2024/12/02 のログ
エルピス・シズメ >   
「そっか、イーリスのお義母さんが……。」

 僕らが生まれるより前に、イーリスの義母──シスター・ヒガサとその有志によって教会が設立されたらしい。

(……そして、みんなお義母さんの関係者(シスターヒガサを知る人)。)

 同時に、当時から現在に至るまでここを管理しているものはその関係者。
 十年前の落第街のスラムにて、最低限の秩序を保てていたのも納得だ。

「イーリスは、お義母さんの夢を……遺志を継げているんだね。」

 孤児院を出て、孤独から始まり、苦痛に耐え、
 かつての不良集団の《フェイルド・スチューデント⦆として心を冷やしながらも諦めずに生き続け、
 最終的に二級生徒から正規の生徒となって、風紀委員から生活委員に橋を架けて、
 指定保護区域《フェイルド・シティ》を主導した。

「……いーりすは、すごくがんばって今をつかんだんだね。」

 イーリスの十年の努力の結実。
 教会の管理者や義母の関係者の尽力もあれど、目の前に広がる光景はイーリスが掴んだもの。
 そう思うと、自分の事のようにうれしく思えた。
 

Dr.イーリス > 「私も、お義母さんがいなくなってから、神父さんや院長先生、お義母さんの友人達に聞いた話です。お義母さん達は、スラムを良くしようと凄く頑張ってたみたいです……」

お義母さんがいなくなったのは十年前で、イーリスが四歳だった頃。
お義母さんが凄く温かくて優しい人だと感じてはいたけど、お義母さんが成そうとしていた事まで当時のイーリスは知らなかった。

お義母さんがいなくなった後、教会は《フェイルド・スチューデント組》の前進である不良集団《常世フェイルド・スチューデント》のシマとして守られるまで、数年も無法地帯に置き去りにされた。
《常世フェイルド・スチューデント》の保護を受けてからは一定の秩序が戻り、現在では指定保護区域に入っている。

イーリスは目を細めて微笑みながら頷いてみせる。

「お義母さんが成そうとした事、私が叶えていきたいです。ふふ、お義母さんが帰ってきた時に驚いてしまうでしょうか」

十年前のイーリスは、何もできない無力な子供だった。
でも、今はこうして色んな人を守れる立場になった。
それは決して、イーリスひとりの功績ではない。

「ありがとうございます、えるぴすさん。私、色んな人達に支えられたから、ここまで歩んでこれました。えるぴすさん、あなたがいなかったら、私は今を掴むなんてとても出来なかったです。助けてくださった事いっぱいあった事はもちろんですが、加えてあなたがいなかったら私は幸せを掴む事もできていなかったですからね。それに、十年前に正義のロボットさんと出会っていなければ、この十年の間……きっとどこかで、私は挫けていました」

にこっ、と満面の笑みをエルピスさんに浮かべてみせた。

エルピスさんに何度も命を救われて、支えていただいて、さらに幸せを与えてくれて。
幸せをイーリスが感じる事がなかったら、誰かをこうして助ける事にもかなり苦労していた事は想像に難くない。
十年前に正義のロボットさんと出会って、正義のロボットさんに焦がれて、再会を願って頑張り続けた。あの出会いがなければ、えるぴすさんと出会う前にどこかで挫けていただろう。

エルピス・シズメ >
「…………うん。帰ってきたら、きっと喜ぶ。」

 いなくなって、十年間帰ってきていない。
 生きていて帰ってきてくれると考えるのは、夢の絵空事の様にも思う。
 だけど、それを言い出すことはできなかった。
 
「そうだね。色んな人の尽力のおかげ。
 でも……イーリスが頑張っている背中を見せたから、実現した事には違いないよ。」

 いつもの可愛くて無邪気なイーリスじゃなくて、
 強い意志を曲げずに想いと夢を貫き通した結果がここにある。

 十年間停滞していた希望が、少しずつ動き出している。
 ……そこに自分がいることが、ちょっとくすぐったく思う。

 共に歩んでいたイーリスが、大きな夢を実現させていた。

 指定保護区域も、最初は施策としてでしか意識していなかったこと。
 実際にイーリスと共に現場に来て、綺麗になりつつある区域で子供たちと共にしてその大きさに気付いた。

「あの時は大変だったけど……正義のロボットさんを名乗って、良かったのかな。」

 巡り廻って帰属した運命。
 時間を旅して、そうなることに帰結した運命を嬉しく思いながら、そっとイーリスに肩を寄せる。

「これからも一緒に頑張ろうね。いーりす。」 
 

Dr.イーリス > 「お義母さん、早く帰ってきてほしいです。お義母さんが喜ぶお顔が、見たいです」

明るく笑ってみせる。
お義母さんは太陽のように輝かしく、凄い人だから、きっといつか帰ってきてくれる。
今はちょっと、お義母さんは帰れない事情があるだけだ、きっと。

「私の頑張りで、みんなを笑顔に出来ているならとても嬉しいです。私、これからもみんなのために頑張っていきたいです……!」

ここまでくるのに、十年……。とても苦労した記憶……。

お義母さんがいなくなって、時間の流れが停まったかのように、スラムの救いの手も停まった……。
荒れ果てる治安、悪意が渦巻くスラム。
紅き屍骸に蹂躙されたスラム。ギフトを得た者達が暴れ回ったスラム。

それでも、十年の時が経って、ようやくスラムに光を灯す事ができるようになった。

「正義のロボットさんに出会えて、ほんとによかったです。あなたが正義のロボットさんとして十年前の私に出会いにきてくれたから、私は挫けずに十年を生き延びましたからね」

運命の出会いが二度。
十年前(正義のロボットさん)と、そして夏の暑い日(エルピスさん)

(あなたがいたから、私はずっと頑張ってこれました……)

えるぴすさんといーりす、ふたりは肩を寄せ合う。

「ずっと、私はあなたと一緒です。頑張る時も、楽しい時も、時には悲しい時も……。ずっと……一緒です」

満面の笑みで頷きながら、公園で遊ぶ子供達(十年の時を経て救えた子達)を眺めていた。
大好きな恋人(えるぴすさん)と肩を寄せ合って、元気な子供達の笑顔を見るのが、とても幸せ……。

お空がだんだんと暗くなっている。
イーリスは子供達に声をかける。

「みんな、帰りますよ! 今日は、シチューです!」

子供達「「「はーい!!」」」

いーりすはえるぴすさんに振り向く。

「今日のお料理は少し量が多いですよ。さっそく一緒に頑張りましょうね」

この後、孤児院でえるぴすさんといーりすは子供達にシチューをつくり、そして子供達と院長先生と共にシチューをおいしく一緒に食べた事だろう。

ご案内:「指定保護区域《フェイルド・シティ》」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「指定保護区域《フェイルド・シティ》」からDr.イーリスさんが去りました。