2024/06/13 のログ
ご案内:「スラム」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 >
──最近、風紀委員会は俄に焦燥しだしている。
島内の色々な箇所に、人を配置して、警邏などの時間を増やして、いわゆるちょっとした警戒態勢だ。
それは主に…風紀委員の生徒に犠牲者が出たせいだ
故に指折りに数えられる実力者はこうやって、"囮"の意味も込め単独で見回りを行うことも増えた。
無論、すぐに応援を呼べるような体制つくりこそ成されているが。
「件のテンタクロウが現れたのは学生街、常世渋谷の黒街。そして歓楽街、異邦人街…」
スラムを堂々と、風紀委員の腕章をつけて歩く。
此処はいわゆる貧民街。あちこちから風紀に対する強い視線を感じるが…それはもう慣れたもの
「偶然かそうでないかは兎も角として…」
「…あえて人の多い‥街と呼ばれる場所に出没してる…?」
一人、考え事をしながらの見回り。
並列思考はお手の物、それで警邏が疎かになることこそないが…本当になぜそんな真似をしているのかが気になる。
学生通りでの事件で強く感じた残留思念、黒く、深いマイナスイメージ…。
動機には並々ならぬものがありそうで…。
「──とはいえ、此処も怪異の発生報告は上がってるし、ちゃんと見回らないとね」
この辺りは犯罪の発生件数や発生率が圧倒的に高い、にも関わらず本腰をいれてそれをどうとすることはない。
公式にそれを認めていない…ということが多いのか、他の事情も重なっているのか…。
■伊都波 凛霞 >
一般生徒や異邦人が襲われるのとはわけが違う。
"認知されたエリアで"それらを守る立場である風紀委員の生徒が襲われ被害者となるのは、強い意味を持つ。
いわゆる、威信。言い換えれば、メンツ。
信用問題に関わる出来事…そうなれば当然、本腰を入れて動きにかかるわけだ。
暴漢を取り押さえる警察が暴漢にやられることはあってはならない…ということ。
この辺りのように、異能者なども抱えた違反部活などが活発に動くエリアでそれが起こったなら兎も角、である。
妹に告げたことを思い出す。
『──風紀委員、辞めたほうがいいと思う』
はっきりとその理由を突きつけることはできなかった、けど…きっとなんとなく察しただろう。
───あまりにも、弱いから。
「……と、いけない」
妹のことを考えるとつい並列思考が乱れる…。ちゃんと職務も粛々とこなさなければ。
ご案内:「スラム」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス >
敵意の筵に、静寂が波を打つ。
おおきな生き物がうごめいたような、周囲の空気が、その風紀委員の進行方向からひろがった。
さいしょに、その異変があり、つづいてそのむこうがわから現れるのは、
どこか現実感のない、この場にいるには身ぎれいすぎる、葬式帰りの風体の姿。
「ん」
風紀委員を認識して、立ち止まる。
咥えた棒――ころり、と口のなかで音が鳴る。キャンディだ。
レンズの奥の炎の瞳が、ゆっくりと動いて、腕章のほうを視た。怪訝な表情。
■伊都波 凛霞 >
「あ」
眼の前に現れた彼女。紅い、紅い髪…爛とした瞳。
思わず、こちらも足を止める。
風紀委員の腕章にその視線が向いても、こちらはその顔を凝視してしまう。
それは。
「───」
記憶を瞬間、紐解いても現れない、その名前。
でも、知っている
一瞬か、それとも。一分くらいはそうだったのか…静寂が薙がれた。
■ノーフェイス >
物憂げな瞳。視線は下がったままだった。
敵意はない。害意もない。ただ、そこに在るものを――みつめていただけ。
ふたつの美は、おなじく美であっても、対照的だ。
どちらも強く、みずみずしく、生命力を宿した花でありながら。
現実にいるのか、いないのかで、分かたれているようにも。
幻想のむこうに咲いたか、ひとびとのなかでまばゆく陽を浴びたか。
「…………」
静寂をやぶる。ふ、と短く息を吐く。
のあと、ようやく首を巡らせて、まっすぐみた。
「おっきいね」
顎を撫でながら、唇を緩めた。
途中からは、そっちを視てた。
「こんな深くまで来るなんて珍しいんじゃないか、風紀委員ちゃん?
だれかお探し?」
ごく親しげにほほえみ、首を傾ぐ。
間合いは、詰めない。お互いの立場を尊重して。
■伊都波 凛霞 >
一瞬固まってしまったのは、実は色々理由がある。
"その存在を知っている"確かな記憶と
"その存在を知り得手いる"朧げな既視感
それらが混ざってしまったせいだ。
けれどそれも硬直しているうちに、きちんとアジャストされていく──。
「へ、お、おっきぃ…?って… ………あ───────っ!!」
かけられた言葉に少し戸惑うも、"彼女の声"を聞いたことで記憶が完全に合致する。
思わず、その場にそぐわぬ大声をあげてしまった。
──というのも色々理由はあるのだけれど。
彼女の存在を、それなりに長くやっている風紀委員としては知らない筈はない。
ただ、それだけではなくて…。
「ファンです!!!」
大きな目をきらきらさせながら、そう口走っていた。
……一秒、二秒。
続いていた言葉に、はっ、とする…。
「っは…そ、そうだ職務中…っ……」
赤くなって、少しわたわたと慌てる素振りを見せていた。
■ノーフェイス > 「……………」
ぽかん、と、目を見開く。
豆鉄砲を食らったようにして、瞬くも何度か。
そういうことなら。
不用心に、無遠慮に、足を運ぶ。眼鏡を外して胸元にしまいながら。
近づく。間合いを割る。あまりに自然に。
顔を、覗き込む――
「ありがとう」
にひ、と目の前で、少女が笑った。
そこに覗いた残照は、ほんの一瞬で引っ込んでしまうけれど。
自分という存在が、歌が。震わせたのなら。
音楽家の存在証明の、大きな一歩。心底嬉しそうに感謝を告げて。
武人の必殺の間合いに身をさらしても、構わぬほどの。
「それじゃあ――キミとボクは他人じゃないな。
なにか手伝えることはある?
キミがあとあと、困らない程度に……だケド」
お騒がせで、風紀にとっては迷惑だが、凶悪犯ではない――現行犯でもない。いまは。
いま逮捕しないでね、というアピールもしながら。
周囲をぐるりと見渡して、このあたりに何かあるのかな、と。
しっかりしてそうだけど、情報漏洩とか、彼女が変な疑いかけられたら悪い。
去れというのなら、そうそうに去るつもり。
■伊都波 凛霞 >
その存在は、裏だけでなく表でも。
SNSや、色々な場を通じて、文字通り耳にすることが出来た。
匿名でアップロードされた楽曲の数々も、聞く人が聞けばちゃんとそうだと理解る。
鼓膜と共に心を震わされる…音楽の力だ。
不意に、近づかれても武人としての警戒なんて出来もしない。
「(あああああああああ)」
無邪気にも視える笑みと共に囁かれた言葉が余りにも甘く痺れすぎて。
──本来ならば、風紀委員としては取り締まらねばならない対象なのである。
過去には廃墟の占拠なども含めて、やってはいけないパフォーマンスも見られたらしい。
でもでも、自分が好きなアーティストとエンカウントして、それが出来るかといったら…無理でしょ。
「は、はい!そうですね!他人じゃない!?かもです!
手伝えること?!うえ、ええと…ええと…!!」
職務、そうだ職務だ。
此処の見回りをしていたのだった。
「え、ええと!そうですね!?
最近この辺りで起こっている事件ですとか…もし何か知ってましたら是非…!」
落ち着かない。
■ノーフェイス >
「事件……?」
問われると、自分の顎に手をあてて考え込む。
常に起こっているような場所で。それでも、普段と違うコト――
「あえて言うなら。
こうして、キミとボクとがここで出会えたことが。
……世紀の大事件だって、言えなくもないよな
おなまえ、教えてくれる……?」
――にしても、可愛いなあ、この娘。
とても喜んでくれているのがわかる。
表面上、シニカルな顔を作ってはいるけど、面映くて、身を捩りたくなるくらい嬉しい。
まっすぐで、真面目なひとは、すきだ。意志のある人間は、なによりも。
あと、正直顔も体もとても好み。人格も良い子っぽそうだ。
そっと自然に手をとりながら、腕章をチラ見する。
(職務中でさえなければな~~~……!!)
プライベートのお誘いは厳しい。だって――間違いなく緊急時だ。
こんな場所で素面で、こんな外見さらけ出して無事に歩けている。
強者をひとり歩きさせる理由が、しかし、今は思い至らず。
「――あ」
そこで、ふれた手からするりと指が離れた。
スプレーアートのけばけばしい壁面に背中を預け、腕を組み、体だけをそちらにむけた。
「表では起こってるだろ、事件。
このまえ、封鎖して現場検証してたよな。テンタクロウ……だっけ?
まだ捕まってなかった気がするケド」
そのニュースを察知したのは、テンタクロウだけではなく。
そこに姿を表した――という噂の音楽家のほうに興味をそそられた。
天下の往来の闇に乗じた大逆人の逮捕の報道、そういえばきいていない。
それは――裏側に、テンタクロウの跋扈の噂が届いていない、他人事であるという証左。
■伊都波 凛霞 >
「(とぅあはぁっ──!)」
出会えたこと自体が世紀の大事件だって!!
そんなコト言える人いる────!?
「は、はい!伊都波、凛霞…ですっ」
思考がもういったりきたりだ。
色々言われていたって所詮一般人なんだもの!
「(うううう…サイン欲しい…!握手したいい…!!職務中でさえなかったらなあああ~)」
奇しくもなんだか同じようなことを考えている、なんてことは夢にも思わず。
「はぅっ!」
手をとられる。握手したい思考読まれた!?
白くて細くて手指の長い、透明感のあつ爪が丁寧に切りそろえられた女性らしい手つき。
それをするりと手にとられて──。
…極度の緊張も手伝ってしまったのか。異能の力が僅かに働いてしまう。
網膜にほんの一瞬だけ、何かの断片が映し出されるそれは何だったか───。
ただそちらへの意識は、その手に感じた感触によって引き戻された。
綺麗に視えた彼女の手指の、確かな"音楽家"としての感触に。
見目が良いだけでは素晴らしいものは作り出せない、そんなことを語っているような手にも思えて──余計に、その存在に惹かれてしまう。
「っ!? ど、どうしました?!」
『あ』。
と手を離され…続いた話は、件の事件だ。
当然こちらはそれを知っているし、吐露するわけにはいかないけどそのために動いてもいる。
けれどその話には、思わず首を傾げてしまった。
「表では…って。
落第街では彼はまったく出没していないんですか…?」
表沙汰になっていないだけでなく…その存在の認知が、表側のものとしてされていることに、驚く。
■ノーフェイス >
指先に流れ込んだのは、ほんの直前の記憶。
廃屋の壁面に、四人分の名前が丁寧に掘られていて、その下には半年ほど前の日付。
そこに手向けられる花束が、あまりにも鮮やかに記憶に焼き付く。
柔らかく、甘く、かたむけられた歌は、鎮魂の儀式だろうか。
そして風紀委員の美貌。腕章―――――胸。そのフラッシュバックは、しかし刹那の闇に飲まれた。
飲まれなければいけなかった。
「まったく……かはわからないケド、いまのとこきいてない。
あ、黒街らへんには出たんだろ、たしか」
それなりの腕自慢の不良三人があっという間にのされてしまっただとか。
視線を彷徨わせて、そうした思考の迷路に入り込む。
「お楽しみなら、それこそ攫って落第街に連れてくれば邪魔も入らないだろうにね。
データ溜まりに転がってるような悪趣味なビデオにも、機械腕責めの新作はないって話。
……そ、するならふたりきりがイイ。そうでしょ?」
ふいに、意味ありげな視線も送ってしまう。けれども。
非効率だ。あまりに――すなわち、拷問そのものが目的じゃないのではないか。
営利でもないとすれば、なんなのか。
「凛霞は、どう思ってるの?」
なれなれしく、呼び捨てで呼んじゃう。
当然それは、捜査情報を漏らせ……というんじゃなくて。
自分の考えを話すまえに、きいておきたかった部分。
■伊都波 凛霞 >
漸くだけど、少し落ち着いてきた。
偶発的に発動して視てしまった断片はほんの一瞬の過ぎり。
そのまま新たな情報に埋もれ、シナプスは細く、閉ざされていく。
必死に思い出さなければ欠片が出てくることはないそれは、今はそれほど重要ではないものとして。
記憶の片隅の昏い箱へと仕舞われ、施錠される。
「そうですね。なので必ず目撃者がいて…」
彼女の言う通り、何が目的なのかが見通せない事件ばかりだった。
この街からの視点でしか見えてこないイメージもやっぱりある。
そう、裏の住人からすらも、妙な行動として見えているのだから。
「ん゛ッ…ふ、ふたりきり……?」
意味ありげな言葉を視線に怯む…。
しょ、職務中!職務中!また赤くなってしまうところだった…。
「私は…、何かしらの"悪感情の発露"かと。
そしてそれが向いているのは、おそらく私達。
……そういう犯人な、気がします」
標的を殺さない。標的の骨を折る、に固執した行動。
一目に憚る現場や、風紀委員自体が的にされたことも含めて…の推察。
さすがにこうやって囮めいた警邏をしているのもそれが理由、とまでは言えないけれど…。
■ノーフェイス >
「犯行動機を重視するのは、現代的だね」
いまの時代、ぶっちゃけていえば科学的な捜査は後手に回りがちだ。
捜査網も犯罪者も同様にアップグレードされ、大変容前から犯罪検挙率が劇的に向上しましたということはない。
大変容を経て、人間は、世界は、どこまで成長できたのだろう――
思考をよそに追いやった。彼女の思考が開示されると、すこし頷いて。
「悪感情……怨恨か……? てことは前科者か?
……自己顕示欲や、近しいものは感じる。ボクも目立ちたがりだからかもしれないケド」
顎に手をあてたまま視線を横に。思推の顔。
ちょっとした探偵ドラマを気取るような、芝居がかった振る舞いだが。
「なんだろ」
空を見上げた。
建物のはざま、狭すぎる空。
「落第街の連中には、興味がなさそうだ」
風紀委員の視点に、無法者の視点をそっと重ねた。視野を広げる。
嬲りものにするなら、うってつけの人権なきものたちがいるのに?
どこか、それでも迂遠に感じた。風紀委員を襲うだけでも、もっといろんな手段がある。
風紀委員、だけならず――その直前に暴行されていた、表舞台で平穏に暮らしているものたち。
かわいそうじゃないものたちが、襲われている。
巻き込まれたものたちの、共通点でもないような共通点が、ぼんやり浮かび上がる。
「ボクが感じたのは、その行いの非効率さと。
街の死角を知ってる――うまく逃げ果せるだけなら、異能でもなんでも使えばいいが。
襲いやすい場所を感覚的にでも知ってるってのは、相当に表を歩き慣れてないと無理じゃないか?」
前時代的な視点で、貌なき刑事は、ヘロインがわりの飴の棒を揺らす。
監視カメラの間隙ではない。悟られづらい、見つかりづらい場所。狩猟動物の狩り場。
無脊椎動物の中には、待ち伏せ狩りを得意とするものも多い。
問題は、そんな人間なんてリストアップするだけでも辞書並の厚さになるということだけど。
「ね、今度いつ会える?」
不意にくるりと振り返って、微笑んだ。ナンパだ。
■伊都波 凛霞 >
彼女の語る言葉は、風紀委員の視点とは角度が異なる。
いわば表と、裏。
違う角度から見たその一連の事件の見方には、浮かんでくるものも確かにあった。
落第街の住人は今のところ狙われていない。
表を歩き慣れている。
薄々と感じていたものが自分以外から言葉にされれば、それは明晰なものとなって。
「怨恨、それに近しいものだとは思うんですけど」
犯罪者の心理を推察するのは難しい。
得手してそういった手合はまともであったりなかったり。
言ってしまえば思考の範疇外からすら、動機は生まれるから。
自己顕示欲に近しいものを感じる、という彼女の言葉。
同じようなことを、異邦人街で出会った青年も口にした。
「ありがとうございます。参考に───ふえぇ!?」
唐突な言葉にテンパった。
…こういうところ、妹とそんなに差がない気がする。
「あ、あの…プライベート、でしたら…是非その、ライブに…っ」
もじもじとしながら出た言葉は──とても、すごく、ファン目線だった。
■ノーフェイス >
「オーケー。最高の席を用意しとくからさ」
ナンパをかわされてはしまったけれど、いつもの自分の最高のステージは、変わることはない。
そう――理想の自分は、ステージの上にしか現れない。
「絶対来てね?」
まっすぐ向き合い、炎のように燃え盛る瞳がみつめた。
現代の凶悪犯罪の多くは、その性質上――この島でも、現行犯逮捕が多くなる。
だから―――
犯罪者から風紀委員に贈れる、再会の誓いは、これくらいがせいいっぱい。
■伊都波 凛霞 >
「はい。お会いできて本当に嬉しかったです。
…その、こういう立場ですけど───」
「──歌や音楽を素晴らしいと感じることは、職責に抵触なんかしませんから」
"それ"を生み出した者は、もしかしたら法に触れることをしたかもしれない。
しかし生み出されたその音、そしてその詞には裁かれるべき罪など存在しえない。
そしてそれは、そういった立場の存在が生み出したからこそ心に響くこともある──。
音楽に国境はないと口にした人がいたけれど、間違いだ。
国境どころじゃない…"何のしがらみもない"こそが正しい。
生み出す側も、聞く側も。
「応援、させてもらいますね。
これからも沢山、貴方の曲が聞きたい一人として」
ようやく落ち着いて、満面の笑みが浮かべられた。
再開とお別れの今だけは職務オフ。ただの一般のリスナーの一人として。
この場で捕まえる理由なんて、探すほうが難しいのだし──。
■ノーフェイス >
「………………、」
その言葉に、すこしだけ間をおいて。
嬉しそうに、自然に、微笑んだ。年齢相応の顔が、サブリミナルのように一瞬だけ。
あふれそうな感情をどうにか押し込めた、そんなかおかたち。
羞恥心、理性、道徳――それらを脱ぎ捨てたはだかのココロで、受け止めたら、ふるえてしまうもの――
ずっとそう信じて戦い続けた。その決意や信念が揺るぐことはない。きっとずっと、いつまでも。
でも――……
「キミと会えてよかった」
大事件だ。目を伏せて、笑った。
いまひとたび、境界を超えて、とどいたひとがいるのなら。
顔をあげた。いつもの貌。無数の貌。そのひとつ。
「こんなボクがついうっかり、キミたちのファンになっちゃうような――」
ぽん、と彼女の肩を叩いて、そのまま歩き出す。
振り向きもしない。その顔はきっと、次はもっと明るい場所でみつめられるはず。
「シビれる大捕物を期待してるぜ、凛霞」
手をひらひらと、颯爽と。その後姿も、憧れてもらえるような、心に棲む紅い薔薇と見えるよう。
見返りは求めなかった。だって、とても返しきれてないくらいのものをくれているのだから。
最高の自分で、在り続けるしかない。
彼女は危険な戦いに挑むのだ。ならば、自分もまた、歩むべき戦いの道を往く。
――その挑戦に祝福を。
■ノーフェイス >
(――噂の灰かぶり姫も、あんなコだったのかもな)
かつてちょっとばかり騒がれた、落第街の伝説。
荒唐無稽なヒロイン物語に、いたく胸を踊らせたものだった。
時間の流れにすれば、ほんの僅か――
時は流れる。止まらない。いつかの再会を経ても、きっと。
ご案内:「スラム」からノーフェイスさんが去りました。
■伊都波 凛霞 >
その後姿を見送って。
最後に彼女が触れた肩に、自らの手を添える。
「っ…はぁぁ……どうしよぉすっごい自慢したいけど誰にも言えない~」
顔を覆って崩れ落ちそうになる。
君に会えて良かったなんて声かけてもらえるファンいる…?
いない、あの言葉はきっと特別…。
そう考えると高揚が抑えきれないけど、けど…そう、職務っっ…。
「──よし、がんばろ!」
言葉だけで、ちょっと触れただけで、ものすごいエネルギーをもらえた気がした。
気を取り直し、ちゃんと風紀委員として、歩みを踏み出そう。
この辺りノ地理は慣れたもの。
まさかまさか、かつてこの場所でひっそり活躍してた時のことを彼女が認知していたとか、そういうことなんて頭の片隅にもなかったけれど───
ご案内:「スラム」から伊都波 凛霞さんが去りました。