2024/07/24 のログ
ご案内:「スラム」に九耀 湧梧さんが現れました。
九耀 湧梧 > 「……さて。」

スラムをゆらりゆらりと歩く、黒いコートの男。
軽く顎髭を撫ぜながら、小さく欠伸をする。

「刀剣狩りは廃業してしまったからな…やる事がない。
事を知らない相手辺りが喧嘩でも吹っ掛けてきたら、それはそれれで大義名分(言い訳)が立つんだが。」

ため息交じりに少々物騒な事を口走る。
やる事が無いとは言え、思考が過激である。

九耀 湧梧 > 「……しかし、ここ暫く思ったより静かだな。」

ふらりと歩を進め、黒いコートの男はスラムを行く。
少し前は色々と騒がしく、落ち着いて休むのも大変だったが、今はそれほどでもない。

油断すれば血の気の多い者に襲われる可能性はあるが、気を付けていればいい話である。
そういった意味では、割と過ごし易い。
少し手間と暇をかける必要もあるが、休む場所にも不自由はしないだろう。

(知らない所で何かが起きているのかも知れんが…ま、縁がなければ俺には関係がない。)

ドライな事を考えながら、黒いコートの男はまた歩を進める。
マフラーとコートが、僅かに風に靡く。

九耀 湧梧 > 『――失礼、巷で噂の「刀剣狩り」とお見受けする。』

突然、背後からかけられた声に、コートの男はちらと振り返る。
ちら、と振り向けば、ざんばら髪に着流し、刀を一振り腰に差した男の姿。

「――ああ。
どちら様かは知らないが、生憎刀剣狩りは廃業にしててね。
悪いが他所を当たってくれ。」

『そちらの事情は知った事ではなし。
「刀剣狩り」を狩ったとなれば、裏でも表でも箔が付くというもの。』

「……。」

小さくため息。
予想はしていた事だが、「刀剣狩り」を行っていた弊害が出てしまった。
想定していた弊害は主に二つ。
一つは自分の首を名を上げるダシにされる事。
もう一つは――

『それに、其方が集めた刀や剣――闇市にでも流せば、軽く財を築けるというもの。』

そう、こうして欲の皮の突っ張った奴に回収した魔剣の類を狙われる事。
どちらも、事を始める前にある程度覚悟はしていたが、いざ直面すると中々面倒だ。

『――――、「刀剣狩り」の噂に終止符を打つ男の名だ。
冥途の土産にでもするがいい。』

着流しの男は、その言葉と共にすらりと刀を引き抜く。
それを見て、黒いコートの男は少し目を潜めた。

(先日の奴ほどじゃないが、妖刀か。
――公安だと言った兄さんに、「狩り」は廃業すると言ったが。)

これは明らかに「自分を狙って売られた喧嘩」。
ならば、自己防衛という言い分が成り立つ。

「――いいぜ。
本当に冥途の土産になる程の名前か、一手御指南願おうか。」

言いながら、黒いコートの男はコートの中から刀を取り出し、すらりと引き抜く。

九耀 湧梧 > そして、数刻の後。

「――生憎、お前さんじゃ「刀剣狩り」に終止符を打つには聊か実力が不足していたようだな。」

ため息交じりに、黒いコートの男はひゅん、と刀を振る。
その刃に血の曇りはない。

先程まで気炎を上げていた着流しの男は、白目を剥いて地面に倒れていた。
その手元からは、薄紫の瘴気を上げる打刀が転がり落ちている。

「恐怖心を取り払って気を昂揚させる妖刀か。
全く…刀の力に頼って、とんだ大口だね。」

とは言ったものの、この刀を見逃して他人の手に渡せばまた危険がある。
力のない者が手にしたら、恐怖心を忘れて格上に無謀に挑んで、命を落としかねない。
力のある者が手にしたら、気性次第だが…凡そは恐怖心という枷を失った狂戦士の出来上がりだ。

「……ま、これも「正当防衛の一環」で見逃して貰うか。
いざとなれば、あの兄さんが現れた時にでも押し付ければ良い。」

言いながら、黒いコートの男は転がる刀に慎重に手を伸ばす。

スラムの表通り > 翌朝。

スラムの大通りに、簀巻きに縛られた上に猿轡を噛まされた着流しの男が、
《この者辻斬り強盗の輩》の貼り紙と共に転がされていた。

その後、風紀委員の調査で、実際にこの男が辻斬り及び物取りの類に手を染めており、お縄になったのだが、
男の愛刀であったという妖刀は遂に見つからなかった。

スラムや落第街の口さがない者の中には「刀剣狩りに挑んで返り討ちにあったのだ」と、
噂しあう者もいたとかいなかったとか。

ご案内:「スラム」から九耀 湧梧さんが去りました。