2024/07/03 のログ
Dr.イーリス > スラムの診療所、いや診療所と呼ぶ事すらおこがましい場所。
まずここを管理している男は医師免許がないどころか、医療知識に関しても一人前の医者と呼べる程ではなかった。
それでも、貧しいスラムの中ではまだ医者として振る舞えるだけの知識と技術を有する人ではある。
何よりも、スラムで大した医療費を取らずに善意で診察しているので、一部スラム住民にとっては心強い存在だ。
だがそんな医者もどきでは、今起きている紅きゾンビのパンデミックに対応できようはずがない。それでも、この診療所もどきには、多くの患者が運ばれていた。

藪医者「イーリス先生、よくお越しくださいました。今日も患者が多くいます……。治療の方……お願いできますか?」

メカニカル・サイキッカーを引き攣れているイーリスは頷き、患者達が寝かされているベッドに向かった。

Dr.イーリス > 「ちくりとしますが、我慢してくださいね」

イーリスは、ベッドで苦しむ患者に注射を打つ。毒と紅きゾンビの感染で苦しむ患者だった。
紅き感染に対する治療薬により、患者の表情は落ち着いていく。

患者A「あ、ありがとう」

「これでもう、感染に苦しむ事はありません。ところで、あなたは何にやられましたか?」

治療は同時に、紅き死骸に対抗するための情報収集になり得る。

患者A「紅い花だ……! 花粉のような何かにやられた……! この前まで、あんな所にあんな大きな花はなかったはずなのに……!」

「花……ですね。また……」

先日、治療した人達も同じような証言をしていた。
花……。ゾンビは様々な種類がいるが、花による感染拡大は深刻だ……。
花は動けないはずだが、突然現れるという表現もあるので瞬間移動のような事をしてくるらしい。

「情報提供ありがとうございました。しばらく安静にしてくださいね」

イーリスは、ぺこりと患者に頭を下げる。

Dr.イーリス > 二人目、三人目と治療を施したが、同じように花の粉でやられたらしい。
そして四人目。

「この方は、ゾンビですね」

突如、メカニカル・サイキッカーの右腕が杭打ち機の如き伸びて患者の体を握りしめた。
ゾンビ。この患者は既に死んでいる完全感染者。

患者D「ガアアアアアアアアアァァ!!!」

拘束された患者は藻掻いて抵抗を試みる。だが異能はうまく発動できない。

「メカニカル・サイキッカーの右手から異能ジャミングが発せられて、あなたの異能の効力は弱まっています。このようなジャミング……局所的な場面でしか役に立ちませんけどね」

異能を研究している身として、異能妨害の技術も一応有していた。実戦で役に立つかは別として。
ゾンビには、注射器を使って安楽死の薬を投与。すると、ゾンビは苦しむ事なく二度目の死を迎え、動かなくなる。
だがただ二度目の死を誘うだけでは、再びゾンビとして復活しないとも限らない……。
さらにイーリスは、ゾンビの体を完全に溶かす薬を投与して、復活しないようその肉体を完全に抹消した。

Dr.イーリス > やがて、診療所に運ばれた患者達の治療を終えた。
治療できる者は治療し、既にゾンビとなった者は安楽死させた。
針による被害で感染した患者もいたが、この診療所に運ばれた者はほとんどが花による被害だった。
イーリスはメカニカル・サイキッカーと共に診療所を出る。

「紅き花の被害が大きいです。もはや……感染者に治療を施すだけでは後手に回るだけ……」

アタッシュケースを持つ四人の不良達がイーリスに駆け寄ってくる。
イーリスは不良達から大きなアタッシュケースを受け取ると、その場でぺたんと座りアタッシュケースを開けた。
すると、四つのアタッシュケースの中からそれぞれ捜索用ドローンがお空に飛び立った。

「こちらから打って出ましょう。必ず、紅き花をこの手で撃ち滅ぼします。これ以上、不幸をばら撒かれないために……」

この夜、イーリスは本格的に紅き花を撃つべく動き出した。
決意を胸に抱き、覚悟を瞳に煌めかせて。

ご案内:「スラム」からDr.イーリスさんが去りました。
ご案内:「スラム」にDr.イーリスさんが現れました。
ご案内:「スラム」に紅き死ノ花さんが現れました。
Dr.イーリス > 夜中。スラムの一角。
イーリスは横向きに捨てられた冷蔵庫の廃品に座り、スマホの画面に目を移していた。
傍らには《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》が佇む。

「……花の一輪、中々見つかりませんね」

スマホの画面に映るのは、スラムや落第街に飛ばしている複数の捜索用ドローンや監視カメラが映している映像。
ターゲットは、紅き花の死骸。紅き死の花の被害がこのスラムや落第街で拡大し続けている。
毒という不幸をばら撒くあの花を早急に見つけ出して、撃ち滅ぼす。

しかし、そう理想的に話が進むわけでもない。

まずドローンを飛ばせる場所は実際のところ限られる。例えば、違法部活の建物が建っているところや裏通りでよく闇取引が行われているところにはまずドローンを飛ばせない。他の違法部活を無用に刺激する事に繋がるし、撃ち落そうとする輩も出てくるだろう。他の違法部活にある程度気を遣うのは、落第街を生き抜く上で大事な事。

次に、ドローンはどうしても上空からの視覚に対応し辛い。分かりやすい例は、屋根のあるところは見えないという事。
センサーやレーダーである程度カバーしても限界はある。

そこで人の手、
二十数名の不良達を率いてドローンで捜索し辛い各所をバイクの機動力を使って探らせているわけだが、そこにも問題が生じる。
安全性を考慮し、想定外の対応をするために三人一組で行動させているが、必要となるのはガスマスクだ。しかし悲しきかな、貧乏な我らが《常世フェイルド・スチューデント》。すぐには人数分用意できなかった。
イーリスは仲間の不良達の安全を優先し、自分はガスマスクをつけていない。

最後に、花は空間移動を使えるという事。ぶっちぎり最大の問題点。
捜索する上で、これ程厄介な能力は他に中々ないのではなかろうか。

とは言え、相手が空間転移をするならば、それ前提で捜索できるというもの。
そもそも相手は花、逆に動いているものを無視して、急に出現するもののみに捜索を絞ればいい。

紅き死ノ花 > ―――あの女を。
Dr.イーリスを。

"直ちに抹殺せよ。"

花は怒りと共に猛毒を撒き散らし続ける。
―――そして、察知する。

"探られている"
"…あの女…!こっちの動向を探っていやがる…!"

しかも、だ。
一人でではない。
そうだ。この女は"あまたの仲間を連れている"。

だから
"殺す価値が高い"



だから
"今すぐ殺すべきだ"!!

もはやこの女の連れる仲間は"ザコ"ではない。
3人1組。バイク。ガスマスク。

―――徹底的だ。
―――徹底的にこちらを"殺す気"なんだ。

しかも、空から監視のドローンまで飛ばされている。

故に―――見つかるのは時間の問題だ。そうだろう?

だから、罠を張らせてもらおう。
花は今、"隠れている"。
違反組織群の方に。
機が熟すまで。
今見つかったら間違いなく、敗北する。
あの女は"不意打ち"をしなければ絶対に勝てない。
そう、確信している。

―――今日の戦いは、複数(貴殿ら)VS単一()の殺し合いではない。

―――特別ゲストの登場だッ!
―――この日の為に用意してきた、とっておきの毒の罠。
見せてやろう…!

紅き羽搏ク針鼠 > まるで、それは―――"突然空から現れた"
転移するように。

真っ赤な大きな人ほどのサイズの、花のような何か。
毒を撒き散らす何か。

それは"大量の毒針の塊"で作り上げた、
花のニセモノ。

さあ、騒げ!喚け!寄り付け!
―――Dr.イーリス…!貴様の居場所は"天高くから見ている"ぞ…!

Dr.イーリス > 「……! 現れましたね、紅き花」

ドローンの一機が、紅い花を見つけた。ならば、すぐに撃ち滅ぼす。
読み通り、突然花が現れた。センサーまでもがはっきりと花(ニセモノ)をとらえている。

花は毒の粉を撒き散らす。しかし、それは毒だ。毒でしかないと言い換えれる。
生物が相手ならば藻掻く苦しむ毒。だがそもそも非生物である機械に毒は通じない。

「《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》、始動」

メカニカル・サイキッカーは背中の推進エンジンを作動させ浮遊し、そのまま花の方へと向かっていく。偽物とは知らずに。

実のところ、メカニカル・サイキッカーに先行させるのはリスク。
イーリスと密接にシステムが同期しているメカニカル・サイキッカーは、イーリスから離れすぎると性能が落ち、すなわち戦闘能力低下にも繋がる。
だがメカであるメカニカル・サイキッカーに毒は効かない。花は毒の粉を使うが故に、メカニカル・サイキッカーを先行させて戦わせるメリットが大きい。今のイーリス、貧乏なのでガスマスクないし。
あとは討滅する際、花の空間転移を気を付ければいい。

「全て、データ通りです。思いのほか、計画は順調ですね」

空間移動対策も用意している。このまま毒が効かないメカニカル・サイキッカーで花のゾンビを撃てば、それで終わりだ。

紅き死ノ花 > ―――来た。きたきたきたきたッッ!!

つられたな……!!

そうだ。
あの女は機械を連れている。

"上空偵察"から"罠にかかった"との報告。
そして
"廃品置き場"
"目印は冷蔵庫"
と続報。

"真っ正面から屈強な機械と撃ち合って毒の花が勝てる道理がない"

卑劣というかね
卑怯というかね

好きに罵れ

これはルール無用の殺し合いッッ!!

さあ―――

その"毒針の塊"を好きなだけ攻撃していろッッ!!
そこへ向かって、戻ってくるまでの間に…

紅き死ノ花 > 最優先撃破目標(Dr.イーリス)!!貴様をぶち殺すッッ!!
紅き死ノ花 > …花は突然現れた。転移だ。

怒り狂う。
ピリピリした空気。
殺害欲。

Dr.イーリスの背後に。
座り込んで隙だらけの体に、深紅の毒の空気をぶちまける。

さあ―――

あっちは"偽物の戦い"
こっちは"本当の戦い"だッッ!!

Dr.イーリス > 「ターゲットを発見しました。こちらで撃破します」

スマホの画面を見ながら、捜索中の不良達にもそう伝える。
推進エンジンにより高速で遠くに飛んでいってしまったメカニカル・サイキッカー。
毒の粉を撒き散らす毒の粉相手に、機械を差し向ける。もはや真剣勝負でもなんでもない、効率的な殲滅。言い方をかえれば卑怯とも取れる。

「紅き花、これで終わりです! 転移ジャミング!」

やがてメカニカル・サイキッカーは花(ニセモノ)の元へと到達した。
花(ニセモノ)をカメラで視認しているドローンから妨害電波が発せられる。その電波は多くの転移型異能に効力を及ぼさないが、汎用量産型異能の転移ぐらいならば妨害できる。
妨害といっても、転移できる範囲が大幅に狭まるぐらいの効力だが、少なくとも逃げるという用途で使うのはかなり難しくなる。
イーリスは異能研究にも力を入れているので、用量産型異能ぐらいは対策できていた。
この妨害電波は、今イーリスがいるところまでは全然届かない極地的なものだ。

「滅します」

メカニカル・サイキッカーの胸部にあるハッチが開き、二発のミサイルを花(ニセモノ)に発射。
着弾地点で、大爆発を起こす。


“偽物の戦い”はさておき。

「少々あっけなかったですが、紅き花の討滅は完了。これで、あの毒に苦しみ悶える人もいなくなります」

安堵の息を漏らす。
敵を倒した、そう思った瞬間──。

──油断が大きくなる。

「──……!?」

イーリスは目を見開いた。
突然、背後にセンサーが反応したのだ。
振り返ると、そこには先程討滅したはずの花。

「そ、そんな……。ど、どうし……て……」

イーリスは青ざめつつも冷蔵庫から立ち上がり、二歩、三歩と後退った。
後退った時には、もう遅かった。

「う…………ぐっ……ああっ……」

毒の空気を吸い込んでしまっている。
毒が体に巡り始め、痛みに喘ぎ声をあげつつ、両膝を地面につけた。

紅き羽搏ク針鼠 > この怪異…
紅き羽搏ク針鼠は言葉を持たぬ。
持たぬが、
もはや知能は人と同等。
故に思考を開示しよう。

この、"最低の卑怯者の思考"を。

―――。
…という事があっちであったわけだ。
いやあ、凄いねぇ。

まずはすさまじいスピードで花に迫った―――驚きだな!
毒が一切効かない機械の体。お前()は敗北―――本物だったならな!
強烈なミサイル。2発だ。障壁ごと壊滅―――こりゃ凄い!
そして転移封じ電波?!逃走すら不可能―――カンペキだな!

カンペキな―――

紅き死ノ花 >  

    オオマヌケ共だよ。


 

紅き死ノ花 > 花も、言葉は持たない。

だが、その花は暴風を起こして殺害欲を、あらんかぎり伝える。

殺す。殺す。殺す。

こいつだけは…!!
こいつだけはッッ!!

今ここで殺すッッ!!

毒だ…もっと毒を浴びせてやる…!!

さあ、死ね。
ここで死ね、Dr.イーリス…!!

Dr.イーリス > イーリスの体内コンピューターはすぐに、メカニカル・サイキッカーに帰還の指令を下す。
当然ながら、遥か遠くに行ってしまったメカニカル・サイキッカーが帰ってくるまで時間が掛かる。

巻き起こる猛毒の暴風。

「ぐ……ああぁっ……!」

激痛と共に体が痺れていく。
悲鳴がスラムに響き渡る。

まずい……。まずい……まずい……!!

どうして倒したはずの紅き死ノ花が目の前にいる……?
いや、それを考えるのは後だ……。
今は……この場を切り抜けなければ……。

上空から戦況を観察しているなら気づくかもしれない。
二機のドローンが花とイーリスに向かっていた。

「……負け……ません……! あなたを止めるまでは……!」

苦しみもがきながらも体内コンピューターでドローンを操作。
二機のドローンは上空から接近しつつ、マシンガンの如く紅き花に弾丸を連射した。

紅き死ノ花 > …!!
勝てる…!!
勝てるぞ…!!この女に…!!

小型のマシンガン程度なら…!!

"防御用の対害障壁"を展開すれば持ちこたえられる…!!
防御するときだけ明転する、六角形の壁…!!

―――抵抗はこれだけか?!
ならば…勝った…!

思えば。こいつには苦しめられた。

こいつが本当に恐ろしいのは"強さ"ではない。
"治療薬を作り"
"仲間を連れて"
"感染者に適切な処置をして"

そして。
今まさに。

"紅き死ノ花にとって最大に有利な殺し方を考えて来たところ"だ。

"単体でバカ程強い奴"など幾らでもいる。
そいつらはどうでも良い。
相手にしなければ良い。

だがこいつはなんだ?

"弱い"
くせに
"常に優位に立ち回れる方法を考案し"
"適切に妨害してくる"
"この街を守るための確固たる意志を持っている"
こいつはなんだ?

こんなヤツを生かしておいたらどうなる?

改めて記そう。
"貴様ほど恐ろしいヤツは他にいない"と。

だが…

紅き死ノ花 > それも、今日で終わりだ…!死ねッ…!
Dr.イーリス > ドローンに搭載できる銃器には限界がある。
マシンガンのように連射したところで、その威力はたかが知れる。
花が展開する障壁を前に、どうにかできようはずもない。

「う……ぐ……うう……ああぁっ……!」

毒の苦しみで血を吐いた。
全身が痺れてきた。が、イーリスは改造人間だ。
この状況ではどうしようもないが、それでも生身よりかは毒に耐性がある。
眼前に、半透明のモニターが表示される。
イーリスは震えた両手でそのモニターに手を伸ばして、タイピングし始める。

「……全てが計算通り……データ通りにはいきませんね……。しかし……毒が私を蝕み切るまでまだ猶予があります……」

タイピングしている間にも二機のドローンが小型マシンガンで銃撃し、障壁で防がれている事だろう。小型ミサイルも発射しているが、大した威力ではないので障壁で防ぐ事は容易だと思われる。

紅き死ノ花 > ―――。

―――。

―――。

……何故、生きている?

まだ死なないのか…?!
まだ?!

は、早く死ね……!!

障壁は少しずつヒビが入って来ている。
マシンガン、ミサイル。…抵抗が増えている。

"この女の恐ろしさ"は嫌というほど知っている

放っておけば何をしてくるか分からない。
怪異は言葉を持たぬが、こうして毒に苦悶している姿でもいまだに抵抗をしようとするその
"恐ろしき意志の強さ"に驚愕し、殺害欲をさらに高める。

こんなヤツ、1秒でも早く死んでくれ…!!
そうだ、これほどまでに"恐ろしい女"がもしも同胞となったなら…?!
……素晴らしい事だ…!!

早く死ね…!!
早く死ね…!!
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!

毒を、どんどん撒き散らす。
……だが、まだ耐えているのか…!!

早く…!!死ねェェェェェェ…!!

Dr.イーリス > 「が……ぐ……あああぁ……!!」

撒き散らされる毒に激痛が走り、ついに横たわる。
それでも、横たわりながらも緩慢な仕草で右手を伸ばし、虚空に映し出されるモニターにタイピングする。

組まれていくプログラム。
だけど……もう、意識が消えかかっている……。

ドローン二機の攻撃により、障壁に罅が入っていた。それでもドローンに積める程度の重火器。障壁破壊まではできない。

「(……こんなところで、終わるわけには……。もう少し……もう……すこ……し……)」

やがて、イーリスの手が止まった。
息はまだあるが、もう痺れて動けない、それ以前に意識が朦朧としている。そんな状態。

紅き死ノ花 > 女の手が、止まった。
つまり―――これ以上の抵抗がない事を…意味する!

勝った…!!勝ったぞ…!!

さあ―――

紅き羽搏ク針鼠 > "トドメだ、クソマヌケ…!!"

毒に合わせて、
悪意のある針が打ち出される。

それによって"姿を晒してしまう"が。
もはや些事。

……この勝利、必ずモノにする……!!

紅き屍骸 > これで終わりだ―――死ねェッ!!!!
Dr.イーリス > 「……ッ!!」

悪意ある針が抵抗できなおイーリスに刺さった。それにより、血飛沫が上がる。
イーリスは弱いながら丈夫ではあるが、痺れてなお、その激痛が全身に伝わり、もはや悲鳴すら聞こえなかった。
しかし、とどめには少し足りない。

ところでイーリスが先程まで操作していた虚空のモニター。
それが、だんだんと大きくなっていく。

電脳イーリス「……新手でございますか。“私の体”に酷い事をしてくれますね。ともあれ、電脳世界への逃亡がなんとか間に合いました……。現実での痛みを完全に消し去る事は出来ませんし、“体”の方は既に死にかけで、そうなれば“電脳世界の私”も死ぬんですけどね」

なんと、モニターに映し出されたのは、死にかけとは思えない状態のイーリスだった。ただし、現実でのダメージが反映されて顔色は良くない。
イーリスは改造人間であり、自我すらも情報化している。つまり、情報と化したイーリスは電脳世界に存在できるという事だ。

電脳イーリス「反撃させていただきます。死にかけの体から電脳世界に逃げ延びた事で、出来る事も増えましたからね。転移ジャミング!!」

先程、花のニセモノの前で放ったものと同じ転移に対する妨害電波。
その妨害電波は、改造人間であるイーリスの体から発している。
近接戦闘の補助ぐらいならば転移自体は可能だが、逃亡に使える程の距離は転移できなくなる。

そうして、ぼちぼちメカニカル・サイキッカーが近くにきていた。

紅き死ノ花 > ―――?!

ふッ…





―――ふざけるなァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

どうなっている?!
なんだ?!
これはなんだ?!

"あの女は死んだ"のではないのか?!

目の前のモニターに映されているのはなんだ?!

まさか、こいつは"機械の…情報の中へ逃げた"というのか?!

それに―――
この音―――ッ

まずい、逃げ―――転移―――

……

……

……!!!!

紅き羽搏ク針鼠 > その機械(クソッタレ)
…そいつぁやべーぞ。
針ぶちこんで止めてたのにビクともしないで、
全速力で向かってきやがった…!

……ははっ、今から"隠れ"たら間に合うかね?

―――見つかっちまったか?

Dr.イーリス > 現実の体でどうにかしようにも、無理。死にかけ。
体内コンピューターの演算にも支障をきたし、メカニカル・サイキッカーを動かす事すらままならなくなる。
死にかけの状態では、転移ジャミングを作動させる程の処理もできなかった。

だが、イーリスは(改造されてはいるけど)生身の人間でありつつもデータ、その両方の世界を反復横跳びする。

やがて辿り着くメカニカル・サイキッカー。
空から見下ろす花と鼠……。
どちらを狙うかを選ばない。

電脳イーリス「二体とも、消し去ります!」

メカニカル・サイキッカーは様々な異能者の才能を埋め込まれていたり、様々な魔術を電子化してプログタミングされている。それにより様々な異能や魔術を扱う事ができる。
だが六時間で使える異能や魔術は合計三つ。
まずは一つ目。

メカニカル・サイキッカーの右手に刃渡り五メートルの剣が出現した。その剣の刃が炎を帯びる。
相手は植物、燃やしてしまうのが有効な手。

同時に、左手が変形して大きなキャノン砲となり、その砲口は針鼠へと向けられた。

紅き死ノ花 > ―――これが。
あの、機械か。

…罠を使わなかったら、即死だった。

…罠を使ったとして、勝ち目などない。

障壁を展開する。
そうだ。障壁。もはやこれしかない。
斬撃になら、1度くらいは耐えられる…!
…!……相当な、ダメージを受ける。
茎が、花弁が、燃える。
……次で終わりだ。

だが、蠢動と言われようと―――毒の嵐を…せめて一撃…!!
毒は効かないか?
嵐では飛ばぬか?

……なら、手に負えんな。

紅き羽搏ク針鼠 > ―――"隠れる"。

特殊能力:最低の卑怯者。

相手のレーダーや視界情報から一切姿を消し去る。
狙えまい。
無論、被弾はする。
それに…速度は遅くなる。

だが、……少しでも逃げられるという可能性を、あげてやる。

それが、藁にも縋る"生存戦略"だとしても!!

Dr.イーリス > 機械に毒は有効打になり得ない。
だが、嵐は別。
別……とは言うものの、体長三メートルで漆黒のボディ、それらは頑丈な金属の塊にして高い質量を誇る。
ある程度嵐で抵抗できても、それで完全に封殺されるわけではない。

電脳イーリス「ぐぬ……。目標を見失いましたか……!」

一方でキャノン砲を向けていた針鼠に関しては、捕捉した目標を見失ってしまった。
──消えたのだ。
電脳世界のイーリスは、悔し気に眉を顰める。
直後、画面に映るイーリスはふらついた。現実でのダメージがフィードバックしているのだ。
このまま本体が毒で蝕まれ続けたら……本当に、ゾンビと化してしまう。

針鼠は諦めて左腕のキャノン砲は元の腕に戻し、《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》が花へと突進していく。

電脳イーリス「障壁は意味を成しません……!」

花の傍、横たわるイーリスを守るような位置取りに着地すると、メカニカル・サイキッカーは炎の剣を地面に勢いよく突き刺した。
すると、地面がだんだんと溶けていき、溶岩が形成されていく。
溶岩がだんだんと広がっていき、花を、そしてイーリスをも飲み込もうとしていた。
メカニカル・サイキッカーは左腕でイーリスを抱えて、バックステップで大きくお花から距離を取る。

電脳イーリス「チェックメイ……」

その時、イーリスが映し出された画面にノイズが発生した後、消え去った。それは、電脳世界からイーリスが消えた事を意味する。
メカニカル・サイキッカーの動きも止まり、突然ドスンと倒れる。それと同時に、イーリスの体が地面に投げ出される。周囲に飛んでいた二機のドローンも墜落した。

「……く…………うっ……」

──Error

──Error

──Error

イーリスは肉体の方で僅かに意識を取り戻したかと思えば、激痛と苦痛が遅い、けたたましい程のError音が聞こえる。
毒で蝕まれ、針で痛めつけられた体。電脳世界に逃げ込むなどという小細工がそういつまでも通用するはずがない。

それでも、紅き花の足元が溶岩化していくのは止まらない。
高温により溶かされた地面、それはメカニカル・サイキッカーの手を離れようが、溶岩と化し続ける。

「(赤き花……。これで……終わりです……)」

転移ジャミングだけは途切れさせないよう、意識が朦朧とするイーリスはそれだけを意識していた。
花の足元は溶岩と化しているのだ。果たして、障壁はいつまで耐えられる……?

紅き死ノ花 > 大地が…
炎で溶けていく…!!

真っ正面からの斬撃は"障壁"で耐えられても、
こんな…!!
下部からの飲み込むような溶岩には

"そもそも対応できない"!!

どんどん飲み込まれる。
焦げる
溶ける
朽ちる

紅き花が、焼け落ちていく。

……これは……
……まずい……



……

これは……

そう…

貴様の言葉の通り―――

紅き死ノ花 >  



   完全敗北(チェックメイト)だ。


 

紅き羽搏ク針鼠 > ―――逃げられた。
あの女も命からがらではあった。

だが―――
だが―――

…無傷で戦い続けるヤツより、

…よっぽど恐ろしい女だ。
あれは。
あれ程苦しんで、それでも抵抗して、策を弄して

―――その上で勝ってきたのだから。

…見事。