2024/06/09 のログ
ご案内:「スラム」にサティヤさんが現れました。
サティヤ > この狭い島の小さな影で生きていく為には、仕事を選んでいる余裕はあまりない。
多少の主義を貫く程度の選択は許されているが、嫌悪感を感じる程度の仕事は報酬にもよるが手にかけることが多い。
今日の仕事もそういった仕事の一つ。出来ることなら避けたい仕事であり、味わいたくない愚かさの一つ。

「あまり暴れられますと殺してしまう事になります。
最悪殺しても良いと言われておりますので」

馬乗りで首より下を抑え込み、口元を押さえつけ、短刀を首に沿えながら淡々と伝える。
仮面の下で苦虫をかみつぶしたような顔をしながら脅しをかけている相手は、この島の正規の住民である少年。
諦めの悪い少年は恐怖8割、驚きと怒り2割の表情で涙を流しながらこちらをにらみつけ暴れている。
だが、これ以上暴れられると殺さざるを得なくなってしまう。
それは、可能なら避けたい。大人しくしてほしいものだ。

(いっそのこと、誰かに見つかってとめられれば言い訳もたつというものですが)

心中やけくそでつぶやく。ここで見つかって任務失敗になるのも困るが、それと同じぐらいにこの仕事に嫌気を感じている。
誘拐なぞ、本当はしたくない。
彼を自分と同じ境遇に落とすのは、少しばかし心が痛い。

サティヤ > 「このままですと本当に死んでいただくことになります」

脅しをかけてなお、暴れるのをやめない少年の首に短刀を僅かに食い込ませる。
本当におとなしくして欲しい。選択上仕方なく殺すのと、仕事で自分にとっての意味もなく殺すのでは大きく意味が異なる。
避けられる殺しは、避けたい。

「…先日、あなたが面白半分に暴行を働いた子供の事、覚えていますか?」

怯えながらもなんとか拘束を振りほどこうと暴れる少年に冷たい声で話しかける。
先ほどまでと違い固く鈍く冷たい声色に、少年の身がびくりと震える。
先ほどまで失っていた冷静さを一瞬取り戻したようで、一瞬動きが止まり…すぐに、まさかと言った風に目を見開く。

「思い出したようですね。自分はその子供の保護者からの依頼であなたを捕縛しに来ました。
幸い生きていますが…現在、危篤状態です。」

そう、この少年は愚かにもスラムにわざわざ踏み入ったばかりか、現地の子供に対して暴行を働いたのだ。
正規住民であるという傲慢さ故か、日ごろの鬱憤か、気の迷いか、もしくは何かイタズラをされた仕返しか。
そこまでは聞いていないが、この少年はその日暮らしの子供を命の危険に晒し、今なお苦しめている。

「今すぐ死ぬか…生き残る可能性に賭けるか。どちらにせよ地獄だとは思いますが、ここで死んで可能性を断つよりは今大人しくして置いた方がましだと思います」

依頼主は、生け捕りを希望している。生け捕りにしてどうするかは想像に難くない。
とはいえ、この少年の自業自得であろう。恐怖に染まり切った少年の瞳をじっと見つめながら、小さなため息を溢した。
ようやくおとなしくなった少年の見下ろしながら、短刀を首元から離した。

サティヤ > 「それにしても、本当に愚かな事をしましたね」

短刀を一度仕舞い、捕獲用の麻酔を取り出しながら話しかける。
視線は変わらず少年に向いたままだし、首に添えられた短刀が無くなったとはいえ大した隙は生じていない。
この少年の異能は喋る事で発動するものであることからも、口を抑えられている限りはこの少年に抵抗の手立てはない。

「スラムに侵入し子供を暴行。それだけでも過分に愚かだというのに。
報復を恐れずに再び舞い戻る。それもこんな夜更けにです。」

麻酔の注射器のカバーを口で外して損傷がないか、取り出す道具を間違えていないかを確認。
注射器を見た少年が更にがたがたと震えだす。
ここで全力で抵抗すればまだどうにかなるかもしれないのに、それすらできないとは。本当に愚かだ。

「可能性は薄いですが、もし昼の世界に戻る事が出来れば…その時は、同じ愚を犯さないようにすることですね。」

注射器をぷすりと少年の首に刺す。
がたがたと震えていた少年の身体の動きがだんだんと小さくなり、瞼も閉じてゆく。
そして、すぐに深い眠りへと落ちて行った。

サティヤ > 「殺さなくて済んで良かったです」

少年の意識がない事を確認したうえで少年の上から退く。
そして、少年を担ぎ上げて移動を開始、依頼主の方へと歩き始める。

…この少年を依頼主のところへ連れて行ってしまったら、この若き命がどうなるか。
少なくとも、ロクな目には合わないだろう。
これまで正規住民として恵まれた生き方をしてきたであろう少年が、突然転落し不幸に陥る。
少々同情してしまうが…

「自業自得です。本当に…本当に愚かです」

唇を噛む。それほどまでに、悔やまれる。


依頼主に少年を引き渡したあとは、なるべく早くその場を離れた。
これから行われるであろう行為の一切を知覚したくない。その一心であった。

ご案内:「スラム」からサティヤさんが去りました。