2024/11/15 のログ
ご案内:「黄泉の穴」にF.U.R.Yさんが現れました。
F.U.R.Y > スラムの奥底に空いた大穴に、何がいるかなど気にする輩はここにはいなかった。

ただ、巨大な”孔”に蠢く異形たちは、今か今かと外に出る機会を伺い。
孔の外はそれを防ぐ為に魔術的防護が張り巡らされている。

そのにらみ合いは、24時間365日欠かされることはない。
しかしてにらみ合いは”穴から出る”怪物に睨みを利かせているのみで……つまるところ、”外から入る”ことに関しては大した労力を必要としないものだった。



だからこそ、男はここをねぐらに選んでいた。
潰す相手に欠かず、自分の居場所を自分で確保する必要に迫られ……そして雑魚の入り込まないこの場所は、男にとっては騒がしいスラムよりも居心地の良い仮宿としておあつらえ向きだった。

F.U.R.Y > 「―――――ダァラ!!!」

蚯蚓が集まったような、3,4mほどの大蛇の頭を左拳で叩き潰す。
ただの人間を叩きのめすには十分な肢体も、この穴の中では異形の左腕以外は有効打足りえぬことがままある。
並外れた肉体も、この穴の中では容易に傷をつけさせる”天敵”が現れる事がままある。

そんな状況。狩るか狩られるかの鉄火場。
モラルやルールが完全に存在しないこの穴では、漁夫の利、不意打ちは当たり前の手段の一つでしかない。

ここの獣は、常に飢えているのだ。
頭部を破壊され沈黙した蚯蚓蛇の肉体を、近くにいた巨大な双頭狼がかっさらう。

「テメェ、人の獲物に手を出すたァいい度胸じゃねェか…!!」

すぐさまとびかかる男に、群れ蝙蝠が襲い掛かる。
気を取られればいつだって、獣たちは孤立したものを狙う。

「は――――ッ!!」

だが、ここの獣たちは知らない。
この小さき孤立した、柔らかい生き物がどれほど凶悪なのかを。



F.U.R.Y > 群れ蝙蝠の嵐を搔い潜りながら、そのうちの数頭を”噛み食らう”。
口の中で暴れまわる拳大の蝙蝠を咀嚼しながら、双頭狼に迫る。

全て、同時進行。

「人の飯奪った罰だ――――ッ!!」

双頭狼が吠え、数頭の手下を引き連れて飛び掛かる。
そのうち一頭に、左腕の鋭い一撃。
一瞬でミンチを作りながら、しかして迫る、二頭目、三頭目の牙を体に食らう。

「チッ―――!」

体から血が吹きながら、噛みついてきた数頭の体を強引に引き剝がし。
そのまま、二つの頭をかち合わせ、沈黙させる。


「ッハ…!」

残る一体、蚯蚓蛇を奪った双頭狼。
連れ従っていた狼共よりも二回りほど体格の大きなそれは、手下を下された事により完全に男を”敵”とみなしたようで。

男の周りをゆるりと回りながら、にらみ合いが始まる。

緊張感が、周囲のけだもの達にも伝わったのか。
双頭狼がこの穴でそれなりの”地位”を持っていたのか。

男と双頭狼のにらみ合いに、割り込むものはおらず――――

F.U.R.Y > 「……」

男もまた。
双頭狼が”この穴の中でも強者の部類に位置する”と理解する。
手下を従え、獣たちが怯えるように萎縮するのは、強者の証。

だからこそ、対峙する意味があった。

この穴の中で眠る方法。

それは――――

「テメェをノしたら具合よく寝れそうだな…ッ!」

周囲の獣たちに”圧倒的な力”を見せつけること。
強きものだけが与えられる。

権利を。

故に――――――


F.U.R.Y > 二つの獣が、ぶつかり合う。

「――――――ッ!!!」

異形の左腕を潰そうと、双頭狼が食らいつく。
それを受けながら、有り余る膂力で男が狼を振るいまわす。

技術は一切ないガチンコ。噛む力と、殴る力の、押し合い、引っ張り合い。

双頭の狼の頭捕らえ、地面に叩き付けんと力いっぱいに振るうも……狼の巨躯がそれを許さず。

逆に男の体を地面に叩き付け、岩盤砕きながら引きずりまわす。

「ッぐ!!」

背中と頭に焼けるような痛み。
割れたか、と思うような衝撃と、中身がはじけるように赤が飛び散る。
だが、負けじと足を踏み込みなおし、異形のかいなに力込める。

「ガァア―――!!」

男にはこの腕一つしか武器はない。
この拳一つあれば良い。

その一つを引きちぎらんとする双頭の咢の内側、舌を掴んで、握りしめ。

ぐ…っと力を、籠める。籠める。

引きずりまわす双頭狼の舌を。
ブチリ…!と握りつぶせば、牙が緩む。

F.U.R.Y > 今だ。

すぐさま左腕を引きずり出し。拳を握る。

「根負けだなァ!!!」

噛みつかれ、振るいまわされ、血まみれ赤にまみれた真っ赤な拳。
その腕の赤、すぐに炭化するように、黒い鎧が重なって。

メガトン譬えられよう鉄槌が、双頭狼の頭を貫く。

鈍い衝撃、一瞬の沈黙と、けいれんする巨躯。

びくんと跳ねた狼の体から力がなくなれば――――それが決着の合図だった。

F.U.R.Y > 完全に沈黙した双頭狼の体からのそりと剥いでて。

雄たけび一つ、獣のようなそれで穴に”示す”。

己は強者だ。手を出すなら覚悟をしろ。
その覚悟ない者は、近寄ることすら許さない、と。


その声ではない”コトバ”は獣たちにすぐさま伝わり。
一時、ほんの一時、この穴の主が入れ替わる。

強者の座として。
双頭だった狼の亡骸は、肉は糧に、毛皮はベッドにされながら。

男はただひと時、安眠を勝ち取る事だろう。



F.U.R.Y > ここは黄泉の穴。

怪異蔓延る魍魎の巣なれば。

来るものは力を示せと、獣たちは云う。

示したものに力を、肉を。安らぎを与えながら――――

ご案内:「黄泉の穴」からF.U.R.Yさんが去りました。