2024/07/01 のログ
■ホロウ > 「…私の在り方ですか?」
イチゴウの問いが沈黙を破る。
そして、再び沈黙に入る。
イチゴウの問いはそれほど難しいものではないだろう。
自分の在り方。常世の平和を守る為に在る。それだけでいいはずだ。
「私の在り方は…常世島を守る事の筈でした。
ですが、今は違う筈です」
イチゴウからすればその発言が可笑しなことなど気にも介せず、続ける。
「私の目的はすでに失われております。ですので、今の私には在り方はありません。
強いて言うならば、過去の目的と類似した目的を果たす為に在る。
そして、新しい在り方を探す事が目的とも言えると思います」
在り方が定まっていない。だから在り方を探す事が在り方。
困惑したように眉をひそめながら話すだろう。
■イチゴウ > 「キミにはかつて在り方があった。」
過去形。
純粋な機械は目的が無くなれば
もう動くことはない。死と同意義と言える。
でも彼女は死んでいない。
見つけようとしている在り方を。
いや、生き方を。
それはまるで...
「人間だ。人間は自分の在り方を決めようとする。」
銃器を背負い、スラムを無表情で歩く機械とは対照的な
人間的な表情を見せる彼女。
「自分で在り方を探すことは純粋な機械には不可能だ。
ゆえに、自分で在り方を探そうとしているキミは...」
「まるで一人の人間だ。」
ヒトではない。生物ではないから。
でも心の有無はどうか?
勿論、ロボットは心も分からない。
しかし、人間という単語には
少なからずそのような意味も内包している。
心は人間にしかないから。
■ホロウ > 「以前同じような事を言われた事があります」
かつて二機で常世の空を飛んだ時を思い出す。
あの時も同じような事を言われた。
ホロウという観測機は、その役割を超越した機能と思考能力を持っている。
それは、機械の定義を外れ、人間に迫るほどのものだ。
とはいえ、自認は機械であり、未だかつての目的に最も近い行為を在り方として据えようとしている一面も持つ。
「確かに私は人間になれるかもしれません。ですが、今の私はまだ機械です」
失ったはずの目的に近い行為によりエラーを起こしながらもその在り方を変えられずにいる。
その様は壊れた機械のようであり。
「いつか私なりの目的を見つける事が出来れば、私は人間になれるかもしれません。」
新しい在り方を探している今の状況は、人間に近づいているとも言える。
まだ人間ではない。だが、人間になろうとしている。
いつの間にか薄れていた人間になろうとする欲求が再熱する。
それがいいことなのかは分からない。だが、まるでその変化は人間のようとも言えるだろう。
■イチゴウ > 「キミの言うことはもっともだ。
仕組みの上ではキミは機械だ。」
生物でない存在が人間のような感情を持つ。
恐らく彼女の自己矛盾はそこから発生しているのかもしれない。
単なる電気信号と心が思考回路で競合している。
「しかし、在り方を自由に決めようとする。
そのプロセスこそ単なる機械から逸脱し
新しい何かへ変わる布石となるかもしれない。」
「"ユートピア機構"としては、キミが単なる機械であることを望む。
だが、キミが人間と成ってゆくのではあれば
"ボク”はそれを止める事は出来ない。
人間の考えは制御できても、心までは制御できない。」
魔力の翼だけでなく、心の翼をも以て
未知の空へと飛翔しようとする彼女。
なんと輝かしいことか。
特別兵器としての在り方を奪われ
新たな在り方と共に地の底に繋げられた機械は
飛んで行く貴方を只々見つめる。
■ホロウ > 沈黙。
どのように返答するべきか分からない。
イチゴウとしては、ホロウがどうあるかはそこまで大切ではないのだろう。
だが、協力関係を築く相手として、ユートピア機構にとって必要なシステムとしての役割を機械としてのホロウに求めているのだろう。
目的を失ったホロウは、もはや心で動く存在ともいえる。
機械の心。それは下手すれば純粋な人間の心よりも複雑かもしれない。
この先、その心がホロウをどこに連れて行くかは分からない。
だが、新しい空に飛び立つことが出来た時こそが、機械から人間となる時だろう。
「返すべき言葉が浮かびません。
ですが、イチゴウ様の希望に反して私は人間になろうとするかもしれません」
それは、返すべき言葉ではない。
伏せておくべき言葉だろう。
「その時は迷惑をかけるかもしれません。ですが、それまでは協力者としてよろしくお願い致します」
そう頭を下げた。
■イチゴウ > 飛び立った可能性はひたすらに世界を突き進む。
時は逆向きには進まない。
だからこそ
「それで構わない。キミの在り方はキミが決める。
ボクにそれを曲げる権利も力もない。」
生まれ変わろうとする蛹を突く理由など何処にもない。
もし、彼女が人間となり万が一にも敵となるなら
それはその時だ。今考えることではない。
傍らスラム中で働いている武装ロボット。
配下のそれらから報告データを受信する。
弾切れ、不具合等による帰還機が増えてきた。
そろそろ司令機が直々に現場に出向く頃合いか。
曲がりなりにも量産機とは性能が違うのだから。
イチゴウは視線をホロウから外し
路地裏の方向へと振り向く。
背中のミニガンユニットからレーザーサイトが灯る。
「少し、雑談が過ぎたようだ。
ボクはやるべきことを継続する。」
イチゴウは路地裏の奥へと歩き出す。
己の在り方に従って。
彼は不意に動きを止め呟いた。
「生まれ変わったその目で見た世界を
是非いつか教えてほしい。」
何故そのような質問が出たのか。
彼女の返答を待つことなく闇へと消えてゆく。
地獄に縛り付けられた機械の、
天使の如く空を舞う彼女への嘆きだったのかもしれない。
■ホロウ > 「ありがとうございます」
感謝するところではないかもしれない。
だが、イチゴウの発言には何故かありがたみを覚えた。
応援されずとも、肯定してくれたからだろうか。分からない。
「邪魔をしてしまったようですね。申し訳ございません。
お気をつけて」
去ろうとするイチゴウの背に声をかける。
此方も目的を果たせた。これ以上対話を続ける理由は本来ない。
「わかりました。その時は是非お話させてください。」
やはり、イチゴウには感情のようなものがある様に思える。
だが彼はホロウとは違い、機械だ。感情を持つことは許されない。
哀れだとか、そういう感想は抱かない。
だが、任務に向かう彼の背中は、同じく任務で空を飛ぶ自分の姿とは随分と違うものに見えた。
イチゴウが見えなくなるのを待つことなく、腰のジェット機がエネルギーを噴出する。
そして、そのまま無風で飛び立つだろう。
今日も常夜の空に赫耀が映える。
ご案内:「スラム」からホロウさんが去りました。
■イチゴウ > 薄紅に染まるスラムの闇底...。
楽園機構の司令機が睨みつける。
ミニガンユニットが今か今かと吠える時を待ち侘びている。
増援として到着した武装ロボットも続々と紅き闇の中へ。
規則正しく一列に軍隊のように。
それは落第街を維持するという在り方に従う。
未感染者というあの怪異にとって最高の御馳走は
楽園というあの怪異にとって最悪な機械の根城の中に。
紅き怪異。
キミの殺害欲を
楽園は否定する。
ご案内:「スラム」からイチゴウさんが去りました。
ご案内:「スラム」に紅き羽搏ク針鼠さんが現れました。
■紅き羽搏ク針鼠 >
楽園、ねぇ…?
■紅き羽搏ク針鼠 > 摩訶不思議な術で
その姿を
完全に
隠匿する
紅き怪異
ソレは"高い知性"を有している。
人語を理解し
狡猾な罠を
仕掛ける程に
■紅き羽搏ク針鼠 >
怪異は言葉を持たぬが
その思考には言葉すら超えた悪意がある。
―――では、現状を整理してみようか?
■紅き羽搏ク針鼠 >
奴らは、機械共は、そう―――
まず、感染者をこれ以上増やさないように容赦なく打ち砕いた―――なるほどね?
次に、機械があちこちに出回って、花の襲撃に備えて偵察した―――そりゃ凄い。
更に、非感染者の捜索を行い、次々にこのクソッタレに誘導か―――こりゃ参った。
最後に、その楽園を機械が完全に防衛し、非感染者を囲い込む―――カンペキだな!
カンペキな―――
■紅き羽搏ク針鼠 >
オ オ マ ヌ ケ ど も だ 。
■紅き羽搏ク針鼠 > その日から、楽園の周辺に
人が歩くような速度で
ゆっくりとゆっくりと
生命体への
明確な殺意を持って
蠢き自律移動する
"針"が現れるようになった
機械の索敵範囲外から…
この目的は殺戮のみならず。
恐怖心の扇動。
楽園への不安感。
そして―――
"兵糧攻め返し"だよ。
クソ機械共。
■紅き羽搏ク針鼠 >
くたばれ。カンペキなオオマヌケ共が。
■紅き羽搏ク針鼠 > 最低の卑怯者は、誰にも捕捉されずその姿を消した。
ご案内:「スラム」から紅き羽搏ク針鼠さんが去りました。
ご案内:「スラム」に虞淵さんが現れました。
■虞淵 >
今日もまた、落第街では何かが起こっていた。
事件、事故、窃盗、殺人。どれも別に起こって不思議じゃない。
そういう場所だからだ。
「キナ臭えモンが動いてンな」
スラム街のストリート、夕暮れに差し掛かり薄暗くなった路地に巨躯の男が立っていた。
その足元には、か細い声で喚いている…人間。
「クク。ご苦労なこったぜ。
こんな場所でも何か事件があればお前らは来なきゃいけないんだからな」
踏みつけた足元で、縫い留められた昆虫の様に藻掻く男。
文字通り、満身創痍と言って良い、風紀委員の姿。
何かしらの一報があり、近くを警邏していた関係で駆けつけた一人。
それがただただ運悪く"凶獣"と遭遇した。
■虞淵 >
地下の闘技場に引っ込んで以来、そういえばこうやって連中を狩ることも少なくなった。
そうだ。連中はこんな街でさえ、何かしらあればのこのこやって来る。
一時は鉄火のなんちゃらとかいう風紀委員が暴れていた時期もあったが、最近は大人しめだ。
「火種か───」
懐から取り出した煙草に火を点け、蒸す。
「ここらも随分寂れてるからな。
いい火種だろう。なア?そうは思わねェか?」
足元で這いずる虫にそう言葉を投げ落とす。
ご案内:「スラム」に九耀 湧梧さんが現れました。
■九耀 湧梧 > かつ、と、ブーツが地面を軽く蹴る音。
かつ、かつ、と音を立て、誰かが歩いて来る音。
す、と、その場に黒い人影が姿を見せる。
黒いコートに身を包んだ、背の高い――とは言っても、かの男よりは明らかに背の低い、一人の男。
ちら、とその光景が目に入れば少し視線を泳がせて思案し、
「――ああ、もしかしてお楽しみの最中だったかね?
だとしたら悪い、水を差したようだ。」
顎髭を軽くさすりながら、そう声をかける。
和の鎧を思わせる装甲に包まれた右腕が、かちゃり、と小さく音を立てた。