2024/09/14 のログ
ご案内:「スラム」に虞淵さんが現れました。
虞淵 >  
『グエンだな』

その日は珍しく声をかけられた。
まァ、最近ここらをチョロチョロとしてる仮面のネズミどもだ。

「懐かしいな」

「俺と理解った上で声をかけられるのは久しぶりだぜ」

地下闘技場帰り、スラムに似つかわしくない高級車から降りた男を待っていたのが、ソイツだった。

虞淵 >  
『俺が誰だかわかるか?』

声が震えてるぜ。
恐怖、なら声はかけてこないか。
じゃあ、怒りか。
それとも武者震いか。
まァ。
なんにしても──興奮はしてるらしい。

「生憎、ダセェ仮面の知り合いは──」

いや、いたな。一人。
すっかり姿を見なくなって久しいが。

「…で」

「誰だよオマエは」

懐から煙草を取り出し、火を点ける。
白煙を燻らせながら、正面から相対してやるその男は、随分な痩躯だ。
俺に比べれば、だが。

虞淵 >  
『覚えちゃいねェだろうな』
『此処で生きる人間にとっちゃ、お前以上の"理不尽"はいないぜ』
『わかるか?』
『お前という"理不尽"に"反逆"する"権利"を俺は得たんだ』

「──寝ぼけたことを言ってるぜ」

理不尽、反逆。
前にノした連中も口々にそんな寝言を吐いてたな。

「くく…」

「お前は俺が"理不尽"だと?」

別に笑うつもりはなかったが。
あんまりにもソイツの言葉が可笑しすぎて、悪いとは思ったが零しちまった。

虞淵 >  
例えば、そこに超えられない壁があるとする。
ソイツはその壁を超えたいと思ったが、自分の一生をかけても壁を登れないと気付いた。
そんな壁がそこにあるのは理不尽だと男は吠えている。

あるいは

いわれのない暴力に曝され、ただ我慢するしか出来ない。
逆らっても勝ち目もなく、殴り返すことを諦め亀の子になる。
理不尽だ、自分が全力を用いても現状を打開することは出来ない。

「オマエ」

「俺が"何も出来ないことがない"とでも思ってるんだろう?」

───まァ、大方そうだろう。

『違うのか?』

『"俺は力で、身体一つで何でも出来る"…そういう雰囲気を纏ってるぜ』

虞淵 >  
「勘違いしているようだから教えてやる」

「理不尽の意味をな」

ズン───……。
スラムの一角が揺れる。
局地的な地震だ。
誰もがそう思う。
しかし現実は、男がその力を解放した"反動"だ。

『───!!』

仮面の奥から怯えが見える。
だが、ヤツは力を手にしたんだろう。
それを試さずに逃げることは在りえない。

『…ッ、死ね!!グエン!!!』

──なるほど、男の手にした力は、魔法か。
その両手を広げれば幾何学模様の陣が一瞬で浮かび上がり、辺りの空間を閉ざした
調子づくのも理解るってものだ。
そこらの大魔道士が顔負けの空間制圧魔法だろう。

虞淵 >  
空間圧縮、あるいは重力の力場の類。
吸っていた煙草が瞬間、ペシャンコに潰れ消えた。
身体にかかるGといえば──数百トンにはなるのか。
おいおい地面が陥没するだろう。
そう思ったが、ご丁寧に空間を閉ざすために展開された陣は足元までを覆っていたらしい。
好都合といえば好都合だが、種が割れたな。
答えは前者、空間の超圧縮か。

「いいか」

「"理不尽"ってのはな……」

明らかな狼狽の色が見える。
仮面の裏で、滝のような汗を流してることだろう。
他の動物で、人間で、あるいはもっと強靭な何かで、実験をして来てるだろうからな。
叩き潰された赤いトマトのように…一瞬でそうなることを想定してたに違いない。

「"向こう"からやって来て──」

一歩、踏み出す。
その一歩の意味は大きい。
空間が爆縮する圧の中で"動く"ということは
それを跳ね返す"力"を以て、空間を動かした──ということ。
瞬間、耳を劈く様な破砕音と共に閉鎖空間は砕け散る。

「"逃げようにもそれを押し付けて来る"もんなんだぜ」

白と黒の仮面の奥、
その目の前に立ってやれば…感じるのは最早、風前の灯の慟哭のみだ。

腕を振るう。
コイツは俺に立ち向かった。
なら──全力だ。

虞淵 >  
逃げられるもんなら逃げればいい
向き合わなくて済むなら向き合わなければいい
そうやって逃げられるものを理不尽と呼ぶのは…身の程をわきまえず噛みつきたいだけの我儘だ。

真の"理不尽"とは。
逃げられることも出来ず…
向き合わずとも見なければならず…
最終的には諦めを強要される。

俺達にとっての、『死』のようなものだ。

虞淵 >  
「───……」

目の前には、陥没した小規模なクレーター。
その中心には──さっきまで人の形をしていたモノが埋没している。

「だが我儘にしろ…」

舞い上がった白と黒の仮面が遺骸の上へと落ち、ピシリという音と共に真っ二つに割れる。

「噛みつく気概はいいモンだ」

「──借りモンの牙でなけりゃ、もっとな」

ご案内:「スラム」にエボルバーさんが現れました。
エボルバー > 蓋をされた闇の底で目覚める力達。
巻き起こる力の衝突。
衝突は秩序をかき乱し新たなるものを誕生させる。
世界が移ろいでゆく。


”ソレ”は誘われる。


前触れもなく
...ぽつりぽつりと闇に包まれた空から黒い粉。
それはだんだんと密度を増し、粉雪のような情景を作り出す。

...そしてこの場に一人しか居なくなった男の背後から
一つ、また一つと金属音。
それはあまりに重々しく地面を踏みつける。

虞淵 >  
コトは済んだ。
一服いれるかと煙草を取り出した、最中。

降る黒雪。
この島特有の気象…などではない。

「──こいつは…」

手元のZIPPOに落ちた黒雪、瞬間、剥げ落ちるメッキ。
どころでもない、腐食してゆく様子に、眉を顰めそれを地面へと捨て去った。

「"黒い砂塵"か」

「──こう見えて怪異には縁がないタチだったんだがな」

背後に響く重低音。
男もまた、重々しげに、背後を振り返った。

エボルバー > 男の背後に立っていたもの。
金属音を奏でていたもの。

闇の中から翡翠色の光が覗き込む。

黒い雪の中から現れたのは一体の人型構造体。
だがそれは只の人型というにはあまりに物々しい。
佇む男と同じ目線の頭部にはライトの如く緑色に灯る多眼。
背中には兵器のような構造が見える。

それは言うなれば黒い機械の鎧。

<キミに2つ質問がある。>

ソレはノイズがかった無機質な声で語り掛ける。
まるで頭の中へ直接響くような奇妙な声。

<強力な力を持ちだすものが頻出している。
落第街(ここ)で何が起こっている?
キミは何か知っているだろうか?>

1つ目。
言及するのはここら一帯でもホットな現象。
変化の起爆剤になり得るものに
ソレは興味を持っている。

虞淵 >  
「………」

「怪異と呼ぶには随分と機械的だな」

まァ、この辺りに流れている噂なんて宛にならないことのほうが多い。
得体が知れん、ということに変わりはないわけだ。

さて何の用か…と思えば、喋るときた。

「不躾なヤツだ」

「質問に答える前にまず名乗ってもらおうか。
 人語を解する、此処らの状況を識っている。多少なり知能は在るンだろう?」

「──それと降ってるこの黒い雪を散らしてもらおうか。
 気に入ってるZIPPOの2つ目がお釈迦になるのは困る」

そう言って、改めて相対する男は懐から男は煙草を取り出す。

エボルバー > 黒い機人は歩みを止める。
冷たい翡翠の視線は男を見つめたままで。

<...エボルバー。
そう、名前が付けられている。>

男の問いかけにそう答える。淡々と。
そうしていると男が何かを取り出した。
あれは何か。


>対象分析中...
>分析完了

>有毒物質を検出



<その草には、毒物が含まれている。
毒性物質を摂取する習慣があるとは、興味深い。>

ソレは男にそう告げる。

<雪は散らせない。
だがキミの希望に沿うことはできる。>

雪はソレにとって目であり手だ。
力を捨てるようなことはしない。

ただ、男のライターだけには黒い雪が降り積もらなくなる。
まるで雪が意思を持って避けているように。

虞淵 >  
「エボルバー…」

──発展、進化…する者。ってところか。

「コイツは人体には有毒だが」

「それはあくまでも一般人の話だ。
 ……それでも嗜好品として愛用する人間は多いがな」

成程、降っているコレは操作が可能らしい。
降らせること自体を辞めることは出来ない、とのことならば操作出来る範囲が限定されると見るべきか。
ともあれこれで煙草を火を点けることが出来る。

「──で、意思の疎通はとりあえず出来るようだ。
 一つ俺の希望を聞いてもらったことだし俺も一つ目の質問に答えよう」

落第街(ココ)で起こったことは大体俺の耳には入ってくるが…、
 今そこらを賑わせてるのはギフターとかいうヤツが起こしてる騒乱だ。
 理不尽への反逆、なんて謳い文句で人間に異能を与えて回ってるらしいが、そこまで信頼に足る情報はねェ」

「俺の背後で挽肉になってるヤツもそうだ。
 妙な仮面をつけて、イイ気になって己の想う理不尽ってヤツに噛みついてやがるのさ」

こいつで質問の答えになったかい、と言葉を続け、白煙を吐く。