2024/06/01 のログ
サティヤ > (こんなことを考え続けても意味はありませんね)
巡る思考を静止させる。
仮に彼らが死んだとしても、自分とは関係の無い事だ。
仮に生き延びたとしても、いつかこの手にかける未来が来るかもしれない。
そんな彼らのこれまでもこれからも、自分にとっては何ら関係の無い事だ。
考えるだけ…愚かな事だ。
(それよりも、この中身は一体何なのでしょうか)
依存性のある薬物ではないことは確認済みだ。
以前とある組織と関係を持った。そのせいで、その類の関する仕事が出来なくなった。
お陰でそれなりの恩恵を得られたから問題はないのだが…
このサイズで収まる違法な物品となれば、ある程度絞る事が出来る。
…知らないほうがいい事もある。
一度思考を止め、デメリットとメリットを天秤にかける。
…デメリットの方が大きいだろう。女は思考を巡らせるのをやめた。
ご案内:「スラム」に神代理央さんが現れました。
神代理央 >
思考を巡らせ、そして一度中断した少女と同業者達に────突然、声が投げかけられる。
「やあ、散歩するには良い日だな。良ければ私も混ぜてはくれないかね?」
別に気配を消していた訳でも無い。唯単に、偶々近くの物陰に居たから顔を出しただけ…と言う様な現れ方。
スラムに全く似つかわしくない、綺麗にアイロン掛けされた制服に、風紀委員の腕章。軽く髪をかき上げれば、少年の装いの中である意味一番スラムの空気と合致する値札の数字だけは多そうな腕時計が鈍く輝く。
「私は此れでもレディファーストを心掛けているし、無益な争いを好む訳でも無い。そのケースさえ渡してくれるのならば…決して、君にとって損な話にはさせないと約束するが、如何かな」
ちら、と少女が手に持つケースに視線を落した後で、僅かに首を傾げる。武器を持たず、装甲服を着こんでいる訳でも無く。
徒手空拳と言うには華奢な少年は、それでも尊大に。人数の不利など問題にはならない、とでも言う様に、穏やかな声色で言葉を投げかけるのだろうか。
サティヤ > 「…」
目の前に現れた有名人を目にして真っ先に思ったのは、報酬が釣り合わないという点だ。
風紀委員が待ち伏せして奪いに来るほどの品をたったあれだけの報酬で運ばせるなど…
小柄な金髪の少年。妙に整った格好と豪華な装飾品。
恐らく…
「鉄火の支配者が出張る程の物ではございませんよ」
名の知れた風紀、鉄火の支配者。気を付けるべき存在として真っ先に名が上がる代表格と言っても過言ではない。
出来ることなら…出会いたくなかったのだが。
どう逃げおおせようか考えながら、後ろの二人に聞こえる程度の声量で話す。
「これを運ぶ上で大した報酬はいただいておりません。おそらくあなたが思うような品ではない筈です」
自分もそう思って依頼を受けたのだが、とんだ地雷を踏んだものだ。
護衛を別途で雇っていた事は、少々引っかかったが…事前に確認しなかった自分の落ち度だ。
背後の二人が女の背後付近まで隠密しながら近づいてくる。
おそらく目の前の彼にはある程度バレているだろうが、それでもかまわない。
この任務は、自分が目の前の彼から逃げ切れば成功のようなものだ。
…伏兵は、一先ず後だ。
「自分も無駄に争いたくはございません。ですが、任務は果たさなければ未来は暗いのです。どうか、見逃していただけませんか?」
時間稼ぎにもならないだろうが、無駄口をたたいてみる。
彼から逃げ切る策を考えるのに、少しでも時間が欲しい…
神代理央 >
「…おや、名前を知って頂いて居るとは光栄だな。出来れば知らぬ儘、生意気な風紀委員だと侮って欲しかったが…流石に高望みが過ぎたか」
名を知られている、となれば当然己の異能や攻撃方法も知られていると言う事。まして、目の前の少女は逃走を図るでも反攻に出る訳でも無い。脅威度を一つ、上げておく。
「どうかな。それを決めるのは我々風紀委員であり、島内を流通する物資において我々の知り得ぬ事があるのは、それ自体が脅威、と言う事だ。とはいえ…」
まだ、己の火力の象徴たる異形は召喚しない。
それは図らずも彼女の目的と此方の目的が合致…している訳では無いのだが、求める事が同じだっただけ。
「見逃せ、という提案を無碍にはしないとも。だが、何かを得る為には何かを支払わなければならない。君とて、そのケースを運べば対価を受け取る事が出来るのだろう?」
緩やかに、唇を歪める。
それは、侮るでもなく驕るでもなく────唯々、尊大な笑み。
「君は、私に一体何を差し出し、その身を見逃して欲しいと言うつもりかな」
…そう語り掛ける少年は、少なくとも少女の背後に近付いた背後の二人には、気付いた様子は無い。
サティヤ > 鉄火の支配者の言う事は理にかなっている。
違法な物資自体、島の体制にとっては不都合なものであり、その実働部隊たる風紀が見逃す訳がないという事は分かっている。
だが、そんなことは今の自分には関係ない。
「…」
筈だが…ここで彼と敵対することが果たして理に適っているのかは、考えねばならない。
有名人が出張ってくる程の物資を届ける事に成功したとして、今後風紀に目を付けられる可能性があっては…
「…」
間が空く。眉を顰め、思考を巡らせる。
とはいえ、だ。これだけの資源をどこかから調達してきた依頼主と、それほどの物資を要求している届け先。
彼らを敵に回すのも望ましくない。
「…そうですね。」
背後で身構える二人との距離は、そう離れていない。
この二人も厄介だ。彼らも、決して弱くはない。
ここで自分が裏切れば、彼らの矛先は此方へ向くだろう。
彼らもまた、この依頼に明日がかかっているのだ。
「…それでは、対価はこれでいかがでしょうか」
その場にケースを置き、背後に振り替える。
そして背後の二人へとハンドサインを送り、鉄火の支配者の方へと数歩、歩み寄る…
そして、背後の一人…長身矮躯で黒装束に身を包んだ男が、物陰から姿を表しケースを拾って走り去ろうとする。
そして―
「申し訳ございません」
振り向き様に、喉に一発。
短刀を横に振り抜き、喉をかっぴらいた。
「これでいかがでしょうか。」
背後の鉄火の支配者に届く声量で。
そのまま二人目を仕留めにかかった
神代理央 >
僅かに、眉を上げる。
それは彼女の行動に驚愕した事も勿論だが、それ以上に己が気付かない程に隠密性能に長けた男を一瞬で屠ってみせたその実力。
元々武芸に秀でている訳でも無い少年には、少女の一閃を視界に捉える事は出来なかった。
「……おや」
と、呆けた様な声を上げたと同時に、指を鳴らす。
さすれば、少女が仕留めようとした二人目の目の前に、まるで大地から湧き出る様に現れるのは、巨大な金属の異形。
針鼠の様に無数の砲身を背中から生やした、蟹と蜘蛛をひしゃげた金属で無理矢理形作ったかの様な、醜い化け物。
そんな化物が、ずしん、と地響きと共に男の前に立ち塞がる。
「"対価"を奪おうとは思わない。しかし、死体が綺麗に残ったら面倒だろう?」
男を殺しはしない。殺すのは、少女の仕事だ、と。
しかし、死んだ後の処理くらいなら…まあ、手伝ってやろう、と。
「とはいえ、意外だな」
果たして、少女がその行為に対してどの様な行動と言葉で応えるのか。その結果を待たずに、異形を召喚した少年は言葉を続ける。
「其れほどの実力があるのなら、私をその刃で貫く事など造作も無いだろうに」
それは素直な賞賛。少女の一閃であれば、此方に傷を…或いは命を奪う事も可能だったろうに、と。
そんな暢気な言葉を紡ぐくらいには、少なくとも少年は少女が支払った対価に、満足していたのだから。
サティヤ > 「えぇ」
鉄火の支配者の問いかけに、同意を示す。
この計画には、鉄火の支配者の協力が必須であった。
彼の殺し方と、自分の殺し方では、誰にでもわかる程の差がある。
聞く限りではあるが、彼の作り出した遺体には喉元を切り開かれた傷跡は残らないだろう。
逃亡、というよりは依頼主への報告へと駆け出そうとしていた二人目が異形に戸惑っている間に、短刀を持つのとは反対の手で頭を掴み、短刀で首を搔っ切る。
こちら側へと倒せば、心臓へと短刀を突き刺し、確実に仕留めた。
「こちらの方が私に利があると判断したまでです。
あなた方は犯罪者が二人死ぬより、学生が一人死ぬ方が圧倒的に重大に捉える筈です」
それに…鉄火の支配者をそう簡単に仕留められるのであれば、彼はとうに死んでいるだろう。
彼はああいうが…実際は不可能なことであると、判断した。私の刃は届かない。
地に伏す二人は、油断や焦りもあったであろう。この窮地で裏切る可能性を考慮出来なかった彼らの落ち度だ。
1人目も同様にとどめを刺す。
淡々と処理し、ケースを再び手に取れば、短刀を仕舞って直立して正面の彼と向き直る。
「私の提供出来る対価は、この品と依頼主、届け先の情報。
要求するのは、私の一週間の捕縛とその間の食事、そして私の身分を探らない事です。」
この品とは、勿論ケースの事。
台本を読むように、告げた。
神代理央 >
「………」
沈黙。それは彼女の行動と言葉が全て、自身の思考と合致しているから。思考を読まれる。此方が何を求めているのか正確に理解している。
それは万の兵より恐ろしいものだ。特に、自分の様に戦い方自体は単純な力押しでしかない人間にとっては。
「此方にとっては願ったり叶ったり、ではある。
私は情報提供者の身柄は大事にする方だし、そのフードの下をのぞき込もうとも思わない。知らぬ方が自分に利がある真実なら、無理に追い求めはしない」
まあ、フードの下を覗き見たところで、仮面に隠された真実には辿り付けはしないのだが…ともあれ。
好奇心は猫をも殺す、とも言う。
彼女が差し出す対価と求めているモノは、風紀委員としては万々歳だ。違反部活が運搬している物資。運び屋の身柄と情報。
その全てが手に入るのなら、後は彼女の望み通りにしてやるだけ…なの、だが。
「しかし、解せないな」
少女の間近にある異形は動かない。その砲身を向ける事も無い。
代わりに、金髪を揺らしながら少年は…ゆっくりと、少女に歩み寄る。その手に握られている刃に近付く事も怖れずに。
「情報と物資を差し出す代わりに、捕縛という形で身の安全とアリバイを得る。此の短い間に、自分に最も利益のある行動を常に取る事が出来る程に聡い貴様が…」
「…何故、この様な下らない仕事をしているのかね?」
それは純粋な疑問だった。
此処に至るまでの少女──まあ、少女だろう、という推測でしかないが──への評価は、警戒心と同じ様に高いものだ。
だからこそ、何故運び屋という危険と隣り合わせでありながら、実入りの決して多くない仕事なぞしているのか、と。
少女を評価するからこその疑問。その好奇心を満たす為に。より間近で"対話"する為に。
こつり、かつり、と革靴が路面を叩く音が、少女にゆっくりと近付いて行く。
サティヤ > 鉄火の支配者が嘘をついている可能性は考えられる。
だが、風紀委員とは意外と誠実なものだ。
実際、目の前の彼も初めから強襲を仕掛けていればよかったものを、対話を試みるという判断を下した程だ。
最悪の場合、嘘であったとしても良い。その時は…その時だ。受け入れよう。
「…」
交渉成立か、そう思われた時であった。
訝しむような彼の言葉に、押し黙る。
敵意無く歩み寄ってくる様に、彼の傲慢さがにじみ出ているようにも感じる。
いや、行動だけではない。その言葉にも傲慢…いや、愚かさが、滲み出ていた。
この距離ならば、仕留められるだろう。
一撃は無理でも、致命傷程度なら与えられる。
勿論、実行はしないが…それほどの距離まで異形すらロクに従えず歩み寄る鉄火の支配者の姿に、愚かさを感じていた。
「これ以上、愚かにならない為です」
一歩踏み込めば懐。それほどの距離に達した時、女がようやく口を開いた。
対面してからこれまでで最も質量を感じさせる口調で、溢す。
「自分は既に、数多の愚かさに染まっています。
ですから、これ以上愚かさに染まらない為にこの馴染んでしまった愚かな仕事を続けているのです」
悔しいだとか、悲しいだとか。そういった月並みの言葉では言い表せない、深い悲壮感が漂う。
これ以上愚かにならないために。愚かさしかないこの世界で、新たな愚かさに染まらぬ為に…
このくだらない仕事を、続けている。
神代理央 >
「愚か、か」
少女が口を開いた所で、立ち止まる。
少女の刃が届く位置。刃を振るえば、容易にその命すら刈り取れる位置。本来アウトレンジからの攻撃を得意とする少年にとって、其処は居るべきでは無い場所。
「罪でも無く、血でも無く、愚かに染まっている…か。
不思議なものだ。それは自己否定でありつつ、自己肯定の意も含む様に聞こえる。自らの行動が最善では無かったから、愚かであると断じるのか。それとも、愚行を選ばざるを得なかった事を嘆いているのか。或いは、その全てか」
後悔、悲哀。しかし愚かであると現在自覚しているのなら、賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶ…という言葉を実践しようとしているのやもしれない。
「何かを喪うという選択を続けたから愚かなのか。何かを得られなかったから愚かであると自らを断じるのか。はたまた、それも全てを孕むのか。何方にせよ、私は自らを愚者と嘆く者が嫌いでは無いがね」
と、小さく肩を竦める。少女には、未だ敵意も砲身も向けられていない。
「それこそ、こうして君の刃が届く距離に立つ私は、誰がどう見ても愚かな行動を取っている」
軽く、手を広げる。
「しかしそれが、こうして君と対話するに当たって必要な距離であると思うから、私はそれが愚かだとは思わない。
聡い君なら、刃を振るうよりも私と対話を続け…あわよくば、より有利な条件を引き出そうと努力するだろう、と思ってもいるからな」
己の思考を隠さない。
それは少女への誠意であり、謂わば対価を払った者への手形の様なものだ。少女の出した条件を、嘘偽りなく履行する準備はある、と。
「……まあ、個人的にはもう少し正道な方法で、君が愚の沼に浸らぬ努力をして欲しい、とは思うが」
「私は君の事を知らないし、それは探らないという約束だ。
だからこれは、愚かな選択と愚かな行動で、君に私を傷付けるか否かという選択を迫った、愚者の独り言だよ」
サティヤ > 「…」
より有利な条件を引き出すなどと…それほど愚かな事は考えられない。
今この場で最も危惧すべき可能性は、荷物を奪われ、捕縛もされず、この場に置き去りにされる事。
そうなれば、この狭いスラムで追われる身となる。
だからこそ、この落としどころで全て納めて、速やかに身の安全を確保すべきなのだ。
気づかれないうちに、終わらせなければならない。気づかれていなくて幸運だったなどと内心思う。
「……この世に愚かではない事は無いのです。
大なり小なり程度は違えど、その全ては等しく愚か。」
彼は理解していない。たとえ信頼を捨て、距離を維持しようがそれすらも愚かなのだ。
この世に、真の賢者などいない。愚者たちに祀り上げられた愚者が賢者と呼ばれる。
経験に学ぼうが、歴史に学ぼうが…愚かであった。
「いずれ誰もが辿り着く筈です。この世は愚かさで出来ている。誰もがそれに浸って生きている。
過去の繰り返しを続ける限り、実質的に愚の沼に浸らぬようにしているのです。」
これ以上沈まぬように。既に泥中に沈んだ身がこれ以上深くに行かぬように…
無駄な、維持を続ける。
そんな人生。
「この程度であれば探られているとは思いませんので条件には抵触致しません。
自分としては、この場に残っていては危険ですので、なるべく早くここを立ち去りたい所ですが…
如何でしょうか」
ちらりと背後の二つの遺体へと片方の視線をやる。
「あれらの処理も、お願いできますでしょうか」
手にかけるとしても、もっと…それこそ年単位で後だと思っていた。
まさか、今ここで手にかけることになるとは思っていなかった。
だが…これも既に犯した愚。やってもやらなくても…愚かさは変わらない。
神代理央 >
「では、愚かな者とより愚かな者で世界は構成されている、と言う訳か。ふむ……集合知に反する様な思想だとは思うが、特段否定するだけの材料も持たないな」
僅かな思案の後、理解の色を浮かべる。
賛同する訳では無いが、反論するでもない。神代理央、という風紀委員は、自己が苛烈な手段と思想を抱くからこそ、思想の自由という点については強く支持するべきであるとも夢想するが故に。
絶対に正しい事など存在しない。だからこそ、多くの思想が此の世に自由にあるべきだ、と思うのだ。
「とはいえ…」
其処で、再び歩き出す。今度は、先ず彼女から数歩横にずれて。
其の儘、前方へ。少女を追い越すかの様に。
「私は、世界が愚行で背比べしている、と思う程世界に絶望している訳でも無い。愚か、という行為と結果に対する個人的な主観にもよると思うがね」
ぱちり、と指を鳴らせば少女の望み通りに。
地に倒れ伏す二つの死体を、丁寧と評する程にゆっくりと、巨大な多脚が数度、踏み潰す。
もう、この死体の死因など…誰にも、分からないだろう。
「私の目的はもう果たした。君の望みは、君が支払った分だけは叶えた」
彼女は同行者を屠った。ならば此方は、その同行者の死体を死因が分からぬ様に踏み潰し、彼女の素性には終ぞ触れなかった。
そこでイーブン。少女が運ぶモノも、取引先の情報も。受け取ってはいない。
「後は好きにすると良い。此処に残りたくないのなら、依頼主の所へ向かい、仕事を完遂させても良い。その荷を置いて、いずこかへ立ち去っても良い」
距離は開く。近付いて来た時と同じ様に、かつり、かつり、と足音を響かせながら。
「私の用事は、もう済んだ」
遠くで、火の手と爆発音。
少女の依頼主が居る…と思しき方向ではない。全くの別方角。異なる場所から。戦禍の気配が、風に乗って漂う。
サティヤ > 「…」
ミンチの製造工程を鑑賞しながら、彼の言葉への解答を思考する。
世界は愚かさで構成されている事を否定など出来る筈がない。何故なら、事実であるから。
自分という例がいるにもかかわらずこういった考え方をするのも愚かしいが、彼はどうにもまだ若い様に見える。
もしかすると、彼はまだこの世界に期待しているのかもしれない。
だとすれば…少し羨ましいなどと、思ってしまう。
世界に絶望している訳ではない。諦めている。賢くあることを諦めたのにも拘らず、愚かであることを受け入れきれなかった愚者。
ただそれだけだ。
「…」
去ってゆく彼の背を眺めながら、半ば呆気にとられたように硬直する。
遠方から鳴り響く爆音。彼はそこへ向かうのだろうか。
用事が済んだ、とはどういう意味だろうか。一体何を目的に…
思考は巡るが、確証の持てる答えは出ない。
そうして、ただ彼の背を眺め続ける。
その姿が見えなくなっても、しばらくその場に立ち尽くすだろう。
神代理央 >
少女に答えを与える者は存在しない。
何故ならそれは少女が支払う対価によって得られるモノでは無いし…得たところで、必要の無いものだ。
少年にとっても、今回の邂逅は偶然。本来為すべき事があり、その合間の一幕であり、少年が求めていたものは此処で得られるものではない。
向かう先は少女の予想通り。であれば、此処で少年が果たした用事など…まあ、そう言う事だ。
「……1週間は、些か長いな。そうさな、3日くらいで妥協したまえ」
一度だけ、振り向いた。
それは1週間の"保護"を求めた少女に対し、支払う対価に応じて此方が支払うモノの提示。
そしてそれすらも、選択するのは君の自由だと言わんばかりに。再び背を向けて歩き出す。
其の儘立ち尽くすも、此の場を離れるも、此方の後に続くも。
全ては、少年では無く少女が決める事。愚考を語る少女に、選択肢を与えただけの事。
その選択の結果が愚かであるのかどうかは、誰も知る由も無いだろうが。それでも、どんな結果であれ此方の好奇心は満たしてくれる。
本来の目的も為すべき事も、あの焔の中にある。
だから此処での用事は"もう済んだ"のだ。
サティヤ > 「三日ですか…分りました」
捕縛…という名の保護の期間の短縮。
そこから一つ推察できることと言えば。
(まさか。彼は待ち伏せしていたわけではない…?)
ああ、何と愚かなのか。彼がここにいる理由が、自分の運ぶ荷物である根拠など、一つも無かったというのに。
見事に騙され…いや、勝手に勘違いしただけというべきであろう。
彼のこちらに向けた背中は信頼か、傲慢か…それとも愚かさか。
このまま彼に捕縛され、1週間のうちに彼らに組織への追及を進めてもらうつもりでいたというのに…
これでは…どう動いても、禍根が残る。
(三日とはいえ、まともな食事がとれることは少々魅力的ですが…)
提案の時点からあった問題点ではあったが…風紀に拘束された場合、今の様な活動に復帰できるか、微妙な所であった。
そういった点も踏まえるのであれば…
(申し訳ないですが…)
彼についてゆこうとゆっくりと振り返り―
体が横を向いたタイミングで、地面を強く蹴り建物の影へと飛び込む。
そのまま駆け出し、室内を経由したり、壁を登り屋上を通ったり。
なるべく追跡や追撃を行えないよう複雑なルートで逃亡するであろう。
―そのまま、スラムの奥へと姿を消した。
その後、依頼は無事達成された。
中身は結局分らなかった。
神代理央 >
「ついては来ない、か」
まあ、だろうなとは思った。
3日では少女の目的は果たせないだろう。その真意をはっきりと見定める事は出来ずとも、そう思う。
だから、小さく肩を竦めるに留めるのだ。何せ────
「……『敵』には、程良く元気で居て貰わねばならぬからな」
風紀委員の過激派。違反部活撲滅の為ならば、落第街を火の海にする事も厭わない少年。
かつて、あらゆる違反部活に砲火を振るい続けた少年は、時間の流れと共に…少しだけ、考えを改めた。
「…下手に地に潜られるよりも、適度に芽生えて貰わねば草刈りも出来ぬからな」
刈り尽くせぬのなら、刈りやすい様にすれば良い。
風紀委員会の強硬派の意見も時には必要だ、と思わせる程度には、暴れて貰わねばならない。
であれば────逃げて貰った方が良かった。
運び屋としての仕事を、完遂して貰う方が都合が良かった。
適度に金を得て、多少拡大して貰う方が良かった。
だから、特に気にするでもなく立ち去る少年の用事は…もう、済んでいたのだ。
適度に時間を使って、少女が自分の元から立ち去る算段が付く迄の時間が、過ぎた時点で。
此の場での目的は、果たされていたのだ。
ご案内:「スラム」からサティヤさんが去りました。
ご案内:「スラム」から神代理央さんが去りました。