2024/08/25 のログ
■Dr.イーリス > 廃ビル。屋上に誰がいるか確認を怠っている野良の科学者。
誰もいないビルだと思い込んでいる
「この廃ビルには多分誰もいません! 実験の準備は完了しました。あとはこのスイッチを押すだけです」
廃ビルの最上階。
イーリスの右手に謎のスイッチ。そんなイーリスの傍に《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》が佇む。
そしてこの野良の科学者だが、壁に隠れていた。
イーリスが扉の向こうを覗く。そこにあるのは、半球状の謎の装置。直径一メートルぐらい。
「それでは実験開始です! 多分屋上に誰もいないから大丈夫でしょう! ポチッ!」
スイッチが押される。
すると、半球状の装置の上部から、レーザーが発射された。
レーザーは天井を突き破る。天井にいる人が当たりそうなところスレスレのところをレーザーが過ぎ去る。
レーザーはそのまま上空二千メートルに到達。
バアアアン!! と、レーザーがとても大きな花火と化した。
イーリスは装置の傍まで走っていき、天井に空いた穴の下から大空の花火を見上げて満面の笑み。
「成功しました! 大上空大花火装置! もはや、どのような花火職人をも凌駕する、究極の花火完成です! なんと、天井をも突き破る破壊力をもった花火でございますよ!」
■赫 > 「…あれ?何か嫌な予感がするぞ?」
スラムや落第街に住まう者として、大なり小なりあるであろう直感というか危機感知みたいな何か。
言葉にするのは難しいが、虫の知らせみたいなものと思ってくれれば分かり易いだろう。今がそれです。
瞬間、天井――彼は屋上で一服していたのでこの場合は地面か。を、突き破って――親方!下からレーザーが!!
「うぉぉぉぉぉ!?何じゃこりゃーーーーーーーー!?!?」
え!?もしや”ギフト”連中の襲撃!?今までと違ってレーザーとか科学的なんだけど!?
危うくジュッ!となって死ぬ所だったよ…!!
「…って、…うぉぉぉぉ…!!」
何か上空に向かって直進したレーザーが花火に変わった。
すげぇ、レーザーから何で花火が!?よく分からんけど凄い!…が、それはともかく。
「って、そうじゃね!!おーーーーーーい!!!誰だか知らんけど、やるなら無人なのきちんと確認大事!!!」
と、綺麗にレーザーで穴が開いた屋上の地面から顔を覗かせて、大き目の声で下へと注意喚起。
こちらが嫌な予感を感じて無ければ、下手すれば気が付かない間にレーザーでご臨終していた可能性がある。怖い。
■Dr.イーリス > 誰もいないと思っていたビルの最上階から大上空大花火装置をぶっ放した。
綺麗な花火が上がった。
なんだか、天井に空いた穴の向こうから怒鳴り声が聞こえた。
「ひ、ひいいいぃ!? ひ、人がいました……!? ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさいいぃ! お怪我はありませんでしたか!?」
ぺこぺこと頭を下げて、謝罪。
そしてその顔を見上げて。
「ひ、ひ、ひいいいいいいぃぃぃぃ!? その赤髪に紅眼……。あ、あ、あ、あなたはもしや……睨みを利かすだけで落第街の不良達をも卒倒させ、言葉を発すれば破壊の咆哮になりビル群を廃墟に変え、ひとたび動作するだけで神々をもびくつかせる、伝説の《悪竜》!?」
イーリスの顔が青ざめる。
と、とんでもない方に、花火ビームをぶっ放してしまった……と焦っていた。
「な、な、なんて事をしてしまったのでしょう……!? えっと、その、そうです……! 後で楽しみにしていたお饅頭あります! このお饅頭で許してください!」
お饅頭を天井の穴に掲げて、またぺこりと頭を下げた。
■赫 > 「怪我は無いけど、あとちょっと位置がズレてたら一瞬でジュッ!となってたよ!ジュッって!」
擬音で表現するとお馬鹿みたいだが、多分分かり易いと思うのでそうした。
実際レーザーなんて完全に不意打ちで喰らったら普通に人間だから死にます。死にます!
「……え?」
あ、うん。【悪竜】の名称は”ギフト”持ち連中を中心にそこそこ広がってるから、それ以外の連中が小耳に挟んでてもおかしくない。
…ないんだけど、何かおかしな尾ひれが付いてとんでもない事になってません?
「あー…【悪竜】は確かに俺だけどさ。それ、噂に尾鰭が付いてるだけでそこまで化物じゃねーぞ!」
うわぁ、尾ひれのせいで過大評価になってるぅぅ…と、内心で嘆きながら思わず片手で顔を覆って溜息。
睨みで卒倒とかどんなプレッシャーの持ち主なんだ…破壊の咆哮とかできねぇよ…あと神々がビビるとかどんだけやばいの俺…。
何か恐縮した様子の少女が、何やら天井の穴、つまりこちらに向けて饅頭を掲げた。
いや、別に取って食わないし女の子から食べ物巻き上げる気もねーんだけど。
この距離だと話し難いので、そのまま穴からひらり、と飛び降りて。
割と身軽な動きで、時々落下の速度を減衰するように穴の縁に手を引っ掛けたりしながら。
やがて、少女の近くにすたっ!と着地するだろう。改めてそちらを見つつ。
「うぃっす。取り敢えずアレだ、饅頭は別にいらんからオマエさんが普通に食えって。楽しみにしてたんだろ?
あと、まぁ結果的にいい花火?見れたしもう気にすんな。お屋上でぼんやりしてた俺にも悲はあるしよ。」
気さくに軽く右手をよっ!と挙げて改めて挨拶をしつつ。初手レーザーの出会いとか斬新すぎるが。
■Dr.イーリス > 「そこはごめんなさい……! 飛行戦艦をも木端微塵に吹き飛ばす花火レーザーですが、お噂通りの《悪竜》さんなら……なんとかなったと思います……! いえ、だからと言って、花火レーザーを人に向けて放っていいというわけではありませんが……。お怪我がなくてよかったです」
お怪我がなくて、ひとまず安堵の息を吐いた。
イーリスは、高名なる《悪竜》にびくびくと震えている様子。
「や、やはり《悪竜》さん……!? 知り合いのルビー山本さんもメールで『《悪竜》、あいつだけはやばいんだよねぇ! むかつくんだよねぇ!』とか言ってました……!」
なんかイーリスとギフトを受け取っている《ネオ・フェイルド・スチューデント》のルビー山本が敵対しているみたいな感じだけど、
敵対しているというのはその通りだが、元々同じ不良集団にいたのでお互い連絡先を知っているのである。
「ひゃあぁっ……!!」
《悪竜》さんが跳び下りてくると、震えながら二歩後退った後、転んでお尻を地面につけた。
「わ、私食べてもおいしくないです。お饅頭の方がおいしいです。お、お饅頭だけでは足りませんか……!? か、かくなる上は……スラムのおばちゃんにいただいたみかんもつけます……!」
みかんを取り出して、《悪竜》さんに差し出す。
花火を褒められると、途端にどやっとしながら立ち上がった。
「ふふ。お褒めいただきありがとうございます。なにせ、徹夜で造った花火ですからね。私の完璧なる発明、楽しんでいただけて嬉しいです」
そう言って、自信満々に胸を張っていた。
■赫 > 「…うん、流石に下から合図も無しに不意打ちレーザーは厳しいからな?あと、飛行戦艦を木っ端微塵は洒落にならんわ!!」
いや、さっきは虫の知らせで何とかレーザーでジュッ!とならなかっただけで、そんなの防ぎようが無い!
あと、俺の噂は絶対誰か面白がってある事ない事を付け足している気がする…!!
しかし、こう女の子に普通に怖がられると地味にショックでかいな…うん…。
「ルビー…あー、何か毒霧?かまされたから、回避してカウンターで一発顎に良いの当てたんだけど…。」
ちなみに、そのルビー何とかさんにも軽く挑発してから退散したので、あちらからすれば腸煮えくりかえる相手だろう。
と、いうかあのルビー山田?山本?と少女は繋がりがあったらしい。悪い事したかな…。
「あーでも、そのルビー山田はオマエさんの知り合いなのか。悪い事したな。」
と、素直に申し訳なさそうに苦笑い。あの時は少年も追っかけられてて余裕があんまし無かったのだ。
あと、完全に脅えられてる様子にまた少しハートにダメージが…!!
「だから落ち着けって。別にオマエさんを取って食うつもりもないし饅頭もミカンもお前さんが食べろって。」
ここでヒートアップしてツッコミするとまた脅えられそうなんで、頑張って落ち着いた態度でそう諭してみたい。
――あ、いきなり自信満々のドヤ顔になった。胸を張っているが切り替え早すぎんかこの子。
「――発明…へぇ、若いのにすげぇんだなぁ。俺みたいな馬鹿にゃ詳しい仕組みとかさっぱりだけど…。」
見た感じ10歳くらいだろうか?勿論、この島で外見と年齢が釣り合わないのは珍しくは無いが…。
「あ、それと俺の名前は【赫】な?【悪竜】呼びもまぁいいけど、出来りゃそっちで呼んでほしいかも。」
と、小さく笑って肩を竦めてみせながら、「で、天才発明家なオマエさんの名前は?」と、尋ねてみたい。
■Dr.イーリス > 「いかなるものにも阻まれず大空に綺麗なお花を咲かせる、そのような花火を目指しました! 飛行戦艦でもこの大上空大花火装置から打ち上げられる輝かしき大空のお花を邪魔する事ができない、そんな設計ですね!」
楽し気に、開発コンセプトを語っている。
上に何があろうとも、それらに負けず、空に綺麗な花火を上げる。そんな夢を語って、きらきらと瞳を輝かせていた。
花火をつくる上ではたしてそれが正しいコンセプトなのかは、考えてない。
「今や謎に力を得て凄く強くなってしまったルビー山本さんを軽々と……。《悪竜》さん、恐るべしです。いえ……ルビー山本さんは謎の仮面集団に加担していてとても今はもう取り返しのつかない程凄く悪くなってしまってるので……。私の知り合いと言っても、カウンターを決めた事はお気になさらずです。むしろ、私のかつての仲間があなたにご迷惑をかけてしまったようで申し訳ございません。私も……ルビー山本さんに殺されかけてます。かつての仲間が数人、実際に殺されています……」
イーリスは、悲し気に暗く視線を落とした。
かつての仲間が謎の仮面集団に加担して暴れまわり、イーリスやその仲間を殺しにかかり、そして実際に殺害された仲間も複数いる……。
「お饅頭とみかん、私が食べてもいいのですか……!? とても楽しみにしていたので助かります……!」
現金な事に、大切そうにお饅頭とみかんを仕舞った。
「あなたもとても若いではございませんか。私と言うほど年もかわらないように思いますよ」
改造人間で体の年齢がとまって、外見年齢は10歳程だけど実年齢14歳。悪竜さんとはそう離れていなかった。
「赫さんでございますね。私の事は、Dr.イーリスとお呼びください」
そう名乗って、笑みを浮かべてみせた。
■赫 > 「あぁ…だからレーザー式で真っすぐ上空にすっ飛んで行ったのか…。」
いや、花火を邪魔する飛行戦艦がまずこの島に無いよ!!この子は過剰な想定をし過ぎでは!?
…まさか、これがマッドサイエンティストの類なんだろうか?まだ若いのに…。
けど、楽し気に目をキラキラさせて語る女の子の熱弁に水を差すのも悪い気がする。
【悪竜】のソレで、少年を知らない者はどんな怖ろしい奴か悪人かを連想するだろうが、実際はこういう男だ。
「いや、俺は三流剣士だから大した事はねーよ。それにこの街には強いのなんてゴロゴロ居るし。
――あー、成程ねぇ。…その仮面、白黒のデザインだったりする?」
と、少女の言葉に僅かに目を細めて。迷惑については「気にしてない」とばかりに手をヒラヒラしてみせるが。
…まぁ、矢張りどこかで死人は出るか。”ギフト”を得て力を発揮する奴は強さがピンキリありそうとはいえ。
(…なら、俺の個人的感情とかは置いておいて、少しは止めに走るのも吝かじゃねーわな。)
悲し気に視線を落とす少女を眺める。安易な同情は彼女の為にならない。
そもそも、さっき斬新な出会いをしたばかりの赤の他人――少年が変に責任を感じる必要もない。
「――わーった。そのルビー何とかに出くわしたら、遠慮なく叩きのめしとくわ。」
そのくらいはしておこう。それでヤツの心を圧し折っておく、荒療治だがそれくらいしないといけない。
蜜柑と饅頭については「おぅ」と短く答えて。繰り返すが女の子から食べ物を巻き上げる趣味は無い。
「え、そうなん?俺16だけど…アンタ…じゃねぇ、イーリスは何歳なん?」
矢張り外見と実年齢が違うタイプらしい。勿論、イーリスが改造人間という事は初対面なのもあり知らないが。
「まぁ、でもアレだ。【悪竜】の俺が言うのもアレだけど、仮面の連中には気を付けてな。
特に俺は奴らに”喧嘩を売った”ようなもんだから連日追い回されてるし。この辺りにも顔を出すかもしれねぇ。」
彼女の発明とかからして、戦闘能力も十分ありそうに思えるが、最低限の忠告はしておきたい。
仮に、だけど自分のせいでイーリスや誰かが怪我したり余計なトラブルに巻き込まれるのは御免だ。
■Dr.イーリス > 「その通りです! 本当は地下から打ち上げ実験したかったのですが、廃ビルを貫通させてしまうと穴が空く天井の数が増えます。なので最上階の天井だけ穴が空く実験で妥協しました」
廃ビルとは言え、妥協してるのに結局天井に穴は空けてる。
「神々をも慄かせる《悪竜》さんですら三流……。この島には、《悪竜》さんですら三流と言わしめる程の隠れた実力者がそこら辺にいるのですね……。わ、私は……神々を超えるその陰の実力者の存在にすら気づかず、のうのうと暮らしていました……。神々を超える隠れた実力者の存在に気づいてやっと三流というレベル……。この島は奥が深いです……」
なんだか深く考え込んでしまった。
この説が正しければ、おそろしいインフレが始まりそうである。
「……そうですね。白黒の仮面……。最近世間を騒がせている方々です……。《悪竜》と呼ばれるあなたは、とても大変な目に遭われているみたいですね……」
俯きながらこくんと頷いてみせた。
「……ありがとうございます。……私からお願いするのも申し訳ないのですが、ルビー山本さんに出くわした時は、落とし前をつけさせてやってください……」
赫さんに深々と頭をさげる。
もうかつての仲間をも手にかけているルビー山本だ。その罪は、許されざるもの……。
被害も拡大させているので、なんとしても止めなければいけない……。
「私はこう見えて14歳なので、二つしか変わらないですよ。私、改造してしまった方が何かと便利なので、自分で自分の体を改造してるのです。改造してしまった結果、予想外に体の成長が止まりました……」
体の成長が止まった事に、イーリスはズーンと落ち込んでいる。
自分で自分の体を改造してしまったマッドサイエンティストなので自業自得である。
「ご忠告ありがとうございます。あなたがとても大変なのは聞いております……。世の中助け合いです。仮面さん達に追われて何かお困りごとありましたら、ご連絡してくだされば助けになりたいと思います。連絡先の交換致しましょう」
そう言って、イーリスはスマホを取り出した。
■赫 > 「な、成程…まぁ合理的ではあるか…つーか、ほんと俺に直撃しなくて良かったわ…。」
位置関係がかなりギリギリだったので、マジで運が良かっただけに過ぎない。
本当に恐ろしいのは異能とか魔術ではなく人の技術の結晶…科学なのではないか?
なんて、無駄にシリアスに考えてみたが、ガラじゃないので止めた。
「おーーい、そこまで深く考えすぎるとキリが無いぞー?
あと、この島が奥が深いのは同意するけど、多分俺達が一生賭けてもそこは解き明かせない永遠の課題みたいなもんかなって。」
神も、悪魔も、人も、そうでない者も、異世界の住人すら混在するこの島は。
深く思考に没頭してしまうと中々戻ってこれなさそうだし――既にインフレ始まってる気がしないでもない。
(実際、とんでもな姐さんとかに遭遇したし、本当この島はすげぇよな)
勿論、天才発明家な少女だって十分凄いんだけども。
白黒の仮面については、やっぱりなぁ、と溜息。連中が特に敵対視してる一人が自分だ。
「まぁ、ちょっと家を破壊されて仕事も休業状態なのと、野宿生活で金がじわじわ減ってるくらいかねぇ。」
普通に大変だった!だが、命があるだけマシだし連中の襲撃や追撃もだんだんパターンが読めてきた。
それは分析と言うより経験則というものだ。短期間で無数の能力者や魔術使いから逃げ回っていればこれくらい身に付く。多分。
「――おぅ。その”依頼”承った…なんてな?今は休業中だけどこれでもスラムで何でも屋やっててさ。
ルビー何とかに遭遇した場合、遠慮なくとっちめてやるさ。」
あ、依頼報酬は何か面白い発明品見せてくれればいいぜ?と、気楽な笑顔でそう付け加えて。
けれど、思ったより同年代だった事と――便利だからとはいえ、自ら改造している事に目を丸くして。
「…そ、そういうもんなのか。俺は生身の体が一番だから、仮にイーリスみたいな技術持ってても自分改造は出来んなぁ。」
あと、そりゃ成長止まるよなって。それで成長が続いてたら…うん、イーリスの発育は年齢相応になってたと思う。
10歳くらいの見た目は改造による成長停止のせいか…と、改めて納得した。
「…え?いやぁ、でもイーリスに迷惑掛けんのもなぁ…まぁ、正直今は色々困ってはいるから有難いけど。」
何せ…『家無し、金無し、職無し』の三重苦である。
金はへそくりがあるし、職も単に休業中なだけだが。
結局、少女に迷惑を掛けるのは悪いと言いながらも、こちらもスマホを取り出して連絡先交換を。
「よし、登録…っと。うーん、頼れる伝手が出来たのは嬉しいが、今回の騒動はあんまり巻き込みたくねぇなぁ。」
イーリスも、知り合いも。とはいえ、自分から関わるなら止める事は出来ないけれど。
■Dr.イーリス > 「上部にあるものを吹っ飛ばす仕様の花火レーザー……屋上に人がいたにも関わらず、死人が出なくて本当によかったです……」
以後気をつけなければ……と、イーリスなりに反省して。
「一生かけても解き明かせない、ですか……? 解き明かせない謎……研究者としてとても興味のある課題ですね!」
好奇心で瞳をキランとさせてしまう。
この島で神々や悪魔にも会った事がある。
底の見えない好奇心が、解き明かせない謎の解明を求めてしまっていた。
「お家もなくお仕事休業……!? と、とても大変な事になっているではございませんか……!? 赫さん……とてもお可哀想に……」
眉尻をさげる。
狙われて、住処奪われて、仕事も奪われて……とても散々な目に遭ってしまっている様子……。
「何でも屋をしていたのですね。私も、いえ私達も便利屋を少しずつですが初めている身です。お家もなくなっているのでしたら、私達の事務所に来てみませんか? ちょうど今改装中でちょっと大きくなります。家主のエルピスさんも快く迎えてくださると思います。ナナさんというとても素敵な同居人もおりますね」
にこっ、と笑みを浮かべて、イーリスは赫さんに右手を差し伸べた。
「ご両親から授かったご自分の体を大切になされる事もとても良い事だと思います。私は、生みの親のお顔を知らないのでそういった考えに及びませんが」
元はスラムの捨て子、つまり生みの親にあんまり良い印象を抱いてないイーリスは、親から授かった体を大切にするという思想が抜けていた。
そうして連絡先を交換した。
■赫 > 「まぁ、インパクトがある初対面にはなったな…それにまぁ、俺は無事だし過ぎた事だしな!」
最初こそ度肝を抜かれたが、ちゃっかりレーザーの行く末を見上げていたので花火もばっちり見ていた。
(――あ、イーリスはアレか、根っからの研究者タイプか…)
好奇心で瞳がきらっきらしていらっしゃる。
彼女もおそらく神様や悪魔に遭遇した事があるとして。
それでも解明したい、という純粋な探求心と好奇心。
分からない事があれば知りたい、解明できない謎があるなら解き明かしたい。
それは、きっと特別な事ではなくて当たり前の感情や思い。彼女はそれが”とても強い”のだろうな、と思う。
「あーうん。白黒仮面の連中は俺に憎悪凄いからなぁ。家は破壊されるわしょっちゅう襲撃されるわで…。」
おおぅ…年下の女の子に同情されると自分がすげぇ情けない…!
だが、【悪竜】と自ら名乗りあちらを挑発したのはこちらの自業自得だ。この結果は予測できたであろうもの。
「ん、2年くらいだし実績もあんましない零細だけどな。
―――って、ナナ?…変身能力があって、基本白髪の美少女で肉が大好きっぽい感じの?」
まさかここで知り合いの名前を聞くとは。偶然かもしれないので思わず質問してしまった。
あと、竜を討伐していたら確実に俺の知ってるあのナナで間違いない。
「いや、でも俺みたいなのが行ったらそっちが大変になるぜ?
少なくとも、仮面の連中から俺は結構恨まれてるからさ。そっちの家主さんとかナナとか…あとイーリスにもとばっちり必ず来そうだし。」
にこりと笑顔で手を差し出されても、流石に少年も即答は出来なかった。
少なくとも【悪竜】を招くという事は、彼女たち3人ももしかしたら今回のギフト騒動に少なからず引き込まれる可能性があるかもなのだし。
「――要するに【悪竜】という疫病神。それを抱え込んでもいいなら…お言葉に甘えるよ。」
あと、俺も元は落第街の孤児だから親の顔は同じく知らないぜ?と、小さく笑って。
連絡先も交換したし、本来ならこれでお別れが無難で安全だ。
――だから、少女が【悪竜】を招き入れるか否かは、大袈裟に言うなら一つの分水嶺、分岐点だろう。
差し出された手を見つめたまま、イーリスの言葉を待つ。
■Dr.イーリス > 「ふふ、赫さんはとても心がお広いですね。ありがとうございます」
瞳を細めて微笑んだ。
「とりあえず、白黒仮面の一員であるルビー山本さんの反応で、あなたの憎悪は推し量れますね。お噂も耳にしますし、データ観測の結果も、あなたが今危ない状況であるのは理解します」
《悪竜》さんが何をしてここまで仮面さん達に狙われているかまでは、分からないけれど、ひとまず《悪竜》さんが物凄く仮面さん達に追い回されているという情報は入っていた。
「二年なら、便利屋の大先輩ではございませんか。ナナさんをご存知なのですね。そうです、白髪のとても可愛らしい美少女です。なんと、ナナさんは誰かと組んで竜をも討伐してしまう程の方なのですよ!」
そのナナさんであると、こくこく頷いてみせた。
「私達の事務所『数ある事務所』にとって、誰かに狙われているというのはもはや今更ですね。狙ってくる組織が一つ二つ増えたところで、今更そう変わらないでしょう。元を返せば匿うという目的で少し前に再稼働した事務所です」
家主のエルピスさんは《英雄継承プロジェクト》の関係者(主任はまだ把握してない)、ナナさんは《人類進化研究所》、イーリスは《紅き屍骸》と《ネオ・フェイルド・スチューデント》に狙われている。
赫さんを匿ったところで、そこに仮面集団さんが増えるだけである。
再稼働で匿われたのは他でもなくイーリスだった。匿ってくれたエルピスさんに、イーリスは今でもとても感謝してる。
「という事で、《悪竜》さんを歓迎致しますね」
にこりとイーリスは笑顔を見せる。
差し出された手をイーリスは引っ込める事をしなかった。
■赫 > 「まぁ、結果良ければ全て良し!…とは限らんけど今回はそんな感じって訳で。」
こちらは気楽な様子で笑いつつ、やっぱり発明家、研究肌なだけって分析や推測が鋭い。
(…こりゃ、俺が狙われる理由もきちんと折を見て話さないといかんかもなぁ。)
少なくとも、ここ数日のこっちの行動と仮面の連中の大まかな行動パターン。
推測だけじゃなくて――何かしら観測もされている。データ収集の手段が色々あると見ていい。
「いやいや、零細って言ったろ?あんまし知名度も実績も恥ずかしながらないんだよ――あ、その組んだ共闘相手が俺なんだな実は。」
そして、どうやら自分が知るナナで間違いないと把握すれば、彼女が口にした竜の討伐――共闘した相手が己であると自らを軽く指さして笑う。
「あーー…つまり全員訳ありって事ね。それに対応できるあれこれも備えてると。」
困ったように頭を掻いた。そうなると、今の少年にとっては貴重な”安全地帯”にも成り得る。
とはいえ、家主さんや知り合いであるナナはどういう反応をするやら。
あっさり受け入れてくれるのか条件付きになるか。そこは話してみないと分からないが。
「…わーったよ。しばらく世話になる。勿論、家事とか諸々の手伝いはきちんとするぜ。」
こちらの気遣いも杞憂でしかないくらい、少女も同居人たちも逞しく強いらしい。
根負けしたように、苦笑を浮かべながら少女の差し出されたままの右手を取った。
「つー訳で改めてよろしくなイーリス!」
【悪竜】は後にこう語る…「この子色んな意味で強ぇわ」と。
■Dr.イーリス > 「お恥ずかしながら、私は便利屋稼業の経験がありません。経験者はとても頼りになります。ナナさんと組んで竜を倒したのですか……!? 竜と言えば、その鋭き爪は戦車をも粉々にし、その硬き鱗は鋼よりも頑丈、信号機をも高々と見下ろし、口から吐く炎は一瞬にして森をも灰にする破壊者……。それを葬ってしまうなんて……やはり《悪竜》さんの噂通り、凄い方ではないですか!」
竜討伐お見事、とイーリスはぱちぱちとお手てを叩いていた。
「そうなりますね。みんな訳ありで、仲良く助け合って暮らしております」
微笑みながら、頷いてみせる。
「よろしくお願いしますね、赫さん。それでは、私達の家『数ある事務所』にご案内致しますね。その前に、大上空大花火装置を運び出さなければです」
ずっと突っ立っていた漆黒のアンドロイド、《メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》が動き出し、両手で半球状の装置である大上空大花火装置を持ち上げて、窓から跳び下りてしまった。
地上にあるトラックに、装置をドシンと乗せる。
イーリスはその後、普通に階段で降りてトラックの運転席に乗った。赫さんには助手席に乗るよう促す。
大きな《メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》は、トラックのバンに縮こまって乗った。
赫さんが乗ったならトラックが発進!
新たな同居人を連れて、『数ある事務所』へと向かっていったのだった。
■赫 > 「いや、俺はあくまでドラゴンを引き付けて隙を作る”囮”役でな?トドメは破壊力のある一撃が出来るナナが担当したんだよ。
まぁ、お互い偶然ばったり遭遇したんだけど、成り行きで共闘する事になってなぁ。」
と、そんな事情を簡潔に伝えつつ、拍手をされたらやや照れ臭そうだった。
ノリが良く明るいわりに、自己評価が何故かかなり低い少年なのでこういう素直な称賛は慣れない。
「おぅ、よろしく――ってか、まさか居候する事になるとはなぁ。」
家主さんやナナにも挨拶せんといかんし…と、どうやら花火打ち上げの機会を運び出すみたいだ。
その様子を繁々と眺めていたが、「今更だけどその黒い…ロボット?アンドロイド?もイーリス作なのか?」
と、尋ねつつも様子を見ていたが普通にパワフルだし動きも割と身軽だな。
ともあれ、少年もトラックに乗って一先ず、居候先――『数ある事務所』に赴く事になるのだった。
「…あ、家賃どうしよ…。」と、いう呟きは余談である。
ご案内:「スラム」からDr.イーリスさんが去りました。
ご案内:「スラム」から赫さんが去りました。