2024/08/09 のログ
八ツ墓 千獄 >  
「御冗談を。(わたくし)は面食いで御座います故」

男の視線の先、一振りの剣を持つ正気を失った男を一瞥する。

「掃除を手伝え、とでも? 気乗り致しませんね…。
 貴方ごと斬滅してよろしいのであれば、渋々ながら承諾いたしますけれど」

あまり斬って楽しそうな的でもない。
気乗りしない風な表情を隠しもせず、男にそう告げる。

「アレでは救いの余地もない。
 握る剣に思いの丈もなければ、共に紡いだ物語もないのでしょう。
 不潔なモノは不快です。片付けるなら早々にお願いしたいところですけど?」

どうしても屍人を己が刃で斬りたくないといった様子の女。
なかなかの我儘な女でもある。
誰かしらが見ていれば、ますますそんな女をやめておけと忠告するだろうに。

九耀 湧梧 > 「掃除の手伝いは端から期待してないさ。
あの厄物を持ち帰りたいというなら、少し気を遣う必要があっただけだが、
興味が湧かないと言うなら――」

――此処で始末しても文句はなかろう。

その声と同時に、黒いコートの男は大きく前傾姿勢を取り、


瞬間、風が舞う。

黒衣の女であれば目で追う事は可能だろう。
一歩の踏み込み、一度の抜刀で、巻き起こるは小規模な斬撃の嵐。
斬り裂かれた屍骸たちが地に伏す前に、更に神速の踏み込みで次の集団へと突っ込み、また殲滅。

それを幾度か繰り返す間に、屍人の群れはたちまちに「掃除」されていった。女には返り血すら向ける事もなく。
何かしらの仕込みでもしたのか、屍骸はさながら日に当たった吸血鬼の如く塵となっていく。

そして最後の一人。
禍々しい邪剣を手にした男に、

「――悪く思うなよ。」

それだけを告げ、心の臓を真っ直ぐに突き通す。
素早く抜いた白刃には血糊一滴残さず、背中から噴水を上げて、邪剣に魂を奪われた男は永遠に解放された。

「……こいつは、「廃棄物件」だ。」

返す刀で、邪気を放つ邪剣を一閃。
真っ二つとなった邪剣は、まるで一気に数十年が過ぎたようにぼろぼろと風化し、只の屑と化していった。

八ツ墓 千獄 >  
「───」

風を巻き起こし、男が屍人の群れへと踏み込んでゆく。
女は血の色の眼でそれを追い、またたく間に血風を吹かせるその様を瞥すれば。
その全てを見ることはなく、背を向ける。

………

……



程なくして、男は邪剣をその持ち手と共にこの世から抹消する。
その様を見届けたかの様、に男には再び、女の声が。

『───鈍らにはなっていない様で、何よりです』

辺りの建物を反響する様に、耳へと届けられる。

『件の剣に関しては…またの機会にお尋ねすることにしましょう。
 …期待外れの答えは求めていませんので、悪しからず───』

一陣、強い風がスラムを強く撫ぜる。
路地に舞った血風ごと、声をその場から掻き流す様な突風が吹き抜ければ。
あたりには女の姿も、声もなくなっているのだった───

九耀 湧梧 > 「――ああ、それじゃまた次の機会にな。
怖いお兄さんに不覚を取るような真似はしないでくれよ。」

聞こえているかも分からないが、最後にかけられた言葉にはそう返す。
地面に転がる、鉄屑と化した邪剣だったものを一瞥し、ぐしゃ、と踏み砕く。

「全く……お互い、興が削がれちまったようなものか。」

小さく愚痴を漏らし、音もなく刀を鞘に収めると、男もまた歩き出す。
黒いコートと赤いマフラーが風に靡く。


――そして、その場には踏み砕かれた邪剣だったものの成れの果てと、一人の男の遺体だけが残された。

件の男はスラムで辻斬り紛いの真似を起こして風紀委員に追われていたのだが、そんな事は
去った二人には知る筈もなく、どうでもよい事でもあり。

結局、何者かに返り討ちに遭ったのだろうという形で、遺体と邪剣の残骸だけが収容される事になったのだった。

ご案内:「スラム」から八ツ墓 千獄さんが去りました。
ご案内:「スラム」から九耀 湧梧さんが去りました。