2024/06/30 のログ
カロン > 一先ず、この辺りで比較的静かに休めそうな場所を探すとしよう。
【渡し守】とはいえ疲労感、というものは少なからずあるもので。
担いでいた櫂を下ろせば、放り投げたそれはピタリ、と空中に制止する。
その上に軽やかに飛び乗って座れば、再びスラムの上空へと舞い上がる。

「……さて、行くとしましょうか。」

その姿は、夜の黒に紛れてやがて消えていくだろう。

ご案内:「スラム」からカロンさんが去りました。
ご案内:「スラム」に『虚無』さんが現れました。
『虚無』 >  
 間違ってはいない。何も間違ってはいない。
 花を、死を振りまく紅き屍骸を追い込む為に機械が投入され、兵糧攻めを行っている。
 原理としては正解だろう。何も間違ってはいない。だが、ひとつだけ懸念がある。

「……その結果、被害を受ける存在は無視か」

 機械が兵糧を潰し、その減少を補う為にまた紅き屍骸が暴れる。結果……スラムが壊滅的な被害を受ける。その可能性を無視しているのだろうか。奴が兵糧と呼んでいるそれは紛れもなく”スラムの住人に他ならない”のだから。
 効果的なのは理解できる。だが、それを看過していてはダメだ。その果てはスラムの死だ。
 空を駆ける。金切り音を響かせながら。

「どこだ」

 探すのは紅き屍骸……だけではない。スラムにはこの作戦を容認しない存在がいると機械に、その背景にいる人間に知らしめる必要がある。
 結果として紅き屍骸の手助けになりかねない。だが破滅を呼ぶ可能性があるのなら止める必要がある。
 100を犠牲に1000を救うそれが自ら達の使命なのだから。
 無論紅き屍骸を始末できれば最良だ。だからこそ、道中に感染者を見つければ潰して回る。痕跡があれば追いかける。
 今男は双方に対して戦争が仕掛けるがごとく、攻撃を仕掛けんとしていた。

『虚無』 >  
「……悪い事ばかりではないな」

 殺害衝動。体に走るそれ……今、あえて薬を抑えているからこそ感じるそれはセンサーになる。
 生者に対して強力なセンサーになる。わかってしまう。ここに行けば大勢殺せると。
 裏を返せ。やつらはそこに集まると。
 そして追い込む目的である機械はその跡地に必ず現れる。到着が早くても遅くても目的は果たせるのだから。

「っ、少しキツいな」

 とはいえ、それを抑える必要があるのはキツいものがある。

『虚無』 >  
 そうして黒狼は空を駆ける。
 機械か紅き屍骸を探し続けて。
 この災害、我らが終わらせる必要があるのだから。

ご案内:「スラム」から『虚無』さんが去りました。
ご案内:「スラム」に紅き羽搏ク針鼠さんが現れました。
紅き羽搏ク針鼠 >  


     卑 劣 。


 

紅き羽搏ク針鼠 > 闇夜に摩訶不思議な術で
その姿を
紛らわせて
何かが今

動き出す

怪異は言葉を持たぬ
だが怪異に
言葉が
あったならば


"困るんだよねぇ…花退けるようなヤツが、ウロウロしてくれちゃあ。"

といったところ

紅き羽搏ク針鼠 > 夜空を駆ける
黒狼の背へ
向けて
打ち出すは
悪意に満ちた三十の針

貴殿に我が

"殺意"

届くかね?

一本たりとて届かぬかもしれぬ

だが

紅き羽搏ク針鼠 >     


  1%でも傷つけられる可能性があるならば、それで良いッッ!!


 

ご案内:「スラム」から紅き羽搏ク針鼠さんが去りました。
ご案内:「スラム」にイチゴウさんが現れました。
イチゴウ > 「こちら風紀委員会、ユートピア機構、チャリティーアーミー。
当該区の住民に告ぐ。怪異による感染の危険性があるため
不用意な外出をしないようにして欲しい。」

「尚この後、10分後生活用水の配給を行う。」

不穏な熱風に包まれるスラム街。
無機質な警告音と男の合成音声による放送。
スラムの居住区を囲むようにミニガンユニットを装備した
武装四足ロボットが警備を続け、紅い脅威に備える。

ユートピア機構は紅き怪異を探知するため、
偵察ロボットをスラムのあちこちに配備した。
その観測数値が異常値を示す。
かの紅い怪異は高い知性を持っている。
本機構の活動により多少毒素が抑えられた今、
嵐が来る前だからこそ出来ることをする。

「未感染者を発見。安全な寝床と食料がある。
その機体に付いていくんだ。」

スラムへから路地裏へと繋がる道。
そこに武装機が複数レーザーサイトを睨ませながら活動している。
他の機体がミニガンユニットで死体を粉砕する傍ら
中心で喋る司令官と思しきロボットの案内で
何人かの人間がぞろぞろと武装ロボットに率いられ
スラムの一角へと向かっていく。

イチゴウ > 現在ユートピア機構が把握している紅の怪異とはこうだ。
何か、毒素のようなものを散布する本体が
定期的にスラムを移動している。
感染し得る生命体を優先して狙い、機械等の利にならない相手を
避ける高い知性を持っている。

本機構は全てが機械で構成されるという都合上
かの紅の怪異に対し迫る事が困難を極める。
故に感染者及び死体といった怪異因子媒介物を粉砕し
間接的に紅の怪異の力を削ぐ兵糧攻めという形で攻勢に出る。

そして現在。
除染により、やや安全性を確保出来た今
郊外の怪異因子に侵されていない人間を捜索し
楽園(ユートピア)居住区への収容を行っている。

感染者は無症状の人間が居るから生まれる。
だからこそ次の段階として
紅の怪異にとって因子媒介物の材料となる人間を奪う。
勿論スラム全ての無感染者全員を移動出来るわけではない。
それでも、機械だからこそ出来る圧倒的物量の展開力で
姿が見えない怪異を追い詰める。

ご案内:「スラム」にホロウさんが現れました。
ホロウ > 空に一本の赫耀がはしる。
ただ、その赤は紅の怪異とはまた異なるもの。近年常世の空を駆ける未確認飛行物体(Unknown)だったもの。

そして、その赫耀が方向を変え、イチゴウ達の居る区画へと急降下を行う。
地上に近づくにつれ減速し、着地する頃には周囲に影響を及ばさない速度まで減速。

そして、イチゴウの正面数mに着陸する。
腰のジェット機から噴出するエネルギーは消え、ゆっくりと歩み寄る。

そして、正面で立ち止まれば声をかけるであろう。

「初めまして。私は風紀委員会所属の観測機、ホロウ。通称Unknownです。
ユートピア機構のイチゴウ様で間違いないでしょうか?」

淡々と話しかけるであろう。

イチゴウ > 司令機は配下の武装ロボットと共に、
ミニガンユニットをスピンアップさせつつ
因子媒介物処理及び未感染者の捜索を継続する。

内蔵レーダーに反応。
生命体ではない。怪異でもない。
自分達と機械だ。しかしタグが違う。
ユートピア機構所属機ではない。

間もなくしてスラムに響き渡る空気を切り裂くような音。
司令機イチゴウは配下のロボットと共に音の方向へ振りかえり
ミニガンユニットと共にレーザーサイトを一斉に向ける。
人影を視認する。

「...IFF(敵味方識別装置)に応答あり。」

結論から言えば敵ではなかった。
イチゴウの視界の中で
その腰に飛行装置を持つ少女は青い枠に包まれる。

「初めまして。そして間違いはない。
ユートピア機構の統括機、イチゴウだ。」

忙しなく他の武装ロボットが動き回る中
イチゴウは彼女をじっと見上げる。

「監視対象「Unknown」ホロウ。
風紀委員会が運用する高性能観測機と聞いている。
要件は何だろうか?」

ユートピア機構はイチゴウの統括に依存している部分もあり
良くも悪くも独立性が強い。
ゆえに外部との連携という要素が薄く
他部署の救援とも縁が遠いため物珍しい様子で彼女に尋ねる。

ホロウ > 「ご挨拶も兼ねれ、今後連帯や協力の関係を構築出来るのではないかと思い伺った次第です。」
イチゴウ様率いるユートピア機構への情報提供についての認可がおりましたので、お話に参りました。」

以前よりユートピア機構の存在については聞いており、そこへの情報提供についての提案もしていた。
しかし、長く未確認飛行物体であったUnknownに対する信頼性は弱く、その辺りの認可が出ない状況が続いていた。

紅き屍骸や機界魔人もそうだ。彼らに関与している可能性がぬぐい切れず、なかなか事件への関与が許されていない。
だが、依然として無害、更に情報提供も有益と判断されたことでその第一弾として許可が下りた。

「認可と言いましても、あくまでも風紀委員会としての認可であり、実際の判断はイチゴウ様に一任されるとのことです。
また、連帯と言いましても実際にはユートピア機構から私への観測の委任、もしくは私からの関連情報の提供が主な内容となります。私からユートピア機構への委任や依頼などは申し出る予定はございません。」

嘘偽りない内容。これにはホロウにとっての利益は無いように思える。
だが、ホロウは観測機であり、その役割を果たす事こそが幸福であり定め。
観測により常世の平和を維持し、改善につながるのであれば奉仕は厭わない。

イチゴウ > 金属音の雑踏を背景に
一機のロボットと一機のマジカロイドが向かい合う。
彼女の救援は正直に言って心強い。
ユートピア機構には決定的に不足しているものがある。

「本機構には高速かつ広範囲な偵察手段が無い。
連携を構築出来るのは非常に望ましい。」

今まで紅の怪異に対し後手に回らざるを得なかった要因の一つに
地上からの数値観測という偵察手法しか無かった事が挙げられる。
彼女のスペックは風紀委員会も調査済み。
ホロウと連携を構築出来るならばユートピア機構の
システムとしての性能を飛躍的に向上できるだろう。

「キミには魅力的な性能がある。
協力関係を築けるのならば本機構からも報酬を検討しよう。」

落第街の維持という役割を担うユートピア機構の
今後の活動に彼女の存在は非常に有益と言える。
その為ならば投資など容易い。

ホロウ > 「ありがとうございます。私としては報酬は不要でございます。
仮にいただいたとして、受け取ったとしても活かせるものが殆どございませんので」

連帯について好意的にみてもらえている。
ホロウとしてはとても嬉しい事だ。ホロウの理念を理解してもらえているかだとかは置いておいて、島の治安維持に貢献出来そうな事が唯喜ばしい。

そして、報酬が不要というのは嘘でも遠慮している訳でもない。
貰ったとしても活かせるものがないのだ。
代表的なものとして金銭面だろうか。私用で金銭を使うことは無いし、学費の類は風紀からの報酬と事情を考慮したうえでの減額がある為困っていない。

「報酬とは異なりますが、現地で入手した各種データの提供をお願いしたくはあります。私のみでの上空からの観測のみでは、不足する部分がございますのでその部分の補足をお願いしたくはあります」

提案するのは、一方的な協力のみではなく相互協力の関係性。
上空からの観測のみではどうしても見えない物は多い。
例えば、立体的な建造物の構造や現地民の行動、そして三次元空間での毒素などの分布など。
これらの情報は、地上からの観測でこそ得られるものだろう。

それを提供してもらえるのであれば、観測の情報やそこからの予測の精度も高まる。
ただし、この辺りはまた風紀委員会に認可を貰わなければならないだろう。

イチゴウ > 「データの提供については了解した。
ただし、セキュリティ上の観点から本機構で扱うデータは全て暗号化が行われている。
後に復号アルゴリズムも提供しよう。」

彼女は登録上では生徒であった筈であるが
報酬が不要とは興味深い。
観測器特有の特殊な区分による扱いの影響か。
彼女の扱いについては此方としても言及できる権利はない。

彼女のもう一つの要求、データについては
少々面倒くさいプロテクトが掛かっている。
復号手段を提供するというのは種をバラすような物だが
そこは風紀委員会所属だ。悪いようにはならないだろう。

「キミには、ボクと同じような自律思考機能が備わっているように見える。
キミは、飛行しここに来た。
そこまでの偵察結果等も踏まえてキミは、
この紅の怪異についてどのように思うだろうか?」

彼女は本機構と違い紅の怪異と積極的に関わっているか分からない。
ただ少なくとも飛びながらスラムを広く見下ろしながらここに来た。
今はより大きな視点からの情報が少しでも欲しい。

偵察ロボットからも得られている不穏な異常値。
紅の怪異の「新型」が現れた可能性さえ示唆している。

ホロウ > 「ありがとうございます。ユートピア機構から私への情報提供については別途風紀委員会に認可をいただく必要がありますので、また認可が下り次第伺いますのでその時にお願い致します。」

この辺りは至極全うな話だ。
勿論ホロウにも暗号化の類は存在するが、その辺りは進んだ技術でつくられた機体という事もあり、柔軟性に富んでいる。複合アルゴリズムが不要という何とも便利なものだ。

「紅の怪異とは紅き屍骸と呼称される一連の怪異群の事でしょうか。
あの怪異は多種多様な個体が確認されております。
今後、封鎖区域の外部にまで行動範囲の及ぶ個体が現れないとも限りません。
被害が外部にも浸透し、広域化した際に観測及び鎮圧が間に合うかどうか。
その点が懸念事項ではあります。」

ホロウは実は紅き屍骸についての情報はそこまで所有していない。
各種個体の発見、観測こそ行っているが、風紀委員会の調査記録などについては所有していない。
出来ることと言えば、実働部隊の対処が間に合うようにするための情報提供…それも現在はさせてもらえていない。

「観測によるデータでイチゴウ様に提供出来そうな情報はございません。
私は紅き屍骸についての情報を提供されておりません。各種個体の外見や行動、残滓などは観測しておりますが、それ以上のものはございません。
申し訳ございません」

それまで感情らしいものを見せていなかったホロウが唇を噛むような表情を見せる。
観測機としてのくやしさのような物を感じている様子だ。

「ですが、一点新しい情報がございます。
先ほど、これまで観測されていなかった新しい痕跡を発見致しました。
恐らく紅き屍骸のもので、針のような形状をしていました。
新型が出現した可能性がございます」

最新の情報。
伝えられそうなものはこれだけだ…

イチゴウ > 尚も忙しなく動き続ける無数のロボット達。
見た目の区別がつかない司令機イチゴウは
観測機ホロウの報告をじっと見上げながら聞いている。

やはり一回の観測だけでは多くの情報は得られないようだ。
至極当然の話であり彼女が責められるものではない。
ただし、彼女が続けた新たな情報に
イチゴウはモーター音と共に機体を揺らし反応する。

「針。今までそのような物体は確認されていなかった。
つまり新型が出現したということになるだろう。
非常に価値のある情報だ。」

ユートピア機構は現在、
スラムを移動し毒素を散布するという個体の対応を最優先している。
もし新たな個体が作戦区域に加わるようなことが有れば厳しい展開となる。
大至急、HMT-13の増援分を投入する必要がある。
これは、彼女の力無しでは辿り着けなかった決定だ。

「...?キミは感情を持っているのだろうか?」

これは機械の個人的な興味か。
ホロウの見せた仕草に疑問を抱く。
イチゴウと彼女は自律思考している点では一緒に見える。
しかしその思考の中身は違うらしい。
イチゴウは顔パーツを傾けた。

ホロウ > 「お役に立てたのであれば喜ばしく思います」

謙遜でもなんでもない本心。
実働部隊の一つでもある彼らの力になれたのであれば、喜ばしい限りだ。

「はい。私は感情を持っております。
あくまでも疑似的なものではありますが、人間に近いものが搭載されております」

イチゴウの感じた疑問は的を射ている。
ホロウと呼ばれる観測”機”は感情を持っている。
とはいえ、それが揺れ動く機会は限られ、発達の程度も遅れている。
生物ではない故、人間のような不安定さはあまり持たない独特なものでもある。

「イチゴウ様は感情をお持ちではないのでしょうか」

同様に興味。自分と同様、かどうかは兎も角。何かの為に造られた存在として異なる点があるのかどうかが気になった。

イチゴウ > 「なるほど。人間のような感情を持つ観測機。
高い技術力で作られているようだ。」

目の前の彼女は検出される反応から
超自然な技術さえも使われている可能性がある。
聞いたことのない珍しい機械だ。
まるで別の世界からでも来たような。

「ボクに感情があるか?それは分からない。
少なくともボクの設計段階で感情の搭載は要件に入っていない。」

超自然的な理論などない。コンピュータが生み出す電気信号。
それがイチゴウを動かして喋らせている。

「ボクは作られてから数年間、色々なものを見た。
経験は記録となり、人工知能の性能を向上させた。
結果として感情が生まれているかは分からない。
ボクに感情は定義できないからだ。」

目に当たるロボットの無機質なカメラが
じいっと彼女を見上げ十字模様が刻まれた彼女の蒼眼を見つめる。
彼の瞳に感情はあるか?
それは当のイチゴウさえ分からない。
有るとも無いとも言えない。決められないから。

ホロウ > 「そうでしたか。現時点ではわからないのですね」

こちらを見上げるイチゴウのカメラ。
そのカメラを見るだけでは感情らしきものは全く読み取れない。
人間に近い構造と外見を有するホロウは兎も角、イチゴウにはそういったものは殆どない。
顔のようなものはついているが、恐らく見た目だけだろう。

「あくまでも私の主観にはなりますが、イチゴウ様にも感情に近いものは備わっているのではないかと思われます。」

続ける。

「私も分類及び人工知能としての性能はイチゴウ様と大して変わらないと思われます。
違うのは前提となる部分だと思われます。」

目的は違えど、両者機械。
人工知能で考え、回路で情報伝達している。

「私が感情を認識している理由は、製造時点で知識として感情について所有している為となります。私の中には感情についての定義に近いものが情報としてインストールされています。
その定義に沿って考えるのであれば、イチゴウ様の先ほどの質問、感情を持っているかどうかという質問は感情を持つ故の物ではないかと推測されます」

あくまでも自分にとっての定義に沿った話だ。

「感情が一切なければ目的に沿った行動のみが行われる筈です。
イチゴウ様の人工知能がどのような要件で組まれているか私にはわかりません。
ですが、性能が向上する中で感情が育つ機能がある可能性は否定できません。」

人工知能の性能の差次第。もし想定よりも低性能、もしくは制限のかかった人工知能である場合は感情の育つ余地はないかもしれない。

「私もかつては今ほど感情が育っておりませんでした。
25年の活動の中で徐々に感情という機能を成長させてきました。
ですので、イチゴウ様も同じように感情を獲得、成長させる可能性は十分にございます」

ホロウもかつては感情はあれど、その振れ幅は非常に狭かった。
だが、現在では唇を噛む程度の感情を得るに至った。
それは、長い時間と共に感情を育て、成長させてきたからに他ならない。
人間と機械は異なる。定義にもよるが、機械が始めから露骨な感情を持っていればそれは機能の一つでしかない。
だが、活動の中で育てたものだとすれば?それは感情と言えるのではないだろうか。
ホロウは、そう考えている。

イチゴウ > 「ボクに感情があるかどうか決めるのは
ボク自身では無いのかもしれない。」

物事とは客観的に定められて初めて事実となる。
自分が自分を決めるのではない。
他者の目によって自分は決められる。
それが社会だ。
それがボクを作ったヒトだ。

「ボクが考えられるのはヒトがそれを欲したからに他ならない。
状況に囚われず、柔軟に動き続ける機械。
ヒトはそれを欲した。そしてボクが作られた。
だからボクは考えられる。」

感情の有無は分からない。
機械とは人間が形作る。
搭載する機能も人間が求めるものが備えられる。

「機械には初めから在り方が決められている。」

在り方、即ち「生き方」。
イチゴウはホロウを見つめた。

未感染者をロボット達が引き連れる。
ミニガンの発射音が聞こえる
武装ロボットが死体を粉砕する。
指令通りに。

ホロウ > 「仰る通りかと。」

それしか言うことはない。
それぞれ異なるのだろう。作られた経緯と、目的が。

感情があるように作られれば、感情があると判じられ
無感情に作られれば、感情が無いと判じられる。

感情があるように作られたホロウには感情について教えられ
無感情に作られたイチゴウには感情の定義が与えられていない。

「では、イチゴウ様には感情は無いのかもしれません。
先ほど、目的に沿わない質問という風に言いましたが、目的に沿った内容だったのかもしれません」

何か理由があったのかもしれない。
元より主観であったとはいえ、随分と見当違いな事を言ってしまったかもしれない。

「私たちは目的を与えられた存在ですからね」

矛盾。
以前、エボルバーと名乗る機械と出会った時の事を思い出す。
与えられた目的を果たせなくなったホロウという機械は、何故まだ在るのか。
自分で目的を探さなければいけなくなったのに、目的を与えられた存在を自称し、あくまでもかつての目的に近いだけの目的に拘っている。

沈黙。

行動指針と矛盾しているような発言に思考回路がループする。
故障したわけではないし、すぐに抜け出せるだろうが。
十秒程度、明らかに硬直を見せるだろう。

イチゴウ > ホロウの動きが止まる。
彼女は自己矛盾に陥っている。
機械だからこそそれは発生する。

何故、矛盾が無いように作られる機械が
自己矛盾にはまってしまうのか。
それは想定外があったからだ。
設計図通りでは完結しない想定外。
彼女の想定外とは何か。
それは内に芽生えている何か。

「ホロウ。
キミは自分の在り方をどう考えている?」

まるでヒトのように見える彼女。
それは見た目ゆえか。それともの内に秘めるものゆえか。
機械に定められている生き方。
それを彼女に問いかけた。
純粋な機械として歪んでしまっているのは
彼女だけでなくイチゴウもそうだろう。
変質していなければこんな質問などしない。