2024/09/13 のログ
ご案内:「スラム」に角鹿建悟さんが現れました。
角鹿建悟 > 生活委員会の仕事とは別に、青年は個人で行っているもう一つの仕事がある。
無償で壊れた物を元通りに直す――通称【直し屋】。落第街やスラムの一部で多少知られた名。
以前と違い、狂的な直す執念は落ち着いて【創る】事に目覚めた今もそれは続いている。

「――それが、どうしてこうなったんだ…。」

スラムの一角…”比較的”平和なその場所で彼は数人の子供達に囲まれている。
瓦礫の一部に腰を下ろしつつ、右手には持ち歩いている工具箱型の魔導具から取り出した彫刻刀。
もう片方の手には掌に乗る程度の木塊。何をしているのかと言えば…木彫り人形作りである。
気晴らしに以前、木彫り細工を無心で作っていたらスラムの子供達に目撃されたのが切欠だ。

(…木彫りは久しぶりだが、意外と体が覚えているものだな。)

矢鱈と慣れた、そして異常に速い手つきでただの木塊が色々な人形の姿へと変化していく。
動物、人間、モンスター、ミニチュア建造物などバリエーションは色々だ。
子供達のリクエストに応じて、簡潔ではあるが律義に一つずつ木彫りを仕上げていく。

角鹿建悟 > 『兄ちゃんすげー!しかもはやーい!!』
『ねぇねぇ、何でそんなに上手く出来るのー?』
『それに、何かほんわかあったかい感じがするー』

子供達に次々と話し掛けられても、黙々と木彫り細工を仕上げていく青年である。
子供の相手は苦手だ…嫌いではないが。まぁ、こんな気晴らしで喜んでくれるなら別に構わないが。
出来上がった木彫り細工は、お守り袋を取り出してその中に入れて子供達に渡しておく。

「――…出来たぞ。ちょっとした”お守り”くらいにはなる。」

”角鹿の技巧には神性が宿る”――古くから一族とその周囲で囁かれた言葉だ。
その言葉は嘘ではない。自らの手で作り出した物に神性を宿らせる…それが角鹿の血筋の特徴だ。

この青年の場合も例外ではなく、木彫り細工全てに程度の差はあれ神性が確かに宿っている。
少なくとも、お守りくらいの加護はあるだろうし、彼らに持たせても問題あるまい。

角鹿建悟 > 一頻り、木彫り細工を作り終えて子供達に配れば、喜ぶ子供達に軽く手を振って見送る。

「…まぁ…良いか…。」

神性技巧と呼ばれるこの技能は、あまり軽々しく見せるものではないと言われている。
だが、この島で生きる者として――”角鹿から落ちた者”として、このくらいしてもいいだろう。

(…創作のヒントにも繋がるかもしれないからな…。)

そして直す作業の気晴らしにもなる。息抜きがド下手な男だが、少しは成長しているらしい。
静かになったスラムの一角で、工具箱に彫刻刀を戻してからゆっくりと息を吐く。

「…まさか、子供達に木彫り細工を作るなんて日が来るとは。」

少し前の自分ではまず想像もしなかった。今も正直想像出来ないけれど。
少しは――少しくらいは、俺も変われているのだろうか?

角鹿建悟 > 「…そろそろ帰るか。」

頼まれていた補修、修理修繕作業は全て予定通りきっちり終えている。
個人でやっている事だから委員会に報告する必要も無い。
そのまま、工具箱を片手に持って立ち上がれば、一度だけスラムを仰ぎ見て。

「……俺がしている事は、無駄では無いと良いな。」

ぽつり、と呟けばそのまま静かな足取りで帰路へと就こうか。

ご案内:「スラム」から角鹿建悟さんが去りました。