、人と遜色ない動きだ。
それらの動作を繰り返したのち、女が女傭兵に向かって口を動かす。
ただの口パク、音も声も発していないのに、女傭兵には伝わっているらしい。
女傭兵は激しくうなずきながら、悲鳴にも似た肯定の言葉を返す。
女が再び口を少し動かす。
すると女傭兵が短く悲鳴を挙げ、すぐに訂正を口にする。
関節の可動域が広いと言いたいらしいが、まともな発音ができていない。
しかしながら女には伝わったらしい。
再び膝や肩を動かしてみてから、しばし沈黙する。
そして再び、女傭兵に向けて口を動かす。
女傭兵は耐えかねたように悲鳴交じりの非難を浴びせ始めた。
「契約は果たした」「これ以上は無理だ」「化物め」「人になって何をする気だ」。
もはや罵倒交じりの悲鳴にも動じず、女は少しだけ口を動かし、女傭兵に歩み寄る。
女傭兵は逃げようとする。しかしながらまともに立てない。
女が何かしている訳ではない。この場には何も作用していない。
異能も魔術も結界も何もない。
女傭兵は、ただただ女に恐怖しているだけだ。
そんなことはお構いなしに、女は一歩ずつ女傭兵との距離を詰めていく。
■サロゥ > 女傭兵は後ずさりながら助けを呼んでいる。
助けを求める悲痛な悲鳴が路地裏に響くが、ここは落第街。
女との距離も、もう数秒もすれば無くなるだろう。
女が女傭兵を止めようとする様子はない。
女傭兵が奮える手で刃物を女に向けても、その足は止まらない。
落第街にヒーローは現れるのだろうか。