2024/07/20 のログ
ハインケル >  
「そうなんだ」

心外だと口にする男の言葉を素直に聞く少女。
危険な代物…。まぁ、十中八九。

「危険ってこの剣のこと~?」

ならず者のことなど気にする様子もなく、少女は拾おうとしていた剣を指差す。
物々しい装飾にも見える剣は、確かに男が持っている時に怪しげな雰囲気を纏っていた。

そういえば剣にまつわる噂話が……あったかも。
背後にとある落第街の組織がある少女。
もちろんそれは仲間から知らされている噂話であるが。
少女はやや、覚えが悪いところがある。
要するにピンとは来ていなかった。

九耀 湧梧 > 「そう、その剣。
どっからどう見たって呪われてるのが分かるのに、
どうしてそういう代物に手を出したがる奴が居るのかねぇ。」

男の方も素直に首肯を交えて肯定。
するりとコートの裏から――まるで手品のように鞘を取り出し、手にした刀をくるりと回転させながら収める。
そのまま腰に差し直すと、地面に転がる剣に足を進める。

「済まないが、下手に手を触れないでくれよ。
今の一撃を見せられて、お前さんと一戦交えようって気にはちょっとなれなくてな。
ついでに、獲物を横取りするようで悪いがこの剣についても見逃してくれれば助かる。」

そのまま、止められなければ地面に転がる十字架型の剣の傍に膝を付くつもりだ。
剣は相変わらず、気持ちの悪い瘴気のような気を発している。

ハインケル >  
「へー。まぁこの辺りじゃ珍しくないかもだけどね。あ、手をだしたがるヤツが、って意味ね」

…いわゆる二級学生などと言われる、常世の島から存在を認められていない存在。
彼らの中には異能を持たないもの、異能を失った者などをちらほらと見られる。
"特別な力"に惹かれる者は多い。リスクが目に見えたものだとしても。
なぜなら力があれば、少なくともこの街では生きる術になる。

「触れるだけでヤバいの?」

素直に触れないようにしつつも、男がが膝をつく様子を見下ろして。

「このあたりでこんな不気味な武器、あんまり見なかった気がするんだけどなー。
 オッサン何か知ってるの?こーゆーヤバい武器のコト」

九耀 湧梧 > 「……ま、分からないでもないがね。
魔剣ってのは、持ち主になれれば手っ取り早く力が手に入るもんだ。
だからこそ、危ないってのもあるんだが――。」

慎重に剣を確かめつつ、コート裏を探る。
取り出したるは、一冊の古びた和綴じの本。
表紙には達筆な筆文字で「捜刃録」の題字。

「そういうのも多いな。呪われてる魔剣ってのは、総じて触れるとヤバイ場合が多い。
分かり易いので剣に精神を乗っ取られたり、そこの奴みたいに正気が危なくなる。
分かり難いと、握っただけで呪いをかけられたりする。」

どっちにしても碌なもんじゃないさ、と言いながら、男は軽く右腕を振る。
がちゃ、と音がして、掌から――否、掌に開いた穴から、鎖が飛び出て来る。

「俺も詳しい事は知らん。
俺がやってるのは、ヤバイ剣を持ってる奴の噂を探ったり、不相応な代物を持ってる奴から
ちょっと失礼して「回収」して回ってるだけだからな。」

と答えながら、柄にぐるぐると掌から伸びる鎖を巻く。

「――これなら大丈夫だな。」

と、剣の様子を見ながら一言。乗っ取られたりする気配はない。

ハインケル >  
「ふーーーーん……」

回収。
なんらかの委員会がやってるわけじゃなくて、個人か、と。

「ま、明日生きれるかもわからない連中は力と見たら飛びつくよねー。
 で…オッサン最近までこのへんにいなかったよね?見たことないし」

打ち捨てられた木箱に適当に腰掛け、脚をぶらぶらとさせながら男が剣を回収する様子をまじまじと見る。
男の言う『危ない』を回収する術をもっているようだった。
……だからこそ、回収なんてことやっているのだろうけど。

「気をつけなよ~。
 こういう雑魚ばっかじゃないからね、このへんも♪」

九耀 湧梧 > 「ああ、暫く前にこの街に来たばかりだ。
「これ」とは別口で、「人探し」にな。」

答えながら、男は和綴じの本を開き、鎖を持ち上げて慎重に空白の頁へとその切っ先を向ける。
柄に巻いた鎖を器用に解くと、十字架型の剣は真っ直ぐに本に落ちていき――
まるで池に沈むように、本の中に飲み込まれて消えた。
同時に、白紙の頁に今しがた消えた筈の剣が墨絵になって浮かび上がる。

黒の竜殺し(ノワール・ド・アスカロン)…こりゃまた酷い銘だ。
竜殺しの剣が呪われてるとか、冗談にしても笑えない。」

げぇ、と顔を顰めながら本を取り上げ、コートの中にしまい込む。
鎖も掌…否、義手の中にじゃらじゃらと音を立てて巻き上げられていき、作業はおしまいのようだ。

「ご忠告助かるぜ。この間この辺に来た時は、とんでもなくガタイの良い兄さんに遇ったからな。
事前に見てなかったら、今の忠告も流してしまってたかも知れない。」

そう言いながら、木箱に腰掛ける少女に改めて顔を向ける。

「で、その気をつけた所にこうして歩いてるお嬢ちゃんは何者で?
――あの一撃は、只者には出せんぜ。」

軽く目を細める。
といっても、殺気の類は出ていない。単純に、気になったという所だろう。
このような治安の悪い所にいる事も含めて。

ハインケル >  
物々しい名前を呟き、剣を回収すう男。
その光景を好奇心でまじまじと見ていた。

「まぁ、ピンキリだけどね」

木箱から立ち上がるとおしりについた埃をぱんぱんと叩いて、改めて男を見る。
うーーーーーん……怪しい風貌。
でも特別におかしな男って感じもしないか…と、内心考える。
"背後"に共有するほどではないかな…と。一旦覚えておくに留める。
……記憶力悪いけど。

「アタシはふつーの通りすがりの一般人♪ 珍しくないでしょ?この島じゃ♡」

くすっと笑いながら男に答える。
異能者が跋扈する島なんだし、それで通せると言わんばかりの雑さである。

「見た目もオッサンほど怪しくもないでしょ?」

ぱちんっ☆とウィンク。

九耀 湧梧 > 「それは否定しない。
こいつらは完全に数と、あの魔剣が頼みだったみたいだからな。」

軽く周囲を見渡す。
死屍累々といった状況だが、全員が気絶しているだけだ。
腕を折られたリーダー格以外は、目立つような傷もない。

「怪しくなさ過ぎて逆に怪しいが…と思うのは、俺が神経質なのかねぇ。
そんなカッコでこの辺をうろついてたら、悪い連中に路地裏に引き込まれるだろ。

……ま、あの蹴りが出せるなら、それこそ半端な奴相手なら要らぬ心配か。」

ウインクをされれば、困った様子で顎髭をさする。

「俺が後10歳若ければ、それこそ口説いてたかも知れんがね。」

多少冗談交じりに、そう返す。

ハインケル >  
「こいつらもそのうち目ぇ冷まして退散するでしょ。
 腕折っちゃったヤツは…それぐらいここらじゃ軽症軽症」

どう考えてもそんなことはない気がするが。
少女と言えば余り気味の袖をひらひらと振ってこともなげだ。

要らぬ心配か、という言葉にはにっこり笑み。

「ふふ♡」

誤魔化すつもりかそれとも素か。実に可愛らしい微笑みを見せていた。

「ほーん…。10歳くらいの年の差気にしないケド♡
 ウラ若いカラダでおぢさんのこと一杯慰めてあげよーか?」

袖で口元を隠して上目遣いでくすくすと笑う少女。
冗談に冗談で返しているつもり…なのかもしれない。

九耀 湧梧 > 「なら良いんだがね。
腕は折れ方次第じゃ、繋がりが悪くなって後に響くからな。」

と言いながらも、手当てをするという事をしない男。
善人とは、少々言い難いかも知れない。

「オッサンをからかうのはやめなさい。
それに、生憎だが追っかけてる「本命」が居てね。
それ一筋に熱を上げる程に青臭い時代はとっくに過ぎたが、お嬢ちゃんに手を出す気は今は無いさ。」

軽く人差し指を弾く動作。届いていないがデコピンである。
からかうのはやめなさい、という動作だろうか。

「――そうだな、一応聞いておくか。
お前さん、黒いドレスの女を見た事はないか? 
髪は紫寄りの銀髪、血のような瞳をしてる女で、背は俺より幾らか低い程度。

そうでなければ……ここら辺りで、かなりド派手な人斬り沙汰の噂、とかな。」

念の為、とそう訊ねる。

ハインケル >  
冗談はさくっと処理され、つまらなさげに少女は肩を竦める。
からかっても塩対応の相手には食い下がったりしない程度の理性はある。

「ちぇー。…へー。ん?
 そのぶっそーな女が追っかけてる本命ってこと?」

なんだこのおっさん、結構ヘンだな。
失礼ながらそんな印象を抱いてしまう。

「んー。人斬り沙汰かどーかは知んないけど」

「不自然に斬られた死体が見つかった事件はあったかなー。
 刃物で斬られたわけでもない妙な切り口でー、鋭利だけど刃物じゃなさげ、的な」

自分が見たわけじゃないからはっきりとは言えないけど、と付け加えて。

「斬り殺されてるけどどうやって斬り殺されたのかがわかんない。っていうね。
 んー、それくらいかなあ……」

女の外見については記憶に該当なし。
唯一覚えのあったそんな話をしつつ。

「なんでそんなやべー女おっかけてんの?」

九耀 湧梧 > 「――鋭利だが、刃物じゃない、奇妙な斬殺体。
斬り殺されたのは分かるが、どうやってやられたのかが分からない、ね。」

少女からの情報に、す、と目が細くなる。
ほんの少し、身体から氣が漏れる。
殺意とは遠い、しかし剣呑な、言うなれば鋭い剣のような氣。

「――有難い情報だ。
同じ事が出来る別人の可能性もあるが……「あの女」なら、それが出来るはずだ。」

どこか、確信めいた一言。
そして少女からの問い掛けを聞けば、小さな苦笑と共に剣気が霧散する。

「そりゃお前さん、いい女が居たら追っかけたくなるのが男の性だろ。
ま、その相手が偶々、世間一般的には危険な女だったってだけさ。」

さらりと、そんな事を言ってのける。

「お嬢ちゃんもないか? そんな経験。
お前さん位の見目なら、あってもおかしくないと思うがね。」

ハインケル >  
「ないよそんなもん」

はー?と両手を持ち上げ、肩を竦める。

「追っかけたくなるくらいイイ男がいたら自分のトコに縫い止めちゃうもん。
 残念ながらそんなやついないんですけど~♪」

男から溢れた鋭い氣。
それを感じていない…わけではないのだろう。
しかし警戒する様子も、気付いた素振りも見せずあくまで一般人を装う少女は或る意味、異質。

「やべー女の尻おっかけるオッサンかぁ……」

落第街らしい……くもないか、流石に。

九耀 湧梧 > 「そりゃまた失礼。
ま、あれだ。何かに心を奪われた奴ってのは碌でもないって話さ。
あまり関わりたくない知り合いに言われた…ま、半分は呆れの入った言葉だろうがね。」

黒いコートの男も軽く肩を竦める。
少し、氣が外に漏れてしまったが、それを感じなかった訳でもないだろう。
それでいてまるで変らぬ様子を見せるとは――認識を改める必要がある。
先の蹴りから薄々感じていたが、この少女も決して只者ではない。

「……と、そろそろお暇した方が良さそうだな。」

耳に、小さく呻き声が聞こえて来た。
恐らく気絶させたならず者の誰かの意識が戻り始めているのだろう。

「長々とオッサンの話に付き合わせて悪かったな。
――お嬢ちゃん、名前は?」

長話になった事を軽く詫びながら、そう訊ねる。
何となく、名前くらいは訊いておこうかという気になった。

ハインケル >  
「お、起き始めたか…」

つま先で倒れた男たちをつんつん。
そんな素振りを見せながら、尋ねられる言葉に紅い視線を向ける。

「名前? "ハインケル"。
 ここらウロついてるなら、また会うことあるかもねー♪
 あ、いっていいよー、後始末しといてあげるからさ♡」

こういうヤツらの扱いなれてるからねー、と付け加え、余り袖をひらひらと男へ振るのだった。

九耀 湧梧 > 「ハインケル、か。いい名前だな。」

軽く笑ってそう答え、

「――九耀湧梧だ。縁があったら、またな。」

そう名乗り返す。
小さく手を振ると、腰に差していた刀をコートの裏に手品のようにしまい込み、

「それじゃ、先に失礼。」

そう言い残すと地面を蹴り、建造物の壁に向かう。
その壁を数歩登ると更に蹴り、滑空するように別の建造物へと向かい――
それを繰り返し、コートとマフラーをなびかせながら、まるで武侠映画のように、男は何処かへと飛び去って行った。

ご案内:「スラム」から九耀 湧梧さんが去りました。
ハインケル >  
「ほいよー。またねん」

ぱたぱた。
旗を降るように余った袖を振っていたハインケルと名乗った少女。

「ふむ」

そうして、視線を移したのは周囲にばったりと倒れた10人ほどのならず者。

「さ、怪我の手当してやるよー♪
 そのかわり晩ごはん、君等の奢りね♡」

しゃがみこんで、真っ先に意識を取り戻したならず者Aの視界には金髪紅眼の少女の、心から無邪気な笑顔があった。

彼と再び出会うのか、その時は少女がもう少し己の存在の何かを明かすことになるのか。
運命は数奇なもの。先は誰にもわからない。

ご案内:「スラム」からハインケルさんが去りました。